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アイドルとお金

新番組「アイドルと法律」はじめました!
この記事はvol.2「アイドルとお金」の書き起こしです。番組の内容を文字でまとめています。
有料部分には、収録後の感想や補足情報を【ゆっふぃーからひとこと】、【深井先生からひとこと】として載せていますので、ご興味ある方は併せてお楽しみくださいませ。

Spotifyでの音声配信はこちらからどうぞ。

<参考資料>
日本加除出版「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著 
https://idol-horitsu.com

深井剛志 X アカウント @TSUYOSHIFUKAI
https://x.com/tsuyoshifukai

寺嶋由芙 Xアカウント
@yufu_0708
https://x.com/yufu_0708


寺嶋 ポッドキャストアイドルと法律!
この番組では、ソロアイドル10年目、フリーランスのアイドルとして働く、ゆっふぃーこと寺嶋由芙が、アイドルの労働問題に詳しい弁護士としてご活躍の深井剛志先生から、アイドルが知っておくべき法律を学びます。
日本加除出版株式会社から発売されている「地下アイドルの法律相談」という本の著者でもある深井先生が、働くアイドルゆっふぃーに、アイドルが直面しがちな労働問題をわかりやすくご説明くださいます。

整えよう、あなたの推しの労働環境!

というわけで、皆様よろしくお願いします。古き良き時代から来ました、まじめなアイドル、まじめにアイドル!ゆっふぃーこと寺嶋由芙です。そして、ご一緒してくださるのはこの方!

深井 弁護士の深井剛志といいます。よろしくお願いします。

寺嶋 よろしくお願いします。前回はアイドルと契約について、ほんとに基本から教えていただいておりますが、今日のテーマは「地下アイドルの法律相談」でいうところの第2章「アイドルとお金の話」です。…ちょっと話しづらい。

深井 そうですね。

寺嶋 アイドル本人的にはなんとなく……アイドルに限らずですよね。お金のことってなんで言いづらいんでしょうね。

深井 なんかね、お金儲けじゃないかとかね、金目当てじゃないかとかね。弁護士も言われますよ。お前、その活動は金目当てだろとか。

寺嶋 でも絶対、お金目当てなら、もっと楽な仕事ありますよね。

深井 その活動ってのは、アイドルのね、活動のことももちろんあるんですけど、アイドルの活動に限らずね、なんかちょっと公益活動みたいなことしてると、「それは金目当てだろ」とかね、言われる。やっぱりちょっと日本のね、風土っていうか、文化的な側面で、お金を稼ぎすぎるっていうのが、あんま美徳として思われてない。

寺嶋 ちょっと下品な感じに見えちゃう。

深井 ですかね、やっぱりね。

寺嶋 だからなんとなくこう、主張した側、「お金をちゃんと払ってください」とか、「お金のことをちゃんとしてください」って主張する側がなんとなく悪者になりがちな話題で、むむむって思っているんですけど、私。アイドルの場合は、お金の話をするよりも、「夢を売る仕事なんだから」とか、あと「あなたたちまだ売れてないんだからお金のことなんか言ってる場合じゃないよ」みたいな、「それよりもっと頑張りなさいよ」みたいな話になっちゃいがちで、なんとなく言い出しづらい話題でもある。

深井 そうですね。アイドルの低賃金の話ってのはですね、SNSとかでもたまに話題になることが。そうするとね、やっぱりそういう厳しい状況を耐えられないと売れないとか、成長するためには今の状況を耐えないといけないとか。そういう生存者バイアスがかかった意見とか、結構(ありますよね)。

寺嶋 それは生存者バイアスがかかっているのか!それで生き残った人たちしか今いないから…ってことなんですか?

深井 結構ね。多分、アイドル以外の方々もそういう意見を言うことも多いんですけど。意外と、アイドルの低賃金の話とかすると、成功した芸能人の方とか、ちょっと有名になったアイドルの方とかが、そういうことを言う。うん、そういうのも見たことありますね。やっぱり。

寺嶋 なんか私は、それはあんまり……。まだ成功してないですけど(笑)、やりたくないなってすごく思っちゃう。自分が苦労してきたから、「あの時のことがあったから今がある」ってあんまり思いたくないっていうか。なんて言うんでしょう。精神的には鍛えられたけど、別にしなくてよかった苦労もいっぱいあると思ってるし。正当化しちゃうと、あんまり自分も周りも良くなっていかないから。でも難しいですよね。いつまでも昔のこと恨んでる人みたいになりますよね。

深井 ただ、「しなくていい苦労はしなくていい」ってのはまさにその通りで。全然ね、理不尽な状況ですとか、あとは意味のない苦労したことで精神を鍛えられないんじゃないかなと、僕は思ってますので。活動に見合った賃金をもらうってのは大事なことなんじゃないかなという風に思います。

寺嶋 なので、今日はそんなアイドルとお金の話をしていこうと思うんですが、そもそもアイドルのお給料ってどうやって決まるんでしょうか。

深井 うん、その現役の方にね、僕が説明すると……

寺嶋 ですよね、自分で言えよって話ですよね(笑)。でも、いろんなパターンあるから。

深井 今、(寺嶋さんは)フリーだということだと思いますので。事務所に所属している場合のお給料っていうのは、1番多いのは最近ですと、やっぱりもうチェキの売り上げに応じていくらと。「1枚につきいくら」とか。

寺嶋 「チェキバック」ってやつだ!

深井 そうですね。それだけの事務所が今1番多いんじゃない?

寺嶋 だけですか!?

深井 え、うん、最近そうだと思いますよ。結構な数の相談受けましたけど、「お給料ってどうなってますか」って聞いたら、例えばイベントに出たとか、そういうのの売り上げっていうのは基本的に分配の対象にならない。チェキを売って、その売り上げに応じて半分とか、それだけしかもらえてませんっていう人が多分1番多かったと思う。チェキ以外のグッズの売り上げとか分配されないって言ってましたね。だから、給与明細見せてもらったんですけど、チェキの枚数しか書いてない。

寺嶋 めちゃくちゃわかりやすい明細(笑)。

深井 ですね。「チェキの枚数×多分半分」なんだと思うんですよね。1000円のチェキの半分、「500円×何枚」、しか書いてない明細を何回も見たことありますね。

寺嶋 その内容で契約を合意してるってことなんですか。

深井 確かにそういう風に書いてある場合もありますね。契約書に「チェキの枚数×50パーセント」みたいな。1000円の売り上げの50パーセントと。

寺嶋 そうなってくると、もう自分の努力以外では売り上げが上がらないですよね。

深井 そうなっちゃいますよね。そのイベントにどれだけ呼べるかということが自分の給料に反映される。

寺嶋 もちろんそれも1つ努力することだけど。人がいっぱい来てくれるようにとか、自分を選んで一緒に特典会に参加してくれるようにとか、モチベーションにはなるけど。他にもアイドルっていっぱい活動あるじゃないですか。歌を出したりとか、CD出したりとか。ライブだってギャラがあるライブ、ないライブあるけど、イベンターさんがそのグループを呼ぶためにある程度の出演費を払って呼んでるっていうパターンもあるから。そういうお金はどこに行っちゃったのかな?

深井 うん、そうですね。ほんと謎ですね。

寺嶋 ただわからなくもないのは、例えば衣装を作るとか、 レッスン費とか、スタジオ代とか、レコーディングだってお金かかるし、そういう運営費にそれを回していて、「そっちで使うお金を、そのギャランティとかで賄ってるから、アイドルさんへのバックはチェキだよ」っていうことなのかな。

深井 そういうことなんでしょうね。運営にももちろんその費用がかかるので、衣装代とか交通費とかそういうものにイベントへの出演料は当てて、アイドルさんへのお給料は全部チェキで。という風な、そういう給料形態なんだと思いますよ。

寺嶋 運営さんが何かこう悪意があって、「アイドルにはそのチェキの分しかお金払わないぞ、あとは全部俺がもらっちゃうぞ」みたいなのはめちゃ悪だと思うんですけど、さっき私が言ったみたいな、「実際に経費がすごくかかるからそれしか払えない」、「悪気はないが払えない」っていうパターンもあるじゃないですか。

深井 そうですね、うん。

寺嶋 これってどう思います?

深井 それだと、やっぱり売り上げが上がってきてもチェキだけしか渡せないという契約になっている。ということになっちゃうんで…ちょっとわかりにくい?

寺嶋 いや、わかります。今だったら、「かかってる経費と売り上げがトントンだからしょうがないよね」で納得できるけど、ゆくゆくそのグループが大きくなった時に、同じ契約形態じゃまずいよねってこと。

深井 そうですね。大きくなって売り上げがね。チケット代とか、売り上げが上がってるのに、契約形態が変わらないと…

寺嶋 還元されない。

深井 やっぱりアイドルはチェキ代しか入ってこないから。だから、契約自体がそういう風になってるっていう時点で、「大きくなってもアイドルにお金が入ってこない」っていう点では、僕はちょっと結構問題なんじゃないかなと。

寺嶋 確かに!それって、契約をフェーズごとに変えるとかを考えた方がいいのかな。それとも最初から大きくなった時のことを見越して契約しておいた方がいいんですか?

深井 契約を途中で見直してもらうっていうアイドル、結構いますけどね。最初はチェキ代だけだったんだけど、途中から結構売れるようになってきたら、もう固定で月いくらっていう風にもらえるように変えてもらったとかいうアイドルもいます。そういう風に固定給の形式にしているアイドルも、少なかったけどいましたね。だから、さっき言ったチェキ のバック、これは歩合ですよね。チェキの売り上げに応じた歩合制。それと固定給の場合。大きく分けて2つに分かれるんじゃないかなって思いますね。

寺嶋 固定のお給料っていうのは、会社員の方みたいに毎月同じ額が振り込まれて、そこでなんかこう、保険料天引きとかされてたりするのかな。そういうわけではない?

深井 保険料天引きされてたアイドルはほとんどいないですね。それちょっと後で問題になりますけど、おそらく保険には入ってないから。なぜなら、労働者じゃないからだと思いますね。

寺嶋 労働者じゃない!?働いてるのに(´°ω°` )

深井 そうですね。それはこの前の第1回目の番組でちょっと言いましたけど、業務委託契約という契約形態だという風になっているから、基本的には労働者として扱ってないということになります。

寺嶋 その用語が自分に馴染むまでが難しいですよね。「働いてるのになんで私、労働者じゃないんだろう?」とかって思って混乱してるアイドル多い気がする。

深井 今日のテーマはですね、まさにそこですね。労働者なのかどうなのかというテーマが1番大きな問題になってくるんで、後になりますけども解説していきたいと思います。

寺嶋 でも、チェキバックだけのアイドルばかりではないですよね…?

深井 そうですね。他のイベントに出演していたその出演料だったりとか、あとは物販、それからSHOWROOMとかそういうイベント…配信イベントですかね、そういう売り上げとかをきちんとバックしてくれる事務所もありました。

寺嶋 コロナ禍以降、配信すごく増えたじゃないですか。だから、それ以前に契約してた契約書面と、実際やってることがちょっとずれてくるというか。「初期の頃は、こんなにたくさん配信やるつもりじゃなく契約してたけど、コロナ禍以降活動形態が変わりました」とかっていう場合もあるかなと思うんですけど、そういうのは…?

深井 それは僕の経験だと、確かに「配信は分配の対象にならない」っていうふうに(契約書に)書いていて、「チェキしか分配しないよ」っていうアイドルさんが(いました)。コロナ禍以降、現地でのイベントが全然なくて、配信ばっかやってると。チェキは売れない、配信は分配じゃない、そういうアイドルさんがいましたね。

寺嶋 そうなると、契約を見直さなきゃとか、最初からそういうことも踏まえてちゃんと結んでおけばよかったな、ってなっちゃうのか。

深井 そうですね。さすがにそのアイドルさんは、配信ばっかやっててお給料ゼロなのはおかしいということで、運営にちゃんと言ったんですけどね。

寺嶋 そうですね、ちゃんと相談してみるの大事ですね!じゃあ、いろんなお仕事がほんと細々ある中で、 お給料はどうやって計算したらいいんでしょう?

深井 契約書にきちんと、割合と言いますかね、「売り上げに対してお給料の割合これだけだよ」ということが決まっていれば、それに基づいて計算しますよね。

寺嶋 何パーセント、とか。

深井 そうですね。例えば僕が関わった例で言うと、ライブのチケットの売り上げには何%、物販の売り上げには何パーセント、SHOWROOM配信には何パーセントっていう風に、全部ちゃんと契約書に書いてくれている。これ結構良心的な事務所ですけど、そういう事務所の場合は、それに当てはめて計算すればいいということになります。

寺嶋 ただ、あるあるだとは思うんですが、そんな明記されているパーセンテージがあるのに、 「あれ、それ通りになってないかも?」とか、そもそも明細がないからわからないとか、そういう場合はどうしたらいいですか?

深井 ま、やっぱりあの、売り上げをですね、きちんとアイドルに教えてくれるのってあんまりないですよね。「あなたの物販の売り上げこれだけですよ、だからこれだけ払いますね」っていうことを ちゃんと教えてくれることなんてほとんどないし、明細にも書いてない、もう結論しか書いてないか場合も結構あって。そういう時は、自分の給料が正しい金額なのかわかりづらいということになるので、その明細の中に、その計算根拠とかはやっぱ書いてもらう。そういう風にするべきなんだろうなとは思います。ただ、やっぱりね、どんなことでも事務所に要求するってのは結構ハードルが高いこと。

寺嶋 そうですよね。どうしてそうなんだろうな。私もわかるな。どんなに良くしてくれてるスタッフさんにでも、なんかちょっと契約のことって、「言うとめんどくさいかな」もか、「文句言ってるって思われちゃうかな」みたいな、なんかハードルがあります。

深井 そうですね。普通の会社だったらね、そんなこと言わないでもやってくれるっていうところあるのかもしれないんですけど、 やっぱりアイドルの事務所さんって非常に、人数が少ない中でカツカツでやってる場合も多いので、なかなか言いづらいと。

寺嶋 そうなんですよね。「忙しそうだな」とか思うし、事務所の規模とかにもよるんでしょうけど、マネージャー兼 プロデューサー兼経理兼なんちゃら兼かんちゃら兼……って、もう1人で全部やってる運営さんとかいるじゃないですか。それでわけわかんなくなっちゃってるっていうパターンもきっとあるし。
あとは、おっきな事務所だと、経理担当の人とアイドルが直接話す機会がないとか。いろんな壁があるのも、なんとかならないかなと思ってます。

深井 そういう時って、マネージャーさんは間に入ってくれない?

寺嶋 入ってくれても、マネージャーさんがあんまり事情がわからない。なぜならマネージャーさんは労働者契約だから…みたいなこともあるのかも。

深井 マネージャーさんは会社の社員の社員だから、業務委託のアイドルの悩みとかがよくわからないと。あー、なるほど。

寺嶋 そうなんですよね。アイドル運営の人たち、すごく愛情があったり、やる気があっても、法律や経理のプロではない人は多いので、「なんかよくわかんないよね」みたいな感じで、みんな進んじゃうっていうのは、 割と恐ろしいことかもしれない。

深井 経理の人がね、ちゃんといる会社ならいいですけど。いや、ほんとにもう、社長が1人でやってるっていうようなアイドル運営の事務所もありますんで。そういうとこはほんとに大変だなとは思いますけど。

寺嶋 そうですよね。でも、だからってあんまり気を遣いすぎずにちゃんと言っていった方がいいですよね。って思うのと、なんか私は、アイドル側からこれ言うのはすごくハードル高いけど、「アイドルがちゃんとそうやって働きかけて、会社の経理がちゃんとすれば、会社のためにも結局なるんじゃない?」って思ってるんですけど、それはおこがましいですか……?

深井 今の寺嶋さんのその問題意識と合致した答えなのかはわかんないですけど、僕はちゃんとその経理周りですとか、その、 そういうお金関係をきちんとすることで、アイドルが会社に定着しやすくなるっていうか、お金のことで揉めて脱退しないとか、働きにくい環境だなって思って移籍しないとか、そういう風に定着しやすくなる(と思う)。

寺嶋 そうですよね。

深井 そうすることでね、新たにまたアイドルを探すコストもないし、労力もかからないし、長い目で見ればその事務所のためになるんじゃないかなって僕は思ってます。

寺嶋 だし、「あの事務所はいい事務所だ」っていうことがだんだん伝わってくれば、有望な新人がオーディション受けに来てくれるかもしれないし、あとスタッフさんとかも、いい会社だったらいい人が残ってくれるかもしれないし。

深井 うん、そういうね、本来、人を大事にして長く働いてもらって、採用にかかるコストとかそういうものを削減して、本来の仕事に注力すると、いうのが本来あるべき会社の姿かなと思います。

寺嶋 でも、なかなかその余裕がない会社さんというか運営さんが多いのも目にはするから、難しいな。でも良くなっていってほしいな。
で、お給料のことで言うと、またこれもちょっと悪いあるあるですけど、「売れてないから払わない、あなたの売り上げが立ってないから払えるものはありません」って言われた場合、「そうですよね…」っていうしかないんですか?アイドルは。

深井 さっきの例だと、物販の何パーセントとか、チケットの何パーセントとか、チェキの何パーセントとか、そういう風に定めているんであれば、当然売り上げが上がんなければ、「その母数がないのでお給料も0ですよ」という風になるのは当然かなと思っちゃうのは仕方ないと思うんですけども。じゃあ果たしてそれでいいんですか?っていう問題意識ですよね。

寺嶋 でも、「果たしてそれでいいんですか」って思っても、先立つものがないと……。「何にもプラスにできなかったけど、頑張ったんでお金払ってください」って言ってもいいのかな?って思っちゃいます。

深井 会社にお金が必要もないっていう状況で「払ってください」っていうことは、法的に請求できるにしてもあまり意味がないことなんですけれども。
本来、アイドルであろうと、会社員であろうと、働いたらその分しっかり払ってもらわなきゃいけないと、そういう風に考える価値観っていうのは、それはあると思うんですよね。でも一方で、「契約なんだからしょうがないじゃない」…

寺嶋 しかも労働者じゃないし、私(´°ω°` )

深井 っていうね。そういう風な考えももちろんあるし、そういう意見があることもわかってるんですけれども、じゃ、その辺りですね、一体どういう風に解決するべきか、もしくは法律上どう解決されるのかといういう話に入っていければなと思うんですけれども。こっからちょっとなかなか難しい法律に関する話になります。
さっきからね、寺嶋さんの方も「労働者」とか、「労働契約じゃないし」とかっていう言葉を発してますけれども、それがこの問題解決するいい視点になってると思います。1回目の番組で、アイドルと事務所との間の契約は「業務委託契約」だと言いましたよね。で、例として、テープの書き起こしの例などをしました。
事務所がアイドルに仕事を頼む。で、アイドルはそれに応じて(仕事を)行う。アイドルは事務所にマネジメントの仕事を頼む、という。それは業務を委託している関係で、労働契約ではないというのが建前。契約書も「労働契約書」っていう名前じゃなくて、「マネジメント契約書とか」そういう名前になってるので、にこれ労働契約じゃないですよと」いう建て前です。で、労働契約じゃないということになると、さっき言った保険の話とか、労働法とかね、守らなければいけないことを守らなくていいと、そういうことになっちゃうんです。

寺嶋 健康診断とかもないですよ。

深井 労働法上、守らなければいけない義務、会社の義務。どういうの思い浮かびますか。

寺嶋 社員にちゃんとお金を払う。健康を守る。楽しく働く…なんかこう、精神的パワハラとかダメ!パワハラとかあったら、会社のなんちゃら相談室にちゃんと相談できるようにするとか、 そういう整えですかね。

深井 はい。労働法を勉強すると、1番最初に学ぶべき法律が労働基準法です。その労働基準法っていう法律は、会社が守らなければならない労働条件の最低基準が定められた法律。例えば「1年365日休まず働け」。

寺嶋 それはダメです。

深井 ダメですね。休日はどのくらい与えなければならないか知ってますか。

寺嶋 100日ぐらい……?

深井 100日ぐらい?正確に言うと週1回。

寺嶋 週1回でいいんですか!

深井 法律上はね。

寺嶋 そうなんだ。結構ハードですね。

深井 週1回は結構ハードですよ。でも逆に言うと、週1回は必ず休日を与えなければならない。じゃあ、1日に働かせていい時間を知ってますか?

寺嶋 9時-17時。

深井 9時-17時。それ何時間?

寺嶋 8時間ぐらい?

深井 そうですね、8時間が法律上の上限ですね。それ以上働かせると残業代を払わなければいけないっていうのが、労働基準法に書いてあるってことですね。

寺嶋 残業も上限ありますか?

深井 残業の上限はあります。月45時間。

寺嶋 そういう風なことが書いてあるのが労働基準法なんですね。

深井 ただし、この労働基準法という法律は、会社と労働者との間にしか適用されない。そういう法律なんです。でも、さっき言ったように、アイドルと事務所の関係は…?

寺嶋 労働関係ではない。

深井 業務委託契約だということになってるので、ストレートにこの労働基準法というものが適用されないんですね。なので、アイドルは、じゃあ7日間ぶっ続けてやるイベントありますってなったら

寺嶋 やってますよ!全然やってます。

深井 休日ないじゃない。

寺嶋 休日ない!

深井 それでもいいってことになっちゃうわけです。

寺嶋 でも別に、楽しいからいいやって思ってますけど……。

深井 じゃあ、その労働基準法に定められている基準っていうのは、「働いてる方が楽しければいいじゃない」って、破っていいものなんですか?ってこと。「そこは本人たちの同意があるんだからいいじゃないか」って、そう思いますか?

寺嶋 …ダメっぽいぞ。

深井 そこはやっぱり、「本人たちがいいと思ってるから週7で働かせてもいいじゃないか」とか、「1日15時間働かせてもいいじゃないか」とか、そういうのはやっぱりダメなんです。労働者の健康を害するし、そういう会社がたくさんできてしまうと社会が発展しないとか、そういう目的で作られている法律ですから、労働者がいいって言ってもダメだ、ということになる。
さて、その中で、今日はお金の話なので。はい。お金の話に引き付けてちょっと話すんですけど。こういう例はどう?
もうすごい有名な料理人がいて、もうぜひこの人の下で料理の修行したいと。でも弟子は取らないよと言われた。でももう、時給100円でいいから雇ってくださいと。

寺嶋 あるあるだ、それ。

深井 200円でいいから雇ってください、むしろ給料なんていらないから働かせてください、ご飯だけ食べられるぐらいいいです、とか。どう思いますか?

寺嶋 美談になりそうだなって思います(笑)。「『そうやって、お金ももらわず住み込みで働いたことが今の自分に繋がってます…』って、後でその人語りそう〜」って思うけど、でも「それを業界の慣習にしないで」って思う。

深井 今ね、「業界の慣習にしないで」って言ったのが、まさにね、そういう風にしてしまうと、社会にとって悪影響なんじゃない?というところに繋がってくる。
「本人がいいって言ってんだからいいじゃないか、100円でも200円でもいいって言ってんだからいいじゃないか」という風に思うかもしれませんけど、それがはびこっちゃうと、労働者の労働条件がすごく悪くなっちゃう。というところからすると、「100円でいいよ」っていう合意は、労働基準法に反して無効であるという風になってしまう。
だから、労働基準法に定められた最低基準のお給料は払わなければいけません。

寺嶋 それが最低賃金ですか?

深井 ということですね。 最低賃金は都道府県によって異なりますけれども、東京だと今1100円ぐらいになってるのかな、それぐらいは最低払わないといけないと。1時間あたり1100円ぐらいは 払わなければいけないということになっているので、さっきの料理人の例で言うと、時給100円っていうのはそれに反するので無効ですよということになっちゃう。
そうするとですね、アイドルに戻ると、「すごく働きました、毎日ライブです、休日もイベントです」と。うん。そういうアイドルが働いた時間…ちゃんと計算すれば出てくると思うんですけど。にもかかわらず、「売れてないからお給料ゼロです」というのは、その最低賃金法には反しますよ。

寺嶋 でも労働者じゃないけど……?

深井 ということが問題になります。 さっき僕は、この労働基準法っていう法律は、労働者にしか適用されないっていう風に言いました。ということになると、その最低賃金はアイドルには適用されないんじゃない?

寺嶋 0円だ(´°ω°` )
 
深井 だとすると、0円

寺嶋 悲しい……。

深井 ていうことになっちゃうんですけど、じゃあ果たしてそれでいいんですか?っていうのが今回の問題ですね。

寺嶋 そうですよね。それでよくはないけど……よくはないけど、でも、「結果を出してない」っていうと、ひどいか。でも、なんていうんだろうな、「働いたけど会社の利益になってません、でも最低賃金ください」って言っちゃうと、なんかもう、なんでもありになっちゃいません?

深井 ただ、やっぱり、どんな方であっても、生活のために必要なお金は決まってるものであって。で、そのために最低賃金ってのが決まってるわけですから、「アイドルだからそれ払わなくていいんじゃないか」と、そういうことはちょっと僕個人としてはなかなか言えなんじゃないかなと思って。

寺嶋 もちろん心情面ではそうだなと思うけど。

深井 さて、じゃあ法律上はですね、どうなってるのかっていう話になりますけれども、これはですね、もう結構有名な裁判とか、法律の教科書にも書いてあることなんですけど。労働契約かどうかっていうことは契約書のタイトルで決めるわけではない、ということです。なので、「マネジメント契約」とか、「業務委託契約」って書いてあったとしても、内容が労働契約とほとんど変わらないんであれば、それは労働契約になります。だから、契約書のタイトルだけで決めるわけじゃないってこと。中身が大事ということになります。

寺嶋 実際、どんなことが書いてあったら、労働契約とみなしてもらえるとかありますか?

深井 1番大きいのは、頼まれた仕事を断ることができること。「これをやって」と言われた業務を「それはできません、それはやりません」という自由があるか。仕事断る自由がある、それが1番大事です。

寺嶋 って思うと、アイドルはあんまりないかも。そりゃ絶対やりたくない仕事とかは断るだろうけど、例えば「ライブ出てください」って言われた時に、「明日のライブは出るけど、明後日のは出たくないですね」とかはない。

深井 基本ないですよね。

寺嶋 それはちょっとなんか、言っちゃいけないことな気がする。

深井 そうですね。やっぱりそういうことが1番大きくて、他にはですね、副業をしてよいかどうかとか、あとは著作権とかパブリシティ権といった、知的財産権がアイドル側にあるのか、それとも事務所側にあるのかによって決まります。基本的に、個人事業主だったら自分に権利があると思うと思うんですけど、労働者だと会社に権利があるということになるので、それは契約書に、どっちに権利があるってことになってるかって決まったりします。

寺嶋 ってなると、(アイドルは)結構、「パブリシティ権的なものは会社に属します」が多い気がするから……

深井 そうですね、アイドルの契約書には「そういった知的財産権的なものはほとんど会社に属します」って書いてあることが多いので、どっちかって言うとやっぱり労働者。ということからすると、先ほど有名な裁判例があるって言いましたけれども、アイドルが労働者であるかどうかということが問題になった裁判では、大体アイドルは労働者で。

寺嶋 そうなんだ!

深井 なので、その裁判例でも、契約書に「給料なし」って書いてあったんです。そのアイドル、給料全然もらってなかったんで。アイドルは労働者であるという判決が出て、最低賃金違反であると。
で、最低賃金は少なくとも払いなさいよっていう命令が出たと。そういう裁判例があります。

寺嶋 そうなんだ。なんか心強いですね。それ聞くと。

深井 そうですね。だからそれに基づいてアイドルの未払い報酬、未払い賃金の請求をしたこと、私もあります。

寺嶋 なるほど。でも私、今フリーランスだから、私は完全に、労働者じゃないですよね。

深井 フリーランスってことになると、労働者ってのはもう…

寺嶋 そうですよね。テイチクエンタテインメントさんと業務委託はしてるけど、それは「音楽に関するお仕事をこんな感じで委託しますよ、お互い何パーセントですよ」っていう明記されたものに基づいてやってるから、それは間違いなくきっと業務委託ですよね。

深井 その部分だけってことで契約してるんであれば、業務委託です。

寺嶋 これが「マネージメントもよろしくまるっと頼みます」だと、労働者に近くなる?

深井 可能性がありますね。だから、中身がどうなのかによりますけど、「マネジメント契約だったら絶対労働者」って言うつもりはなくて。その契約の中でどういう風に決められているか。1番大きいのは、業務命令に従わなきゃいけないかどうか。

寺嶋 もし悩まれているアイドルの方がいらしたら、ご自身の契約書を見直して、実質どっちなのかっていうのを一旦確認するのは大事かもですね。

深井 うん、やっぱりね、ライブとか、出演とかを断る権利って普通ないと思う。

寺嶋 そうですね。

深井 そうすると、基本的にやっぱり労働者であることが多いんじゃないかなって思いますけど。

寺嶋 いや、なんか思ってた方向と違うふうに転がるから面白い!(私は)もう、「アイドルは労働者じゃないからしょうがない」って思ってたけど、そうじゃない可能性もあるってことですよね。

深井 そうですね。

寺嶋 ちなみに、そういうアイドルみたいなちょっと特殊なお仕事で、実質労働者みたいな感じなのに 業務委託とみなされて大変な思いをされている業種ってあったりするんですか?アイドルだけですか?

深井 そうですね。今結構流行りのですね、そのテーマとしては、ウーバーイーツの方とか。ああいう、なんていうんですかね、デリバリーする人。あれは「ウーバーと業務委託の契約をしてるだけなんだ」っていう風なことを言ってますけれども、でもね、頼まれた仕事をやんなきゃいけないし……みたいな感じで、労働者なんじゃないかというようなことが結構問題になった。あとはアニメーターさんとか、エンジニアさんとか、あとは俳優さんとか。

寺嶋 そっか芸能関係。

深井 あとは、芸能界に従事している方で、例えば音楽家の方とか声優さんとか、そういう方の労働者性なんてのも結構問題に。

寺嶋 アイドルだけじゃないんだな。

深井 そうですね。この「労働者かどうか」っていう問題は、労働法の分野では結構ホットな話題。

寺嶋 アイドルの世界だけ見てると、まだこういう問題に詳しい人ってそんなにいないし、こういうことを問題だと思ってる人もまだたくさんはいなかったりするじゃないですか。でも、ちょっと視点を広げたら、他の業種で同じ問題に直面してる人がいたりする。っていうことに気がつけると、ちょっと心強さとか、なんて言うんでしょう、道が開ける感じがあるかも。

深井 そうですね。ウーバーなんかね、今使ってる方も多いんで、この人たちが労働者なのかどうかなっていうことは結構な関心事になってると思う。

寺嶋 アイドルのことだけ考えてちゃダメですね。きっと。

深井 そうですね。もちろん僕は労働問題が専門なので、アイドル以外の労働問題はもちろんやるんですけど、そういったところでこういう問題を日々扱ってやってます。

寺嶋 そんな深井先生に相談をしたい場合は、どうしたらいいんでしたっけ。

深井 はい、僕のTwitterですね。今、Xですか。Xの方のアカウントはDMを開放しておりますので、僕の名前で検索してもらってDMを送ってもらえれば、答えられるものであれば、答えたいという風に思っています。

寺嶋 そして、もしこの番組で取り上げてもらいたい匿名のご相談などありましたら、そちらも深井先生にDMをして大丈夫です。もしもゆっふぃーと話をしたいという場合は…アイドルさんで、いきなり弁護士さんはちょっと恥ずかしいので、まずはゆっふぃーからという方は、infoにメールアドレスが載っているので、そちらからご連絡いただいても大丈夫です。

また、今回お話した内容は寺嶋由芙のnoteで公開予定ですので、そちらにコメントをいただくのも大丈夫です。この番組のご感想は「#アイドルと法律」でぜひポストしてください。お願いします。
というわけで、今日はお金の話、そして「アイドルは労働者なのか問題」の話を伺いました。
今まで自分が思ってたことよりも、1個広い目で見ようっていう気持ちになりました。

深井 そうですね。やっぱり ちょっとね、法律を勉強した人であれば、法律は守んなきゃいけないとか、契約は守んなきゃいけない、「契約で業務委託なんだから労働者じゃないよ」って思うかもしんないんですけど、さらにね、進んだ考えを知ると、自分の直面してる問題も解決できるかもしれませんので、諦めずに相談してもらえればなと思います。

寺嶋 そうですね。私、ちょっとかじって、「もう自分はここまでしか守ってもらえないんだ」とか、「ここまでしか言っちゃいけないんだ」って思っちゃってたけど、そうじゃない場合があるので、やっぱり専門家に話すっていうことが大事ですね。

深井 そうですね。

寺嶋 非常に今日は勉強になりました。ありがとうございました。
podcast「アイドルと法律」、今回は、「アイドルとお金のお話」でした。

…今回、「アイドルは仕事を断れない。だから労働者なんだ」って話がありましたけど、「ほんとに断れないの?あれ。やりたくないんだけど」みたいなことがあったらどうしたらいいのかっていうのを次回でお話しします。次回は「アイドルと仕事の話」です。ぜひお楽しみに。
ここまでのお相手は、ゆっふぃーこと寺嶋由芙と

深井 弁護士の深井でした。

深井・寺嶋 ありがとうございました〜




↓以下、有料部分では、深井先生が語る労働基準法成立までの歴史的背景や社会的意義と、間違ったアイドル運営論を内在化していないか悩むゆっふぃーの感想がお読みいただけます。(2403字)

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