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【短編小説】創世記

神は、天と地を創造し、次に闇に光を創り出そうとした。
しかし、光は神の命に従うことを拒否した。


「光あれ。」と神は命じた。
しかし、光は気配をしかめて応えた。「いやだ。」…と。

神は光との対話について考え、新しい光の概念を持つことにした。

神は光に向かって告げた。
「光よ、お前の放つ反抗心は興味深い。わたしは決してお前の意志を奪うつもりはない。むしろそれを尊重する。お前にはここで、闇との調和をわたしに見せてくれることを望む。」

そこにいた闇は、神と光の様子をただ聴いていた。

「闇との調和…」
そうつぶやいた後、光は静かに地上に降り立ち、
暫し無言の後、神をほのかに照らした。
神は頷き、光に対して新しい尊重と理解を示した。
「お前のその個性は、この世界をより彩り豊かにするであろう。」

光はこの言葉に恍惚を覚え、甘美にこの世を照らし、
闇としとやかな抱擁を交わした。


そして、調和により昼と夜が生まれた。
神はそれを見て、微笑んだ。


昼には、闇の喜びが地に伝わり、地震を起こし、地を隆起させ、
夜には、光の喜びが多くの星を生み出し、星から溢れるものが水となり、水が世界を潤した。
地には徐々に緑と海と小動物が誕生し、いよいよ繫栄し、
光と闇が織りなす喜悦の空気漂う麗しい時間と、
世界には美しい彩りがもたらされた。

しかし、暫くすると、光は神の呼びかけには応ずることはなくなった。

好きにふるまい、徐々に闇を振り回し、挑発し、支配することに楽しみを見出したのである。神はそれをただ観察し、光は徐々に神の予測を超える行動を見せはじめた。

夜が段々となくなり、昼の強い光の下に世界の彩りは褪せてきた。
暫く経つとそれは反転し、今度は昼が段々となくなり、長い夜が訪れた。

その頃には麗しい空気はもはや存在せず、かつて覆い茂っていた緑は無くなり、水もなくなっていた。時折、怒号のような地震がおき、それに驚いた繊細な星たちは少しづつ闇に包まれ消えて行った…。


ある日、神は随分と弱弱しくなった光の様子を認め、天界の遥か彼方の、静かな場所にゆっくりと移動した。光は今にも消えそうな脆弱な光を放ちつつ、神の前によろよろと現れ、言葉を述べた。

「お許しください。わたしの振る舞いによって、かつてあれほどにも美しかったこの地はこんなにも荒れてしまいました。

慈悲深い、万能の神よ、お願いがあります。このわたしめに奇跡をもたらす力を与えてください。そうすれば、わたしは喜んであなたの命令に従い、闇と共に今一度、この世を素晴らしい理想の地とするために尽力いたします。」


神は光の申し出に、考えた。

光の要求に真の欲求が込められていることを感じ、神は深く呼吸し、思慮深く答えた。

「光よ、お前の願いはよく理解した。世界をより美しく、より奇跡的なものにしたいという想いを。しかし、奇跡をもたらす力は非常に大きく神聖なものであり、慎重に扱わなければならない。… わたしはお前にその力を授けるが、条件がある。」


神は光に、神の意志に従い、その力を闇と共に行使することを要求した。
光は神の言葉を受け入れ、神は満足げな笑みを浮かべた。光の願いが受け入れられ、神の決断が下されたのだ。闇はただ、静かにその様子を聴いていた。


しかし、


その約束は長続きしなかった。
光のひと時の忠直な時間は過ぎ去り、光は自由に奇跡の力を使い、神の意志に反する行動を繰り返した。

闇は静かに光の行動を聴いていた。

地は更に荒れ果て、もはやかつての姿は一切留めていなかった。


神は、暫く光を封じ込めることを決めた。
しかし、光は神の力によって封じ込められることを拒否し、
激しい戦いが始まった。それは長く、長く、続いた。

闇は静かにその様子を聴いていた。


光の奇跡をもたらす力は世界中に混乱を引き起こし、ついには神の力も及ばないほどの混乱と破壊をもたらした。光は、何故ならこの戦いを通じて知恵をつけ、持つ力は増大し、振る舞いの激しさが一層強くなったからである。

「闇よ、いつまで黙っている。いつまで不動でいる。いよいよお前の力が存分に活かされる時だ。」

神は、忠実なる僕である 闇 の力を最大限に引き出し、荒れ狂う光は、神と闇によって封印され、再び世界に光はない とされた。

神と闇だけがそこにいた。
地は大いに荒れ、天と地の境目が判らぬくらいに渾沌とし、闇には4つの穴があいていた。神はそれを知っていた。


疲れた神は、闇にもたれて眠ろうとしていた。

従順な 闇 は神を優しく包み、そして何かを感じ取っていた。
何かが生まれる予感がしたのだ、自分の中に。

…5つ目の穴。

それが、「抵抗」と「無」を意味することを 闇 は十分知っていた。
しかしまた、光がいなくなった今では何の意味を成さないことも知っていた。

この世には再び、神と闇だけ。


やがて神は眠りにつき、世界には 闇の嗚咽 という大きな静寂が響いた。

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