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#004 「説得する」のか「納得してもらう」のか

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中小企業診断士に限らず、組織や人を指導するようなコンサルタントに必要な能力というのは、以下の3つのレイヤに大別できるように思います。

1.  知識・経験
2.  知識や経験を活かして現場の問題の解決策を考える、問題解決能力
3. 考えた解決策を関係者に実行してもらうための、コミュニケーション能力


1.の「知識・経験」や、その上位に位置する 2.「問題解決能力」は、もちろんコンサルにとって必須の能力なのですが(中小企業診断士の1次・2次試験では、ここがきっちり問われます)、実際の業務の中では、3. のコミュニケーション能力がとても効いてくるように思います。

今回は、この 3. に関するお話です。

中小企業診断士試験の実務補習について

「中小企業診断士」は、経済産業省管轄の国家資格です。中小企業の経営課題に対して、診断・助言を行うことが主な役割です。

中小企業診断士とは? → https://www.j-smeca.jp/contents/002_c_shindanshiseido/001_what_shindanshi.html

この資格を取得し、中小企業診断士を名乗るためには、
(1) 1次試験(筆記)・2次試験(筆記・面接)に合格すること
(2) 中小企業診断士協会が実施する「実務補習」に15日以上従事するか、同等の診断実務に15日以上従事すること

が必要です。
(2)の「実務補習」では、実際に中小企業を訪問し、その会社の経営診断・提言を行わせていただきます。担当の診断士の先生の指導に基づき、5〜6人程度のグループで診断業務にあたります。
実際の診断業務を通じて、試験では測りきれない実務能力やコミュニケーション能力を磨いて欲しい、という協会からのメッセージであると認識しています。

実務補習での先生のお言葉

私も、1ヶ月ほど前、始めてこの実務補習に参加させていただき、5日間診断業務にあたらせて頂きました。
担当させて頂く企業の財務諸表を分析し、経営者の方へのインタビューを通じてその企業の問題点を洗い出した上で、今後の成長の為にどのような施策を行うべきかを提言させていただきました。

その実務補習中に私が先生に指導されたことで一番心に残っているのが、
『社長さんを「説得する」のではなく、「納得していただく」ように心掛けなさい』
というお言葉です。

実際、診断先の経営者の方々のお役に立てるかどうかという観点で見たとき、企業経営に関する諸々の知識はもちろん重要ですが、それと同じくらい、もしくはそれ以上に、こういった「相手に動いてもらうためのコミュニケーション能力」が重要であると実感しました。

説得することと、納得していただくことの違い

説得は「自分の考えを相手に理解させる」こと、納得は「相手が自分の力でその本質を理解する」こと、だと思います。
説得の主語は私(コンサルタント)、納得の主語は相手(経営者の方)ですね。言い替えるならば、説得しているときはお互いが向き合っている状態、納得は、お互いが同じ方向を向いている状態であると言えると思います。

説得されるのと比べ、納得して動く場合は、その内容が本人の中で腹落ちしているので、自分で工夫して自発的に動くことが可能になります。やる気も出るので施策の効率も上がるでしょうし、お互い気持ちよく行動することが可能になるように思います。

納得していただくために必要なこと

では、納得して頂くためには何が必要なのでしょうか?
私が主に心掛けるようにしているのは以下の4つです。

(1) 客観的な数値を示す
私(コンサル)の意見を述べるだけではなく、誰が見ても正しい、客観的な数値で物事を説明するようにします。例えば、市場のデータ、顧客の声をまとめたアンケート、ABテストの結果、などを見せて、相手に自分の頭で考えて頂くようにするのが重要です。
もちろん、それらの数値から何を納得してもらうのかは予め自分(コンサル)の中で答えを持っておき、その答えを強化するような数値を拾っておくことが重要です。

(2) 実際に体験してもらう機会を設ける
例えば、市場のデータだけだと本当にそれが正しいのかがなかなか実感できないこともあるかと思います。そのような時には、その市場の様子を肌で体験できるような場所に実際にいってみるのが良いと思います。他社製品の方が優れていることを示すには、その製品を実際に使ってもらうのに越したことはありません。
自分の目で見て、耳で聞いて、体で体験することは、納得するために大きく役立つと思います。

(3) 時間を空ける
ある特定の分野でこれまで大きな実績を作られてきた優秀な経営者の方に対して、市場が変わっていることや新しい脅威が迫っていることなどをお伝えしなければいけない場合、いくら客観的なデータを並べてもなかなか納得して頂けないことがあります。これまでの経験で培われた、成功体験に基づいた価値観を変えるのは、どうしてもすぐには難しいためであろうと思います。
このような場合、納得して頂くまでにはどうしてもある程度の時間がかかることを覚悟した上で、一度の説明で納得して頂くのではなく、説明と説明との間に時間を空け、粘り強く少しずつ説明を重ねることが必要になります。

(4) 9割褒めて、1割で提案する
プレゼンの際、どうしても自分の言いたいことだけを資料に詰め込んでしまいがちですが、相手の懐に入るためには、資料の9割は相手のこれまでの成果を褒め、その上で、1割程度に押さえた極めて少ない提案を「こうしたら更に良くなりますよ」という言い方で伝えていくのが良いと思います。
まずこちらが相手のことをきちんと知っていることをお伝えすることで相手に心を開いて頂くようにする効果もありますし、提案する側も、先方の強みを再認識することで、より良い提案に昇華させることもできるように思います。

その他、意識すべき対立軸

以上、私が心掛けている4点について説明しましたが、それら以外にも、以下のような観点で提案を見直すと良いと思います。

・ゲインから入るかペインから入るか
VPC(Value Proposition Canvas)というツールで使われる手法の一つですが、こちらの提案内容が、「相手の良いこと(ゲイン)を実現する」のか「相手の嫌なこと(ペイン)を無くす」のか、に分けて、どちらから先に提案するかを意識すると良いと思います。
大抵の場合は、ペインを減らす提案 → ゲインを増やす提案、の順で行った方がうまくいくようです。

・危機感を煽るか、モチベーションを上げるか
ゲイン・ペイン、の話と同じように、自分の提案が相手の心理にどのような影響を与えるか意識して使い分けると良いと思います。

・オープンに会話するか、クローズに会話するか
同じ提案をする場合でも、提案先のメンバーを絞ってクローズな場で少数の人に伝えるのか、多くの人が集まっている場所でオープンに伝えるのかで効果が違ってきます。一般的には良い話はできるだけオープンな場で、良くない話はメンバーを絞って伝えるのが良いと思います。

とはいえ、時には説得も重要

もちろん、「説得する」より「納得して頂く」方が良いですし、そうなるように努力すべきなのですが、状況によってはそんな悠長なことを言っていられないこともあります。

PMBOK(プロジェクトマネジメントの知識体系ガイド)には、意見の対立があった時の解消方法として、以下の5つが定義されています。
(1) 強制(Forcing)
(2) 沈静(Smoothing)
(3) 撤回(Withdrawal)
(4) 妥協(Compromising)
(5) 対峙(Confronting)

お互いの満足感が高くなるのは(5)の対峙、ですが、特に時間のないときには、これがベストな選択肢であるとは限りません。場合によっては(1)の強制が必要になることもありますし、その場合は権力に頼ることも必要かもしれません。
ただし、できることならやはり最後の手段にしたいです。ちからづくで進めることも時には必要ですが、やっぱりお互いしんどいと思います。

まとめ。

(1) 「説得する」よりも、「納得してもらう」方が、お互い気持ちいいし、やる気も出ます。立場を逆転して考えればあたりまえなんですが、これがとても難しいです。
(2) 「納得してもらう」ためには、客観的なデータを用意したり、実際に体験したもらったりするのが良いです。一旦時間を空ける、というのも意外と効果高いです。
(3) とはいえ、切羽詰まっているときには、納得してもらえるまでの時間やコストをかけられないこともあると思います。その場合は覚悟を決めて悪者になりましょう。その提案が正しければ、最終的には結果が客観的なデータに表れるので、いずれは納得してもらえるはずです。


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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)

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