ミュージカル「ウィキッド」観劇感想

 こんにちは、雪乃です。今日はウィキッドを観てきました。10年ぶりに観るウィキッド、本当に行って良かったです。
 舞台上部に設置された大きなドラゴンが開幕とともに動き出す光景は大迫力!歯車が散りばめられた舞台セットに魔法の世界を表現する照明の力で、観客を一気にオズの世界へ誘ってくれる。舞台そのものが巨大な仕掛け絵本のようでした。
 オズの国にあるシズ大学に入学してきたエルファバとグリンダ。エルファバは生まれつき緑色の肌を持ち、一方のグリンダは皆の人気者。ぶつかり合いながらも友人となっていく対照的な2人を軸に、「オズの魔法使い」の前日譚が描かれています。
 ウィキッドの原作小説「オズの魔女記」は中学生のときに一度読んでいるのですが、とにかく長いため中3が受験勉強の合間に読み切れる分量ではなく途中で断念してしまいました……。途中までしか読めていませんが世界観の作り込みも緻密で面白かったので、どこかでリベンジしたいです。



 本日のキャストはこちら。


 以下。キャラクター/キャスト別感想です。

 グリンダ役の真瀬はるかさんは、透明感のあるソプラノに1曲目から心を奪われました。皆の人気者でキュートで明るいけれど、でも本質を見抜く目もきちんと持っているグリンダ。グリンダの衣装はどれも華やかで、どの衣装の着こなしも素敵でした。
 悪い魔女に仕立て上げられたエルファバとは対照的に、「良い魔女」として生きる道を選択したグリンダ。国中から支持されて幸せなはずなのに、愛するフィエロはエルファバを選ぶ。フィエロの心が自分に向けられていないことを知ったシーンで歌われる「私じゃない(リプライズ)」のグリンダは、触れたら壊れてしまいそうな、ガラス細工のような美しさがありました。
 物語終盤で姿を消したエルファバの帽子を拾い上げてエルファバの名前を呼ぶシーンがあるのですが、その時のグリンダが、とても飾り気のない声だったことが忘れられません。

 エルファバ役の小林美沙希さん。劇場を満たす「魔法使いと私」に圧倒されました。そしてウィキッドを象徴するナンバー「自由を求めて」では、重力に逆らって湧き上がるエネルギーに満ちたソウルフルな歌声は至高の一言。
 傍目にはカラッと生きているように見えるエルファバだけど、一方で妹ネッサローズの足が不自由なのは自分のせいだと思っているし、フィエロに恋をしてもその思いを抑えようとする。痛みを抱えた繊細なエルファバの内面を知るほどに、2幕の「闇に生きる」は音楽でありながら叫びのようにも響き、「悪い魔女」を引き受ける覚悟が際立ちました。

 フィエロ役のカイサー タティクさん。甘いマスクと歌声が王子様そのものでした。作画がディズニープリンスなんですよ。「塔の上のラプンツェル」のユージーンを演じたらめちゃくちゃ似合いそう〜〜〜!!!
 檻に閉じ込められたライオンを助け出そうとしたエルファバに協力したことから、エルファバに惹かれていくフィエロ。たとえオズの国に背こうと、彼は反逆者となったエルファバと共に生きていく道を選びます。「自分で選んだ道を全うする」というウィキッドに貫かれたテーマを担う1人であることがはっきりと描かれていました。
 
 ネッサローズ役の若奈まりえさん。マンチキン総督の娘として父親から溺愛されて育ったネッサローズの持つナチュラルな可憐さが印象的でした。だからこそ、2幕で父の跡を継いで総督となったネッサローズの纏う硬さのギャップが刺さりました。ボックを失いたくないあまりに呪文を読み上げるネッサローズの姿が辛い……。オズの魔法使いに会えることになった姉のエルファバを「誇らしい」と言っていたからこそ2幕のすれ違いが切なかった……。ウィキッド、よく考えたらネッサローズが一番報われてないの辛すぎます。

 マダム・モリブル役の秋本みな子さん。音楽座で拝見したことはありましたが、四季の舞台で拝見するのは初めてでした。
 エルファバの魔法の才能を見出したかに見えて、実は陰謀にエルファバを加担させるために動いていたマダム・モリブルの容赦のないヴィランっぷりが最高!エルファバが反抗した途端に彼女を悪い魔女に仕立て上げ、一方のグリンダを良い魔女として祭り上げる。事実と異なる、自分に都合の良い物語を流布することに一切の躊躇いがない恐ろしさが冴え渡っていました。
 マダム・モリブルの得意とする魔法は天候操作。雨を止ませるどころか竜巻まで起こすことのできる最強魔女。そんな「強キャラ」らしさを体現する姿の説得力もまた凄かったです。

 ボック役の平田了祐さん。グリンダに思いを寄せるも叶わず、彼を愛したのはネッサローズ、しかしグリンダを思い続けたボック。ボックは2幕でマンチキン総督の座についたネッサローズを「マダム」と呼び彼女を支えていますが、そのときの声にまったく温度がなくてゾクッとしました。
 エルファバの魔法で歩けるようになったネッサローズを見て、ネッサローズには自分はもう必要ないと思ったボック。彼はグリンダに思いを伝えようとネッサローズのもとを去ろうとしますが、そのシーンでボックの声に温度や感情が戻るのがまた切なかったです。そしてそのボックの行動がまた悲劇を生んでしまうのが辛い。ウィキッド2幕、よく考えたらずっと辛いですね……。

 ディラモンド教授役の平良交一さん。シズ大学で教えているヤギの教授なのですが、「学部に1人はいる先生」の解像度が高く、ディラモンド教授の授業を受けたくなりました。あとめっちゃ良い声。あの声の授業聞きたい。
 エルファバから慕われていたディラモンド教授ですが、黒板に「動物はしゃべるな!」という落書きをされた上に言葉を奪われ、大学で教えることも禁じられ、エルファバが再開したときには完全なヤギになっています。改めて考えると被害者すぎる……。

 オズの魔法使い役の飯野おさみさん。すべてが最悪な方向に転がったこの物語の元凶なんですが、どうにも憎めないキャラクターというか、そこはかとなく愛嬌が滲み出てしまうので恨みきれません。
 偉大な魔法使いとされているオズの魔法使いですが、実際は魔法の力なんて持っていないただの人間でした。ただの人間であるからこそ民衆の共通の敵を作ることで権力を維持し続けようとする最悪なムーブすら、どうしようもないほどに「人間らしさ」に集約されてしまう。それもまたウィキッドの魅力だと思います。
 オズの国皆のパパになりたい、と言っていたオズの魔法使いですが、本当はエルファバの実の父だった。そのことに気がついて崩れ落ちるシーンが最高に切なかったです。

 ウィキッドには、「私のふるさとでは、皆の信じたことが歴史と呼ばれている」というオズの魔法使いのセリフがあります。
 真実と異なる物語も、皆が信じれば歴史になる。エルファバはオズの国の歴史には「悪い魔女」として名前が刻まれることとなり、ドロシーに水をかけられて死んだ、という事実とは異なる物語が皆に信じられ、歴史となる。エルファバは悪い魔女、グリンダは良い魔女という「物語」=皆が信じる歴史を引き受けて全うしていく強さに、10年ごしにきづけたような気がします。

 10年ぶりにウィキッドを観て感じたのは、ウィキッドには人生のどうにもならない側面が描かれていること。オズの魔法使いはただの人間だし、エルファバがネッサローズの願いを叶えたことでネッサローズはボックを失う。国中から羨望の眼差しで見つめられるグリンダの恋は成就しない。良かれと思ってやったことが裏目に出たりすれ違ったり、そういったままならない人生が、さまざまな視点から描かれているように感じました。

 ウィキッド、改めて最高の作品でした。観に行って良かったです。

 さて、次の観劇はイザボー。こちらも楽しみです。

 本日もお付き合いいただきありがとうございました。


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