優衣羽(Yuiha)

作家 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のその先で、」など、翻…

優衣羽(Yuiha)

作家 「君が残した365日」発売。 「僕と君の365日」「紅い糸のその先で、」など、翻訳含め7冊ほど出版させていただいております。 お仕事連絡こちらまでよろしくお願いします。→yui10yuiha07@gmail.com

マガジン

  • 短編小説まとめ

    作家、優衣羽の新規短編小説を載せる場です。気ままに更新。

  • 元気でいろとは言わないが、日常は案外面白い

    作家による日記風エッセイ

  • 既刊作品の小さなお話

    既刊作品の小話などまとめ。たまに追加。

  • 僕と君の366日の嘘

    僕と君の365日のアナザー版です。Webサイトに投稿していたものを加筆・大幅修正し同人小説として出した作品です。※本にはあとがきが収録されておりますが、こちらには収録されていません。

  • 作家の気まぐれグルメレポート

    時折のご褒美飯をレポート。気ままに更新。

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固定された記事

優衣羽のポートフォリオ

はじめまして、作家・シナリオライターをしております優衣羽です。 お仕事情報は随時更新します。 自己紹介 書籍 2019年3月『僕と君の365日』(ポプラ社/ポプラ文庫ピ…

優衣羽(Yuiha)
11か月前
35

ルーティンワークに欠けた何か

生活は続く PM6:30 仕事終わりにスーパーへ行く。 PM7:00 帰宅。 PM7:30 夕食。無音。 PM8:00 自由時間。ソファーに横たわりテレビを眺める。 PM9:00 シャワー。髪を…

8

焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

チョコレートが焼けた香りに、思い出は助長される 幼馴染と言われるような関係性の子がいた。誕生日は二日違い。近所の公園で出会ったその子は、瞬く間に一番の友達となっ…

8

一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

「いつか、」 雨の強い日だった。席に座る彼の背景に曇り空が広がっている。電気のついていない教室には私たちしかいない。灰色の空と薄青のカーテン、濃い緑の黒板が白い…

優衣羽(Yuiha)
2週間前
6

唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

君は僕の特別 誰かの何かになりたかった。唯一。替えの効かない存在。その言葉は酷く魅力的で、まるで月に手を伸ばすかのような感覚で求め続けた。 もがき、足掻き、苦し…

優衣羽(Yuiha)
3週間前
5

泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

「泡になって消えちゃうらしいよ」 昔々、と言っても二百年ほど前。ハンス・クリスチャン・アンデルセンが残した物語の一つ。海の底で生きていた少女が地上に憧れ、一人に…

優衣羽(Yuiha)
1か月前
4

10年後には忘れてるかもね

時間は残酷で時に優しくて、 忘れられない現実があった。いつしか思い出になり過去と化す。過去になるのが先か、思い出になるのが先かは、そこに込められた想いがあるか否…

優衣羽(Yuiha)
1か月前
4

海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

深海を揺蕩う海月のような生物 クラゲという生物がいる。透明で水の流れに揺蕩っている、ゼリー状の生き物。ロマンチックを売りにしている水族館で、クラゲは絶対的なエー…

優衣羽(Yuiha)
1か月前
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潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

波打ち際に残した足跡は消えてしまうけれど 絶望的な運動不足により数時間の移動で筋肉痛が起きた。階段上り下り、スーツケースを何度も持ち上げ右腕が死んだ。同時に、自…

優衣羽(Yuiha)
1か月前
5

この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

東京を離れる。 それを決めたのはここ数ヶ月の話。2年住んだマンションの更新通知が来る前、転職してフルリモートになり、インターネットさえあればどこでも仕事が出来る…

優衣羽(Yuiha)
2か月前
4

Paradise Regained

薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。 かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手…

優衣羽(Yuiha)
2か月前
4

Planetes

彷徨う者たちへ 『アテンション、アテンション――プロジェクト・ノアが地球から離れて、本日で1252万8750年が経過しました』 『青き星は人々の度重なる愚行により息を止…

優衣羽(Yuiha)
2か月前
6

君が残した365日 あとがき

※この記事には微かなネタバレ(匂わせレベル)が含みます。ご注意ください。 それでも誰かを想い残したのなら、きっとこれが本物の愛なのだと ある日、雲一つない秋晴れ…

優衣羽(Yuiha)
2か月前
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小指でした約束を、薬指で誓い合う。

「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」 「指切った!」 遠い昔の記憶、誰もが口にした事のある約束の言葉を、忘れず守った人間はどのくらいいるのだろう。 嘘…

優衣羽(Yuiha)
3か月前
6

さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

「人は必要な時に、必要な人に会うらしいよ」 深夜のファミレス、ラストオーダーを聞きに来た店員は、席に流れる空気を察し足早に去っていく。 180円のドリンクバー。グ…

優衣羽(Yuiha)
3か月前
10

前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

突然だが、前世の記憶はあるだろうか。 人は皆、輪廻転生を繰り返すと言うが、前の世で生きていた事など憶えているわけもなく、人生はニューゲームの状態で開始される。も…

優衣羽(Yuiha)
3か月前
8
優衣羽のポートフォリオ

優衣羽のポートフォリオ

はじめまして、作家・シナリオライターをしております優衣羽です。
お仕事情報は随時更新します。

自己紹介

書籍

2019年3月『僕と君の365日』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々

2020年4月『紅い糸のその先で、』(KADOKAWA/角川文庫) 装画:和遥キナ

2020年8月『さよならノーチラス 最後の恋と、巡る夏』(ポプラ社/ポプラ文庫ピュアフル) 装画:爽々

2020

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ルーティンワークに欠けた何か

ルーティンワークに欠けた何か

生活は続く

PM6:30 仕事終わりにスーパーへ行く。
PM7:00 帰宅。
PM7:30 夕食。無音。
PM8:00 自由時間。ソファーに横たわりテレビを眺める。
PM9:00 シャワー。髪を乾かす。
PM10:00 晩酌。缶ビール片手に明日のゴミをまとめる。
PM11:00 スマートフォンをつけては消す。飲み終わった缶をシンクにひっくり返す。
PM12:00 温かい飲み物を飲んでベッドに寝転

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焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

焼き菓子の香りに目を細め、幼少期の私が顔を出す

チョコレートが焼けた香りに、思い出は助長される

幼馴染と言われるような関係性の子がいた。誕生日は二日違い。近所の公園で出会ったその子は、瞬く間に一番の友達となった。

同じ幼稚園、何度も遊んで当時の私にとって彼女は最初の友人だった。

違う小学校に行き、それでも低学年の間は何度か遊んでいた。中学生に上がり私たちは別の世界を歩くようになった。用があれば話すけど、関わりはまるで他人のよう。そういうも

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一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

一生の後悔として、君に放った言葉と添い遂げるよ

「いつか、」

雨の強い日だった。席に座る彼の背景に曇り空が広がっている。電気のついていない教室には私たちしかいない。灰色の空と薄青のカーテン、濃い緑の黒板が白い壁と汚れた床に反射して、青灰色の色彩を放っていた。

一歩。また一歩とそちらへ近づく。彼は私に気づき顔をこちらへ向ける。私は椅子を引っ張り机の横につけて持っていたノートを開いた。

「これさ、」

何を話したかは分からない。ただ、どこにで

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唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

唯一になりたかったのは必要とされないと価値が無いと思っていたから

君は僕の特別

誰かの何かになりたかった。唯一。替えの効かない存在。その言葉は酷く魅力的で、まるで月に手を伸ばすかのような感覚で求め続けた。

もがき、足掻き、苦しんで。誰かの何かになれない事に気づいた。自分はどこにでもいる何かで、替えはいくらでも効く、手は月に生涯届かない。

薄々気づいていた感覚が、脳天から直撃して脊髄を通り爪先まで充満した時、光のない場所で立ち止まった事を憶えている。無力感、

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泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

泡になって消えるなら、共に死んで馬鹿げた永遠を語らせろよ

「泡になって消えちゃうらしいよ」

昔々、と言っても二百年ほど前。ハンス・クリスチャン・アンデルセンが残した物語の一つ。海の底で生きていた少女が地上に憧れ、一人に恋をし声を引き換えに足を得た。再会を果たすも想いは伝わらず、真実は変容し、恋のために少女は犠牲になった。

死んで献身的な愛が神の目に止まり、彼女は長い旅路に出た。天国に行くための、長い長い旅路。

「馬鹿げてるよねえ」

少女はきっと、

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10年後には忘れてるかもね

10年後には忘れてるかもね

時間は残酷で時に優しくて、

忘れられない現実があった。いつしか思い出になり過去と化す。過去になるのが先か、思い出になるのが先かは、そこに込められた想いがあるか否かで変わると思っている。

思い出はまだそこにあって時折思い出しては懐かしむ気持ちが存在する。けれど過去は過ぎ去った時間だ。概念と心情。思い出す事が出来ても、想いが消えてしまった日にそれは過去になると、私は考えている。

消えると言うのも

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海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

海の月は揺蕩うだけで、月までの道のりは途方もないけれど

深海を揺蕩う海月のような生物

クラゲという生物がいる。透明で水の流れに揺蕩っている、ゼリー状の生き物。ロマンチックを売りにしている水族館で、クラゲは絶対的なエース。LEDに当てられ透明な身体は色を変える。人は、色を変えるものが好きだと思う。クラゲしかり、四季も、グラデーションも。

ところでクラゲは漢字で海の月と書く。何で海の月なのだろうと調べてみれば、海に浮かぶ姿が反射する月のようだから、だそ

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潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

潮騒と青と幸せと自由を忘れていた一人

波打ち際に残した足跡は消えてしまうけれど

絶望的な運動不足により数時間の移動で筋肉痛が起きた。階段上り下り、スーツケースを何度も持ち上げ右腕が死んだ。同時に、自分に対し死ぬほど引いた。

嘘でしょ?君、このレベルの移動で筋肉痛になるの?笑えないよ?人生まだ続くらしいよ?今からこれってやばいよ?冗談止めようぜ……?

東京の片隅、用が無いと外出せずただ何にもならない文章を書き綴る日々。足元から腐っ

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この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

この街は、オアシスのような砂漠で、砂漠のようなオアシスで

東京を離れる。

それを決めたのはここ数ヶ月の話。2年住んだマンションの更新通知が来る前、転職してフルリモートになり、インターネットさえあればどこでも仕事が出来るようになった。何となく、ここにいる必要はないなと思った。

ここに住み始めたのは前に勤めていた会社から近かったから。ただそれだけの話なのだが、東京という街へ来て何となく、どんなもんかと考えていた節があった。

東京という街はとにかく利便性

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Paradise Regained

Paradise Regained

薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。

かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手は斧を引きずりながら歩を速めた。崖の上に立つ小屋は石造りで外壁。崖の下に広がる海から吹く潮風によって隙間風が吹くようになってしまった。

小屋の前まで着いた時聞こえた大きな波音に扉を開けようとした手が止まる。薪と斧を投げ捨て、小屋の壁を伝

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Planetes

Planetes

彷徨う者たちへ

『アテンション、アテンション――プロジェクト・ノアが地球から離れて、本日で1252万8750年が経過しました』

『青き星は人々の度重なる愚行により息を止め、残された僅かな人類はこの
宇宙船に乗り、人類が住める土地へ向かうべく、長き航海を始めました』

『24万3750年、宇宙船内にいた人類の60%がティガーン星へ移住。文明は発達したかに思えましたが、信号が途絶え生命が消えた事を

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君が残した365日 あとがき

君が残した365日 あとがき

※この記事には微かなネタバレ(匂わせレベル)が含みます。ご注意ください。

それでも誰かを想い残したのなら、きっとこれが本物の愛なのだと

ある日、雲一つない秋晴れがまるで世界が一つになったかのように続いていた。マスクの下、薄く開いた唇はただそんな空を眺めていた。空想も何もない、綺麗だという言葉すら頭に浮かばず、目を奪われたような感覚で歩いていた。

不意に金木犀の匂いがした。ああ、もう秋だ。分か

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小指でした約束を、薬指で誓い合う。

小指でした約束を、薬指で誓い合う。

「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」

「指切った!」

遠い昔の記憶、誰もが口にした事のある約束の言葉を、忘れず守った人間はどのくらいいるのだろう。

嘘をついたら針千本飲ますなんて、子供の頃は考えもしなかっただろう。そもそも、幼子の考える針千本は、魚の方のハリセンボンをイメージする可能性が高い。

針というものに触れたのはいつだろう。小学校に上がってから? 家庭科の授業は四年生になっ

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さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

さよならは突然来るのではない。忍び寄っていた事に気づけなかっただけだ

「人は必要な時に、必要な人に会うらしいよ」

深夜のファミレス、ラストオーダーを聞きに来た店員は、席に流れる空気を察し足早に去っていく。

180円のドリンクバー。グラスの中で香料しか入っていないメロンが泡を立てた。向かいの席にはブラックコーヒー。白い陶器の縁に薄紅がついている。最後に見たそれは、もっと鮮やかだった気がした。

「そういうこと」

”そういうこと”ってなんだ。聞き返す事すら出来ず開

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前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

前世の推しとアイドルは、まともな恋など出来やしない

突然だが、前世の記憶はあるだろうか。

人は皆、輪廻転生を繰り返すと言うが、前の世で生きていた事など憶えているわけもなく、人生はニューゲームの状態で開始される。もしかすると、コンティニューかもしれないのに。

はっきり言おう。私には前世の記憶がある。

時代は明治~大正頃。通っていた女学校の通学路に大学があった。自分たちより少し年上の男子学生が行き交うそこを、女学校の生徒たちは憧れの視線を向けてい

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