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毎日超短話631「傘」
「相合い傘用」と書かれた置き傘が、下駄箱に置いてある。ふたりがすっぽり傘に入って余るくらいの大きな傘だ。彼女が傘を忘れたので、それで帰ろうかと、ぼくは聞いた。
「傘、持ってるんでしょ?」
「うん、でも、折りたたみだし」
「ちょうどよかった」
何がちょうどいいのかわからなかったけれど、折りたたみ傘を相合い傘にすると、小さいので、ぼくの半分は見事に濡れた。でも、いつもよりずっと近づいている。それが
夫婦でまったり語り合うラジオ、おうちラジオ第4回。今回のテーマはnoteお題企画「なりたい自分」について語っております。エンディングで弾き語り付。※無料版
毎日超短話629「ガクアジサイのイヤリング」
イヤリングが落ちてる。ガクアジサイのイヤリング。そういえば昔、恋人にあげたっけ。と思いながら拾い上げると、ガクアジサイの真ん中に恋人の顔が現れて、「ハロー」と言った。ハローと返すと、恋人はにっこり笑った。
「それ」と、声をかけられたその人の耳の片方には、ガクアジサイのイヤリングが付いている。「ああ、あなたのですか?」とイヤリングを渡すと、その人はそれを耳に付け、「グッバイ」と言った。グッバイ。そ
夫婦でまったり語る、おうちラジオ第3回。今回は、noteのお題企画「#日々の大切な習慣」について語り合っております。※無料版
5月の全短歌⑥《終》夏の手前
51
ソプラノとアルト、テナーとバスたちがケラケラ笑う四重奏の家
52
生きている副賞として差し上げますよく飛ぶ星となぐさめのチョコ
53
ビル街を選んで咲いたたんぽぽの後悔さえもアイデンティティ
54
出席に丸を囲んだカマキリの同窓会はすごくせつない
55
火曜日のサザエさんから告げられるとにかく明るく生きていこうと
56
人間のために生きてるわけじゃない若手の虫が翻す羽根
57
も
毎日超短話628「それでも猫になりたいか」
暗闇で傷を負った猫が、こちらを向いて「それでも猫になりたいか?」と聞いた。さっきまで猫になりたいと思ってたことが伝わったみたい。「傷を舐め合うことならできるよ」そう答えると、猫はゆっくりまばたきをして、暗闇に消えた。
一年前の超短話↓
毎日超短話627「涙腺コルク」
ガラガラと音はしているけれど、玉が出てくる気配はない。あれ〜? 出ないねえ。と福引担当のおじさんも困っている。ガラガラガラ、ポン! ようやっと玉が出てきたと思ったら、小さなコルクのようなものだった。そのコルクはにっこりと笑っている。それを見たとき、その場にいた人々の涙がポロポロこぼれはじめた。どうやら、このコルクが涙腺を締めていたようだ。人々は泣いているが、どことなくみんな、安心している顔だった。
もっとみる毎日超短話626「百葉箱」
保護者会があって出向いた学校に、辻くんがいた。小学校の頃に転校してきて、次の年に転向していった辻くんだ。辻くんは、会が終わると校庭へ向かった。たぶん、あそこだ。わたしは窓から辻くんを見る。いまもまだ百葉箱の前で、親友と出会うのを待っているんだろうな。あのころ行けなかった場所へと、わたしの足は向かっている。
一年前の超短話↓
毎日超短話625「小人祭り」
シャボン玉を膨らませていたら、小人がシャボン玉に乗ってきた。割れたら落ちてしまいそうなので、ゆっくり膨らませていると、いつのまに顔より大きく膨らんだ。その中に小人が入って、ケラケラと笑っている。そのままシャボン玉は離れて、空に舞った。柔らかいところで割れますように。
*
小人祭り2
妻の詩↓
小人祭り3
一年前の超短話↓
毎日超短話624「てふてふ」
授業中、頬杖をつきながら、ぼんやりノートに花の絵を描いている。隣の席の子の手が伸びてきて、その花の上に「てふてふ」と書いた。絵心がないんだよね、と笑う。「てふてふ」を付け足すと、ふたつのてふてふはつがいになって、ノートから飛び出していった。わたしたちが、つがいになるのは、ずっとあとのこと。
一年前の超短話↓
5月の全短歌⑤ファミリーツリー
41
安全なベルトがあるから楽しめるどれほど人生旋回しようと
42
片割れと再会の日が来たときの練習をする余りものたち
43
夜明け前報われなかった歌たちが誰かの星になろうとしている
44
どうしてもそれをしたいという吾子の瞼の水と尊厳を抱く
45
死にかけるところでなにか気がついた空を見て鳴く仰向けの虫
46
止まってるわけではなくて凪いでいる愛する人の庭先の風
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わたくしのすべ
毎日超短話622「7階から神様」
2階から目薬が落ちてきたあと、3階から胃薬が落ちてきた。髪が白く染まったあと、4階からモモンガが飛んできて、見事に着地した。5階から羽根が落ちてきて、羽根は背中に付いて翼になった。それを6階から天使が見て笑って、7階から神様は虹を落とした。その日は、色のなかったぼくが、はじめてカラフルになった日だった。
一年前の超短話↓
夫婦でまったり語る、おうちラジオ第2回。今回は結婚の際に名字を妻の姓にしたことについて語っております。