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「人マニア」を考察する人こと私

もう更新していなかったnoteをひっぱりだすぐらいに書きたいから書くことにします。ログインに必要なIDやパスワードがわからなくて、2回間違えたのち、無事に入ることができました。

書きたいのは「人マニア」についてです。

こちらです。
2023年8月に投稿された、原口沙輔氏によるボカロ(重音テト歌唱)の曲です。概要はピクシブ百科事典などをご参照ください。歌詞も出ています。

私自身もそれ以上のことは知らないし、ボカロ曲を聴き始めたのは今年からで、だからこれは書きたくて書いているだけの殴り書きです。音楽にも詳しくありません。強いていうなら、今回、原口沙輔氏がEテレ「ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン」の全音楽を担当していると知って度肝を抜かれました。しかも私が好きなアズキ・マロン・茶太郎の代から。

あとは、私は現代短歌に取り組んでいる歌人(柴田葵)だということをご承知おきください。以下は、そういう人が「人マニア」について書きたい、ただそれだけの文章です。


サンプリングについて

私がこの曲を聴いたのは2023年10月28日です。なんでこんなにすごい曲を誰も教えてくれなかったの? と思いました。誰にも教える義理はありません。けれども、私、割と『X』は閲覧しているんです。なのに、私の視野には発表から3カ月も入ってこなかったのが悔しくてなりませんでした。

だから、リピートして聴いて、歌詞も読んで人による「歌ってみた」もミクちゃんの「歌ってみた」も聴いたのちに、考察を検索しました。けれども、共感できる考察を見つけることができず、この情熱を消化するためには自分で書くしかないという結論に至ったのです。だから、単純に「そういった論」をまだ見つけられていないだけかもしれないのでもし「そんなことは前提なんだよ」「さんざん擦られた話なんだよ」と思っても、思うだけに留めていただけると幸いです。「教えてくれ」とか「教えてくれるな」とか勝手な人ですね。

それでは慎重に始めますが、「人マニア」のテーマは「サンプリング、コラージュ」だという話って既出だったりします?

私が「人マニア」を聴いて最初に思い浮かんだのは、新聞から言葉を切り抜いて面白い標語をつくるコラージュでした。

上記の記事にあるようなものです。今では小学校の宿題として出されることもあるみたいですね。

興奮してきた
人様の業で
センター分けの
つむじ刺す

「人マニア」歌詞

曲の頭から「意味の通らなささ」を強調するかのような挑戦的な歌詞ですが、「興奮してきた」「人様の」「業で」 「センター分けの」 「つむじ」「刺す」に分解すれば『X』に毎日滝のように流れている言葉です。特に初手の「興奮してきた」はもはや「ネットミーム」です。

こう思うと「人マニア」の歌詞はすべてがそうで、インターネット、というかむしろ(歌詞にも登場する)『X(ツイッターと読む)』からサンプリングされた言葉を組み合わせている気がしてなりません。

MVに出てくる男性の顔も映画「シャイニング」のあの人っぽいし、挿入されている叫び声にも妙に聞き覚えがある気がします。実際、あの叫び声は「人マニアの叫び声を○○に置き換えても違和感ない説」などとして、さまざまな音に置きかえた動画がTikTokで流行っています。つまり「みんなが聞いたことがある気がする叫び声」です。途中に出てくるニコニコの弾幕も、実際にあったものです、という断りが添えられています。つまり、歌詞も歌詞以外も「既存のものをサンプリングし、組み合わせた」というスタンスを全体に貫いた作品だと思います。
※弾幕以外は、実際に既存のものかはわかりません。少なくとも画像はオリジナルじゃないと権利関係にひっかかるし。

ポリエステル仕事
はムリか
金で殺して
愛を買うね。

「人マニア」歌詞

ここの歌詞、私、もう本当に大好きなんですけれど、「ポリエステル」「仕事」「はムリか」「金で」「殺して」「愛を」「買うね」に分ければ、それぞれ、本当に、飽きるほどよく見る言葉です。

もしサンプリングだとしたら

もし「ポリエステル」「仕事」「はムリか」「金で」「殺して」「愛を」「買うね」が『X』からサンプリングしてきた言葉だったとしたら。

実際、検索すればたくさんポスト(ツイート)が見つかりますが、例えば
「ポリエステルの服は適当に洗えるから最高」「安価なポリエステル製の服ばかりになって貧しい国になった」
「仕事行きたくない」「好きなことを仕事にする100の法則」
「もう世の中が辛い殺してほしい」「推しが尊すぎて死にそう殺して」
「面白そうな本だね、買うね」「俺だったら素人に浮気せず女を買うね」
どこからサンプリングしたって同じです。言葉そのものには人格はないから。

親愛のメッセージ、説明文、呪詛、どこからサンプリングされたのかはわからない言葉を、私たちは聞いているのかもしれません。

「人」だから考察する

サンプリングされた言葉の羅列から意味を読み取るのは人間の習性です。「人マニア」の考察でよくみられたのが、

アホの
吐血見てると
チョキで
勝てる気すんな

「人マニア」歌詞

この歌詞の「チョキで勝てる」→相手はパーを出す→相手の頭はパーだと馬鹿にしている、というもの。そうかもしれません。

ただ、そのように読めるのは私たちが「人」だからです(人の考察を食ったAIならそのように回答する可能性はありますが)。サンプリングだと仮定した場合は、「アホの」「吐血」「見てると」「チョキで」「勝てる気すんな」を並べただけ、事実はそれだけかもしれない。

言葉は、発信者、受信者、どちらが主導権を握っているのでしょうか。

(個人的には「チョキで」は「サザエさん」のじゃんけんをずっと追っている人のポストから採取したと思いたい)

「全毒」について

この記事では「人マニア」は「人」の言葉をサンプリングした楽曲だという理解です(短歌を読解する際は「理解」ではなく「読み」と言いますが)。だから「人マニア」。それを「人」が聴いてなにかを読み取る。なぜなら「人」だから。

そうすると気になるのが、最後の方に出てくる「全毒」という歌詞です。「全毒」という熟語は辞典には載っていません。

一方、「人マニア」が発表される前に「全毒」という言葉が『X』にあったのかを検索すると、多くのポストがヒットします。よくわからないものも多いのですが、モンストの「全敵毒メテオ」を略したケースが多くみられました。もしくは「全毒親に聞いてほしい」のような、熟語あるいは文章の一部を単語に沿わずに切り取った例です。

逆にいえば、サンプリングしないと、一般的な辞書には「全毒」という単語は出てきません。ネットミーム化している「興奮してきた」から歌詞をスタートさせ、最後は「全毒」というネットからサンプリングしないと出てこない言葉を熟語として使用する。どんどん「人マニア」度が深まるルートを描いていると、個人的には捉えています。

なんて美しい構成なんだ。

しかし天才が作っている

ここまで「サンプリングした言葉を並べてただけ」みたいな物言いをしてきましたが、真にすごいところは、原口沙輔氏という天才が作った楽曲であること。

私は現代短歌の歌人なので(短歌も「歌」ですが)楽曲の知識はないので、一旦、この章では言葉の話だけにしますね。

どの言葉を使うか、どう並べるか、言葉を何度繰り返すか、それはひとりの人間によって判断されたものです。それで、これは歌人としていうのですが、この歌詞の奇妙にも思える言葉の並びは「奇をてらっただけ」ではなく、ため息が出るほど天才的な、絶妙な体幹のずらし方をしていることをひしひしと感じます。これは論理的には今すぐに説明できません。ただ、普通の人にはできない。この求心力。考察の誘発させ方。楽しさ。美しさ。中毒性。ただただすごい。

おわりに

あと少し書きたいことを書くと、私は「人マニア」のイントロに、アニメ『コジコジ』のED曲「ポケット・カウボーイ」(電気グルーヴ)を思いました。大好き。(もちろん似ているという意味では決してありません、どちらも名曲だから)



ここまでお読みいただきありがとうございました。すっきりしました。

この文章がここまで読めた方、少しでも面白いと思った方は、多分、短歌(歌集)を読むと面白いと思います。言葉から考察するのが短歌だとも言えるからです。私の歌集(短歌の本)は、表紙を描いてくださった宮崎夏次系さんの漫画が好きな人、ボカロ好きな人にもおすすめです。Amazonからだと、最初の連作20首「ぺらぺらなおでん」だけ試しに読めるのでリンクを貼っておきます。

あと、「ダ・ヴィンチ」11月号の短歌特集(同時特集は呪術廻戦)で、芸人のヒコロヒーさんと対談しました! こちらもよろしくお願いします!

また、短歌、書評、エッセイ、インタビューなどの仕事を随時募集しています(学生の方以外、無償でのご依頼は基本的にお断りしております)。略歴や掲載情報を載せておきますので、なにかありましたらぜひ。

宣伝が長くなりました。
おわり。


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