田中祐真 Yuma Tanaka

東大先端研特任研究員 自分の勉強も兼ねてウクライナ語をはじめとする言語とウクライナ・旧…

田中祐真 Yuma Tanaka

東大先端研特任研究員 自分の勉強も兼ねてウクライナ語をはじめとする言語とウクライナ・旧ソ連情勢に関する投稿をしていこうと思います。

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  • ウクライナ語文法シリーズ

    ウクライナ語の文法を解説していきます。格変化や活用などの説明が中心になります。 ウクライナ語学習者初級~中級のリファレンスとして使っていただけたら嬉しいです!

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ウクライナ語文法シリーズについて:はじめに

皆さんこんにちは。 少し前からはじめました「ウクライナ語文法シリーズ」について、全体の大まかな方針と参考文献等について明確にしておきたく思います。 「はじめに」なので本来であれば一番最初にこの記事を書いておくべきでしたが、遅くなりすみません。 執筆方針「ウクライナ語文法シリーズ」はその名のとおり、ウクライナ語の文法の解説を中心としていく考えでいます。 例が必要な部分ではなるべく例文を引っ張ってきていますが、いわゆる語学学習書のようにユニットごとに会話文をつけるような形式と

    • ウクライナ語文法シリーズその20:人称代名詞、再帰代名詞

      ウクライナ語では代名詞はその意味・機能からいくつかの種類に分けられます。人称代名詞、所有代名詞、疑問代名詞、関係代名詞、指示代名詞、不定代名詞です。 まずは人称代名詞から見ていきましょう。再帰代名詞についても説明します。 人称代名詞ウクライナ語の人称は一人称、二人称、三人称とそれぞれの複数形で6つあります。 英語の動詞には現在形で「三単現の s」というものがありましたが、ウクライナ語の動詞の現在形ではこの6つの人称によって6とおりの変化形があります。 また、英語では I

      • ウクライナ語文法シリーズその19:比較級、最上級

        ウクライナ語にも他の多くのヨーロッパの言語と同様、形容詞に比較級と最上級があります。英語などに比べると若干比較級と最上級の境目が曖昧な部分があり、特に最上級では構文もあまりカッチリとはしていないのですが、その分比較級はよく用いられます。 比較級英語と同じく、形容詞そのものが変化するものと、more に相当する語との組み合わせで作るものの二通りあります。 おおむね語幹の音節が2つより多い形容詞の場合は бі́льш を前につけることで比較級を表します。非常に簡単です。 そ

        • ウクライナ語文法シリーズその18:形容詞の変化と用法

          今回から2回にわたって形容詞の変化と用法を簡単に見ていきましょう。まずは形容詞の格変化からです。 形容詞の変化ウクライナ語の形容詞は品詞としては名詞類に分類され、名詞とのつながりが強いです。 名詞は基本的に性が決まっており、各名詞ごとに数と格に応じた変化をしますが、形容詞では一つの形容詞が性・数・格全てにおいて変化します。この変化は修飾する名詞の性・数・格によって決定されます。 例として、до́брий 「良い」が男性・女性・中性・複数の名詞に付く場合、主格では以下のよう

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          ウクライナ語文法シリーズその17:具格、具格支配の前置詞

          具格には様々な用法があります。概ね英語の前置詞 by が付くときに相当するのですが、一部感覚的に理解が難しかったり、英語の感覚からは外れる用法もありますので、一つずつ見ていきましょう。 具格の用法道具・手段 具格の「具」は「道具」の「具」で、典型的には道具や手段「~で、~によって」を表します。 ロシア語の知識がある方は、特に最後の2つに注意してください。電話など通話・通信手段を表す時や、交通手段を表す時は、ロシア語と異なり、前置詞を用いず、ふつう具格単独で表されます。特

          ウクライナ語文法シリーズその17:具格、具格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその16:与格、与格支配の前置詞

          与格は非常によく用いられ、用法も様々です。それほど理解に苦しむようなものではないのですが、慣れないうちは違和感のある構造もあるため、少しずつ見ていきましょう。 与格の用法間接目的語 与格は典型的には動詞の間接目的語を表します。日本語の「~に」に相当します。 これらの与格で表される間接目的語は、「до+属格」に置き換えることが可能です。英語で「give A B」が「give B to A」に置き換えられるのと似たようなものです。 また、「~のために~する」という意味を表

          ウクライナ語文法シリーズその16:与格、与格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその15:処格、処格支配の前置詞

          処格は必ず前置詞と共に用いられ、単独で現れることはありません。早速処格を要求する前置詞を見ていきましょう。 в/у 「~(の中)に/で」とна 「~(の表面)に/で」 この二つの前置詞は「対格、対格支配の前置詞」でもセットで取り上げましたが、対格と共に用いられる場合は方向などを表すのに対し、処格と共に用いられると動作が行われる場所を表します。в/у と на の使い分け方は対格の時と同様で、в/у は「中」というニュアンスを含むため、建物や部屋、国、都市、庭などの何らかの

          ウクライナ語文法シリーズその15:処格、処格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその14:属格、属格支配の前置詞

          属格には非常に多くの用法があります。ここでは主なものを紹介しておきます。一部の用法は日本人にとって非常にわかりにくい、というか日本語と発想が異なるので感覚としてイメージがしづらいものもあります。 属格の用法所有・所属関係 属格は典型的には所有・所属関係を表します。日本語の「~の」にとそのまま訳すとだいたいうまくいきます。この場合、通常の語順としては「AのB」のAが後に置かれます(後置修飾)。 時間を表す用法 また、対格と同様に時間を表すのにも属格が用いられることがあ

          ウクライナ語文法シリーズその14:属格、属格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその13:対格、対格支配の前置詞

          今回は対格を見ていきましょう。対格それ自体の用法はそれほど難しくありません。 今回からそれぞれの格と結びつく(支配)前置詞も説明していきます。対格も多くの前置詞と結びつきますので、例も挙げながら紹介していきます。前置詞を感覚的に使いこなしたり意味を理解するには、前置詞の個別の用法ごとの意味を覚えるというよりは、大まかなイメージとして掴んでおくのが良いでしょう。 対格の用法対格は典型的には動詞の直接目的語を表します。 その他の用法として重要なものに、一定の時間を表す用法が

          ウクライナ語文法シリーズその13:対格、対格支配の前置詞

          ウクライナ語文法シリーズその12:主格・呼格

          名詞の格変化を覚えたところで、それぞれの格の用法をもう少し詳しく見ていきましょう。 単純に日本の助詞で置き換えてしまえばいい用法もあれば、日本人にとっては少々理解しづらい用法もありますが、それぞれ紹介していきたいと思います。 また、ウクライナ語の前置詞は主格及び呼格を除く格(言語学ではまとめて「斜格」と呼びます)につきます。前置詞によってその後に置かれる名詞の格が決まっていたり、同じ前置詞でも後に置かれる名詞の格によって異なる意味を表すことがあります。 まずは簡単な主

          ウクライナ語文法シリーズその12:主格・呼格

          ウクライナ語文法シリーズその11:人名の変化

          一般名詞の格変化を覚えたところで、ここでは人名の格変化について見ていきましょう。 名前(ім'я)名前(ファーストネーム)の変化は基本的にこれまで見てきた女性名詞・男性名詞の典型的な変化をします。それほど難しくないのでいくつかの例をさらっと紹介します。 女性の名前はふつう -а/я で終わります。-а/я で終わる女性名詞と同じ変化です。 А́нна 「アンナ」 Ната́ля 「ナタリア」 Марі́я 「マリア」 男性の名前は子音で終わるものが多いですが、一

          ウクライナ語文法シリーズその11:人名の変化

          ウクライナ語文法シリーズその10:中性名詞

          中性名詞は単数主格の見た目上では大きく -о/е で終わるものと -я で終わるものに分けられます。 -я のときは女性名詞との区別が最初のうちは難しく感じられるかもしれませんが、見ていくうちに容易にだいたい予想がつくようになるでしょう。動詞から作られる抽象的な単語や、生き物の子どもを表す語が多いです。 中性名詞は基本的に無生物を表しますので、基本的に全て無生名詞です。つまり、単数も複数も主格と対格が同じ形になります。これは単数では生物の子どもを表す単語でも同様ですが、生

          ウクライナ語文法シリーズその10:中性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその9:男性名詞の単数属格について

          ウクライナ語の男性名詞で最もやっかいなのが単数属格で -а/я か -у/ю のどちらになるか、というところでしょう。単数の処格や与格も複数の形を持ち得ますが、多くの場合この 2つの格ではどちらでも良いことが大半であるのに対して、単数属格はいずれか一つに決まる場合がほとんどです。 男性名詞を覚える際には、単数属格の形も合わせて覚える方が良いでしょう。 はっきりと分けられるルールは存在しないのですが、かなり多くの場合に当てはまる傾向を以下に示します(Алхангельская

          ウクライナ語文法シリーズその9:男性名詞の単数属格について

          ウクライナ語文法シリーズその8:男性名詞

          女性名詞の次に、男性名詞を見ていきましょう。 男性名詞は女性名詞の表と比べると単数の語尾がだいぶ複雑です。ウクライナ語から入った方にとって大変なのはもちろんですが、むしろロシア語を知っている方々の方がうんざりするかもしれません。ロシア語は格変化パターンがだいぶ単純化というか均一化というか、簡単になっていますので。 属格、処格、与格、呼格は複数の可能性があり、単語によってどちらか決まっているものもあれば、どちらでも良いものもあります。 具体例は格変化パターンの箇所で見ていき

          ウクライナ語文法シリーズその8:男性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその7:女性名詞

          今回から名詞の変化を見ていきます。 最初は比較的分かりやすい女性名詞からいきたいと思います。 格変化表が出てきますので、言語オタクの方もそうでない方もそれぞれの意味でヒイヒイ言っていただけると嬉しいです! ※格の順番を修正しました(2024/01/07) -а/-яで終わる女性名詞まずは変化の比較的わかりやすい -а/-я で終わる女性名詞から見ていきましょう。 -а/-я で終わる女性名詞の基本的な変化パターンは①硬変化、②軟変化、③混合変化の 3つに分けられますが、

          ウクライナ語文法シリーズその7:女性名詞

          ウクライナ語文法シリーズその6:名詞(概説)

          今回からしばらくは名詞の解説をしていきます。 次回からは変化表が出てきますので、多くの方にとってはうんざりかもしれませんが、言語オタクにはたまらないと思います。 ウクライナ語は単語がたくさん変化しますので初級レベルのうちは非常に苦しいと思います。しかしながら、多くのスラヴ系言語は変化さえ最初のうちに覚えてしまえば、中級以上になるとある瞬間に突然、本当に突然に分かるようになってぐんぐん伸びていきます。 ここからが踏ん張りどころです!頑張りましょう! なお、これ以降の説明にお

          ウクライナ語文法シリーズその6:名詞(概説)