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詩集「揺曳」

27
「緑風橋 吹田」より「断層」までの二十七編。
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記事一覧

(詩) 「断層」

底流の反響 岩壁に降り立つ鳥の影 向きを変えてながれる風 遠退いてゆく震動 潮目

臨  機清
9か月前
17

(詩) 「青き花々へ」

一輪の花でしかないものを それもこの目で見た訳でないものを いかに愛でるというのだろう 鳥…

臨  機清
9か月前
26

(詩) 「嵐の記憶」

私達は 強大な嵐が到来する先に 既に時の流れをあらかた掴む 十分な備えと用心をして 庭を片付…

臨  機清
9か月前
26

(詩) 「上り坂」

眠ったままの朝の鼓動と 凍ったままの夏の陰影と それは何時もと同じだったか 何をするでもな…

臨  機清
9か月前
29

(詩) 「灯火のそばで」

干からびた芯棒が 書斎の本棚を支えている 漂泊への想念が消えぬようにと 酷暑の湿気に容赦な…

臨  機清
9か月前
26

(詩) 「祝祭」

午下の陽光を受け止めた大気が 白く霞む 野を刺す新緑が 輪のように静寂を描く 湖畔 剥がされ…

臨  機清
10か月前
35

(詩) 「鼓動」

大らかに羽をおさめて 土に還ってゆく春の鳥達の 高い鼓動に耳を澄ました あの稀な静寂が光源を失って 枝がひとつひとつ折られるように 崩れおちる 秋の落葉の影 ひとつの時代の内側で 開け放された扉を まだ風が薄く吹き抜けている 書きかけた手紙のように 言葉が途絶えてしまう 余白が青く腐蝕してゆく 遠景を区切ってきた 一本の橋が 焼け落ちるように 壮烈な響きの中に倒れた たんなる他人事に過ぎず 私は疲れている 私の足取りは重い もはや眼を向けることもない 夥しい破片が

(詩) 「常夏へ」

海辺の砂 砂粒の色 風の色 色と匂い 雲の彼方 心に射す影 影に響く 音の色 高き香り 風に揺れ…

臨  機清
10か月前
23

(脚韻詩三編) 「夏へ向かって」

ヒペリカムヒデコート 初夏の虫たちにあふれ 近づいた雨を聞こうと 町を染む赤き実に触れ ※ …

臨  機清
11か月前
34

(詩) 「季節の余韻」

五月と夏の境界は 影の谷のように沈む 道々を支えた杖が 手の中でくずれ 土に環る たたまれ…

臨  機清
11か月前
42

(詩) 「Into Konrad Inhaへ捧ぐ」

あなたの唄をきこうと あなたの記憶を辿ろうと もう開く事のない扉の鍵を探し 歩いてまわった…

臨  機清
11か月前
31

(詩) 「荒野にて」

五月はその顔に覆いをかけて ひとつの気配を残して去った 足元に酸が撒かれている それは わ…

臨  機清
11か月前
36

(詩) 「緑風橋 梅雨期」

季節の大気は影をもこもらせ 何もかも壜越しに見渡すようにした そして裏路地を白くくすませて…

臨  機清
11か月前
18

(詩) 「無題」 (作品16)

帰る道を見失った 晩秋の荒涼 空をひとつの兆候が覆う 立ち尽くしたわれわれを 変わらずに見下ろす顔 煙草の火を風が吹き消す 倦怠が押している鐘の音響 瞳 開けた瞳 樹を見る瞳 時間が霞む 戸口に染まる影 白い窓 朽ちはてた花瓶の列 花の瞳 電柱にこびりついた傷痕 薄れゆく日没 ※ 彼女の瞳は死者のように見開かれ この大地を見下ろしている われわれの営みを その全てを 風が留めた記憶をも 陽は赤く翳り 細い鮮血のように 水平線にゆらめいている 百年の歳月が凝結し