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Paradise Regained
薪を割る音が冷たい空気を裂くように響いた。
かじかんだ手で切り株から跳んだ薪を拾う。雪は足跡を残した。曇天から温かな陽射しが差し込む事はない。一人、薪を抱え片手は斧を引きずりながら歩を速めた。崖の上に立つ小屋は石造りで外壁。崖の下に広がる海から吹く潮風によって隙間風が吹くようになってしまった。
小屋の前まで着いた時聞こえた大きな波音に扉を開けようとした手が止まる。薪と斧を投げ捨て、小屋の壁を伝
君が残した365日 あとがき
※この記事には微かなネタバレ(匂わせレベル)が含みます。ご注意ください。
それでも誰かを想い残したのなら、きっとこれが本物の愛なのだと
ある日、雲一つない秋晴れがまるで世界が一つになったかのように続いていた。マスクの下、薄く開いた唇はただそんな空を眺めていた。空想も何もない、綺麗だという言葉すら頭に浮かばず、目を奪われたような感覚で歩いていた。
不意に金木犀の匂いがした。ああ、もう秋だ。分か
小指でした約束を、薬指で誓い合う。
「指きりげんまん、嘘ついたら針千本のーます!」
「指切った!」
遠い昔の記憶、誰もが口にした事のある約束の言葉を、忘れず守った人間はどのくらいいるのだろう。
嘘をついたら針千本飲ますなんて、子供の頃は考えもしなかっただろう。そもそも、幼子の考える針千本は、魚の方のハリセンボンをイメージする可能性が高い。
針というものに触れたのはいつだろう。小学校に上がってから? 家庭科の授業は四年生になっ