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投資が社会を形づくるわけ

今週から「結い 2101」の運用報告会が始まった。昨年度の日本の株式市場は、海外投資家の日本株買いや、東証の上場企業に対する資本効率向上に向けた要請などを受けて大型・割安株が急上昇し、日経平均株価は史上最高値を更新した。その一方で、TOPIXなどの市場指数とそれほど連動しない中小型株が多数を占める「結い 2101」の運用成果は、それに比べると大きく見劣りした。そうした中で、今回の運用報告会で一番伝えたいことは、金利上昇や大型株偏重相場の中で苦しんだ株価調整の時期を脱し、今後の期待が持てるという点だ。受益者の全ての疑問、質問に答え切るので是非多くの方に参加いただきたい。

その一方で、これから先の世界情勢を観るとき、戦争などの地政学的リスクや気候変動リスクの高まり、米国の大統領選挙の動向、中国経済の情勢など、株式市場を取り巻く環境は決して楽観できるものではない。今の株式市場は、このようなリスクを抱えながら、微妙なバランスの上に均衡を保っているようにも映る。何が起きるか予測が難しい状況だからこそ、地に足のついた一貫した投資姿勢が求められる。さらには、投資、広くは資本主義のあり方にも、こうした大きなリスクをいかに軽減させるかという視座が求められているように感じている。

資本主義はどこに向かうのか

2022年、米国の日本銀行にあたる連邦準備制度理事会(FRB)議長を務めたベン・バーナンキ氏ら3人がノーベル経済学賞に選ばれました。同氏の受賞は、1930年代の世界恐慌の研究から、銀行の経営破綻がいかに金融危機を深刻化させるかなどの分析が評価されたものです。

バーナンキ氏は、FRB議長在任中に起きた2008年のリーマンショックの時、この研究をもとに、事実上のゼロ金利政策の導入、米国債や住宅ローン担保証券をFRBが買いとるなど、市場に大量のマネーを供給する量的緩和策を実施することで金融・経済危機を回避しました。僕も、この時は鎌倉投信を立ち上げる直前で、日々報じられる金融市場の動向や金融機関の経営破綻の連鎖が起きるのではないかと固唾をのんで見守ったものです。そうした状況のなかで、世界の金融システムの崩壊を回避した同氏の功績は大きいことは確かでしょう。

しかし、このことは、経済や金融市場の規模が大きくなればなるほど、グローバル経済の相互依存性が高まれば高まるほど、何か大きな出来事に見舞われるたびに金融・財政政策の規模は不可逆的にふくらみます。経済と金融が密接に関わり、双方を拡大させ続けることを前提として成り立つ資本主義のしわ寄せとして、「もし●●ショックが起きたら金融政策が下支えする」といったような金融政策への過度な依存、もしくは、もはやそうせざるを得ない状況に陥っているようにも映るのです。

こうした構造的なジレンマはどのようにすれば転換できるものでしょうか。投資を通じて何かできることはあるのでしょうか。長く投資の世界に身を置きながら明確な答えが見つかりません。

私たちの仕事や暮らしは、いまやグローバルに拡大した経済と金融市場の上で繰り広げられる「自由競争」と「市場取引」の上に成り立っています。市場取引を通じた自由な競争は、理屈でいえば、イノベーションを喚起し、経済の成長力を高め、私たちの暮らしはより便利になり、物質的にも金銭的にも豊かにします。

自由には責任が伴う

気になるのは「自由」とは何かという点です。一人の人間に対しても同じことがいえるのですが、自由には常に責任が伴います。「いかに経済を成長させてお金を増やすか」という自由のなかには、同時に、いかに社会、自然や環境に負荷をかけずに調和させていくかという責任が含まれると考えています。

しかし、その自由が自分の利益だけを求める私利私欲になったとき、リーマンショックを含めたさまざまな問題を引き起こします。本来、金融市場が引き起こす経済的、社会的混乱などないにこしたことはありません。功労者であるバーナンキ氏には申し訳ないのですが、彼がノーベル経済学賞を「受賞する必要のない」世界の方が望ましいのです。

投資家にも求められる規律とモラル

自由な経済活動や自由な金融取引の暴走を「防ぐ」ものがあるとすれば、それは、「市場のルール(規制)」と「モラル」の2つでしょう。社会と経済をつなぐ役割を担う金融や投資家も、単にお金を増やすことだけを考えるのではなく、その一翼を多少でも担わなくてはならないのではないだろうか、と常に感じます。

グローバルな資本主義経済は、どうしても生産、取引、消費を拡大させていこうとするインセンティブが働きます。そうした動きと密接に関係する金融や投資も自ずとその動きに同調します。いままで、地球環境や社会的調和がそれを許容できる時代においては、それも実現可能だったのかもしれません。

しかし、とりわけ地球環境をプラスに回復させるという制約条件下で経済活動を最適化するためには、大量生産―大量消費を前提とした拡大再生産型の経済システムから、適量生産―適量消費を前提とした循環型経済へとシフトしていかなくてはならないのは間違いないでしょう。

その中心となるのが、地球環境や社会を本気でよくしようと努力する会社であり、それを後押しするかどうかは投資家の選択にかかっていると思います。

どういう社会をつくるかは投資家にかかっている

2022年、環境に徹底的に配慮したアウトドア用品の製造・販売などを通じて「故郷である地球を救うためにビジネスを営む」米パタゴニアの創業者イボン・シュイナード氏が、同社の発行済株式のすべてを環境NPOなどに寄付したことがリリースされました。

「地球が僕たちの唯一の株主」と題された同氏のメッセージから、パタゴニアの地球環境を守ることへの想いと決意がひしひしと伝わります。環境にインパクトのある事業を、経済性を確保しながら長年続けてきたこともさることながら、「こうあるべき」という価値観を押し付けることなく、人や会社、社会を動かし、その輪を広げ続けていることに感服します。

僕もパタゴニアユーザーの一人ですが、消費(買い物)は、これからの社会づくりに向けた選択、いわば投票行動の1つだと思っています。投票行動という意味では、自分のお金を増やすための投資も同じです。投資と会社は経済を動かす両輪であり、その経済が社会を形づくるからです。極端にいえば、どういう社会をつくるかは投資家にかかっているといってもいいでしょう。

なぜなら、いくら企業家が「やりたい」といっても、投資家である株主がイエスといわなければ、ものごとは前に進まないからです。逆も真なりです。企業家がやりたくないことを、株主である投資家は要求することもできるため、この関係性は諸刃の剣です。意識している、いないにかかわらず、投資をするということは、単にお金を増やすことに留まらないそうした意味を持つのです。

株式市場で株式に投資したり、投資信託を購入することが、世の中に影響を与えているなんて考える人は少ないでしょう。たしかに、お金そのものに「直接」社会をよくする力はありません。しかし、お金は、その使い方によって社会をよりよくする力を持ちます。一人ひとりのお金の流れが会社を動かし、経済を形成し、ひいては社会を形づくります。個人投資家は微力だと思うかもしれませんが、いい社会、いい未来をつくることとけっして無縁ではないのです。社会と未来をつくる当事者なのです。

株式市場を通じて様々な会社の株式に投資をすることも、これからの社会や未来をつくる会社にお金を託すという意味においては同じことでしょう。そう考えると、投資とは、投資する会社と同じ船に乗り、投資している会社が描く社会や未来を、あなた自身も描いているといえるのではないでしょうか。その未来とは、あなた自身や身近にいる大事な人が共感する世界でしょうか。そこが大事なポイントだと感じています。

今回もnoteにお付き合いいただきありがとうございました!


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