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オートミールブレッド(レーズンカップケーキ)の話

菓子でも主食でもなく

オートミールが去年から今年にかけて流行したらしい。ポリッジが、イギリスの食事がまずい代表的料理、みたいな言われようだったのに、嘘みたいに汚名返上だ。

我が家で長年作っているオートミールのレシピは2つあり、1つはクッキーで、もう1つがオートミールブレッドだ。ブレッド、といってもこねて発酵させるパンではなく、混ぜて焼くだけのいわゆるクイックブレッドの類のもので、私は別名「レーズンカップケーキ」と呼んでいる。カップに入れて作るのではなくて、スケールを使わずに、ほぼ計量カップだけで計量してつくるからそう呼んでいる。ちょっとややこしいけれど、オートミールブレッドもレーズンカップケーキも同じ代物だ。

お菓子と呼ぶにはそれほど甘くなく、でも主食にするにはおやつ感がある、どっちつかずな食べ物で、菓子パンみたいなものかもしれない。子どもたちは物心ついた時からずっと食べ続けているので、とても愛着を持っている。
30年ぐらい前に、アメリカで出版されたレシピ本の中で見つけた、と思う。作ってみたら簡単だった。大雑把な計量でよくて、仕上がりに大きな差も出ないので、ちょこちょこ分量を作りやすく、自分たちの好きな味に変えて今に至っている。今では、もはや正解がわからないほどきっと変わっているのだろうけれど、我が家のおやつとして定着している。

オートミールブレッド(レーズンカップケーキ)のつくりかた

<材料>
オートミール・牛乳・薄力粉 各1カップ
きび砂糖・レーズン 各1/2カップ
ベーキングパウダー 大さじ1
菜種油・無糖ヨーグルト 1/4カップ
卵 2個
塩 1つまみ
シナモン・ナツメッグ 好きな量

<つくりかた>

①  耐熱容器にオートミールと牛乳を入れ、ぐるぐるっと混ぜたら電子レンジで2分加熱する。取り出したらヨーグルトを加えて混ぜて、常温になるぐらいまで置く(放っておくとそのうち粘りが強くなって、もちっとした生地ができる)

② 小さいボウルに薄力粉とベーキングパウダーと塩と香辛料を入れて、ふるう代わりにマドラーでシャカシャカ混ぜておく。

③ 大きめのボウルに菜種油ときび砂糖を入れてよく混ぜたら、卵を2回に分けて入れてもったりするまで混ぜる。この作業をハンドミキサーの低速にずっと任せると楽ちん。

④ ゴムベラに持ち替えて、①と②を1/3ずつ、交互に③に加えて、全体をざっくり混ぜていく。最後にレーズンを加える。

⑤パウンド型にクッキングシートを敷いて、④を流し込む。型の底をトントン、と軽く打ちつけて空気を抜きながら全体を平らにならしたら、お好みでオートミール(省略可)をふる。180度に予熱したオーブンで、45〜50分焼く。焼き上がったら金網にとって冷ます。

りんごも一緒に入れて焼いたバージョン

話の中のオートミール

自分で字が読めるようになって割とすぐに気に入って読んだ本にトルストイの『3びきのくま』という絵本があった。女の子が空き巣に入る話だった。
家のテーブルの上にあるおかゆを、勝手に食べるのだ。幼心に「それはひどいことだ」と思って訳がわからず、何度も読んだからよく覚えている。

その数年後、母が持っていた(母は英語と数学の教師だった)教材の中に、原作らしきものを見つけた。『Goldilocks and three bears』が実際の題名らしい。しかもイギリスの話だという。私が読んでいた絵本を家の本棚から久しぶりに引っ張り出してみると、作者はトルストイでロシア人だというのに。

原作を辞書をひきながら読んでみたら「porridge」と書いてある。これがおかゆのことらしい。家にあったoxfordという辞書で引いたら、oatsを熱いミルクや湯で茹でる、主に朝食に食べる、みたいなことを書いてあった。よくわからないけど、まあお米じゃなくて麦のお粥なんだろうと合点した。

それから海外の、特にイギリスやアメリカの推理小説にポリッジ、という言葉が出てきても、あああれかと知ったような気で読むことができた。お粥を甘く味付けとはちょっと気味が悪いなと思ったけれど、その頃はライスプディングという菓子があることも知るようになっていたので、お国が変われば食べ方も違うものだなあ、とまたなんとなく合点した。

それからまた数年後、高校生の頃にオートミールに再会する。しかし舞台が外国ではなく、なんと昭和初期の小説家、内田百閒の随筆の中でだ。
台湾までのクルーズ船の旅の話で、そこではコース料理やカレーライスなどの舶来料理がたくさん食べられるとか、でも味噌汁も頼めば出してくれるとか。ある日、同じ席についた老紳士が

「をかしな事をして食べて居られると思ったら、後で私にもすすめられた。オートミルに味噌汁をかけて見ろと云ふ話なのである。翌朝の食卓では私もさうして見た。非常にうまい。」

(船の御馳走)

でも、なんだか料理人に申し訳ないし、お行儀をよくしようと思ってそれきりだったらしい。ずっとふざけたことばかり言うおじいさんの内田百閒が、お行儀よく、なんて言うなんて眉唾でしかないけれど、やっぱり日本人は、液体に溶いたオートミールはしょっぱい味付けの方が美味しいと感じるんだな、とまた合点した。

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