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#102 TAM・SAM・SOM - 3つの言葉で市場規模を正しく理解する

おかげさまでいろいろ忙しくさせていただいており、久しぶりの更新になります。

今、診断士界隈で最もアツい話題は、やはり「事業再構築補助金」でしょうか。
第一次公募の〆切が、いよいよ4月30日に迫ってきました。

事業再構築補助金は、その名の通り、中小企業の「事業の再構築」を支援することで、「日本経済の構造転換を促す」ことを目的としています。
事業を再構築するためには、「新分野展開」「業種転換」などの、大きな変革が求められます。

さて、これまでに自社が経験したことのないビジネスに踏み出そうとするとき、必ず検討しなければならないのが踏み出す先の市場の大きさです。
今回は、その市場規模を正確に捉えるために必要な、市場規模を表す3つの言葉について解説します。

そもそも市場規模って何?

市場規模とは、その業界全体での企業の売上高の合計のことです。
例えば、日本国内の自動車業界の市場規模、は、日本国内にある自動車関連企業の売上を合計した数字になります。

以下のWebサイトでは、主な業界の市場規模をマップ形式で見ることができます。
「プロ野球」の市場規模より「納豆」の市場規模の方が大きいことなどがわかって、なかなか興味深いです。

市場規模マップ | visualizing.info
https://stat.visualizing.info/msm

市場規模マップ

この市場規模、必ずしも大きければ良いというわけでもありません。

市場が大きい、美味しい市場には、多くのプレイヤーが集まってくるので、競争は激しくなりがちです。
十分な体力が無いのにその市場に戦いを挑むと、何もできずに打ちのめされてしまいます。
むしろ、小さい市場を独占することで他社から攻撃されにくい状況をつくり、安定して長期的に収益を上げておられる企業もたくさんあります。
小さい市場は、仮に戦いを挑んで奪うことに成功したとしても、得られるリターンがそんなに大きくないので、あえて誰も戦いを挑んでこないということがよく起きます。

TAM・SAM・SOMとは

今回は、この市場規模を表す、3つの言葉をご紹介したいと思います。
これら3つの言葉の意味を押さえておくことで、売上げ目標の数値に根拠を持たせることができます。

例えば、海外のスタートアップの社長さんが投資家に向けたピッチの資料には、この TAM・SAM・SOM がよく出てきます。

TAM: Total Addressable Market ← 実現可能な最大の市場規模

TAM(タム、って呼ぶ方が多いです)は、その製品やサービスの総需要のことです。
例えば、「スマートフォン市場のTAM」であれば、全世界で1年間に売れるスマートフォンの総売上金額のことです。
一般的に「市場規模」というときには、この TAM を使う事が多いように思います。

が、この数字、実際に自社がビジネスをする際にはあまり参考にならないことが多いです。
TAM を見るときには、過去と未来を時系列に並べて、今後成長する市場なのか、縮退する市場なのかのトレンドを見るくらいで十分でしょう。
この TAM の数値は、公開されている業界レポートなどで容易に取得することができます。

SAM: Serviceable Available Market ← 特定の顧客セグメントの市場規模

SAM(サム、って呼ぶ方が多いです)は、TAMのうちの、その企業が当面目標とすべき市場の大きさのことです。
例えば、「○○地域のスマートフォン販売店にとってのSAM」は、その○○地域で1年間に売れるスマートフォンの総売上金額になるでしょう。

実際に企業が新規事業に参入する場合には、この SAM をきちんと定義することが重要です。また、この SAM がきちんと定義できるということは、自分たちがターゲットとする顧客セグメントがきちんと認識できている、ということでもあります。

SOM: Serviceable Obtainable Market ←自社が取得できる市場規模

SOM(ソム、って呼ぶ方が多いです)は、SAM のうち、その企業が実際に取得できる市場の大きさを示します。
「○○地域のスマートフォン販売店にとってのSOM」は、同じ地域に存在する競合店が3件あるとすれば、SAM の 1/4 程度の数字になるのが普通です。
(それでも1年目からその数字を目標にするのはかなりチャレンジングだと思いますが)

1年毎の経営目標や、3年程度毎の中期経営計画では、この SOM を目標に、各部門が戦略を組み立てていくことになります。

「TAM の何%」を目標にすることはやってはいけない

…と、ここまで説明してくると、SAM や SOM をきちんと計算することの重要性ははっきりしていると思うのですが、現場で意外と多いのが、
「TAMの1%を目標にしよう」
といった、根拠の無い数字の立て方です。

(これから参入する業界全体の市場規模が1000億円だから、その1%、10億円くらいはとれるだろう、みたいな)

しかし、これでは、顧客セグメントも明確で無いですし、どうやって戦略を立てて良いのかもわかりません。

これまで経験の無い市場に新しく踏み込む場合には、この TAM・SAM・SOM を意識して目標を立てるようにしたいものです。

まとめ。

(1) 市場規模を表す言葉に、TAM・SAM・SOM があります。これらの言葉、海外のスタートアップの投資家向けピッチなどではよく使われています。

(2) TAM は「実現可能な最大の市場規模」、SAMは「特定の顧客セグメントの市場規模」、SOMは「自社が取得できる市場規模」のことです。これらの数値をきちんと分けて認識することで、自社が狙うべき顧客セグメントや、短期・中期の目標を明確にすることができます。

(3) 「TAMの何%を目標にしよう」という決め方は失敗します。

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(ここに書かれている内容はいずれも筆者の経験に基づくものではありますが、特定の会社・組織・個人を指しているものではありません。)


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