見出し画像

苦手で嫌いだけど、それでも70か国を旅してきた8つの理由

「70か国以上を旅してきた」というと、旅が好きで好きでたまらない人のように聞こえるらしい。

実際は違う。世界中の人に「海外旅行は好きですか?」と聞いてまわったら、私は「いいえ」側の50%に入るかもしれない。

それなのに、なぜ貴重な有給休暇を消費し、たっぷりお金を使って海外に行くのか。しかもVRでリアルな“旅行”を楽しめる時代に。

よく聞かれるこの質問に答えてみたいと思う。

自分を鍛えるため

よく笑われるけど、一番大きな理由は「修行」だ。

内向的で心配性、方向音痴、英語が苦手と何拍子も揃った私にとって、海外旅行は脅威だ。チケットを取った瞬間に「行くのかあ」と思うし、空港に着いた瞬間に「帰りたい」という言葉が出る。

怖いけど、行ってしまったら自分でなんとかするしかない。だからこそいろんな筋肉が鍛えられるし、「こんな自分でも異国の地でなんとかやれた」という自信になる。

その国の実在を確かめるため

「その国の実在を確かめたい」は、これまで何人もの旅好きに共感してもらえた。

いまだに新しい国に着くたび「本当に実在してたんだ」と思うし、いくら写真や映像を見たって、未踏の国たちの存在は信じられない。行ってはじめて、ピラミッドもメディナもマチュピチュも実在していることがわかった。

頭のなかに地図をつくるため

旅することで、頭のなかに地図をつくっている感覚がある。

自分の足で歩くと、地図のなかの平面的な一点が、立体的で愛しい(時に憎たらしい)場所になっていく。ピンボケのようにしかイメージできていなかった街が、解像度の高い、鮮やかな記憶を伴った存在に切り替わる。

学ぶことを楽しむため

この理由は「頭のなかに地図をつくるため」と密接につながっている。

旅することによって、まったく知らなかった土地に親近感を抱き、自分ごととして捉えられるようになる。すると、その土地の歴史や地理、文化について知りたくなるのだ。

世界史も地理も嫌いだったのは、国や街を教科書上の文字として捉えていたからなのだろう。

“ふと思い出す場所”を増やすため

「ふと思い出す場所を増やすため」というエモーショナルな理由もある。

帰国してしばらく経ち、日常のせわしなさに取り紛れて旅のことなんて忘れつつある頃、異国でのワンシーンをふと思い出すタイミングがやってくるのだ。

風の感じやどこからか漂ってくる匂い、すれ違った人が話す外国語、旅先で聴いていた曲などにより、記憶の奥底に眠っていた何かが刺激される。

次から次へと記憶があふれ出し、すっかり忘れていたディテールまで思い出す日もあれば、どこの街のものかも判然としないシーンばかりがフラッシュのように浮かんでは消えていく日もある。

いずれにせよ、遠い国に思いを馳せる時間は、甘く感傷的な幸せをくれるものだ。

不思議なことにというか、当然ながらというべきか、だれかと一緒に旅しても、記憶に残るものはそれぞれ違う。

旅行記を公開しても、最新のiPhoneで撮った写真をアップしても、その街の空気感やそこで過ごした日々にまとわりついた感情までは決して共有できない。ちょっとさみしい気もするけれど、記憶は自分だけのものなのだ。

「驚きたい欲」を満たすため

誰だって、現状維持したい欲求と驚きたい欲求を同時に備えているのではないかと思う。

私の場合、東京での日常生活において驚くことはほとんどない。街中で推しとすれ違ったときくらいだ(嘘のような本当の話)。実をいうと、年季の入った旅行者になってしまったので、海外旅行先においてさえめったに驚かないのだけれど。

それでもまれに、旅先で驚きのあまり固まってしまうことがある。いい意味でも、悪い意味でも。そんな「ほんまに?」「噓やん」を待ち望んでいるのかもしれない。

異なる立場を経験するため

現在の私は、日本にいる限りマイノリティになるシーンは少ない。

そんな私も、海外では完全にマイノリティだ。
見知らぬ土地を歩き、1ミリもわからない言語を話す人たちに囲まれると、なんともそわそわした気持ちになる。差別用語でからかわれたり、冷たくあしらわれたりすることもしばしばだ。

子どものころ「相手の立場に立ってものを考えなさい」と教わったが、これは大人の想像力をもってしてもかなり難しいことではないだろうか。

その点、旅は強制的に立場を反転させてくれる。異なる立場に身を置くことになり、ものの見え方がほんの少し変わるような気がする。

何もない自分にタグをつけるため

私には秀でた性質も注目すべき経歴もない。あまりにネタがないため、自己紹介は15秒もてば上出来だ。

そんな私にも平等に、旅はタグを与えてくれる。

結果として、あまり交流のない同僚が「サウジアラビアに行ったらしいですね」なんて話しかけてくれたりする。「0泊3日でシンガポールに行った変人」と紹介されたら、たいていの人は瞬時に鋭いツッコミをくれる。

もちろんほかの趣味や属性によってもタグは増えていく。だけれど旅は特別なタグをつけてくれる気がするのだ。この理由については、別の機会にもう少し詳しく言語化してみたいと思う。

あっという間に8つも理由が思い浮かんだ。もしかすると私はけっこう旅が好きなのかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?