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「ボカゆく」主催と学ぶ、コンピレーションアルバムの企画・運営のいろは②

※追記(2024-02-14)
⑦即売会に出る、の欄にCDの楽曲情報の入力についての説明を追加しました!


まえがき


みなさんこんにちは!駱駝法師です。
今回はコンピアルバムの作り方を学ぶ連載企画第二弾となります。前回の記事では企画段階の諸々をピックアップして説明してきましたが、今回はアルバムの運営について詳細に語っていきたいと思います。

どんな作品にしたいか、という企画を考えて参加者にオファーをし了承を貰うともう後には戻れません。即売会や通販、サブスク配信などで作品を流通させたりとアルバムを完成させてリスナーに聴いてもらうための具体的な道筋を立てなければいけないので、気を引き締めてやっていきます。
このnoteを読んでおけば安心な心持で臨めるようになるべく事細かにわかりやすく説明していくので、もし実際にアルバムを作ることになったら一連の記事をブックマークに入れて読み返してみてください。

では、さっそくいってみましょう!

④参加者・作品をとりまとめる


ボカロPたちにアルバム参加へのオファーをし了承を得たら、諸連絡や制作物の共有ができるようにグループチャットができる場所を作りましょう。X(Twitter)のDMなどでも可能ですが、タスクごとにチャンネルを切り替えて別個で話ができるDiscordのほうが融通が利くので、そちらをおすすめします。

そして、集まってもらった参加者たちに締め切り日を提示することが制作開始の合図となります。ここでポイントなのですが、参加者に提示する締め切りは事前に決めたスケジュールどおりのタイミングで行わず、その約1ヶ月前の日時にしましょう。
前回の記事で言ったとおり創作者は締め切りを守れない人たちが割と多いです。ですがこういった対処をするのは決して彼らを信用していないわけではありません。逆に絶対に完成させてくれるだろうという信頼があるからこそ、もし多少期間がずれてもこちら側で自由に調整がきくようにあえて余裕を持たせるのです。

また、制作期間中は全体への定期的なリマインドを忘れないようにしてください。最初から短いスパンで呼びかけるのはさすがにアレですが、参加者は他にもタスクがある中で楽曲を制作しており締め切り1週間前~当日に提出する人がほとんどなので、アルバムの存在を忘れられないようにタイミングを見計らって進捗確認をするのがいいでしょう。
アルバムの主催者がスケジュール管理を怠ってしまうようでは本末転倒なので、ここがいちばん自身の裁量が試される場所です。もしタイミングを見計らって自発的にリマインドするのが難しい場合は、事前に進捗を確認する日をカレンダーに書き留めるなど色々な方法で対処しましょう。

また、率先して参加者とコミュニケーションを取ることもおすすめです。たとえば他の参加者が提出した完成作品に全部感想をつけたり、自分も参加者側の場合はリファレンスにした作品を共有するのもアリ。
制作中に楽しい空気を盛り上げていったほうが良いものを作るぞ!という気持ちにもなりますし、今まで知らなかったボカロPに出会うきっかけの場所にもなるので、せっかくなら良い思い出にしたいですね。

ボカゆくはシリーズを通して、アルバム制作専用のサーバーに進捗チャンネルというものを設けていました。自分がどんな楽曲を作っているのかをほかの参加者にもオープンに見てもらうことで、モチベーションの向上や切磋琢磨に繋げてもらおうと画策したのです。
ですがふたを開けてみれば、非常にクオリティの高い楽曲を作る精鋭たちを集めたせいで上がってくる他のメンバーの進捗に阿鼻叫喚。早めに提出しても遅れて提出してもダメージを食らうという始末でした。

#ボカゆく の共有discordには「進捗」という恐ろしいチャンネルがあったのですが、そこに投下されるwipに継続的に刺激とダメージを受け続けてたので少なからず楽曲のクオリティを底上げしてたと思います めちゃくちゃ刺激的で凄い精神力使った日々でした

例えばだけど うつろいかぎりのwipをそこで聴いた時の俺の気持ちがわかるか?

2023年4月15日 二錠さん(無印参加者)のツイートより

恥ずかしい話だけど、おれ、ボカゆくメンバーの進捗を聞かせてもらった時、正直めちゃくちゃ嫉妬したし、圧倒されて作曲が1歩も進まなくなった時期があったよ

2023年8月10日 はこさん(Alter参加者)のツイートより

ボカゆくメンバー各位、本当にすみませんでした。みなさんも進捗管理はほどほどにしましょう(?)

⑤外注の依頼やCDの発注をする


マスタリングやジャケ写、ブックレットのデザインなどを外注でお願いする際のスケジュール等も気をつけなければなりません。
マスタリングやブックレットは必然的にすべての楽曲が提出された後の制作となりますが、前者は少なくとも1ヶ月、後者は2ヶ月弱ほど時間がかかるというのを目途にしましょう。特にブックレットを作る場合はとにかく歌詞の誤植に気をつけて、参加者への確認も逐一忘れないようにします。

ジャケ写用画像の制作期間や費用に関しては前回もちらっとお話したとおりピンからキリまであるので、依頼するイラストレーターさんやデザイナーさんによって勝手が違ってきます。
親切な方は何月以降の依頼ができるか、いくらでイラスト依頼を引き受けるかという規約のようなものを公開してくれていますが、そうでない場合が多いので問い合わせの際に納期の確認や見積もりをしましょう。
その際、CDを発注したいサイトに載っているデータ納品用テンプレートをダウンロードして共有することを忘れずに。

念の為説明しておきますと、イラストレーターさんに頼む際は連絡をする前に事前に「この人にお願いしたい!」というのを決めておき、その人にだけアタックすることが重要です。並行して他の良さげな人にも連絡しておくような、いわゆるツバをつけるやり方はあまりよろしくないので、控えたほうがよいです。
下記に問い合わせの際に送る文章の具体例を載せますので、参考にしてみてください。前回の「ボカロ×ブラックミュージック」コンピのジャケ写を頼む体で書いています。

○○様

初めまして。ボカロP※として活動しております、駱駝法師と申します。
この度はイラスト制作のお見積りに関してご相談したく、ご連絡差し上げました。

私はこの度様々なクリエイターを集めたコンピレーションアルバムを制作予定でして、○○様のイラストを拝見し、是非ジャケット写真等に使用するイラストの作成をお願いしたく、ご連絡差し上げた次第です。
ご依頼したいイラストの内容は下記の通りです。

【用途】
アルバムのジャケット写真・CDレーベル

【キャラクター】
初音ミク

【容姿(衣装や髪型など)】○○様の作風やコンセプトに合わせて自由にアレンジしていただいて構いません。

【概要】
今回お願いしたいアルバムは「ボカロ×ブラックミュージック」をコンセプトとした作品となっています。
音楽ジャンルに焦点を当てていて、かつ収録曲はお洒落であったりノリが良い楽曲が多いので、立ててあるマイクに向かってリラックスした表情で歌うボーカリストの初音ミク単体を中心に据えていただければと思います。
背景についてですが、参考元としてNPR MusicというYouTubeチャンネルが出している、「Tiny Desk Concert」シリーズのような雰囲気でお願いしたいと思っています。
https://youtu.be/JmnZHQNN5cc?si=i54adSbQcctrok9a
色とりどりのさまざまな雑貨や本などが棚に並び、それに人物が囲まれている、といった構図になりますので、把握のほどよろしくお願いいたします。

【納品形式】
CDの発注先への納品の際に必要なテンプレートデータ(ジャケット用データ・CDレーベル用データ2点)をお送りするので、こちらのデータに合わせてイラストを配置していただければと思います。納品の際はPSDファイル、およびAIファイルにしてお送りいただけますと幸いです。
またそちらとは別に、CDを取り込んだ際やデジタル配信の際の利用も考えておりますので、適当なサイズの正方形にトリミングしたpngファイルを併せてお送りいただけますと幸いです。

【予算】
ジャケット写真、CDレーベルあわせて××円とさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか。過不足等ございましたら調整できますので、遠慮なくお申し付けください。
また、万が一リテイクや作画コストのオーバーなどの都合がありましたら都度追加料金をお支払いしますので、よろしくお願いいたします。
お支払い方法については銀行振込を予定しておりますが、○○様から何かご指定がありましたらそちらでお支払いさせていただきます。

【納期】
完成作品の納品は△月までにお願いできますでしょうか。また、それまでに進捗等がありましたら確認させていただきたいので、都度ご共有いただけますと幸いです。

お忙しいところ恐れ入りますが、何卒ご確認・ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。
以上、引き続きよろしくお願いいたします。

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駱駝法師
Mail : ××@××.com
X(Twitter) : @MonkOnTheCamel
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※ボカロにあまり明るくなさそうな方に依頼する場合は、「ミュージシャン」としてしまうのが良いかもしれません!

おそらく文章の形式的には楽曲を動画にする際の依頼と大差ないと思いますが、こういった依頼の経験がない方でもできるように記しておきました。ご参考までに!

ここでひとつ重要な注意事項があります。CDを制作する際に必要なジャケットやレーベル(盤面)、ブックレットなどの印刷用納品データについてですが、これらはすべてAdobe製品限定の「PSD(Photoshop用ファイル)」か「AI(Illustlator用ファイル)」を中心としてテンプレートが配布されたり、納品を受け付けたりしているのです。
僕もそうなんですが、Adobe税を払っていないとここでどうしても躓いてしまいます。これを機に大人しくサブスクに加入するか、PhotoshopやIllustratorを使える知り合いに頼むか、デザイナーさんに外注するか。そこも決めなければいけないので、くれぐれもお気を付けください。

CD業者のホームページには必ず印刷用データ制作のためのガイドが掲載されています。自前で作る際には隅から隅まで読んで、納品時にエラーを吐いて差し戻されないようにしましょう。

納品データがすべて出揃ったらいよいよCDの発注です。企画段階で決めた内容と実際に発注した内容に相違はないか?納品データの中身はエラーが起きないようにきちんとチェックしたか?
丹念に確認したら大金をつぎ込み、支払いを確定してフィニッシュです。

⑥宣伝をする


せっかく作った作品なのにぜんぜん売れなかった……なんてことにならないように、事前の宣伝もしっかりと行いましょう。

クロスフェードデモ動画(以下「XFD」)はリスナーへのアルバムの周知に非常に重要な要素となってきます。動画師さんに依頼して凝ったものにするのも良し、シンプルな作品にするのも良し。
とりあえず出すだけでもあるのとないのとではアルバムへの注目度が全然違うので、投稿しない手はありません。

また、コンピアルバムは複数のクリエイターが参加していることも魅力のひとつ。タイミングを見計らって参加者で一斉に告知をすることで、「あの人とあの人がこのアルバムに!?」というリスナーへの衝撃をより広い範囲に与えることができます。
長谷川迷子さん主催の「ウソのつきかた」では、XFDの最後で2曲のシークレットトラックが存在することを匂わせ、頒布当日に公開するといったキャンペーンを行っていました。アルバムを売るその時まで興味を持続させることも大切です。

XFD投稿の際に大切なのが、発表する場所とその時期です。

Twitterのみで宣伝を行う人を時々見かけますが、ボーマスの開催時期になると毎回ボカロ大好きアボガド6さんがアナウンスされているように、実はニコニコ動画に投稿されているXFDをもとに購入する作品を検討しているリスナーは割と多くいます。
その層を切り捨てないためにも、ニコニコ動画やYouTubeでの宣伝も欠かさないようにしましょう。

宣伝の時期についても気をつけなければなりません。CDを購入するリスナーの中には遠方から高い交通費をかけて即売会に来る方もおり、即売会開催の大体1週間前には購入したいCDなどを決めて、かけるお金の最終的な計算を終わらせておくのが通例です。
ですが開催1週間前を過ぎた段階でXFDを出すと、仮にそのアルバムを買いたいと思ってくれるリスナーだった場合、終わらせておいたはずの計算を狂わせてしまい迷惑をかけることになります。そうならないために、最低でも開催2週間前には投稿するように心がけましょう。

⑦即売会に出る


無事に現物のCDが届いたらいよいよ即売会へ……といったところですが、アルバムの企画段階で目当ての即売会へのサークル出展応募は絶対に忘れないようにしましょう。
大体は前回の即売会が終わった直後にサークル出展案内がサイトなどに掲載されますので、そちらをしっかりと確認します。色々な情報を入力して出展料を支払った後は即売会が中止にならない限り特に何も起こらないので、気長に待ちます。

これはボーマスに限った話ですが、一般参加者が申し込める出展スペースの種類は主に3つ。机1個分・最大2人組で出展できる「1スペース」、机2個分・最大4人組で出展できる「2スペース」、展示場の壁際でより広い展示スペースを確保できる最大4人組の「Wスペース」です。
アルバム単体を売る場合基本は1スペースか2スペースで十分だと思うのですが、参加者の個人アルバムやグッズも一緒に売ったりたくさんのお客さんを見込める場合はWスペースを確保しておくのがおすすめです。

※追記(2024-02-14)

ちなみに、CDが届いたら絶対にやっておいたほうがいいことがひとつあります。それは楽曲情報の入力です。
自分用にとっておく1枚を開封し、PCに取り込んでiTunesで曲名やアーティスト名を間違えることなく入力したあと、それらの情報をCDDBに送信しましょう。
そうすることで、ボーマスが終わってアルバムを買ってくれたお客さんがCDを取り込む頃にはきちんと情報が反映され、わざわざ手打ちで情報を入力するという面倒な手間を取らせなくて済みます。ここまで手が回っていないボカロPの方をかなり散見するので、抜かりなくいきましょう。

万が一入力する情報を間違えてしまった場合、iTunesにて送信した曲名はGracenote社のデータベースに送信されるのでそちらのホームページに記載されているメールアドレスに直接修正依頼を出しましょう。

※追記おわり

即売日当日まで残り1ヶ月くらいになってくると、運営から封筒が届きます。この中に入っているサークルチケットはサークルが入場受付をする際に必要になるものなので、当日絶対に持っていくのを忘れないようにしましょう。
また、CDの入った段ボールを宅急便を使ってまとめて即売会の会場に送ることもできます。その際は封筒に入ってる案内をしっかり確認し、開催の4~5日前には集荷に来て荷物を受け取ってもらえるようにします。その期限を過ぎて2日前に集荷なんてことになると、当日会場にCDが届かないなんてこともありえるので、しっかりと準備をしましょう。

今度は出展するにあたって具体的に準備しておくものをざっと書いていきます。

①お釣り

まずはお釣り。2000円のアルバムを1種類売るだけならそんなに気にしなくても大丈夫ですが。アルバムの単価が2500円だったり、100円単位の細々とした商品を出す場合は絶対に必要です。
前日などにコンビニや自動販売機に1000円札を突っ込んで1回1回水を買い、出てきたお釣りを利用しましょう。

②お品書き

こちらも設営に欠かせないもののひとつです。

③レジアプリ

現場に持っていくスマホやタブレットにはレジアプリを入れておくといいでしょう。アルバムがどれくらい売れたかを計算するのが非常に楽になります。
また、実際の売上金額とレジアプリの記録のつじつまが合っていない時に問題点を洗い出せるので導入しない手はありません。ですが購入するごとに逐一カウントしないといけないので、それを忘れてしまっては元も子もありません。後処理が面倒くさくなるよりマシなのでそこはしっかり気をつけましょう。

④売上や荷物を入れておく袋・ケース

即売会の開場時と閉場時では、荷物の量が大きく変わります。売上である大量の紙幣や硬貨、リスナーさんなどからいただいた差し入れ、CDのフィルムのゴミなど……非常にかさんでしまうので、それらを入れておくコインケースや袋などを用意しておいたほうが良いです。
空のダンボールや梱包材は会場で回収してもらえるケースが多いので、そちらも積極的に利用しましょう。

⑤サインペン、ボールペン、カッター、ガムテープ

サインへの対応、即売会終了後に荷物を搬出する際の伝票の記入など色々なシーンで活用できるので、こちらも忘れずに。

⑥ホワイトボードと専用の水性ペン

スペースから一時的に離席をする際や商品の在庫の数の提示など、さまざまなアナウンスに使える優れものです。100円均で調達できる非常に便利なアイテムなので、是非持っておくことをおすすめします。

⑦テーブル用の敷き布

スペースの様子を見てみると、机剥き出しのところは少なくほぼ必ずといっていいほど布が敷かれていますよね。実は見栄えの良さといった点で大事になってくるので、準備しておくと自分のスペースの見た目がしまって見えて素敵な感じになりますよ。
100均で買える適当な布を使うのもいいですが、業者に発注してオリジナルの敷き布を頼むこともできるらしいです。ゆくえレコーズでも後ほど頼んでみます。

⑧ディスプレイ用の小道具

これがあると「商品を売っています!」感の演出が上手くできるので、こちらも100均で購入してみると良いかもしれませんね。CDの場合はタブレット用の簡易スタンドなどがサイズ的にちょうどいいなという印象です。

こんなところでしょうか。
また、これらの大荷物を運ぶためのハンドキャリースーツケースは絶対に必要になってくるので、即売会に出展する際は緊張感をもって臨みましょう。あとは必要に応じてポスタータペストリーとそのスタンドがあると一気にそれっぽくなります。

「合成音声のゆくえ(無印)」を売った時の様子

また、コンピアルバムの場合「複数のボカロPが1枚のアルバムに参加している」こと自体がセールスポイントになるので、このように参加ボカロPの代表曲のサムネをプリントした紙を用意し、ガムテープで繋げて即席の幕を作ってみるといいかもしれません。
実際にこれを通路側のテーブルの側面に貼りつけることで、かなり効果的にアルバムをアピールすることができました。

このように、即売会は準備しておくべき事柄がたくさんあるので、前日までにひとつひとつ持ち物をチェックして当日朝早く起きれるように早寝を心がけましょう。

なお、ここに書かれている持ち物がすべてではない可能性があります!他にもこういったものが必要になるかも、というご指摘がありましたら是非遠慮なく教えていただけると嬉しいです。

あとがき


いかがだったでしょうか?

今回は即売会でアルバムを頒布するまでの流れをざっと説明しましたが、最終回となる次回では通販やサブスク配信、そして収益の分配について書いていきたいと思います。
まだもう少しだけ続きますが、最後まで読んでいただけると嬉しいです!

それでは!

ゆくえレコーズ代表・企画制作担当
駱駝法師
レーベルX(Twitter) : @YUKUE_RECORDS
個人X(Twitter) : @MonkOnTheCamel

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