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私の中のたくさんのワタシたち

※性被害の描写があります。閲覧注意

私と同じ制服が沢山いる中で自分の教室にいくと冷ややかな視線が私を襲った。

「人の彼氏に手出さないで」

そんなことを言われた。
彼氏?私の脳みそを揺さぶるみたいにあの夜のことがまざまざと思い出されて吐き気が込み上げてきた。

口を押えて教室を飛び出す私に『くそビッチ』という声が耳を掠めた。

胃液しか出なくなるまで吐いてトイレの個室でため息をつく。
なるほどあの男はあの女の彼氏なんだな。

『彼女にクリスマスプレゼントをあげたいから一緒に選んでよ』なんて言って呼び出したあいつは彼女に私から誘ったのだと言ったようだ。

そして私はその悪意に晒されているというわけだ。
なるほど。これが代わりをやれという理由らしい。

学校に行けば無視されて、家に帰ればいいこちゃんをしなくてはならない。しかも私にもしっかり身体症状として現れていて男がそばに寄ると震えて吐き気がするようになった。
本当にバカみたいな生活。

『自分を出すな。名乗るな。』

こんなバカみたいな生活で自分というものなんて曖昧なもの持っても仕方ないじゃん。
そんな時にかろうじていた別のクラスの友達から借りたCDで聞いたバンドが唯一私をつなぎ止めるものになった。

何度も中と外を行き来した。
どれもこれも遥が手に負えなくなった時ばかり。

外にいる時は携帯でネットで知り合った同じバンドが好きな友達と話しをした。
その友達から『カラオケオフするから一緒に行こうよ』とメールが来た。

たまには私の時間があってもいいよね。そう思って友達の誘いに乗った。

オフ会の行われる最寄りの駅で友達と合流して話しながらそのカラオケに向かう。いちばん大きい部屋で行われるらしく柄にもなくドキドキしていた。

中にはたくさんの人がいて私の事情を知る友達が幹事に声をかけてくれて端っこの席で女の子たちを紹介してくれた。

「お。みぃひん顔おるやん」

「ねえ、ルイはあっちいってて」

明るめの髪、ちらっと見える八重歯。舌にはピアス。へらへらとした男を友達がさえぎって向こうに行くように追い払おうとする。
私の手は震えていて、グラスを握りしめるのがやっとだった。

「この子男ダメなの!だからあっちいって」

「ふーん。でもそんなん知らん。俺のタイプやもん」

その男はニカッと笑って友達の隣に座った。
聞いてもいないバンドの好きな曲の話をして夜の仕事をしてること、このオフ会は毎回参加していること、実は酒が弱いことひたすら私に話し続けた。

変な人。それがその人への第一印象。

夕方頃に1次会がお開きになって二次会は居酒屋ということで私はそこで帰ることになる。
友達も私に付き添ってくれて二次会には参加しないという。

「ちょいまち!」

男が明らかにそれとわかる名刺に殴り書きで番号を書いて私に突きつけてきた。

「名刺のは仕事用しか書いてへんからこっちに電話してな!」

約束やで!そういって男は二次会に去っていった。

またいつもの日常に戻って居心地の悪い学校生活と中の世界を行き来しながら暮らしていたある日知らない番号から電話がかかってきた。

『起きとったんか!なんで電話かけてこぉへんねん。まっとったちゅーの』

開口一番のでかい声。今朝の5時だけど。

「なんで私の番号知ってるの」

『そんなん聞いたに決まっとんやろ。ほんで自分今何してたん?』

「なんも。」

『ほなら今から行くわ。住所言えや』

強引にも程がある。近くの大学の住所をいうとすぐに電話が切れた。
暫くぼーっとして仕方なしにスウェットとTシャツに着替えて大学近くの公園に向かうと大型バイクが走ってきて目の前で止まった。

「なんや自分スウェットって色気ないな」

「いきなり呼び出してJKに色気を求めるな」

ほら、といってコンビニの袋を渡してくる。
中にはまだホカホカと暖かいミルクティーと肉まんがふたつ。それとブラックコーヒー。
隣同士ブランコに座って肉まんをかじる。
嫌悪感がどうしたって浮かんできて変な汗が滲んでいく。

「自分なんで男嫌いなん」

こうやってズケズケと人の心に入り込んでくる。嫌な男だ。

「ありがちな話。無理矢理やられた」

小刻みに手が震え出してそれを抑え込むようにミルクティーを強く強く握りしめる。

「…ありがちな話やな。」

少し間を置いて男はそう言った。
そう。ありがちな話。騒ぐ程じゃない。

「ありがちな話なんやったら落ち込まんでええんと違う?自分が悪いんと違うんやろ?」

そう。これはありがちな話。
落ち込む必要も私が悪いなんてこともない。

「そんなんよりなんで電話かけてきぃひんねん。あほが」

「勝手に渡された番号になんで律儀に電話なんてかけなきゃなんないの。意味わかんない」

「そりゃそやな。まぁええわ。ちゃんと登録しとき。ルイってな。」

「登録できないし勝手に電話もかけないで。」

「つめったいなぁー」

だってこれ、私の携帯じゃないし。私のモノなんてこの世界にはひとつも無いし。

「俺からかけるんはええやろ」

「…私じゃない時あるから。むり。」

「ふーん。で?自分名前なんて言うん」

「…どっちの」

「どっちも何も自分の名前や」

「…ユキ」

「ゆき、また電話するわ。」

そういってルイはバイクに股がって嵐のように去っていった。

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