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私の中のたくさんのワタシたち


あの日から1年がすぎて久しぶりにルイに会った朝のこと。
その頃にはもう私はルイのことが好きだということを自覚していて多分きっとルイも気づいていた。
でも私はこの関係が心地よくて壊したくなくて何も言えなかった。

そのころルイはバーテンダーをしていて気づくとどこかしらにピアスが増えていた気がする。

「耳、もうあくとこないね」

「んー。せやなぁ。次はちんこにでもあけたろかな」

「いたそ」

バカみたいな会話が心地よくてずっとこの時間が続けばいいとおもってた。
今思えばピアスはルイの自傷行為だったのかもしれない。

人の時間が有限なことも、私の時間はもっともっと少ないこともわかっていたはずなのに。

私の名前を呼ぶその声が好きだった。
一緒に過ごす朝の時間が好きだった。
彼の吸うタバコの匂いが好きだった。
彼から貰ったココアの味が忘れられなかった。

雨はいつも私に絶望を運んでくる。

その日は雨が降っていた。
大学のレポートの散乱した部屋で私は呆然と友達からかかってきた電話をきいていた。

ルイが死んだ。
自殺だった。

その後のことは覚えてない。

ただルイから当たり前に電話が来て、またアジフライを持ってきて嵐みたいに去っていくのだと思っていた。

何日過ぎても、何ヶ月すぎてもそんな日は来ない。
何度携帯を見てもメールが来ることも電話が来ることもない。

私に引っ張られるように遥がメンタルを保てなくなっていた。
大学を休みがちになり、親とすれ違い、学校を辞めた。

遥のかわりができない私に価値なんてなくて外に出ることもなくなってこのまま私は死んでいくのだと思っていた。

お節介なほのかが毎日部屋に来てドア越しに声をかけてきても、さやさんが声をかけてきても私の耳には届かない。

もう私には誰の代わりも出来ないよ。
期待しないで。

そもそも遥の人生なんだから遥が自分で何とかしろよ。

怒りと悲しみが交互に心をぐちゃぐちゃにしてきて何度も吐いて何度も腕を引っ掻いた。

死ぬ事も出来ない。だって私は人間じゃないから。

いきなり部屋のドアがあいてみやびが『出ろ』とだけ言った。

黙ってついていくとみやびの部屋に連れていかれてみやびはいつものソファーに座る。
知らない顔が2人。

1人はふわふわの髪の女の子。小柄で猫目。
1人はおじさん。無精髭で目つきが悪い。

「近々入院になる」

お前、遥にかわって主人格やれ。
あとは好きにしろ。

頭を殴られたみたいな衝撃だった。

今まで遥の代わりでしかないって私の事言っておいて丸投げ?
怒りでどうにかなりそうだった。

「あのさ!!!」

私の手をふわふわの女の子が握って『あいつに言うだけ無駄』といって私の手を引いて部屋から出た。

「言っても無駄とか言わないとわかんないじゃん。つかそもそもあんた誰。」

手を振りほどいてイライラしたまま言うとその子は振り向いて私の目をじっと見た。

「みお。あのバカの妹。」

舌っ足らずで可愛い声。

「今の外のこと話すから一緒に来て」

私はみおに手を引かれて初めて来た時レイと話した給湯室の隣の部屋に連れていかれた。

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