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263: ほほをなでる太陽色の果実のささやき色

森の奥深く
あなたが知っている
あるいは知らない場所にある色屋の話。

サクっ。
外側の見た目とは違う,鮮やかな黄色が
テーブルの上にさっと光を広げた。

「お久しぶりですね」
「ええ,こうしてお会いするのは久しぶりです。
いつも,あなたが送ってくれるパイナップルは
美味しくいただいています。
仲良くしてくれているケーキ屋さんにも
お裾分けすると,とても喜んでいますよ。
この農園のパイナップルは,
味がギュっと詰まって甘くてとろけるようだって。
スイーツのしがいがあるって。」
「ふふっ。パパからの直伝の農法を守ると
美味しいパインができて,その繊維でおる
ピーニャの布も好評なの」
「でしょうね。私の店の窓辺のカーテン,
アレを欲しがるお客様もいらっしゃいますから」
「まだまだママを超えることはできないけれど」「あら,何言ってるの,
もうとっくに私の上をいく腕前じゃない。
色屋さん,ようこそ。
遠いところをありがとうございまし」
「いえいえ。お祝い事ですから!
何があっても馳せ参じますよ」

いつかのパイナップル畑のおてんば娘は
すっかり綺麗な娘さんに成長し,
かねてからお付き合いしていた青年と
結ばれる事になったので,
色屋は様々なお祝いとお土産を携えて、
南の島までやってきていたのだった。

今日は,午後からわざわざ
青年が挨拶に来てくれるらしい。
おてんば娘がくるくると弾む足取りで
このテーブルと台所を行き来し,
ご馳走の準備を進めている。

時折り母親の耳に,コショッと何かを囁いて,
2人で破顔すしている。幸せな光景。

『数年に一度の割合で
この島には訪れていたけれど,
なんでしょうね…
娘を嫁にやるお父さんの気持ちが
少しわかる気がします。

美しく育った娘を誇らしく思うのと同時に,
寂しくもあり,まだ見ぬ青年に
なんと言い表していいのかわからない
ライバル心がむくむくと湧いてきています。
ダメですね。ライバル視しては。
心から,祝いの気持ちだけを盛り立てなくては。
だって,私の負けは確定なんですから…』

…色屋は,目の前にある輝くパイナップルを見て,
『私の気持ちと彼女たちの気持ちをも詰める
今日のこの色を採取し,
嫁ぐ彼女に送るとしましょう。』
と瓶を取り出し,そっと大事に色を汲み取った。

「行っておいで愛しい子よ。彼と二人三脚で
健やかに過ごしておくれ。
たまには私も思い出しておくれ…」
なんて,少々年寄りじみたことを
心に思いながら…

爽やかな風がさぁっと色屋の頬を
慰めるように撫で,台所とへと抜けて行った。
「いい日になりますね。」という呟きも乗せて。

おめでとう!おてんば娘さん!

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