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<書評>『錬金術 タロットと愚者の旅』

『錬金術 タロットと愚者の旅』 ルドルフ・ベルヌーリ著 種村季弘訳 青土社 1972年

『錬金術 タロットと愚者の旅』

 錬金術及びタロットについての研究書。訳者は、日本でこの分野の研究をしている第一人者で澁澤龍彦と並ぶ研究者。澁澤がフランス語なら、種村はドイツ語を基本にしていることが二人の相違になっているが、内容はかなり重複しているように思う。

 一方、錬金術という言葉や概念は、私が中学の歴史の教科書に書かれていた記述を未だに覚えているように、「中世ヨーロッパで、別の物質から金を作り出そうとした魔術の一種。その種々の実験から、近代化学の発展に寄与したと見る考えもある」云々とされている。つまり錬金術とは、「暗黒の中世」に行われた「魔女狩り」同様に、非科学的かつ前近代的な愚行であると決めつけられているのだ。

 ところが、C.G.ユングらによる20世紀前半のエラノス会議の研究成果によって、錬金術とは古い歴史を持つ哲学の一種であり(実際、錬金術の求めているものは、金という物質ではなく、「哲学の卵」という宇宙的想像力による存在である)、古代エジプトからアラブ文化を経て、ヨーロッパ文化の深層に生き続けてきた、始原的思想であることが証明されていた。私はこのことを、大学生になってからようやく知ることができた。遅すぎたと思っている。

 このような事情があるためか、今でも日本語における「錬金術」と言えば、例えば価値のないものを高額で売りさばいて巨利を得ることを「錬金術」と言い、また巧妙な仕掛けで不当に蓄財することを「錬金術」と言っている。これは「錬金術」に対する不当な誤解・誤用以外のなにものでもないだろう。

 そうした誤解・誤用を解くべく、澁澤龍彦や種村季弘らは、様々な啓蒙書を世に出してきたと思うが、それでも、この誤解・誤用はいっこうに無くならない。その最大の理由は、錬金術がオカルティズムだからだろう。オカルティズムに対する正当な理解は、日本でもヨーロッパでも遅々として進まないでいる。なぜなら、オカルティズムを説く者、利用する者の多くが、現世の物欲・利益追求の亡者であることが理由だと思う。もしこれを、純粋に哲学としてユングの如く研究する者が多くなれば、誤解・誤用は変わるのではないか。

 さて本題に戻り本書を説明すれば、前半は錬金術の哲学的概要説明とそこから派生する数字と幾何学図形の解説となっており、後半はタロットカードの説明に費やされている。そして、「あとがき」、「解説」というよりも、本書全体及び錬金術並びにタロット全般の概説としての「愚者の旅」という種村季弘の論文で、本書全体を締めくくっている。

 ベルヌーリによる本文にも示唆に富む記述は多々あったが、特にこの「愚者の旅」の中の二ヶ所に、私が「これは!」と気づいたことがあったので、それを紹介・説明したい。

 まずは、「世界輪」としての、日輪、法輪、卍、ハーケンクロイツは、「回転し渦巻く運動の表現である」としているところだ。私はこの「回転し渦巻く運動」ということから、瞬時に宇宙の銀河をイメージした。そして、おそらくこれらの図形が「世界輪」と呼ばれている理由として、銀河のイメージが根底にあるのだと考えた。そして、銀河は宇宙を構成する基本であり、宇宙の発生や終焉に関係するわけだから、そのまま「世界を構成する輪」として象徴することは、極めて自然だと思う。

 次いで、種村が得意とする「薔薇十字団運動」における基本文書『ファーマ・フラテルニタティス』の記述として、「1604年、南ドイツのどこか(あるいはチロル地方)で人々が聖霊のための霊堂を改築していたとき、七角形の壁に囲われた秘蹟の部屋が発見された。祭壇を取り払って、その下にあらわれた厚い真鍮板を持ち上げてみると、そこに『慎重に配慮された賢明なる始祖ローゼンクロイツ(注:薔薇十字団の創設者)の美しい賞むべき肉体が、無疵のまま、完全な祭服をまとってなんら腐敗の痕をとどめることなく発見された。』」という箇所である。

 この文章からは、様々な情報が読み取れる(「七角形の秘密の部屋」、「創設者の埋葬」、「腐敗しない遺体」)などであり、またローゼンクロイツは「Tと呼ばれる小さな本を持っていた」ことに種村は特に注目している。しかし私が注目したのは、「腐敗しない遺体」という箇所だった。

 私は、普通の人間の遺体が腐敗しないことに驚きや神秘を見たのではない。むしろ当時の人々が「腐敗しない遺体」と見たものは、実は「腐敗しない遺体」ではなく、「腐敗することのない人の姿」であったのではないかと考えた。それはすなわち、例えば金属などで作られたロボットであったのではないかと、私は考えたのだ。

 先に引用した「世界輪」としての「銀河の渦巻き運動」が錬金術の要素であるならば、そこには当然地球外生命体との関連があるはずだろう。そして、地球外生命体が人類に対して、適切な思想を伝授するために派遣した者であると創設者のローゼンクロイツをみなせば、彼は通常の人類ではなく、遠い宇宙を朽ちることなく旅ができた地球外生命体の作ったロボットの一種であったはずだ。そして、ロボットであったからこそ、腐敗することはなかった。

 しかし、埋葬されていることからは、なぜロボットが「死んだ」のかという疑問が出てくる。それに対して私は、下世話な電池切れという理由もちょっと思いついたが、もっと的確な答えは、地球外生命体からの遠隔操作が停止したからだと思う。つまり、通常の人類のように、老化・疾病・傷害などで死ぬことはないが、突然自分の役割を終えたロボットは、遠隔操作を停止されたため、そこで「死んだ」。そして、信者たちはこの驚愕の事実を秘匿するために埋葬したのだと思う。

 ここまで推理を進めていき、ふと新たに気づいたことがあった。それは、それがロボットであり、遠隔操作を一時的に停止しただけであれば、地球外生命体が再び遠隔操作が必要だと判断したとき、そのロボットは「再起動」するはずだということだ。つまり、将来のいつの日か、ローゼンクロイツの「遺体」は復活するのだろう。

 そういえば、ローゼンクロイツ以前、今から2000年近い前に、ある地球外生命体から派遣された「ロボット」であるナザレの一人の預言者は、磔刑にあった七日後に復活している。

リッピ@大英美術館

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