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【記憶の街へ #1】Kの後ろ姿

ボクが中学生の頃は、まだ女子のセーラー服のスカートは長かった。
Kは二歳上の三年生。ボクは一年生だった。
Kはくるぶしが被るくらいの長さのスカートをはいていた。
いつもそのスカートのポケットに手を突っ込み、ぺったんこの学生鞄を抱えていた。
お世辞にも美人とは言えず、体型もずんぐりしていたように思う。

彼女とはどこで知り合ったのかは全く覚えていない。
しかしなぜか、歳も性別も違うボクたちは、学校からの帰り道を一緒に歩いた。
毎日ではないが、Kがボクを見つけると、そのまま並んで歩く。
どんな話をしていたのか。
これも全く覚えていない。
20分ほど歩いてバイパスを越える。
さらに3分ほど歩いた十字路でボクは左に曲がり「じゃぁ」と言って、すぐそこの自宅に向かう。
Kは「またね」と言って、十字路を真っ直ぐに進む。
スカートのポケットに手を突っ込んだまま、少しなで肩の後ろ姿が遠ざかっていく。

Kの家は、十字路からさらに5分ほど歩いたところにある、4軒の小さな借家のどれかだった。
Kの雰囲気や少し荒れた肌、あまり艶の感じられないショートカットの髪が、余裕のある家庭ではないことを物語っているようだった。

ボクたちはなぜ一緒に帰っていたのだろう。
ボクが積極的にKと一緒に帰ろうとしていたのではない。
恋愛や憧れという感情もなかった。
いつもKがボクを待っていた。
Kは友達が多いような雰囲気もなかった。
彼女はいつもひとりだったのではないか。

ある夜、近所で火事があった。
「あの公園の向こうの借家が燃えたみたいよ」
母がそう言ったのは、Kが住んでいる4軒の借家で、そのうちの一軒が燃えたらしかった。
幸い、犠牲者は出なかったようだった。
翌日、ボクが行ってみると、確かに一軒だけ燃えていた。
それがKの家なのかどうかは判らなかった。
しかしそれ以来、ボクはKと会っていない。

今、目を閉じて思い出すのは、十字路で別れたあとのKの後ろ姿だ。
彼女はその後、どんな道を歩んだのだろう。
その後ろ姿は、ゆっくりと記憶の奥に消えてく。



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