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快適な暮らしを求めて僕らは旅に出た

 家の配管工事をしていました。
 古い古いマンションでどこの家でも水漏れし放題。我が家も約十年にわたって水漏れ被害に遭い苦労してきました。昨年夏からびよんびよんになった壁紙の貼り替え工事を始めて、冬にはぼろくなった風呂場のリフォーム工事、そしてその直後に階下へ水漏れ。配管を更新したと思ったのですが新しくしたのは一部でまだ古い管も残っていまして、そこから突然の水漏れが起こったのでした。でも工事業者には責任は問えないので(きちんと確認、指示しなかった我が家のミスです、工事はきちんとできていました)、今回が最後の工事になりました。
 我が家は高齢の母と病気持ちの私の二人暮らし。埃だらけだったり水道が止まったりしている部屋に居ながらにしての改修工事は体力的に耐え難く、実に三回にわたりホテルで待機することになったのでした。だからもうホテルの常連さんです。お金持ちみたいですがそんなことはありません。体力の方を優先して泣く泣く家から出てきていただけです。つらい。
 業者によるとお湯が通る管はギョッとするほどの赤錆で動脈硬化を起こしており、本来出るはずの三分の一以下程度しかお湯が通っていなかったのだろうとのこと。工事後何回お湯を出しても新しい配管に異常はなく錆も出ず濡れているところもなく、今度こそ階下への水漏れは起こらないと自信がありそうな口振りでした。水漏れは被害者になるのもつらいけれど、加害者になるのはもっと嫌なものです。突然にして手も洗えなくなりますし、階下の住人に申し訳ないですし。今度こそ安心して住めるようになることを心から期待します。
 はからずも複数回ホテル暮らしをする羽目になりましたが、結果的に選択したホテルは非常に快適でこちらは満足です。あまりにも狭苦しいビジネスホテルでは母が耐えられないのでもう少しだけ広い老舗ホテルにし、流行り病のため客のいるレストランを使いたくないのでルームサービスのみで食事を済ませ(レストランと価格は変わらないのですこれが)、元を取るためにシャワーを浴びまくり、少しみっともないですが持ち帰って構わないアメニティを失敬し、十分にホテル代を有効活用してきました。閉じこもっているのは不自由で疲れますし出費は残念ですが、これもすべては快適な暮らしを手にするための手段です。しかもホテルは意外と格安でした(プランがお得)。
 衣食住が最低限できるということがどれほど重要であるか、今回しみじみと知ることになりました。我が家は衣類はとても質素で滅多に新調しません。食事も質素かつ少食なので世の中の一人分を母と半分ずつしか食べません。住居は亡き父のおかげで恵まれていると感じています。住む場所があることに心から感謝しています。ただし今回のようにトラブルがある場合は自腹を切って修繕せねばなりません。持ち家の宿命です。
 いろいろ考えていると、最後は亡き父とがんばってくれている母への感謝となっていきます。長い病で働くことのできない私がこうして衣食住に困らず生きていかれるのも両親のおかげです。いずれ私はこの家に一人になりますが(その前に母の介護が本格的になるでしょうが)、はてさてどうして生きていこうかと考えてしまいます。マンションの建て替え決議が行われないように祈るばかりなのでした。今のところその話はないので安心していますが、出てきたらそれが私の新たなアクションポイントになるでしょう。その頃いったい何歳になっているのか想像もつきませんが。
 快適な暮らしを得るためには苦労が多いものです。多くの人が似たようなことを繰り返しながら生きているのだろうなと。みんな自分が生きるのに精一杯。水漏れ工事に奔走するのもまた人生の一ページなのでした。