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京都公演覚え書き その④ 音響効果、いまむかし(前編)

会場の音漏れの有無

舞台音響効果は、大きく分けて2つの観点で考える必要があります。
「観客へ演者の声・効果音・劇中音楽をスムーズに届けること」と「演出上必要な効果音・劇中音楽を鳴らすこと」です。これは古えから変わっていません。
前者の場合、鑑賞の妨げとなる劇場外の音が観客に届かないよう劇場の“遮音性”がまず必要となります(野外劇・路上劇は除く)。
京都公演の会場を決める際、もっとも気になったのは建物が街なかのお寺の本堂だということ。客席にいて外部の音が聞こえないよう遮音設計されたものではありません。

街なかにある法光寺さん


下見のため本堂を初めて訪れたとき、全ての戸を閉めて、本堂の外の音がどれくらい中に聞こえてくるのかをまず確認しました。
本堂の出入り口は、幅2間(3.6メートル)ほど開口できるようになっています。
その開口部を4枚の障子と4枚の板戸とで二重に閉めきると、外の音がほとんど聞こえてこないことが分かり、安心しました。

本堂の開口部


ここは市街地ですが、幹線道路から離れているおかげで自動車等の喧騒はほとんど聞こえません(もし選挙カーが前の道路を通過したらその音声が聞こえたかもしれません。公演日に選挙がなくホッとしました)。
外の音がほとんど聞こえてこないということは、逆に考えると上演中の演者の声や効果音・音楽も外へほとんど洩れないということになります。
外部の音がほとんど入って来ず、内部からの音漏れを気にせず演出上必要な音を出せるということは、観客が物語の世界へ没入しやすい環境が整っているということです。

音響機器の検討

次に、演者の声が最後列の客席までマイク無しで届くかどうかも確認しました。
観客に演者のナマ声を聴いていただくこと。これはこの作品の演出上、譲れない点でした。
空間のサイズは奥行8.6メートル、幅5.7メートル、高さ3.6メートル。畳の枚数でいえば、27帖の広さ。天井の高さは一般住宅より1.5倍ほど。
客席数は最大50名分とこぢんまりした空間のため、ナマ声が届くかどうかについては実際に声を出してみて全く問題がないことが分かりました。
 
次の段階で考えるべきは、この作品に出てくる効果音・劇中音楽を演出上必要な音量と音質で観客の耳に届けることができるかどうかです。
本堂には音響用スピーカーが常設されていませんから、持ち込む必要があります(那須塩原市図書館「みるる」公演では会場に常設のスピーカーシステムがあったのでそれをお借りしました)。
かといって一般家庭用スピーカーではパワーが足りません。というのも、この作品には登場人物のすぐ近くに雷が落ちるシーンがあるからです。
地響きを伴う落雷音。それを一般家庭用スピーカーで響かせようとしてもゴボゴボと音割れしてノイズが大きくなり、雷に聞こえなくなってしまいます。
そこでライブハウス用のスピーカー(ヤマハDBR10)を1台持ち込みました。パワーは充分です。
 https://jp.yamaha.com/products/proaudio/speakers/dbr/index.html
大きな音はこの落雷のみ。他の音はここまでの大音量を要しません。この1台のスピーカーでカバーできると予想しました。音をステレオやサラウンドで鳴らす必要もないため、据え付けたのは1台だけでした。

下手(しもて)袖にスピーカーを設置

残響の有無

会場内の“残響”も確かめる必要がありました。残響が大きすぎると、音声の輪郭がぼやけ聞き取りづらくなります。
確かめる手っ取り早い方法として、会場の戸を全て閉め切り、舞台上で両手の手のひらを勢いよく合わせて音を出すことが一般的に行われています。
この本堂では両手を勢いよく合わせても不快な残響は生じませんでした。木材・障子紙・畳といった自然素材が適度に音を吸収してくれるのでしょう。
 〈つづく〉

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