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#083 やさしいポートフォリオ分析(7) - お使いでトイレットペーパーを買いに行くときの話

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今回はポートフォリオ分析の7回目(多分最終回)。

第3回目の記事で、「満足度」の算出方法には、(1)平均をとる、(2)いい点数をつけた人数に注目する、(3)悪い点数をつけた人数に注目する、の大きく3パターンがあると書きました。

これら3つの算出方法は、商品やサービスの種類に応じて、適切に選ぶ必要があります。

「趣味のモノ」と「日用品」とでは選び方が違う

たとえば、「高級腕時計」と「ふだん使いの腕時計」について考えてみましょう。
私たちが腕時計を買おうとする際、以下のような要素それぞれを比較検討して、最終的にどの時計を買うか決めると思います。

・ブランド
・デザイン
・大きさ
・ベルトの装着感
・文字盤の見やすさ
・正確性
・価格
・メンテナンスにかかるコスト
・等々…

これらの要素を比較検討する際、一般的に、
・高級で趣味性の高いものほど、ある1つの特徴が秀でているものを選択し、
・日常的に使用するものほど、全てにわたって欠点の無いものを選択する、

という傾向があります。

こうした傾向は、
・趣味のスポーツカーと、仕事で使う社用車
・結婚式で着るスーツと、仕事で毎日着るスーツ
・何万円もする高級ヘッドホンと、通勤時に使うワイヤレスイヤホン
などの商品でも見られます。

「購買意志決定プロセス」とは

こうした、「何かモノを買う際、複数の要素をどのような手順で比較するか」を、マーケティングの言葉で「購買意志決定プロセス」と呼びます。
上の例だと、「高級腕時計とふだん使いの腕時計では、購買意思決定プロセスが異なる」ということになります。

ポートフォリオ分析を行う場合、その商品の「購買意志決定プロセス」がどうなっているかを意識することで、分析の仕方が変わってきます。

代表的な「購買意志決定プロセス」

では、この「購買意志決定プロセス」にはどのような種類があるのかを見ていきましょう。

これらの早稲田大学の竹村先生らによる以下の論文を参考にさせて頂いています。

多属性意思決定過程における決定方略の認知的努力と正確さ:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/22/3/22_368/_article/-char/ja/

(1) 加算型
全部の要素をそれぞれ評価し、各要素の評価点の合計点(加算)を出して、全ての候補の中から一番総合点の高いものを選ぶやり方。
商品Aは、デザイン8点、価格7点、使いやすさ9点、で合計24点くらいかな。同じように合計点を計算すると、商品Bは22点、商品Cは25点、商品Dは26点、になるので、一番点数の高い商品Dを買おう、というような決め方です。

(2) 加算差型
加算型に似ていますが、加算差型では、全ての商品の合計点を出してから比較するのではなく、2つの商品についてどちらが良いか選び、トーナメント形式で勝ち残りを決めていきます。
店頭などで商品を選ぶ際、全ての商品を一度に比較するのは難しいので、まず商品Aと商品Bを比較して商品Aを選び、次に、その商品Aと商品Cと比べてみる、というようなことはよくやるのではないでしょうか。

(3) 連結型
各要素について必要条件を設定しておき、1つでもその条件を満たさない商品は選択肢から外します。また、全ての必要条件を満たす商品が見つかれば、その段階でその商品を選択する、という決め方です。
奥さんが旦那さんに「トイレットペーパー買ってきて。12個入りでダブル、値段は400円以下で。」と頼まれたとき、店頭に並んでいるトイレットペーパーを順にチェックしていき、最初に上記条件を全て満たしたものをカートに入れる、というのがこれにあたります。

(4) 分離型
各要素に十分条件を決めておき、それら要素のうち1つでもその十分条件を満たせば、その商品を購入する、という決め方。
この商品は、機能もいまいちで価格もオーバーしているけど、デザインがすごく気に入ったので、これ買っちゃおう! というパターンです。わりとよくあるような。

(5) 辞書編纂型
各要素に優先順が付いており、まず最も重視する要素について複数の商品を選び、いくつか候補が残ったら、2番目に重視する要素で比較する、という決め方です。
例えば、電子レンジを買う際の優先順位が 価格 → 機能 → デザイン、だった場合、まず20,000円以下の商品はこの3機種で、その3機種のうち1500wで暖められるのはこの2機種で、その2機種のうち、こっちのデザインの方がいいのでこっちにしよう、というのがこのパターンになります。

これらの他にも、EBA型勝率最大化型、といった選択方法もあります。
我々の日常の選択行動がどのようなパターンになるか、きちんと分類されていて非常に興味深いです。

平均点を上げるのか、短所を消すのか、長所を伸ばすのか

これら「購買意志決定プロセス」は、大きく
・ある1つの要素の評価が高ければ、他の評価が低くても選ばれる可能性があるパターン
・ある1つの要素の評価が低ければ、他の評価にかかわらず選ばれないパターン

の2種類に分けられます。(前者を「補償型」、後者を「非補償型」と呼びます)

例えば、上の例だと、
補償型 → (1) 加算型、(2) 加算差型
非補償型 → (3) 連結型、(4) 分離型、(5) 辞書編纂型、

になります。

補償型で選ばれる商品については、いろんな要素の平均点をバランス良く上げていくことが重要です。
非補償型で選ばれる商品については、お客さんがどの要素を重視しているのかをきちんと見極め、その要素を重点的に改善していくことが重要になります。

また、同じ「非補償型」であっても、
「連結型」で選ばれる商品に関しては、1つでも弱点がないようにする必要があります。
「分離型」で選ばれる商品に関しては、特定の要素に絞って、そこだけは他社の製品に負けないようにすることが重要です。

アンケートの集計方法も商品の特性に合わせて変えることが重要

このように、商品によってそれを買うときの思考パターンはそれぞれ異なります。
「加算型」で選ばれる商品に関しては、平均点を使って重要度の計算を行うのが良いでしょう。
「連結型」で選ばれる商品に関しては弱点となる要素がないようにすべきですし、
「分離型」で選ばれる商品に関しては、その商品の強みがきちんとお客さんに刺さっているかをアンケートで調査すべきです。

アンケートを作成・集計する場合には、顧客がその商品を購入する際にどのような思考パターンで選択しているかまで理解しておく必要があります。

奥さんに頼まれてトイレットペーパーを買う旦那さんに対して、その商品の優れたところをアピールしてもあまり効果はありません。
トイレットペーパーの購買意志決定プロセスは「連結型」であることを意識し、トイレットペーパーに関するアンケートを作成・分析する場合には、購入時に顧客が検討する要素を全て満たしているかを判断できるような調査を行いましょう。

まとめ。

(1) 我々は、何かモノやサービスを買う際、無意識のうちに複数の要素を様々な手順で比較して意志決定しています。この意志決定の方法を、「購買意志決定プロセス」と呼びます。

(2) 「購買意志決定プロセス」には、加算型、連結型、分離型、といったいくつかのパターンがあります。加算型は全ての要素の総合店で決めるやり方、連結型は全ての必要条件を満たした商品をその場で購入を決定するやり方、分離型は1つの要素でも十分条件を満たせばその場で購入を決定するやり方です。

(3) アンケートを作成・集計する場合には、顧客がその商品を購入する際にどのような思考パターンで選択しているかまで理解しておく必要があります。購買意志決定プロセスが異なれば、各要素をどのように判断すべきかも変わってくるためです。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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