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積極的な取り組みを重ねるも、目標を達成できずにいる東大。ついに「クオータ制」導入を提唱する声も。はたしてダイバーシティ改革は本当に実現するのか


合格者のほぼ半数が女子の「東大・推薦入試」

本田由紀・東京大学大学院教育学研究科教授が、「まだまだ不十分」と評した東大のジェンダーバランス改革。

実際はどのようになっているのでしょうか?

東大は、京大のような「女子枠」の導入には至っていませんが、
女子比率アップに関して現在最も期待されていると言ってもよい
「学校推薦型選抜」
をまず見てまいりましょう。

京大の特別選抜「特色入試」と同時期からスタートした東大の学校推薦型選抜(スタート時の名称は「推薦入試」)では、京大同様、一般選抜の合格者よりはるかに高い女子比率をすでに実現しています。
2024 年度は、合格者 91 人中 42 人が女子で、女子比率は 46.8 %と、ほぼ半数にまで達しています。


もともとは後期日程の後継としてスタート

東京大学の推薦入試は、もともと 2015 年度で廃止となった一般入試の後期日程(募集人員 100 人)に代わる方式として、「学部学生の多様性を促進し、それによって学部教育の更なる活性化を図ることに主眼を置いて」( 2016 年度募集要項)始まりました。

東京大学「平成 28 年度( 2016 年度)推薦入試募集要項」

ところが、2016 年度結果の蓋が開くと、女子比率が一般選抜(女子比率18.4 %)よりはるかに高い結果( 37.7 %)となり、女子比率向上に資する試験方式としても期待されはじめたのです。
 
2021 年度からは、各高等学校から推薦できる人数枠をそれまでの 1 名から、最大 4 名(男女各 3 名以内)に拡大しました。これにより、女子が 1 校あたり最大 3 名推薦される可能性が生まれました

 こうしたルール変更もあって、学校推薦型選抜においては高い女子比率が実現しているのです。


女子向けのイベント開催や住まい支援も。
しかし・・・

では、東大の一般選抜、あるいは学部全体の女子比率はどうなっているのでしょうか・・・

実は、残念ながら、いまのところ大きな改善には至っていないのです。
 
学校推薦型選抜は、こちらも京都大学と同じように、もともとの募集人員が約 100 人と、ごく少数の規模となっていますので、学校推薦型選抜でいくら女子比率がアップしたとしても、悲しいかな全体の女子比率向上ではあまり効果が上がらないのです。

もちろん、そのほかにも、東大は、女子高校生を対象とした説明会や各種イベントを多数実施しており、通学が困難な女子学生のための「女子学生向けの住まい支援」も行ってきています。

 しかし、こうした努力も空しく、6 つの科類をあわせた一般選抜全体の女子比率は、2024 年度は前年よりむしろ 2.4 ㌽ダウンの 19.4 %となってしまい、学校推薦型選抜や外国学校卒業生も含めた合格者全体における女子比率は20.6%にとどまっています


就任以来、積極的に取り組む藤井総長

藤井輝夫総長は、もちろん、こうした状況を座視しているわけではありません。2021 年 4 月の就任以来、ダイバーシティ改革に積極的に取り組んでいます。
  
まず、いきなり世間を驚かせたのが、大学執行部の役員の半分以上を女性にしたことです。

非常勤を含む役員(総長・理事・監事)11 人のうち、女性の数をそれまでの 4 人から 6 人に増やしたのです。
この大胆な変革に、あの東大がいよいよ本気モードに入ったか、と期待された方も多かったのではないでしょうか。

そして、同じ年の 9 月には、基本方針

UTokyo Compass
「多様性の海へ:対話が創造する未来
(Into a Sea of Diversity: Creating the Future through Dialogue)」


を発表しました。

このUTokyo Compassに掲げられた3つの基本理念のうち、一つが
「多様性と包摂性」、つまり、ダイバーシティ&インクルージョンです。

逆に言うと、3 つの基本理念のうちの一つにするほど、東大は多様性・包摂性の改革を重要視しているということがわかります。

 

困難な状況にある学生を迎える
「カレッジ・オブ・デザイン」

そして、いま、一番ホットな話題といえば、「カレッジ・オブ・デザイン」でしょう。

 この学士・修士一貫の 5 年制コースは定員 100 名。
国際AO入試のプロ集団を配置して行われるグロバール入試を実施することによって、半数は海外から学生を迎え入れ(報道によると)、ブレークスルーを起こすという、挑戦的なビジョンが資料の概念図には書き込まれています。

UTokyo College of Design/School of Design概念

ダイバーシティの側面で言えば、「経済的・人道的に困難な状況にある国内外学生」を迎え入れるという方針を打ち出しており、国籍、人種、文化、宗教などさまざまな壁を越えたダイバーシティを実現していきたいという意欲が見て取れます。

ここには、性別のダイバーシティをはるかに超えた、もっと高次元のダイバーシティを実現したいというメッセージが込められているわけです。
東大は、もっと先の多様性を視野に入れたビジョンを打ち立てているのです。

でも、その前に、とっくに解決していなければならないはずの女子学生比率はどうなっているのでしょうか・・・



30 %達成の目標期限は 2026 年まで延長に

2021 年 4 月に就任した藤井総長は、2026 年までに女子学生比率を 30 %にまで高めることをさきほどご紹介した「UTokyo Compass」における 20 の目標の一つとして掲げました。

UTokyo Compass 20 の目標


実は、東大はそれ以前に、2020 年までに女子学生比率を 30 %にまで高めるという目標を設定していたのです。しかし、達成できていませんでした。
ですので、藤井総長は、その未達の目標について、さらに期限を延長したカタチなのですね。

ここで、みなさんが、東大に対して物足りなさを感じるとしたら、京大が発表したような、女子枠設定、つまりアファーマティブ・アクションのような強引な女子比率アップ策は行わないのか、ということでしょう。
 
東大は、女性活躍推進法等への対応もあり、執行部や教職員の女性比率については積極的な動きを見せている印象ですが、肝心の学部における女性比率向上に対しては、なぜもう一歩踏み込んだ施策をとらないのでしょうか?
それとも、踏みこめない事情があるのでしょうか?
 

「クオータ制」を提案!!

ここで、2月に出版されたばかりの書籍をご紹介しましょう。
 
タイトルは、『なぜ東大は男だらけなのか』(集英社新書)。
著者は東京大学大学院総合文化研究科の矢口祐人教授です。

矢口先生は現在、同大学のグローバル教育センター長および副学長をされており、現執行部の一員でもいらっしゃるのです!

矢口先生は、この本の第五章でかなり大胆な提言をしています。

「東大は社会の「ブレークスルー」に貢献する大学になるべき」(p.198)

と説き、さらに、

「現状を抜本的に是正するために一定の入学枠を女性学生にあてがう、
いわゆる「クォータ」の検討を始めるべき」(p.205)

と述べています。

※クオータ(quota)制とは

東大において、クオータ制の議論はタブー視されてきた可能性は高いでしょう。矢口先生は、そうしたタブーを承知の上で、提案をしているのです。

矢口先生は、クオータ制反対論に対して、
「クォータ制をはじめとする是正措置を不公平と指摘するのは、現状の著しい不均衡を追認することにしかならない」(p.206)
と、かなり強い調子で牽制しています。

もちろん、この本自体、あくまで矢口先生の個人的な見解であるとの断りが冒頭に書かれています。

私たちが注目したいのは、こうした大胆なご意見をお持ちの方が東大の現執行部にいらっしゃる、ということです
 

女性が大勢いるのがあたりまえに

東大関係者のみならず、東大にもっと国際的な評価を高めてもらいたいと願う多くの人たちも、おそらく、このままでは、東大の女子比率は上がらないのではないかと、危機感を強めているはずですし、諦めムードさえ漂っているようにも感じます。
 
矢口先生は、そうしたなかば絶望的といえる状況をなんとか打破すべく、クオータ制を提案されたのでしょう。
 
矢口先生は、著書の中で
東京大学では「学生も教員も幹部も極めて均質な内輪の「男の世界」
が築き上げられてきた」(p.217)
とし、
「そろそろその歴史と現実をふまえ、大学の構造転換を本格的にしなければならない」(p.217)
「大学に女性が大勢いるのがあたりまえになることは、そのための大切な第一歩である」(p.217)
と切々と訴えています。


改革の起爆剤になるのか

今回の矢口先生の勇気ある発信が、
ダイバーシティ改革の起爆剤となって、東大が多様性の海に本当に漕ぎ出すことができるのか

それとも、長年続く学生受け入れの伝統を決して曲げず、いっそう頑なにしがみつくことになるのか

大いに注目をして参りたいと思います。

(なお、この本の終章の末尾は、東大のダイバーシティ・インクルージョンを積極的に推進する藤井総長への感謝の言葉で閉じられていますので、ひょっとすると藤井総長からの何らかのサジェスチョンがあっての出版だったのかもしれませんね)

次回は、大学において、なぜダイバーシティ改革が必要とされているのかをもう少し広い視野で考えてみたいと思います。




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