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舞台 「鴨川ホルモー、ワンスモア」 観劇レビュー 2024/04/27


写真引用元:舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』 公式X(旧Twitter)


公演タイトル:「鴨川ホルモー、ワンスモア」
劇場:サンシャイン劇場
企画・制作:ニッポン放送
原作:万城目学
脚本・演出:上田誠
出演:中川大輔、八木莉可子、鳥越裕貴、清宮レイ、佐藤寛太、石田剛太、酒井善史、角田貴志、土佐和成、中川晴樹、藤松祥子、片桐美穂、日下七海、ヒロシエリ、浦井のりひろ、平井まさあき、槙尾ユウスケ、岩崎う大
公演期間:4/12〜4/29(東京)、5/3〜5/4(大阪)
上演時間:約2時間(途中休憩なし)
作品キーワード:コメディ、青春、ラブストーリー、ダンスパフォーマンス、笑える
個人満足度:★★★★★★★☆☆☆


ニッポン放送とヨーロッパ企画の上田誠さんがタッグを組んだ舞台上演シリーズの第四弾として、今回は万城目学さん原作の小説である『鴨川ホルモー』と『ホルモー六景』を元にした舞台『鴨川ホルモー、ワンスモア』を観劇。
上田さんがこれまでに、原作のある作品の脚本演出を手掛けてきた舞台シリーズである『夜は短し歩けよ乙女』(2021年6月)や『たぶんこれ銀河鉄道の夜』(2023年4月)が非常に面白かったので、今作も観劇することにした。
尚、原作小説の2作は観劇前にストーリーを知っておいた方が楽しめると口コミされていたので事前に読んでおいた。

物語は、二浪して京都大学に入学した安倍(中川大輔)が、「京大青竜会」というサークルに勧誘される所から始まる。
安倍は同じ学年の高村(鳥越裕貴)と一緒にいると、青い紙に「京大青竜会」と書かれたサークルに勧誘され、どんな活動をするか分からないまま新歓コンパにだけ参加してみることになる。
べろべろばあ店長(中川晴樹)が営む居酒屋「べろべろばあ」で、安倍は早良京子(八木莉可子)と出会って一目惚れをし、そのまま安倍は「京大青竜会」に入部する。
安倍は、そのサークルに参加していくうちに、一緒に入部した高村と共にこのサークルはどこか怪しいと感じ、先輩たちは何かを隠していると疑い始める。
そして、「京大青竜会」というのは「ホルモー」と呼ばれる謎の競技で京都産業大学や立命館大学、龍谷大学の学生たちと戦うということを知るのだが...というもの。

私は、原作小説が非常に森見登美彦さんの作風と似たテイストを感じられ、映像化・舞台化したらきっと面白いだろうと思いながら読み進めていた。
京都大学の学生の青春ラブコメといった感じで、リアリティが感じられる上に、「ホルモー」という競技自体は凄くフィクションなのだけれど日本風なのが京都らしくてまた好きだった。
関西で大学時代を過ごした方だったら凄く共感する部分も多いのではと思っていた。そのため、舞台化は期待でしかなかった。

そして、いざ上田さんが脚本演出を担当した舞台作品を観劇すると、自分の期待のさらに上をいく出来で本当に素晴らしかった。
もちろん原作が持つ設定の面白さは全部残しつつ、そこに今回キャスティングされた役者の方々のキャラクター的な面白さを上手くミックスしていて舞台だからこそ面白い作品に仕上がっていて大満足だった。
シナリオのベースは、『鴨川ホルモー』なのだが、そこに私が好きな『ホルモー六景』のシナリオが上手く組み込まれていて構成として上手かった。
また、舞台版の序盤と終盤に特別に挿入されたシナリオと演出も、非常に観客を意識した作品作りがなされていて好きだった。

ラブコメ要素も『ホルモー六景』を取り入れているからか割と多めの印象で、それぞれの登場人物ごとに色恋沙汰があってそれがまた個性溢れていて面白かった。
ラブコメ要素はベタではありつつ、こういった上田さん脚本演出のエンタメ舞台だからこそ上手くハマっていて楽しめたのだと思う。

役者陣は、主人公の安倍を演じる中川大輔さんや、早良京子役を演じる八木莉可子さんが目立つのかと思いきやそうではなく、それぞれの役者たちがそれぞれの個性を上手く舞台上に放っている印象で、集団として完成されている感じを受けた。

事前に万城目さんの原作小説を読んでおくことはお勧めするが、何も難しいことを考えずに沢山笑える大満足の舞台なので、多くの方にお勧めしたい作品だった(5月4日〜5月11日まで配信あり)。

写真引用元:ステージナタリー ニッポン放送開局70周年記念公演「鴨川ホルモー、ワンスモア」公開通し稽古より。


↓公開ゲネプロ映像


↓小説『鴨川ホルモー』『ホルモー六景』




【鑑賞動機】

上田誠さんが、原作のある作品を舞台化する時は大抵面白いので、今作も迷わず観劇することにした。
出演者も、普段映像作品では知名度のある八木莉可子さんが出演されて気になっていたのと、安定のかもめんたるのお二人が出ること、男性ブランコのお二人は舞台で初めてお目にかかるのでどんな芝居をされるのか楽しみだった。


【ストーリー・内容】(※ネタバレあり)

ストーリーに関しては、私が観劇で得た記憶なので、抜けや間違い等沢山あると思うがご容赦頂きたい。

鴨川の河川敷のコンクリートの上に、安倍(中川大輔)など複数人の男女が集まる。そして川の方を見ながら何かを待っているようである。そして何かが川で始まったようで盛り上がっている。
ここで安倍によって「ホルモー」の解説がなされる。「ホルモー」とは「ホルモン」とは無関係の競技を指すのだと。
オープニングの音楽と映像が流れる。

安倍は二浪した後に京都大学に入学する。同期の高村(鳥越裕貴)と安倍はサークルの新歓時期で学校内にいると、菅原真(岩崎う大)、清原(石田剛太)、大江(片桐美穂)から青色のビラが渡され「京大青竜会」というサークルの勧誘を受ける。全くどんな活動なのか分からなかった二人は、新歓コンパには一先ず参加してみようということになる。
安倍と高村は、「京大青竜会」の新歓コンパで居酒屋「べろべろばあ」に入る。そこではべろべろばあ店長(中川春樹)がギターを背負って歌を歌いながら店の番をしていた。安倍は、同じ新歓コンパにいた早良京子(八木莉可子)という女性に出会う。安倍は京子の鼻を見て思わず一目惚れしてしまい、そのまま「京都清竜会」へ入部することになる。
一方で、同じ「京大青竜会」の同期として、高村、芦屋満(佐藤寛太)、松永(平井まさあき)、楠木ふみ(清宮レイ)、紀野(藤松祥子)、坂上(ヒロシエリ)、三好兄弟(角田貴志、浦井のりひろ)が加わった。

安倍と高木は寮に帰って二人で話す。この「京大青竜会」に入部してみたものの、どこか怪しいと。菅原などの先輩たちは何かを隠していると疑う。
一方で、安倍が一人で自分の部屋にいる所に、ドアをノックする音が聞こえる。ドアを開けるとそこには京子が立っていた。京子は、安倍の家で少し休みたいとそのまま寝てしまう。べろべろばあ店長のギターの演奏と共に安倍は気持ちの高まりを歌にする。

安倍や高木たちは吉田神社に集められる。そこで菅原たちから「京大青竜会」とは何なのかについて語られる。「京大青竜会」というのは「ホルモー」と呼ばれる一チーム十人で競い合う競技を行う京都大学の団体であり、試合が始まると鬼や式神が出現するので鬼語を唱えて鬼たちを駆使して相手と戦うのだと。そして、チームは京都大学以外だと「立命館大学 白虎隊」「京都産業大学 玄武組」「龍谷大学 フェニックス」というチームがあると聞かされる。
いよいよホルモーの初戦で、「立命館大学 白虎隊」の柿本赤人(酒井善史)、「京都産業大学 玄武組」の清森平(土佐和成)、「龍谷大学 フェニックス」の立花美伽(槙尾ユウスケ)が姿を現す。菅原たちは安倍たちを含めた十人の参加者を募りホルモーを開始する。
ホルモーは、高村の失策で「京大青竜会」は危機的状態となってしまい敗北を喫する。そして高村はちょんまげ姿になってしまう。
菅原、清原、大江たちは第499代京大青竜会だったので、それを安倍たちの代に引き継ぎ、第500代京大青竜会が誕生する。

安倍とちょんまげ姿の高村は二人で寮で話す。ホルモーのこと「京大青竜会」のこと。その話の文脈で芦屋が元カノの山吹巴(日下七海)と別れて京子と付き合いだしたことを高村は安倍に話す。安倍は驚く。まさか京子が芦屋と付き合っていたとは。
芦屋と山吹は同じ高校出身で付き合っていた、山吹は京大目指して受験し、芦屋は滑り止めで京大を受験した。結果山吹は京大に不合格で芦屋は受かった。山吹は同志社大学に入学することになった。芦屋は京子のことが好きになって山吹を振った。山吹は同志社大学で学業に専念するようになった。
一方で、楠木は安倍がよく訪れるイタリアンレストランでバイトをしていた。そこへ楠木のことが好きな松永がやってくる。松永は楠木が夜外にいるときにもやってきて流星群が綺麗だねと声を掛けるが、理系の楠木は地球が流星群へ突入しているだけと吐き捨てる。
三好兄弟は共に大江に想いを寄せていた。大江がどちらを選んでくれるのかとお互いライバル視していた。

安倍は一人で自分の部屋で寝ていた。そこへドアをノックする音が聞こえる。ドアを開けると京子が立っていた。京子は芦屋が元カノの山吹と一緒にいる所を見てしまいショックで安倍の元へやってきた。京子は一晩寝かせてくれと安倍の部屋で寝てしまう。
べろべろばあ店長がギターを持ってやってきて安倍は歌を歌い出す。そして京子の体に近づこうとし、その時京子は目を覚ましてしまい殴られ、京子は安倍の部屋を去っていってしまう。さらにその後芦屋が安倍の自宅にやってきて安倍をボコボコにして去っていく。
その頃、松永は理系である楠木に対して超ひも理論を使って告白しようとしたが意味が分からないといって振られてしまい、三好兄弟も大江の元へ行って二人とも告白するが、どっちもないと言われてしまって想定外のようだった。

安倍は、菅原に「京大青竜会」を抜けたいと相談する。しかし、吉田神社で契約してしまった以上抜けることは出来ないと言う。但し、「鴨川第十七条ホルモー」を使えば安倍の要望に応えられるという。「鴨川第十七条ホルモー」というのは、「京大青竜会」を二つのチームに分けてホルモーを行うことであった。
しかし、「京大青竜会」は芦屋が仕切っているので誰が安倍の方に味方してくれるだろうかと悩んでいた。しかし、高村と三好兄弟、楠木は安倍の陣営に協力してくれることになり「京都大学青竜会ブルース」を立ち上げた。一方で、芦屋の陣営には松永、紀野、坂上が加わり「京都大学青竜会神選組」が結成された。
さらに、芦屋に不本意な形で振られ、その後も何度もムカつく電話を入れられていた山吹は、芦屋に復讐してやりたい一心だった。そこへべろべろばあ店長が現れる。そして黄色い着物を渡す。昔は同志社大学もホルモーに参加していたのだが、学生運動の時代に参加出来なくなってしまったと。この着物が「同志社大学 黄龍陣」の衣装だから、これを着てホルモーに参加して「京大青竜会」を迎え撃てと。山吹はすぐさま着替えることにする。

「鴨川第十七条ホルモー」は幕を開いた。沢山の鬼と式神が登場し鬼語を使って激突する。そして最終決戦は、「京都大学青竜会ブルース」vs「京都大学青竜会神選組」。芦屋たちと安倍たちが戦っている中、楠木は実は安倍のことが好きだったということを告白する。だからこそイタリアンレストランでバイトをしていたのだと。その言葉を聞いて、松永は長い時間喘ぎ声を出していた。
さらに、ホルモーに山吹が黄色い着物に着替えて「同志社大学 黄龍陣」として途中乱入してくる。しかし、鬼語とかよく分からないので全くホルモーになっておらず、大江に引っ叩かれて撤収させられる。
楠木はメガネを外したが、なんとか「京都大学青竜会ブルース」は勝利を収めた。

何年か後、安倍たちが京都大学を卒業してしばらく経った後だと思う。安倍たち第500代京大青竜会の一向が鴨川の河川敷のコンクリートにやってくる。さらに第499代京大青竜会の菅原、清原、大江たちもやってきたり、山吹も黄色いビラ紙を持ちながらやってくる。
そして鴨川でホルモーが始まる。映像で鬼と式神たちが投影されている。安倍たちは歓声を上げる。安倍は「ホルモー」の説明をして上演は終了する。

さすがは上田誠さんといったシナリオ構成の光る脚本だった。基本的には原作の『鴨川ホルモー』をベースにしつつ、所々に『ホルモー六景』のシナリオを無理のない形で入れ込まれていて小説を読んでいた私は唸った。
『ホルモー六景』の「同志社大学 黄龍陣」の件は私も好きだったので入れられていて良かったと思った。黄色い着物の見つけ方は原作と舞台で違ったけれど、べろべろばあ店長が非常に良いキャラクターになっていて、役者の活かし方も含めて素晴らしい脚本だった。
また、楠木の件も『ホルモー六景』に登場していて凄く好きだったので、舞台に入っていて良かった。個人的には「二人静」ももう少し言及してほしかったけれど十分かなと思った。
あとは、小説を読んでいたから混乱はなかったが、若干安倍がなぜ「鴨川第十七条ホルモー」を発議する必要があったのかは、あまり尺を使わずに流れるようにシナリオが舞台では過ぎていった気がしたので、初見の方は混乱するのではと思った。自分が初見だったらよく分からなかったと思う。
非常に設定の細かい脚本なので、初見だとその設定を読み込むのに混乱して置いていかれると思うが、小説を読んでいればこの上なく楽しめると思う。少なくとも私は楽しかったし上手いと感じた。

写真引用元:ステージナタリー ニッポン放送開局70周年記念公演「鴨川ホルモー、ワンスモア」公開通し稽古より。


【世界観・演出】(※ネタバレあり)

上田誠さんらしい脚本構成としても素晴らしい楽しくて笑える世界観で大満足だった。
舞台装置、映像、舞台照明、舞台音響、その他演出について見ていく。

まずは舞台装置から。
ステージ自体は2段舞台になっていて、その2段目と1段目を行き来出来るように階段の役割を持つのは、下手側と上手側に横に移動できる河川敷のコンクリートを模した舞台装置。また、河川敷のコンクリートを上手側と下手側に真っ二つに移動させると、その中から安倍の自宅の舞台セットが登場するという作りになっていて非常にユニークだった。
ステージの一番下手側と一番上手側に、一つだけ1段目から2段目へと続く階段があったような記憶である。そしてそこには、神社のような赤い柱のようなものが建っていた。
基本的にシーンは1段目の客席から近い方のステージが使われることが多く、特に安倍や高村が中心となるシーンは1段目で行われることが多かった印象だった。一方で、2段目は居酒屋「べろべろばあ」でのシーンや、菅原真たち3回生たちが現れるシーンだったり、「立命館大学 白虎隊」の柿本赤人、「京都産業大学 玄武組」の清森平、「龍谷大学 フェニックス」の立花美伽といった他校のホルモーの選手が出現するシーンに使われていた印象だった。2段目は、そのような安倍の視点から見て上級生や強い立場の存在のシーンが演じられている印象だった。また、芦屋と山吹のシーンなど他校が絡むシーンも2段目で演じ分けされていたような印象を感じた。
河川敷のコンクリートが真っ二つに分かれて移動すると、中には安倍の部屋が出現するが、ちゃぶ台が置かれていて、京子はそのちゃぶ台に突っ伏して寝てしまう。
全体的に凄く豪華な舞台セットかというとそうでもないが、構造は非常に上手く活かされていて、これを原作の小説から思いついた人たち凄いなと思った。

次に映像について。
舞台セットに映像を投影するプロジェクションマッピングが非常に効果的で良いなと思っていた。河川敷のコンクリートや1段目と2段目の段差など、今作の舞台セットにはプロジェクションマッピングを使用するためのセットの組み方を感じた。舞台セットがあまり装飾がないのもそのためであろう。
鴨川ホルモーで必須のキャラクターであるオニは、舞台だと誰かが演じるという形で登場することは不可能なので、映像にして映し出すという効果が非常に良かった。それを全く舞台で再現しないのもおかしな話なので。
私が凄いなと感じたのは、序盤と終盤のシーンの演出で、ヨーロッパ企画の作品だと『サマータイムマシン・ブルース』のように最初と最後が全く同じシーンなのに観客の感じ方が全く異なるというのが素晴らしかった。序盤では安倍たちが鴨川を見ながらホルモーの様子を見ているが、観客たちは全く何のことなのか分からない。しかし、終盤で同じシーンを繰り返して且つプロジェクションマッピングでオニたちを投影することで、観客たちも今作を観劇したことで「京大青竜会」の一員になってオニを見ることができるようになっている、そしてホルモーの意味も分かっているという状態にさせているのが素晴らしい演出だった。たしかにそんな演出を取り入れることで、今作を舞台で上演する意味も見出せるし観客も一緒にホルモーに参加したんだというシナジーを生み出せて良かったのだと思った。
プロジェクションマッピング以外では、同志社大学の新歓の様子を映像で投影したりしていて印象に残った。

次に舞台照明について。
基本的に音楽劇的なシーンやダンスパフォーマンスシーンも多かったので、カラフルな照明がガバっと当てられることが多かった。あとは、割と夜のシーンが多かった印象なので(吉田神社で契りを結ぶシーンや安倍の家に京子が泊まりにくるシーンなど)、ダークブルーの照明が当てられていることが多かった印象だった。

次に舞台音響について。
基本的には音楽が多めの舞台で楽しかった。
例えば、安倍たちが初めてホルモーについて知るときのシーンで男性陣はみんな上半身裸になって踊るシーンの音楽とか明るめの楽曲だった。
また、中川晴樹さん演じるべろべろばあの店長が生演奏で送るギター演奏も哀愁漂っていて素晴らしかった。安倍がさだまさしが好きという設定から、さだまさしの楽曲やちょっと曲調や名前も似た山崎まさよしまで登場して勘違いされるという設定もあって面白かった。中川さんのあの出立とギターとそしてさだまさしというのが非常に似合っていた。

最後にその他演出について。
まず、これはニッポン放送主催の舞台ならいつもそうで、『たぶんこれ銀河鉄道の夜』でもそうだったのだが、最初に客入れとして分かりやすく舞台の登場人物が親しみやすい口調で携帯の電源は切りましょうとアナウンスしてくれるのは非常に良いことだと感じた。あまり、そういう注意をしないで開演してしまう舞台もある中で、新規の観劇客にも優しい注意喚起がなされていて素晴らしかった。
今作のキャスティングは、誰かが特別目立つというよりは、脇役も含めてそれぞれの役者の個性がステージ上に全て反映されているといった印象を受けた。それは、様々なラブコメ要素を包含しているからかもしれない。例えば、楠木と松永のシーンはどちらも理系的な感じで非モテ感のある二人という魅力があるからこそ面白かった。楠木が松永の誘い文句に地球が流星群の中に突っ込んでいるだけと理系な回答をしたり、それを逆手にとって松永は理系チックな告白をすると今度はよく分からないとフラれたり、理系である私は大学時代を思い出したりして(自分がそうだった訳ではないが)面白かった。
また、楠木が実は安倍のことが好きだったと言って彼に近づく所を、松永は目撃してしまってずっと叫んでいるシーンは面白かった。あの叫び方はおそらくアドリブだと思う、そして公演回を重ねるごとに長くなっていると思う。私が観劇したのは4月27日のマチネだったので、割と公演自体も終盤に近づいていて長かった。大千穐楽はめちゃくちゃ松永さん演じる平井まさあきさんが引っ張りそうだなと感じた。
瓜二つの三好兄弟たちのラブコメも非常に好きだった。ザ・タッチかよと思うくらい角田貴志さんと浦井のりひろさんが似ていると思っていたら、案の定「ザ・タッチかよ」と終盤にツッコミが劇中に入って笑った。どっちが大江に選ばれるだろうと二人は悩んでいて、どっちも選ばれないという想定外の結末が面白かった。全然予想通り過ぎて面白かった。
『ホルモー六景』を『鴨川ホルモー』に組み込むやり方はベストだなと思っていたが、山吹巴の件と楠木の件は良しとして、二人静のシーンは含まれていたのだろうか、公演パンフレットには紀野と坂上の二人に二人静と書かれていて『ホルモー六景』を想起させたのだが、それらしいシーンはなかったように感じたが、私が見逃してしまったかもしれない。原作の『ホルモー六景』の二人静の彰子と定子は割と静かな二人組の女性という設定で、今作の紀野と坂上は割とアクティブな様子だったので結びつかなかった。

写真引用元:ステージナタリー ニッポン放送開局70周年記念公演「鴨川ホルモー、ワンスモア」公開通し稽古より。


【キャスト・キャラクター】(※ネタバレあり)

ニッポン放送×ヨーロッパ企画の舞台作品にふさわしいキャスティングで、今人気急上昇中の若手俳優、アイドル、ヨーロッパ企画の劇団員や小劇場俳優、お笑い芸人と幅広いキャスティングがまた良かった。
特に印象に残った俳優について記載していく。

まずは、主人公の安倍役を演じた中川大輔さん。中川さんは、仮面ライダーゼロワンでブレイクした若手俳優で、私は演技を拝見するのは初めてである。
舞台慣れしているという感じはなかった上、主人公オーラはあまり感じられなかったのだが、ちょっと天然でゆるっとしたキャラクター性は観ていて好きだった。ダンスにしても、決して批判している訳でなくキレがあまり感じられずゆるっとした踊りをするあたりが、今作の作風にも合っていたしキャラクターにもハマっていて魅力的だった。
個人的には、もう少し京子に対して強い一目惚れを示す演技を見たかったなとは思った。基本的に、ギターに合わせて歌っていて歌は上手かったので、ストレートな演技としてもっと観たかったかなとは思った。

次に、早良京子役を演じた今ブレイク中の俳優である八木莉可子さん。八木さんはテレビなどでよく見かけるが、舞台で演技を拝見するのは初めて。
細くて華奢で、非常に清らかな姿が男子大学生の人気者になるのは分かるし非常にハマり役だったと思う。京子の役柄として、彼女は非常にモテる女性だが、割と本当は安倍のことが好きだったのではないかと思った。芦屋は非常に男らしいので口説かれるとそちらに行ってしまったが、芦屋に浮気された時に泣きつく相手は安倍だった訳だし、どこかで安倍のことを思っていた気がした。

高村役を演じた鳥越裕貴さんも素晴らしかった。鳥越さんは舞台『ビロクシー・ブルース』(2023年11月)で演技を拝見している。
座組の中では舞台出演回数が多いというのもあって非常に相対的に演技が上手く感じられた。存在感とか声のハリとか観客を引き込ませる演技をされている印象だった。
ちょんまげ姿の鳥越さんの演技も、ちょっと森見登美彦作品ぽさがビジュアル的にあって良かった。

べろべろばあの店長役を演じたヨーロッパ企画の中川晴樹さんの演技も素晴らしかった。
少し『夜は短し歩けよ乙女』の竹中直人さんが演じた李白のようなポジションに見えた。竹中さんが演じても面白いだろうなという役だった。竹中さんは舞台中に自由自在に遊べてしまう猛者のような俳優だが、中川さんのあの哀愁漂う感じのお淑やかなギター弾き語り店長も好きだった。

山吹巴役を演じた日下七海さんも凄く出番多めで、かなりキーマンとなる役柄だったので演技も上手くて観ていて素晴らしく感じた。
芦屋と付き合っている時は、彼に溺愛していて恋する乙女な感じが好きだったが、後半になって芦屋に振られて腹立たしい態度をされるようになってから一変するあたりも好きだった。全力で芦屋に対してキレたり、最後には「同志社大学 黄龍陣」として黄色い着物に着替えて戦う姿は勇敢だったし、変幻自在だなと思った。
そうやって高度にキャラ変しながら舞台映えする演技が出来るのも、小劇場で舞台俳優としてキャリアを積んできたからだなと感じられて良かった。

全体的に、一人の役者が際立つというよりは全体的にどの役者にも個性を持たせてスポットライトの当たるシーンが作られていて、座組全体としてまとまりのある演技に感じられて好きだった。誰かが大勢にかき消されて目立っていないとかそういうことがなくて、その辺りも上田誠さんの演出の上手さと座組愛の強さなのかなと感じた。

写真引用元:ステージナタリー ニッポン放送開局70周年記念公演「鴨川ホルモー、ワンスモア」公開通し稽古より。


【舞台の考察】(※ネタバレあり)

ここでは、原作小説と今作の舞台の感想をつらつらと書いて行こうと思う。

まず、万城目学さんの小説である『鴨川ホルモー』と『ホルモー六景』を読んで感じたことは、非常に森見登美彦さんの作風らしさを感じて親しみやすく感じ、結構描写が走り書き的な部分も多くてイメージできない部分もあったので、映像化や舞台化されたらより面白いだろうなと思った。
この作品は京都大学の学生の物語なので、大学生をやったことある方なら凄くリアリティを感じられるものだと思うし、私のような三十路を迎えた人間だったら青春の懐かしさを感じさせられると思う。新歓時期のサークルの話や恋愛の話、全てに懐かしさを感じた。大学生の時に出会っていたらもっと刺さるものがあったのだろうなと思う。
また、舞台が京都なので関西に住んでいる方ならより親近感を感じるのだろうなと思った。京都大学、京都産業大学、立命館大学、龍谷大学、同志社大学といった関西の名だたる大学が登場して、関西で大学時代を過ごした方にはあるあるとかきっと分かるのだろうなと思った。

私は京都らしさというのがよく分からないので、ホルモーのオニとか式神といった考え方にはあまりピンと来なかったのだが、きっと京都の方であればもっと深掘り出来る要素があるのだろうなと思う。
京都ってあれだけ碁盤の目のように土地が整備されて、昔から青竜、白虎、玄武、鳳凰と守られた土地という意識があるので、そこに準えた設定というのは合点がいった。
また、『ホルモー六景』になると徳川四天王の苗字が出てきたり、織田信長が登場したりと、京都に限らない歴史上の人物も登場して、より幅広い日本史好きに刺さりそうだった。

原作を読んでいて一番好きだったのは、安倍の自宅に京子が来ていて、彼女の体に触れようとして起きてしまって嫌われてしまい、芦屋にコテンパンにされて第十七条を発令するという件。
原作では、第十七条は今まで発令したことはない特殊なルールだからやめた方がいいと言われた記憶だったが、舞台版では以前も使ったことがあるという流れに若干脚色されていた気がした。

舞台版に関しては、先述した通り脚本構成は上田さんの力量が光っていたのだが、やっぱりビジュアル化することによって原作の魅力はさらに引き出されるなと痛感した。
登場人物の個性も可視化されるし、コメディタッチで描けるので盛り上がらせることができる。作品の良さを崩さずにさらに脚本を良い方向へ盛り上げられる上田さんは凄かった。

ホルモーには、細々としたルールや設定があり、私は小説で読んでいて知っていたからすんなりと受け入れられたが、原作未読の人に舞台がどのように映ったのかは気になる所である。劇中に丁寧な解説はなかったので、置いて行かれた方もいらっしゃるかと思うが、そういった方にはぜひ原作小説は読んでほしいなとは思う。
私があまり京都事情に詳しくないので、そこまで考察は書けなかったのだが、それでも十分楽しむことのできるエンタメ舞台だった。

写真引用元:ステージナタリー ニッポン放送開局70周年記念公演「鴨川ホルモー、ワンスモア」公開通し稽古より。


↓上田誠さん演出作品


↓鳥越裕貴さん過去出演作品


↓岩崎う大さん、槙尾ユウスケさん過去出演作品


↓日下七海さん過去出演作品


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