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「完璧」という仮面(映画『PERFECT DAYS』感想)

こんにちは、ゆきふるです。

今日は、絶賛公開中の映画『PERFECT DAYS』について、鑑賞後の感想をお話しできればと思います。

心がとても温かくなるような、私好みのシーンが多く散りばめられていながら、どこか私には掴みきれない部分もあるような、そんな作品でした。

※本記事は現在公開中の映画『PERFECT DAYS』のネタバレを含みます。
ネタバレが望むところではないという方はこの先をお読みにならないようお願いします。

映画『PERFECT DAYS』とは

基礎情報

監督:ビム・ベンダース
脚本:ビム・ベンダース、高崎卓馬
主演:役所広司

出典:映画.com

あらすじ

こんなふうに生きていけたなら

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山(役所広司)は、
静かに淡々とした日々を生きていた。
同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いた。
その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、
同じ日は1日としてなく、
男は毎日を新しい日として生きていた。
その生き方は美しくすらあった。男は木々を愛していた。
木々がつくる木漏れ日に目を細めた。
そんな男の日々に思いがけない出来事がおきる。
それが男の過去を小さく揺らした。

PERFECT DAYS公式サイト

◇◇◇

優しくて、そしてどこか掴みきれない平山

さて、ここから私が実際に本作を鑑賞して思ったことについて、勝手ながら述べさせていただきたいと思います。
あくまで私個人の感想、解釈である旨、ご了承ください。

まずお話ししたいのは、冒頭でも少し触れた本作における私の共感ポイントと、反対にどこか掴みきれないポイントについてです。

まず共感ポイントの方は、何と言っても平山の優しさ、そして仕事に対するこだわり。この大きく2点です。

役所広司さん演じる平山は、優しい人間です。人によっては優しさの前にまず無口なところを彼の性格の特徴として筆頭に挙げるのかもしれません。
ですが私の目には彼の優しさがより際立って映りました。
例えば、職場の同僚(おそらく後輩)が彼女とデートするためのお金を貸してあげたり、公園のトイレで一人しゃがみ込んでいる子供の面倒を見てあげたり。

しかも、ここで無口な一面が効いてきます。彼は困っている人に手を差し伸べこそするものの、基本しゃべりません。なので、見ていてお節介な感じがしないのです。
私はついつい余計なことまでベラベラ話してしまうタチなので、見習いたいものです。

そんなわけで、私には彼の無口さは、優しさを際立たせるちょい足しレシピのように感じました

また本作を通して、彼の仕事へのこだわりも見られました。トイレの清掃員という一見地味な仕事にも、自分で道具を作って臨むなど、かなりのこだわりを持っていることが見て取れました。
こちらもまた、見習いたいポイントです、、、

◇◇◇

そして反対に、平山の掴みきれなかったところについて。

何が掴みきれなかったのか。

それは、彼があまりに優しすぎて、いまいち感情移入できかねるシーンが見られた、というところです。

例えば先ほども少し触れた、職場の後輩との絡み。後輩は平山に対し、時折、歯に衣着せぬ失礼な質問を投げかけます。「単身で寂しくないのか」とか「この仕事なんでやってるんですか」とか。

また先ほど後輩にお金を貸したシーンについて触れましたが、その直前のシーンでは、彼(平山)のコレクションであるカセットテープを売却されかけていたのです。人のものを売却したお金で彼女とデートをしようだなんで、全く考えられません。
それなのに平山は後輩に同情してか、お金を貸してあげるのです。
流石に優しさが度を越しているな、と率直に感じました。

-----余談中-----

話は脱線しますが、私は少年漫画の主人公に対しても、共感できないことがよくあります。
それは、主人公たちの性格が、現実では考えられないほどにピュアで真っ直ぐすぎるから。
例えば『鬼滅の刃』の主人公、竈門炭治郎くん。正直、彼の持つ現実離れした正義感には、なかなか共感ができないのです。私は不真面目な人間なのかもしれません、、、
どこかダークな部分も持ち合わせている、そんな現実的な性格の主人公の方が好きだったりします。

------------------

少し話がそれましたが、そんなこんなで、本作の主人公・平山の行動には、感情移入の難しい、どこか掴みきれない部分がありました。

おそらく人生も折り返し地点を通過したであろう彼の心情について、なるほどと理解できる日が来るかもしれない。
そんな期待に替えて、記憶に留めておくことにします。

◇◇◇

「完璧」という仮面

最後に、本作のタイトル『PERFECT DAYS』の意味について、私なりの考えを述べたいと思います。

「PERFECT DAYS」をそのまま日本語に訳すと、「完璧な日々」になると思います。

ここで自然と頭に浮かぶ疑問。

それは、「何をもって、”完璧”な日々なのか?」ということ。

本作を一通り見終え、そして本作のタイトルにもなっている作中歌「Perfect Day」(Lou Reed)を聴き返していて、一つの考えに辿り着きました。

その考えとは、

「PERFECT DAYS(=完璧な日々)」とは、ある種の強がりや虚勢なのではないか。

ということです。
どういうことかお話しします。

まず、本作では、トイレ清掃員である平山という人間の日常が淡々と描かれていきます。

ここで、「PERFECT DAYS」とはつまり、ありふれた繰り返しの日々、その中にある小さな幸せ、そして実は繰り返しの中に存在する1日1日の小さな変化こそ、完璧というにふさわしい素晴らしい日ではないか、ということだと私は解釈しています。
どこにでもありそうな日常こそ素晴らしいんだよ、ということです。

ただ、作品後半になると平山の身の上に関わる重要な人物が登場したり、平山の心に大きな変化が生じるシーンが描かれます。
単身でも日々の生活に満足し、丁寧でこだわりを持った、充実した生活(=PERFECT DAYS)を送っているように見えた平山にも家族と過ごす幸せな生活への想い、誰かと深く繋がりたいという心情が少しずつ見えてくるのです。

ここで私は、「PERFECT DAYS」と言っているのは、完璧なんだと言い聞かせている、言わば仮面をかぶっている状態なのではないか、と感じました。

本音では今の生活よりももっと望むものはあるのだけれど、「完璧」という言葉で蓋をして閉じ込めているのではないか、と。

このような考えはあくまで私の勝手な解釈にはなりますが、私自身、大きな理想や野望に対し途方もないような気持ちになる時、「まあ今も十分満足しているし」と自分の本音に蓋をしてしまうことがあります。
多かれ少なかれ、みんな同じような経験があるのではないでしょうか。

私にとって本作『PERFECT DAYS』は、身近にある幸せを大事にする尊さと、その逆の今は遠くにある理想に蓋をするための呪文たる「PERFECT」という言葉の意味を感じ取った作品でした。

みなさんは本作から何を感じ取りましたでしょうか。

では、また。

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