小野崎雄一

創業100年福島県最大級の魚屋(株)おのざき (https://www.onozaki…

小野崎雄一

創業100年福島県最大級の魚屋(株)おのざき (https://www.onozaki100years.com/) 鮮魚店4店舗、飲食2店舗、卸売事業、EC事業、製造事業 趣味は、勉強、読書、文章/絵を描く、スケボー乗る、コーヒー飲む、カレー作る、服みる、台湾音楽

マガジン

  • 民報サロン(福島民報掲載)

  • 商品開発

    手がけた商品開発の裏側を記録用に残しています。

  • くらし随筆(いわき民報掲載)

    いわき民報のくらし随筆というコーナーで3ヶ間コラムを寄稿させていただきましたが、思いのほか好評をいただき、新聞掲載から1年経った今でもまた読みたいと多くのリクエストいただいのでnoteにて公開します。 クスっと笑える。全部読むと自己啓発本5冊くらい読んだことに匹敵しますよ。嘘です。

最近の記事

処理水海洋放出から1ヶ月が過ぎて

2023年8月24日午後1時頃、福島第1原子力発電所のALPS処理水が海洋放出開始となりました。10年以上議論されてきたことがようやく前に動き出したな、という感じです。 コトの経緯が分からない方のためにざっくり説明しますと、福島第1原子力発電所は2011年の東日本大震災による影響で廃炉(はいろ)することになっています。その廃炉作業の過程において、ALPS処理水と呼ばれる処理水が発生します。その処理水が敷地内のタンクに貯められてきましたが、そろそろ敷地内がパンクするので処理水

    • リスクを追え

      私が県内最大級の鮮魚店「おのざき」を事業承継する中で意識していることの一つが、「半歩先」の経営だ。加速度的に変化する世の中において、現状維持は衰退につながる。だからこそ、事業継続の前提に立つと、少しでも日々前進しなければならないのである。かといって、アクセル全開で大きな一歩を進もうと急激な変化をもたらすようなことがあると、今度は社内外の人たちがついてこられなくなる。あらゆる価値観や世代の人たちが手を取り合ってみんなで前に進む。これを私は半歩先の経営と表現している。 最近、マ

      • 危機感はあるか?

        脂をたんまりと含んだ肉厚な食感。濃厚で甘じょっぱいタレと、夏の暑さを吹き飛ぶす、さわやかな山椒(さんしょう)の香りの組み合わせ…。白米と一緒にかきこむと、夏の到来に気づかされる。きょう30日は「土用の丑の日」だ。町なかの至る所にウナギが並んでいることだろう。 なぜ、夏にウナギを食べるのか。土用の丑の日の由来には諸説あるが、江戸時代、暑さで売り上げが下がる夏の時期に何とかウナギを売りたいと、店側が「本日土用丑の日」の看板を掲げ、ウナギの消費を促す取り組みを始めたのが始まりだそ

        • ウニ貝焼から考える「価値」

          初夏になると、まるで宝石のような神々しさをまとったいわき産ウニ貝焼きが、市場に一列に整列する。列を乱すものはない。そこには神聖な空気が漂っているようにさえ感じる。 毎年5月になると、いわき産のムラサキウニの水揚げが解禁され、それをふんだんに使用したウニ貝焼きが初競りにかけられる。いわき発祥の名産品で、今年3月に文化庁の100年フードにも認定された。生では日持ちしないウニを保存するため、明治時代に作られたのが始まりだそう。ホッキ貝の貝殻におよそ約5個分の生ウニをぜいたくに盛り

        処理水海洋放出から1ヶ月が過ぎて

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        • 民報サロン(福島民報掲載)
          6本
        • 商品開発
          3本
        • くらし随筆(いわき民報掲載)
          13本

        記事

          魚屋視点の仕事の本質

          店の売り上げは、お客さまが喜んだ結果だと社内で話している。お客さまが喜ぶということは、何かしらお客さまの役に立っているということ。仕事の本質は人に喜んでいただくことだと常々思う。 魚を目の前でさばいてお客さまに渡すと、「ありがとう」と言ってもらえる。漢字では有ることが難しいと書く。お客さまは魚をさばくのが難しいため、僕ら魚屋が代わりに魚をさばくことで「有り難う」と喜ばれるのだ。人に感謝されると、うれしくなって仕事が楽しくなる。 「やりたいことが見つからない」と言う人が多い

          魚屋視点の仕事の本質

          県民の誇り「常磐もの」

          「築地市場の水産関係者の99%がおいしいと認めた」。電通が2015(平成27)年に行った水産関係者調査で、福島県沖で水揚げされる高品質の魚「常磐もの」についてそんな結果が出ました。ブランド魚として魚のプロたちから圧倒的な評価を受けたのです。 10年ほど食品業界に身を置く私からみても、食に関するアンケート調査で99%の人が「おいしい」と回答するのは、よっぽどのことです。おいしいか、おいしくないかの感じ方は人によって大きく異なるからです。私の好物のシュウマイや角煮も、他の誰かに

          県民の誇り「常磐もの」

          なぜ魚屋を継いだのか

          私は東京からUターンし、2020年1月、家業の「株式会社おのざき」を承継すべく入社しました。1923年、小さな鮮魚店としていわき市平鎌田町にて創業し、おかげさまで今年100周年を迎えました。現在、県内最大級の魚屋として、鮮魚店4店舗と飲食店2店舗に加え、卸売業とEC事業を展開しています。 入社して3年間、経営理念の策定や不採算事業からの撤退、店舗の業務改革、労働環境の整備、全般的なデジタル化、セントラルキッチンの立ち上げ、EC事業の本格化、商品開発、店舗改装など、多岐に渡る

          なぜ魚屋を継いだのか

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-最終章

          前回の記事では、煮凝りの方向性を決めてから開発に着手する中での障壁などを中心にまとめました。今回の最終章では、販促まわりのことや販売後のことを記事にしています。 販売前の最後の大仕事「販促」 「温度帯」「容器」「味付け」を何とか乗り越え、商品がついに完成しました。それはそれは寒い12月のクリスマス前のことでした。続いて 我々が着手したのが、販促企画です。「商品ネーミング」「パッケージデザイン」「販促ツールの作成」など、商品がより売れるための外回りを整備しなければなりません。

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-最終章

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-②

          前回の記事では、「金曜日の煮凝り」は、原発処理水海洋放出決定をきっかけに構想が始まり、調べてみると可能性を秘めていたので商品開発に動いた、ということを書きました。今回の記事では、約1年かかった開発の具体的な裏側を中心にまとめています。 おのざきの煮凝りの方向性 商品開発の一番最初にやったことは、既に市場に出回っている煮凝り商品を片っ端から購入して食べてみたことです。他社商品をすべて食すことで、これから開発する煮凝りを他社商品とどのように差別化していくかを決めるためです。そ

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-②

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-①

          2022年2月「金曜日の煮凝り」リリース! 構想からおよそ10ヶ月。2022年2月末に新商品「金曜日の煮凝り」の販売を開始することができました。販売開始から1年が経ったわけですが、おかげさまで2000箱以上販売することができました。この記事では、金曜日の煮凝りの構想から販売に至るまでの裏側をまとめたいと思います。 きっかけは「原発処理水海洋放出決定」 東日本大震災の発生からちょうど10年経った節目の年のこと。2021年4月13日、各紙一面で福島第一原発の処理水海洋放出決

          「金曜日の煮凝り」開発秘話-①

          100周年を迎えて

          新年あけましておめでとうございます。 2023年で(株)おのざきは100周年を迎えます。帝国データバンクの調査によると、2023年には全国で約2,000社が創業100周年を迎える見込みだそうです。業歴100年を超える老舗企業は日本全国に約4万社存在し、企業全体の約2.5%とごくわずか。そんな希少な立ち位置に当社が仲間入りできたこと、大変誇らしく思います。改めて、日々業務に尽力していただいている90名強の社員の皆さんに感謝の意を表します。本当にいつもありがとうございます。 9

          100周年を迎えて

          最後の晩餐で食すのはあら汁。

          海の豊かさを次世代に繋ぐべく、魚のアラを活用した出汁開発プロジェクトを立ち上げて約1年。 (https://camp-fire.jp/projects/view/534994) 先日、やっとプロトタイプが完成し、支援者の方々に配布することができました。一旦はフィードバックを集めて、更に改良を加えたのち、2023年中の一般流通を目指します。 大量の魚のアラの行方 われわれ鮮魚店では毎日大量の魚のアラが発生し、それらを捨てています。正確には業者さんに回収してもらっています。そ

          最後の晩餐で食すのはあら汁。

          最終話~魚屋おのざき~

          大正12年。貧しい家庭ながら大家族を養うために、魚を売り始めた1人の女性がいた。女に魚屋ができるわけないと嘲笑されながらも、子供らのために軒先で必死に魚を売った。そのひたむきさが評判を呼び、少しずつ客が集まったそうだ。やがて、彼女1人ではまかなえないほど繁盛し、10人の子のうちの末っ子が店を手伝うようになった。そう、彼が私の祖父であり、おのざき2代目、そして現・会長の小野崎英雄だ。 昔からおのざきで働く従業員は口をそろえて言う。会長の下で働けて幸せでした―僕の自慢の祖父だ。

          最終話~魚屋おのざき~

          第12話~こころざし~

          「おぬし、戦う前から臆病風に吹かれておるのか、その者の首を斬れい!」自軍の数3千騎に対し、攻め入る敵軍は3万騎。勝ち目のない戦を前に将を引き留めた家臣の首が飛ぶ。三国志を読み返しているのだが、こんなシーンが多い。なんて暴君だ、多くの人がこう思うだろうが、こういったリーダーこそ今必要じゃないか。 家臣は100%勝ち目がないという数的根拠を提示して出軍に反対すべきだ。前例がないという理由で将軍を止めてはいけない。もちろん、将軍は自国のリスク許容度を計算していることが前提だが。

          第12話~こころざし~

          第11話~朽ちさせない~

          22時の港。穏やかな波が寝息を立てるように揺れている。すやすや眠る子供たちをベッドに残し、男たちは今日も船に乗り込む。そして朝陽が船を照らす頃、港には網いっぱいの魚たちが水揚げされる。それらは選別され、全国各地の消費地市場に運ばれる。そして船乗りの男たちは子供らの寝顔を見に我が家へと帰っていく。 先ほどの魚たちは、未明のいわき中央卸売市場に到着。静かに眠るいわきの街の中心で、荷受たちがせわしく魚を並べる。そして仲卸や小売のバイヤーに入札され、素早くトラックに積み込まれる。時

          第11話~朽ちさせない~

          第10話~蒼の生きがい~

          初夏の翠雨(すいう)が街を潤す。森の木々や田んぼの幼穂は生命の息吹を誇示するかのように踊っている。ワイパーを最大限に稼働させ、雨の国道289号線をかき分けて「唯芳窯」に着いた。磐城ブルーと呼ばれる美しい青紫色を纏った常磐白水焼の陶器が麗しく並べられていた。 「いわきの粘土にとある条件を掛け合わせると、褐色色の粘土が神秘的な青紫色へと変わるんですよ。」興奮しながら目を輝かせて工房の店主は続ける。「結婚式のお祝い用に購入していただき、大変喜んでもらえたんです。」 これがしたく

          第10話~蒼の生きがい~