きみは短歌だった

【課金する②】 メロンパンのメロン部分を永遠に手放しながらふたりで暮らす

かつて、課金しないと服すら与えられず、はだかのまま冒険に繰り出すオンラインゲームがあったそうだけれど、とても人生だなと思う。

最近のゲームは初期設定から服を着ているようだ。なんなら、多少の選択肢もあるらしい。そういえば、オンラインゲーム・ガチ勢を自称する兄は「最近は無課金ユーザーに甘過ぎ」と溜息をついていた。兄は元気だろうか。

昔から私にはゲームの才能が無くて、なにをやってもうまくいかなかったから、上手な人がゲームをするのを見ているのが好きだった。特に、歳の離れた兄が操作するテレビゲームの世界を見るのは楽しかった。兄はゲームにのめり込んでいて、その姿に両親は困惑していた。ゲームの世界で、兄は神さまのようだった。神さまの所業を見るのは、どこまでも自由な気持ちになれた。

今は恋人の操作するオンラインゲームを見ているけれど、恋人の操作は神レベルではなかったし、ゲームにかける時間も限られていたし、課金もしなかった。ゲームの世界も、なんというか「それなり」だ。自由は効かないし、勝ったり負けたり死んだりする。躍進もしないけれど、たまに良いことが起こる。

私たちは来月入籍する予定だけれど、お互い二度ずつ仕事を辞めていたから、あまりお金が無かった。あまり、というか、かなり無かった。数年前に恋人は別の人と結婚していたこともあって、そんな背景から、私の両親は私たちの結婚に反対していた。「良識」というものがあった時代の「良識的」な両親だった。彼らは彼らのルールで生きているだけなのだ。それがゲームというものだから。

この世界のチュートリアルは、最初の一度きりしか見ることができず、見過ごした人間たちは手探りで進んでいくしかないらしい。私たちは結婚することで、なにを得て、なにを失うんだろう。私はゲームがとても苦手だし、おそらく神さまにはなれないと思う。月に一度くらいひどく泣くかもしれない。

ねえ、それでも、ふたりで暮らすルートを選んでくれてありがとう。

私たちは最善をつくそう。


◇短歌◇
メロンパンのメロン部分を永遠に手放しながらふたりで暮らす
/柴田葵


【課金する①】https://note.mu/youwere57577/n/n1c009e360ecb

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