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アイドルと損害賠償


<参考資料>
日本加除出版「地下アイドルの法律相談」
深井剛志・姫乃たま・西島大介/著 
https://idol-horitsu.com

深井剛志 X アカウント @TSUYOSHIFUKAI
https://x.com/tsuyoshifukai

寺嶋由芙 Xアカウント
@yufu_0708
https://twitter.com/yufu_0708






寺嶋
 podcast「アイドルと法律」!この番組では、ソロアイドル10年目、フリーランスのソロアイドルとして働く、ゆっふぃーこと寺嶋由芙が、アイドルの労働問題に詳しい弁護士としてご活躍の深井剛志先生から、アイドルが知っておくべき法律を学びます。

日本加除出版株式会社から発売されている「地下アイドルの法律相談」著者でもある深井先生が、働くアイドルゆっふぃーに、アイドルが直面しがちな労働問題を分かりやすく説明してくれます。

整えよう!あなたの推しの労働環境!

というわけで皆様こんにちは。古き良き時代から来ましたまじめなアイドル、まじめにアイドル!ゆっふぃーこと寺嶋由芙と、

深井 弁護士の深井剛志です。

寺嶋 よろしくお願いします。前回は皆さんからいただいたSNSへのコメントやご質問に答えたわけなんですけれども、今回もですね、またちょっとコメント拾っていきましょうか。どんなの来てますかね。うーんと、たとえば…あ、ありがとうございます、【たくみ】さん。「アイドル法律。自分の推しが恋愛したとして、それで嫌いになるとか全く考えられないです。ステージ上のパフォーマンスとその人のプライベートは別物だと思います。ライブを楽しんで、チェキを撮って、それだけなので、恋愛禁止はどう考えても人権侵害だと思います」と 書いてくださってますけど。

深井 うん、そうですね。その感覚がスタンダードになれば、もうちょっとアイドルも自由に恋愛できるのかなという風には思いますけど。どうなんですかね、この考え。スタンダードと言えるのかどうか。

寺嶋 まだスタンダードじゃないのかな。でも、前回の話をして、その後、自分でも書き起こしを読んだりとかしながら…noteの有料部分にもちょっと書いたんですけど、「これで悩んでるのがやっぱちょっと変かな」っていうのはすごく感じている。アイドルっていうお仕事が、「今はやっぱり恋愛禁止にしといた方が人気が出やすいからしょうがないよね」みたいなことになっちゃうのが、やっぱ違うのかな。それが人気が出やすいという環境が、もうちょっと変なのかな。

深井 うん。そういうなんかシステムというか、そういう仕組み自体がおかしいんじゃないかと。そういうことですかね。

寺嶋 ただ、それって仕組みっていうか、もうちょっとアイドル以外のことにも目を向けて考えていかなきゃいけないこと?恋愛とかをしないアイドルの方が評価されるっていうのって…なんて言うのかな…

深井 それは、あれですか、アイドルに、言ってみれば処女性を求めるとか、そういうことがちょっとおかしいんじゃないかと、そういう問題意識ですかね。

寺嶋 そう、アイドルにっていうか、他人に。他人にそれを求めて…理想を求めてしまうのって、ちょっと危ういなあっていうか。

深井 そうですね、僕、野球好きなんで、この間ね、大谷翔平問題というのがいろいろあるんですけれども、結婚したじゃないですか。

寺嶋 うんうん。

深井 で、「あの結婚相手だったらいいよ」とかっていうようなこと言ってる人がいたんですけど、それって同じぐらい、「こいつだったら嫌だ」っていうのと同じぐらい気持ち悪いな、と思って。それに近いですかね。他人の結婚相手とかにとやかく言うなよとか。

寺嶋 うん。

深井 近い感覚なのかちょっとわかんないですけど、

寺嶋 それもあるかもしれない。芸能人だからとか、有名人だからそういうジャッジをしてもいいんだって、有名税だみたいな考え方もあるかもしれないけど、うん、なんかちょっと、そういうのはもう違うかなって思っているんです。ので、前回(収録時:「アイドルと禁止事項」)の話をした時に、自分が結構こう、煮え切らない感じでしゃべっちゃった、「でも、とはいえアイドルだしな~」とか言ってたことが、もう違うのかな、みたいなことをすごく考えました、聞き直して。ありがとうございます。では続いて【#猫とタイカレー】さんですね。いつもありがとうございます。

深井 はい、ありがとうございます。

寺嶋 「嘘みたいな契約者の数々に何度も声が出ちゃいました。番組内で何度もアイドルは労働者という認識の例が出てますが、そもそも業務委託契約を結んでいること自体がおかしいということになるんでしょうか。それも一長一短ある?」と。

深井 なるほど。労働契約であるってことにしてしまうとやっぱ労働者って時間の縛りとか、業務命令の縛りとか、そういうものが生じてしまうので、労働契約だっていうことも明記しちゃうと、基本的には事務所の指揮命令には従わなきゃいけないとか、限られた時間、この時間はしっかり働いてくださいっていうのを命じられたら断れないとか。あとは、知的財産の問題ですね。作詞…作詞とかするのかな、アイドルさんって。作詞したものとか、なにか知的財産権が発生するような、著作権とかそういうものが発生するような場合に、労働契約だと、そういう権利って、事務所に所属するという考え方が強いので、書いた作詞の著作権は事務所に帰属するとか、そういう風になりがちですよね。

寺嶋 そっか。そこだけ、出版元とアイドルが作詞についての契約を結ぶとかっていうのは、あんまり認めてもらえないのかな?労働契約になっちゃうと。

深井 いや、そもそもね、アイドルで労働契約にしてる例を僕は見たことないので、「業務委託契約になってるけど、労働契約だ」っていう戦い方をするんですけれども。なので、そこが労働契約だったらどうなってるかってのは、あんまりわからないんですけど。普通の会社でも、知的財産権が発生するような会社ってあるんですよ。

寺嶋 いや、今それ聞きたかったです。会社に所属してる時に、なにか新しい発明とか発見とかしたときって、会社のものになっちゃうのかな。

深井 基本的に、特許権は会社のもの。

寺嶋 そうなんだ(゚ω゚)‼︎

深井 うん。基本はね。で、その職務発明とか特許で、会社に利益を上げさせたという場合は、その対価を請求することができるっていう条文が、著作権法にあります。

寺嶋 思いがけず社員が大発見、大功績を残した時はボーナスが出るってこと!?

深井 ボーナスというか、計算する式があるんですけど。僕ちょっと著作権にあんま詳しくないんでわかんないんですけど、きちんと著作権の価値っていうものを算定して、向こう何年分っていう風な価値で、その価格をね、金額を計算して請求するということが裁判実務上あるみたいです。

寺嶋 そうなんだ!じゃ、「これだけの金額を払うことによって、あなたの功績を認めましたので、基本的には会社がこの発明は管理させてくださいね」っていう取引みたいなかたちに…?

深井 そうですね、そういう請求したことはありますけど、その時は著作権、僕全然詳しくないんで、著作権に詳しい先生に入ってもらって一緒にやりましたけど、労働契約だとそういう処理になりますよね。だからそれ、逆に言うと、その著作権は自分が取得するってことはできないってことになります。労働契約だとね。

寺嶋 そうすると、それはそれで対等じゃないですね。アイドルって結構、本人じゃないとできないことが仕事になっていがちだから。全部が全部会社のものですってされちゃうと、自分が今まで…それはアイドル関係ない部分も含めて、今までの人生で培ってきたものをステージ上で出してるとか作品に出してるって思った時に、「それ全部会社のものですよ」って言われちゃうと、ちょっと、「ん?」ってなる気持ちはわかる。

深井 そうですね。だから、「一長一短ある?」という聞き方なんで、まさにその通りだと思いますよ。全員が全員、労働者になりたいって、アイドルが思うかっていったら、それも違うんじゃないかなって思いますけどね。

寺嶋 そうですね。

深井 だけど、働き方とか見ると、もうこれどう考えても労働者だなって僕が判断した時には、それは労働者だって主張はしますけど。

寺嶋 なるほど。難しいな。どっちにも良さがある。労働者として権利をいろいろちゃんと主張できたり、守ってもらえるありがたさはあるけど、それだと逆に守られなくなっちゃう権利もあるってことですよね。

深井 そうですね。独立性とかね。あとは裁量性。働く時間の裁量とか、そういうのって、基本的には労働者よりも業務委託とか個人事業主の方があると言われてるので、労働者になっちゃうと、やっぱそこは会社の命令に従わなきゃいけないということで、拘束性が強くなりますよね。うん。そういう一長一短があるかなと思います。

寺嶋 なるほど。ありがとうございます。では続いて【#あすぱら。】さん。「アイドルと契約期間の話。契約書は大抵が運営側が作るものだから、不誠実なとこだと好きなように作って押し付けるのがまかり通るのは怖いところですね。先日、ちびっこいアイドルちゃんたちを何人も見て、ゆっふぃーがきちんと道を作ろうとしている気持ちがよくわかった」と書いてくださってますけど。

深井 そうですね。契約書をアイドル側が作るなんてことはほぼ、ほぼっていうかゼロだと思うので、基本は事務所が用意した契約書にアイドルがサインするということだと思うんですけど。その時に、変更してくれるとか、内容を変えてくれるとかはないですね、基本ね。だから、「押し付ける」って言い方がちょっとどうかなとは思いますけど、基本的には、事務所の意向が盛り込まれた契約書が採用されると。

寺嶋 そうですよね。「これに納得するんだったら、うちに所属していいよ」っていうスタンスが多いですよね。

深井 そうですね。

寺嶋 これがもし、元々人気がある子とか、大物のアイドル、スターだったら譲歩してもらえる条件があるのかもしれないけど、「これからやります」っていう新人さんだと、そうはいかないですよね。

深井 実績があれば交渉力はあるかもしれないですけど、そうでなければやっぱり、事務所の示した契約書でやるしかないということかなと思いますけど。

寺嶋 そしてこの【#あすぱら。】さんは、「それはそうと、理不尽な契約書に驚くゆっふぃーや憤り怒るゆっふぃーがとても可愛かった」と書いてくれてます。ありがとうございます。怒ってましたね。

深井 まあね、2回ほど怒ってるシーンがありました。

寺嶋 私は今まで自分がアイドルやってきて、困ったなって思った時って、ひどい契約書があって困ったっていうよりは、契約書にはちゃんと書いてあるのに、それが行われてなくて困ったっていう経験が多かったから、「最初からこんなひどいこと書くなんて!?」っていうので結構びっくりしました。

深井 そうですね。アイドルの契約書も何十通も見てますけれども、その中でも特に多い、不利益な情報を紹介したつもりです。

寺嶋 それがオッケーだと思って出してきちゃうことがすごく怖いというか、なんで???っていう気持ちで聞いてました。前回は。

深井 この放送だと第1回になるのかな。「契約は守られなければならない」という法格言、法の命題があって、それに加えて「契約自由の原則」っていう法律の原則もあるんですよ。そうすると、「契約の中身をどう決めようと、当事者の自由。決めた契約は守られなければならないということからすると、自由に定められるんでしょう」と。で、「それで合意したんだから、それは守ってくださいよ」っていう考えが多分あるんでしょうね。だから、「契約なんだから守れ」っていう感覚だけしかないのかなとか。

寺嶋 その契約が妥当かどうかも見なきゃいけないんだよっていうことは知らないのか。

深井 そうですね、だから、少し法律勉強した人だったら、「口約束でも契約は成立するんだ」とか、「守らなければならないんだ」ってことはご存知なのかもしれないんですけれども、そっから1歩進んで、「たとえ合意したとしても、守らなくてもよい、もしくは拘束されない条項はあるんだ」というとこまで知ってる人って、そんなにいないと思う。

寺嶋 そうですね。私も知らないこといっぱいありました。ハンコ押したらおしまいだって思ってる子、いっぱいいると思います。

深井 ですよね。だから、そうじゃないんだよってのは、もう、ここはもうプロの役割ですよね。教えていくの。

寺嶋 心強い。では、続いて【んたけ】さんですね。「第5回配信で、労働者は会社を辞める自由がある。アイドルも契約期間内に辞められますよと。アイドルも職業なので、当たり前の話なのかな。自分に置き換えると、自由に辞めたいですよね。昨日採用して2週間で辞められてしまい、欠員補充で頭を抱えている私にはタイムリーな話題でした。」と。大変だ!

深井 そうですね。自分に置き換えると、辞めたいと。でも、雇う側になったら、辞められてしまうと大変だと。僕も一応個人事業主なので、事務員さんを雇っている立場である一方、労働者の味方だって言ってやってる立場でもあるので、結構このジレンマはよくわかりますね。ただ、採用して2週間で辞めるってのは、それがまず法的に正しい辞め方なのか、ちょっと疑問ですね。労働者には辞める自由があるって言いましたけど、期間を空けなきゃいけないって、前回言ったじゃないですか。

寺嶋 辞めるって言ってから2週間で辞められる?2週間経つとやめるの効力が発生する!

深井 そうですね。だから辞める日、要は退職日の2週間前までに言わないといけないと。そうするとね、これ、採用して2週間でやめたってことは、採用してもうすぐにやめたって言ってないとおかしいんですよ。

寺嶋 初日とかに「やっぱ辞めます」って言って、そっから2週間で。きっと1番最初って有給とかないですよね?

深井 ないない。

寺嶋 だからから2週間は出なきゃいけない。

深井 この人ね、多分その2週間を空けないでやめてますよね。おそらく、急にいなくなっちゃったパターンかもしれない。もしくは、即日辞めると。で、会社側が、それでいいよって言えば別に構わないんですけど、じゃあ、2週間で辞めるよって言って、その日で即日辞めるってのは、もしかしたら、ちょっと法的に問題ある辞め方かもしれないですね、これ。

寺嶋 あー、そうなんだ。そこで、「やむを得ない理由」があったならしょうがないってなるけど…ってことですか?やむを得ない理由があっても、2週間開けなきゃいけないんだっけ?

深井 やむを得ない理由がある場合は違いますけれども、この辞めた人が、有期契約なのか無期契約なのかによりますね。期間の定めのない無期契約だと、2週間空けないといけないんです。

寺嶋 無期契約っていうのは、終身雇用と一緒ですか?

深井 ちょっと意味合いが違いますね。終身雇用って法律の言葉ではなくて。その会社にずっと残ることを前提にした、労働者の意識の問題で。基本的に、いわゆる「正社員」って言った場合は、期間の定めがないので、解雇とかされない限りは、定年までは契約期間が続くってのが、無期雇用。

寺嶋 はい。

深井 で、有期雇用ってのは、1年とか2年とかっていう風に期間を定める。

寺嶋 有期雇用の正社員もいる?

深井 うーんと、正社員っていうふうに普通言った場合には、無期雇用の人を指す。

寺嶋 有期雇用の方は、「契約社員」とか「非正規採用」って呼ばれる人たちのことですか?

深井 うん。で、有期雇用だったら、やむを得ない理由があれば、途中で辞めることができます。その場合は別に2週間空けなくていいです。

寺嶋 そうなんだ。じゃあ、この辞めちゃった方がどういう契約だったかにもよるけど、自由があるし、権利があるから辞めたのかもしれない。でも、雇ってる側は大変だよね、っていう…

深井 採用して2週間で、やむを得ない理由が発生するのかっていう問題はちょっとあるんで。有期だったとしても、即辞めるってのが果たして良いやめ方だったのかは非常に疑問ですね。

寺嶋 でも今ほら、新年度が始まって、SNSでも見るけど、初日でやっぱ辞めましたとか、いるじゃないですか。あと、研修行ってみたらちょっと肌に合わなかったとか。

深井 うん、それが法的に正しいかどうかっていう議論はまずありますよね。2週間空けなきゃいけないっていうことになってるので、初日に「辞める」って言っても2週間働かなきゃいけないと。でもそんなの多分会社からしたら「別にいいよ」って感じじゃないですか。2週間だけね、新入社員を働かせたって何の得にもならない。

寺嶋 ですよね。辞めるの分かってて2週間いてもらうの、お互い気まずいですよ。

深井 だから、もうその日に辞めていいよって、多分言うと思うんですよ。で、お互いが合意すれば、別に2週間の期間空けなくて済みますけど。じゃあ、それがね、ちょっと社会人としてどうなのかとかね、道徳的に、倫理的にどうなんだっていう問題は後に残りますよね。

寺嶋 そうですよね~。でも、判断は早い方がいいっていう気持ちもわかる。

深井 うん。ほんとに労働基準法を全然守ってないようなひどい会社だったりとか、出された条件と全然違う条件だったとか、そういうんだったら辞める権利ありますんで。それは、即座に辞めていいって法律があります。

寺嶋 そうなんですね。んたけさんのところに新しい人早く来るといいですね。

深井 そうですね。欠員補充、大変だと思いますけど…

寺嶋 頑張ってください。というわけで、毎回新エピソードを更新するたびにいろいろ皆さん書いてくださってありがとうございます。あと、noteのコメントとかメッセージもありがとうございます。引き続きどうぞよろしくお願いします。

深井 よろしくお願いします。

寺嶋 では、本日のテーマは第6回目「地下アイドルの法律相談」でいうところの第6章「アイドルと損害賠償の話」です。

深井 はい。

寺嶋 損害賠償とか違約金とかの話を、よく聞くというか、この本の事例でも出てくるし、仕事してる中でそういうことを言われちゃったっていうのを見聞きすることもあるんですけど、アイドル側に理由があって辞める場合は、やっぱり損害賠償しなきゃダメなパターンもあるんですか?

深井 アイドル側に理由があってというのが、アイドル側に非があってと。そういうことですかね。

寺嶋 前に言ったような「恋愛禁止を破った」とかだったら、それは人権のことを考えた時にそれで縛れるものではないから無効ですよっていう話になるかもしれないけど、アイドルが犯罪をしちゃったとか。

深井 なるほど。

寺嶋 何かこう、アイドル側が法律を破った、とかで、もう解雇せざるを得ない、辞めざるを得ない。それで途中まで決まってた仕事が飛んだとかいう場合は、損害賠償しないとダメなのかなって思ってるんですけど。

深井 今の、アイドル側が犯罪やったとか明らかである場合には。うん、もう明らかにね。それは確かに、信頼関係破壊するような行為ですから、その解除は有効であるという風に多分なるでしょうね。事務所からアイドルをクビにするということだと思うんですけど、犯罪犯しちゃったような時は、クビにするというのはおそらく有効であると。契約解除は有効であるという風になると思いますが。じゃ、それで、例えば明日のライブ中止になっちゃったとか、明日予定してたこれこれがなくなったとかで、そういったものを事務所は普通は損害として請求したいですよね。明日のライブの売り上げ。明日のイベントの売上、請求したいと思うんですけど。法律上、その契約の一方当事者に損害賠償する時っていうのは、その損害が相当な因果関係の中にあるものではないと請求できないんです。

寺嶋 相当な因果関係?

深井 うん。法律で言うと「相当因果関係」とかっていうんですけど…

寺嶋 相当はそれは「ふさわしい」の相当ですか?それとも「相当やばい(´°ω°` )」っていう時の相当ですか?

深井 「ふさわしい」ですね。例えばなんですけど、いわゆる風が吹けばお屋が儲かる的なね、全然遠い関係にあるようなものは、その賠償の責任はないよと。そういうことなんです。例えばですけど、アイドルがクビになっちゃいましたと。で、もう全然ね、決まってもいなかった。再来年までの、多分、週に1回ぐらいやってただろうなとか、週2、3回やっただろうなとか、それが何週間あって、合計100回はやったなとか。だから、100回×売り上げの何百万払えと。

寺嶋 契約期間あと1年半あるんだから、1年半分の売り上げを払えみたいなやつか!

深井 それはね、じゃあ、相当と言えるかと言うと、本当にそのライブが実施されるかどうかもわかんないし。

寺嶋 動員もわかんないし。そうですね。

深井 で、かつ、これも法律の考え方なんですけど、損害ってどういうふうに考えるかっていうと、「その行為がなければ発生したであろう利益」なんですよ。

寺嶋 「その行為がなければ発生したであろう利益」?

深井 例えば、交通事故に遭いましたと。普通の会社員が交通事故に遭いましたと。1ヶ月間入院を余儀なくされました。そしたら、その1ヶ月間働けなくなっちゃいました。そうすると、その1ヶ月分のお給料なくなりますよね。だから、その1ヶ月分の給料は損害になるんですね。その交通事故がなければあったであろう利益。それはお給料分。それがなくなっちゃった。その差額が損害だって言われてるんですね。じゃあ、そのアイドル、クビになっちゃいましたと。で、クビになっちゃったら、そのグループって、ライブできないんですかね?

寺嶋 でも、例えば、次の日予定してたのが、そのクビになった子の生誕ライブだったとか。

深井 うん、それはあるかもしれないですね。だから、その範囲は、ふさわしいかどうかになり。

寺嶋 そういうことか!

深井 もう本当に予定されてて、明日その子の生誕ライブだったと、それはほんとに中心にせざるを得なくなったというんだったら、そこはふさわしい範囲だと思いますけど。じゃあ、2年後、3年後のね、1年後でもいいですけど、本当にその子をクビにしたら、その売り上げが全部なくなっちゃうんですか?っていうことですよね。

寺嶋 それはちょっとこじつけか。

深井 で、その子クビにしても開催できるかもしれないし、その子をクビにしたせいでその売上が全部なくなるとかね、そういうのも全然証明できないじゃないですか。そういうのは相当じゃないですよと、うん、相当因果関係 はないですよというふうになる可能性が高いです。

寺嶋 その相当か相当じゃないかは誰が決めるんですか?

深井 当事者間で話して、納得ができなかったら弁護士さんとか裁判の方まで行って、そこで決めてもらうということになりますよね。

寺嶋 なるほど。ということは、アイドルが損害賠償をしろって言われたとしても、本当に自分に非があって、本当に大迷惑をかけちゃった場合はそれが成立するかもしれないけど、例えば恋愛禁止を破ったから違約金だみたいな話とかそういうことだったら、ちょっと話は変わってくるってことですね。

深井 恋愛禁止を破ったら違約金だというケースについては、以前、第4回ですかね、やりましたけど、そういう人格に関わる権利、幸福追求権を侵害するようなかたちで損害賠償を請求することはできませんよという裁判例がありますね。ただ、その裁判例は、契約書の中に「恋愛禁止破ったらいくら払え」という風に書いてあったんです。なので、その条項に基づいて損害賠償を事務所がアイドルにしたんですけど、それ以外にも実は損害賠償してるんですね。その事案では。

寺嶋 え!何とか?

深井 うん、さっき言ったように、将来分のライブの売り上げとか、やる予定だったライブ、将来1年分とかじゃなくて、直近のね、2、3週間以内ぐらいのライブの売り上げとか、そういうのも請求してます。

寺嶋 で、払ったの…?

深井 それはどうして払わなくてよくなったかというと、それは第5回かな、前回の放送でも言ったんですけれども、「やむを得ない理由がある」ということで、アイドル側からの契約解除を認めたんです。

寺嶋 ああ!もう、「この契約書自体がおかしいから、こんな契約書は無効だ!」っていうやつだ。

深井 そうそう、これだけアイドル側に不利な契約を結んでいること、それ自体がもうやむを得ない理由に当たるということで、アイドルがきちんと事務所側に、辞めますっていう契約解除の通知を出してたんですよ。それを裁判所は適法な契約解除と認めたんですね。

寺嶋 ふーん!

深井 だから、適法な契約解除があった後っていうのは、もう契約解除されてるので。適法に解除されてるので、そのあと、ライブとかに出る義務はないんです、アイドル側に。だから、そのアイドル側にライブに出る義務がなかったんだから、それに出なかったからといって損害とは言えないですよっていう判断をした。

寺嶋 ん?でもそれは、アイドル側が「この契約書は不公平だから無効ですよね。解除したいです」って言ったから、そうなったわけですよね。言ってなかったら…それ(不公平)にすら気が付いてないまま、「恋愛禁止破ったから損害賠償いくら」って言われてる状況だったとしたら、契約は続いてるんですか?

深井 契約は続いてるかもしれないですよね。そのアイドルが恋愛禁止を破ったっていうだけで。事務所が解除してない。そういう場合があるのかどうかわかんないですけど。それがあったとしたら、契約はまだ続いてるってことになりますよね。おそらくそうですね。うん。で、契約が続いてる状況で、恋愛禁止の違約金を請求してくる。でも、契約が続いてるからライブに出なさい。そういうことってあるのかね?

寺嶋 ないか?

深井 ありますかね、それ。

寺嶋 わかんないけど、いや、その、(不当な契約書が)無効ですよっていう、だから私は辞めますよっていう通知をその子が出せたから良かったけど、出せてなかった場合は、それ(出してないこと)をいいように使われちゃうんじゃないかなって思ったんです。そのままライブに出ろとか、あと、恋愛禁止を破ったから、解雇でいくら(賠償金)っていうことは言われちゃうかなとか…

深井 うん、そういうケースは、おそらく「恋愛禁止を破ったね、だから違約金200万だよ」というのに加えて、「恋愛禁止の条項を破ったから契約は解除するよ」と。「事務所側から解除だよ」と。で、「契約解除されたんだから、将来分の売り上げ、あと過去分の衣装代とか。レコーディング費用とか払え」っていうふうな請求をしてくるケースが多いんじゃないかなと思いますよ。だから、契約を継続しておく事務所ってほとんどないと思います。

寺嶋 うん。じゃ、「辞めたからには敵だ」みたいな感じで、どんどん(ひどいこと)されちゃうってことか。

深井 そうですね。

寺嶋 今ちょっと衣装代の話が出ましたけど、衣装代とかも賠償しなきゃいけないんですか?

深井 それは結構よくありますよね。過去の衣装代とか…

寺嶋 はい。レッスン代とか?

深井 レッスン代とかね。あとは、レコーディング費用とか、それを全部返せというふうに言ってくる事務所は結構多いです。で、中には、はい。これまで払った報酬金、交通費、それも全部返せって言ってくるケースもありました。

寺嶋 なんでですか(゚ω゚)⁉︎

深井 わかんない。それは、ほんとにわかんなかった。で、過去に払った報酬とか交通費はちょっとやりすぎだと思いますけど。じゃあ、衣装はどうかと。衣装はあなたのために作ったんだ。あなたのサイズに合わせて、あなたの色だってことで作ったものですよ。

寺嶋 はい。

深井 で、あなたが辞めたことによって無駄になってしまいましたよと。だから払いなさいよと言えるかどうか。で、基本的な考え方はさっき言った通りなんですよ。その行為がなかったら発生したであろう利益。その行為があったために失われたもの。それが損害なんですね。じゃあ、衣装はどうか。

寺嶋 その行為があってもなくても作ってたものですよね?だけど、その行為があったことによって、衣装が活躍する場がなくなったから、衣装で稼げたはずのものは稼げなくなった…?

深井 と考えるか?法的には、基本的にはその物は残ってるわけなので。

寺嶋 そっか!

深井 その物がね、なくなったとかでなければ、基本的には、その物もね、法的にはブツって言ったりするんだけど、

寺嶋 ブツ(゚ω゚)

深井 ブツね。うん。なんか怪しい響きがしますけど、そのもの自体がなくなるわけでなければ、それは損害とは言えないって考え方が多分主流だと思いますよ。

寺嶋 そうなんだ。衣装が残ってるんだから!かけたお金と引き換えに物が残ってるんだから、プラマイゼロじゃないかっていう。へえ。

深井 それが通常の考えだと思います。

寺嶋 そうなんだ!じゃ、そのアイドルが、衣装をビリビリに破っちゃったとかだったら…?

深井 損害賠償でしょうね。うーん。で、そう考えるとね、過去にこれこれに費やした費用ってものが、さっき言った、相当因果関係のある損害かって言うと、僕はならないんじゃないかなと思ってます。ただね、例えばなんだけど、レコーディングしてましたと。で、5人グループで、5人のボーカルで録ってましたよ。で、完成間近でしたと。で、やめちゃったので録り直さなきゃいけなくなりましたよっていう時の新たなレコーディング費用は、もしかしたら相当因果関係に入るかもしれないですね。

寺嶋 それは、アイドル側に非があって辞めた場合は相当因果関係になるっていうことですね。でもそれが恋愛禁止を破ったから解雇とか、なんかこう、「俺様の言うことを聞かなかったから解雇だ!」みたいな、よくわからない理由での解雇だったらそうならないかもしれない。

深井 そうですね。それはちょっと難しい考え方なんだけど、法律の効果って、数学の証明みたいな感じで、要件…

寺嶋 「必要十分条件」!!!!!

深井 違う違う、それじゃない。

寺嶋 違う!?知ってること言っただけ(゚ω゚)

深井 それとはちょっと違って、 数学の証明って条件がいくつかあって、その条件が全部成り立ったら証明完了じゃないですか。三角形の合同条件とかって言って

寺嶋 んふふふふふふ(゚ω゚)そうだった気がしますよ(゚ω゚)

深井 これとこれとこれ、この条件が全部整ったらこの効果が発生しますよっていうようになっているんですね。数学の証明と同じように。

寺嶋 はい?はい、どうぞ。

深井 なので、法律家っていっつもそういう頭で考えてるんですよ。

寺嶋 ふーん!

深井 この法律効果を発生させたい、そのためにはこの条件、この条件、この条件が成立しないといけない、じゃあそれがあるかなって、そういう順番で考えてるんですね。

寺嶋 やったことないけど、遊戯王みたいですね!

深井 遊戯王!?

寺嶋 やったことないのにイメージで言ってます!イメージ。

深井 数学の証明の方が近いと思いますよ。

寺嶋 そうなんだ。

深井 んで、今回のケースで言うと、損害賠償を認めるかどうかという点から言うと、検討しなきゃいけないランプ3つってのは何かって言うと、①まず、アイドルに責任があること。②次に、損害が発生したこと。③で、その損害とアイドルの責任、やった行為に因果関係があること。この3つ。そのランプ3つです。アイドル側に非があるかどうかっていうのは1つ目のランプ。責任があるかどうかの問題。だから、アイドル側に非がないでクビになった、例えば恋愛禁止を破ったということでクビになったケースは、僕はアイドル側に非はないと思ってます。で、それで辞めさせられた場合には、僕は、「責任がないので損害賠償請求は認められない」という判断になると思います。

寺嶋 そっか。ランプが3つ灯らなきゃいけないんだから、1個灯らない時点でもうおしまい。

深井 おしまいです。なので、アイドルの恋愛禁止条項を破ったということで、違約金200万円だとかいうのが

寺嶋 凄いよね~(´°ω°` )

深井 それが認められないのは責任がないから、ってことになります。

寺嶋 はい。

深井 で、じゃあアイドルに非がある場合。じゃあさっき寺嶋さんが言ってくれた例で言うと、アイドルが犯罪しちゃったよという、例えばメンバーのお金盗んだよと。それが事実だったら、本当に事実だったとしたら、責任はある。アイドルに非がある。さすがにメンバーのお金盗んだら、契約解除はやむを得ないと。

寺嶋 それは駄目だ思います。

深井 はい。うん。じゃあ1つ目のランプあるね。じゃあ2つ目のランプ。損害は何か。明日生誕祭でした、それ中止にせざるを得なくなりました。それは確かにちょっと損害かもしれないね。

寺嶋 そうですよね。うん。

深井 だから、それは損害だと言える。はい。うん。

寺嶋 はい(挙手)その損害っていうのは、「その違反行為がなかったら発生したはずの利益」が損害になるから、「かけた経費」がなるわけじゃないですよね。じゃ、生誕祭のために頑張って押さえた箱代とか、新曲の準備したお金とかは関係ない?

深井 それは損害になると思うよ。

寺嶋 なるんだ!そっか、それらを補填できるぐらいの売り上げが立ったはずだからか。

深井 そうですね。

寺嶋 なるほどなるほど、わかりました。

深井 で、それが損害があるかどうかなんですね。で、最後の、因果関係があるかどうかってのは、相当かどうかという話で、じゃあ2年後、3年後もねの、そのライブがなくなっちゃうかどうかっていうのは、本当にそんな先まで、この人のやった行為でライブの売り上げが減るとか、そういうことはさすがに証明できないじゃないですかってことで、それは相当ではないですよねっていうことになった場合には、それは因果関係はありませんよねとはいいう話になってしまうということで、その3つのね、ランプの点滅によって損害賠償請求が発生するんですよ。で、なんでこんな話したかっていうと、損害賠償が認められる場合と認められない場合が混乱してきたので、整理したいなと思って、こういう話をしました。

寺嶋 そしたら、もし何か損害賠償しろとか大きなお金を払えみたいなことを言われてしまった時に、その3つの基準で自分がほんとに当てはまってるかを1回考えた方がいいし、自分でわかんなかったら弁護士さんとかプロの人に聞いた方がいいですね。

深井 そうですね。基本的に辞める前に来てくれれば、僕が大体損害賠償義務が発生しないように辞めさせてます。アイドルを。「辞めたいんですけど」とか、「ちょっと今こういうことで問題になってます」っていうような段階で来てくれれば、なるべく損害が発生しないように辞めさせてます。

寺嶋 そうですね、傷が浅いうちにと言ったらあれですけど、もう本当にどうしようもなくこじれて、「辞めます!」って言ってプイってやめちゃったら、多分運営さんも、「こんなひどい辞め方しやがって」っていうので、余計こじれちゃったりするし。決まってたことをやらなかったみたいな、こっちが言われて痛いことが増えちゃったりするかもしれないから…。

深井 連絡もなくいなくなる、なんか俗に「飛ぶ」とか言いますけど、それやるとやっぱりちょっとね、かなり不利。

寺嶋 いや、そうだな。だから、相手がどんなに不誠実でも、誠実にやっておいた方が、自分を助けてくれる気がする。それって大変なことですけど。「こっちはちゃんとやりましたからね」って言えることが、後で自分を助けることってありますよね。

深井 そうですね。それで、「損害賠償請求されそうなんです」っていうのは、アイドルからの相談でかなり多い相談なんですけれども、 そのほとんどのケースは、僕が見る限り、アイドル側にほとんど非がないのに「契約を解除するぞ」って言って損害賠償を請求してきたりとか、そういうケースばっかりなので、僕から見るとそれは払う必要ないなと思うケースばっかりです。なので、あんまりね、お金の金額にビビってしまって、言われるがままに払ってしまうということのないように、なるべく、早めに相談に来た方がいいと思います。

寺嶋 そうね、多分払っちゃったら返してもらえないよ。

深井 払ったら返してもらえない。そうですよね。

寺嶋 ね。だから払う前に(弁護士さんに)言った方がいいと思います。怖いからとりあえず払っちゃったとか、払ったら黙ってくれるかもとかって払っちゃう人、もしかしているかもしれないけど、そうなる前に一旦プロに相談した方がいいですね。そうですね。

深井 怖くなって払っちゃった人、結構多いですよ。

寺嶋 いや、大変なことだー。ということですので、お金払っちゃうとか、もうそういう風に問題がこじれちゃう前に、なるべく早くプロに入ってもらうっていうのが大事かなと思いますので、何か相談したいっていうアイドルさんは、深井先生にDMをしていいんですよね。はい。

深井 DM開放してますので、質問があったらぜひお願いします。

寺嶋 はい。そして、番組で取り上げてもらいたい匿名相談がありましたら、こちらも深井先生にDMをお願いします。

深井 はい。

寺嶋 そして、いきなり弁護士さんは緊張するので、まずはアイドルの人からという場合は、私にお話したい場合はinfoにメールアドレスが載ってますので、そちらからご連絡ください。この番組でお話したことは後日noteで公開予定です。noteには、この収録を終えての私の感想だったり、深井先生からの補足情報だったりがわりとボリューミーに載ってまして、有料で読むことができますので、ぜひそのプラスのコラムも読んでみてください。この番組のご感想はハッシュタグ「アイドルと法律」でぜひツイートしてください。今後もいろいろ拾わせていただきます。それでは、今回もありがとうございました。次回のテーマは「アイドルと移籍の話」です。

ここまでのお相手は、ゆっふぃーこと寺嶋由芙と、

深井 弁護士の深井剛志でした。

深井・寺嶋 ありがとうございました~。






以下、有料コラムでは、深井先生から、アイドルが損害賠償を請求される際にありがちなトラブルや、対処するための考え方、戦い方を、ゆっふぃーからは、アイドル側の立場から考えられる、知識を持っている人を増やす意義をお伝えしております。

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