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バンクシー 切り刻まれた作品が特別展示 ー 森アーツセンターギャラリー の MUCA展

 MUCAムカ はドイツ・ミュンヘンにある美術館 Museum of Urban and Contemporary Art の略称です。ほぼその所蔵作品による展覧会が東京・六本木ヒルズにある 森アーツセンターギャラリーで始まりました。「MUCA展 ICON of Urban Art ~バンクシーからカウズまで~」 です。

 昨年2023年から今年にかけて大分(大分市美術館)と京都(京都市京セラ美術館)で開催され、東京が巡回展の最後になります。
 私は今年2024年1月に京都市京セラ美術館でMUCA展を観ましたが、東京会場での展示も楽しみでやってきました。

 東京メトロ六本木駅から地上に向かうエスカレーターに乗り、あのクモの大きな彫刻《ママン》(ルイーズ・ブルジョワ)の前を通過します。よく通る場所なのですが、この彫刻が印象的で、特に天気がいいとカメラを向けてしまいます。

 途中にMUCA展のポスターもありました。心待ちにしていた展覧会でしたので、いよいよ始まったな…と気持ちが高まってきます。

 さらに進んで左側に美術館や展望台への入り口があります。円形の階段を上り、細い渡り廊下の先がチケット売り場です。私は事前にウェブで予約していたので、奥にある入り口へ進み スマホのQRコードをかざして中に入りました。(今回の MUCA展 は1時間ごとの日時指定になっていました)


 チケット売り場は3階で、会場の52階までは直行のエレベーターに乗ります。
 エレベーターホールを出て右へ曲がると入り口が2つあります。左側が展示スペースもある展望台「東京シティビュー」。右側が今回の会場である 森アーツセンターギャラリー です。

 カメラとスマホ、サイフ以外の持ち込みは禁止されていました。係りの人はカバンなどの持ち物を、ハンドバックを含めて、奥にあるコインロッカー(コイン返却式)に預けるよう案内していました。


KAWSカウズ から始まりました

 MUCA展はバンクシー、KAWSを中心に合計10人のアーティストを取り上げ、それぞれのアーティストごとに作品が展示されていました。
 最初のアーティストがアメリカ・ニュージャージー出身でブルックリンを拠点にしている KAWSです。代表的なのが「コンパニオン」というキャラクターで、その一人(一つ?)ブラウンの人体?解剖模型が観客を出迎えます。《4ft Companion (Dissected Brown)》(4フィートのコンパニオン、解剖されたブラウン版、2009年)です。

 

 次の部屋には コンパニオンの絵画が3つ並んでいました。顔を拡大した向かって左側が《M4》、右側が《M7》です。そして、奥にあるのがコンパニオンのチャムがかわいらしく?走っている《ランニング・チャム(走る友だち)》です。3つとも 2000年の作品です。

 

 企業の広告にキャラクターを書き加えた《Ad Disruption(広告への悪戯)》シリーズが並んでいます。左からカルバン・クライン、DKNY、ナイン・ウェストの順で、1997年から1998年の作品です。

 

 部屋の真ん中には《KAWS BRONZE EDITIONS #1-12(カウズ・ブロンズ・エディション)》がガラスケースの中に収められていました。KAWSがこれまでパブリック・インスタレーションで表現したキャラクターをミニチュアにしたものです。全部で12体あります。それで気がついたのが…

 

 入り口のブラウン模型の後ろに金網がありました。奥に無造作に置かれていたのが小さな梱包箱です。
 最初に見た時は、梱包箱を小さくした作品かと思いましたが、ミニチュアのブロンズエディションを入れるための本物の梱包箱と考えると腑に落ちます。箱の数も12個でブロンズエディションと同じ数でした。

 1月に観たMUCA展京都会場では1番目がバンクシー作品で、横の壁に金網があり、その奥にも梱包箱がありました。本来だったら隠しておくストックヤードのような場所をわざと見せているのが不思議でしたが、これがMUCA展のスタイルなのかもしれません(※1)。

 

 

会場の最後に展示されていたバンクシー

 会場の形について話しますと、六本木ヒルズ52階はエレベーターホールや53階の森美術館に昇るエスカレーターを中心に、東側にレストランがあり、南側が52階会場の入り口になっています。そこから西側を通って北側にぐるっと回り込むように展示スペースと展望台が設けられています。内周部の展示スペースが 森アーツセンターギャラリーで、会場の形は、東側を除いたカタカナの「コ」の字型になっています。
 入り口最初がKAWSのエリアでした。そして、コの字型の最後の直線部分に広いスペースがあり、バンクシーの作品が展示されていました。

バンクシーのエリアは、会場内が暗くなっています。

 

 部屋の中心にあって目立っていたのが《Ariel(アリエル)》です。2015年にバンクシーがプロデュースしたディズニーランドのパロディ「ディズマランド(Dismaland)」の中心的な作品で、現地ではお城の前の池に設置されていたということです。岩の上に乗った人魚が揺らいでいるような作品で、顔も二重に見えるこの姿に、私はなぜか焦点を合わせられない変な感覚に陥ります。
 
 京都会場で見た時には台座の上に高く乗せられていましたが、ここ東京会場ではアリエルの周りだけ床が鏡面になっていました。
 それで気がついたのが、アリエルは実は、池に映った姿なのではないかということ(気がつくのが遅い???)。風で水面が波打っているところに映った姿を頭が上になるように作ったのがこのアリエル像とすると揺らいで見える理由がわかります。
 そして、床の鏡に映ったのが水面の下から見た現実の姿。でも、その水面も揺れているので、元の姿はわからないということになるのでしょうか。
 この考え方が正しいのかはわかりませんが、そう考えると、焦点があわなくても変な感覚にはならずにすみました。不思議なものです。


 バンクシー作品の中でも有名な《Love Is In The Air》、別名『Flower Thrower(フラワー・スロウワー)、花束を投げる男』もこの部屋にありました。ストリートではなく、カンヴァスにスプレーした2002年の作品です。


 もう一つ、バンクシーの代表的な作品《Girl With Balloon(少女と風船)》は小さく仕切られた次の部屋にありました。型を抜いた板状のものの上からスプレーなどを吹き付けるステンシル技法でカンヴァスの上に描かれていました。2004年に作成されました。この構図が最初に描かれたのは2002年で、場所はロンドンのサウスバンクということでした。

 そして、同じ小さく仕切られたスペースには…

 2018年10月、ロンドンにあるサザビーズのオークションで、104万2000ポンドの値で落札された直後に切り刻まれた少女と風船の絵画は、元々は2006年の作品でした。
 当時、日本のニュース番組でもオークション最中の様子と落札直後に額縁の中の絵画が下に引きずり込まれて切り刻まれ、会場内に悲鳴が上がり、そして途中で止まった場面が放送されました。その後、作品は《Love Is In The Bin(愛はゴミ箱の中に)》になったとも報道されていました。私も、その衝撃的なニュースを見ていた記憶があります。
 
 2021年には、切り刻まれた作品が再度オークションにかけられ、何倍もの値段で落札されたということです。昨年2023年には韓国の仁川インチョンでこの作品が公開され、その時に、偽物を排除するためにバンクシーの作品であることを認証する機関、ペスト・コントロール・オフィスが、作品名は《Girl Without Balloon(風船のない少女)》で2018年の作品と発表しました。額縁に隠されたシュレッダーで切り刻まれた瞬間に作品が完成したということのようです。
 
  MUCAが所蔵する作品ではありませんが、東京会場の特別展示で MUCA所蔵の《Girl With Balloon》の関連作品として同じ部屋に飾られました。

 

 この展覧会では写真撮影、動画もOKですが、この作品は動画が禁止されていました。スマホのLIVE設定(シャッターチャンスを後で調整できるよう撮影前後も記憶する機能)もNG。通常の写真撮影だけということでした。

 


今回の展示会では他に8人のアーティスト作品が展示されていました。

・シェパード・フェアリー(Shepard Fairey)

 シェパード・フェアリーはアメリカ・サウスカロライナ州出身。ストリートで活動していながら実名で作品を公表していた珍しいアーティストで、そのために捕まる回数も多かったという話しもあるようです。
 
 会場ではKAWSの隣のスペースを仕切って展示されていました。中央 上の《Peace Goddess(平和の女神)》はボブ・マーリーやジミ・ヘンドリックスの肖像画で守られているように配置。女神の下にある《Big Brother Is Watching You(あなたの行動は監視されている)》はジョージ・オーウェルの小説『1984年』の復刻版の表紙に採用されたということです。
 向かって左側の壁には《Obey With Caution(注意して従え)》。これも現在の監視社会を風刺した作品ということです。
 
 2008年のアメリカ大統領選挙期間中に自主制作したバラク・オバマの『HOPE』ポスターはオバマ氏のイメージアップにつながったとされています。フェアリー自身がこういったステッカーキャンペーンやポスターキャンペーンが好きだと話す動画も会場に流れていました。

 

・スウーン(Swoon)

「コ」の字型会場の角に位置する小さな部屋には、真ん中に大きな柱があります。写真では柱の右側にある二つの作品がアメリカ・コネチカット州出身、スウーンの作品です。小麦粉と水でできたペーストを使って絵や写真を貼っていくウィートペースティングという手法を用いるアーティストです。
 小さい作品(二つのうちの左側)が《Silvia Elena(シルヴィア・エレーナ)》でウィートペーストを用いた作品。大きな作品(右側)が《Ice Queen(アイス・クイーン)》で、コーヒー染めで色を出しているということです。

 

・インベーダー(Invader)

 フランスの覆面アーティスト、インベーダーは1970年代、80年代のテレビゲームで使われたキャラクターをモチーフとして建物の壁などにモザイク画を作成してきました。
 会場ではルービック・キューブをドットの小さいモザイク画として利用した作品が印象的でした。写真のうち大きい作品が 《Rubik Arrested Sid Vicious(ルービックに捕まったシド・ヴィシャス)》。
 シド・ヴィシャスは1970年代後半のパンク・ロック・バンド、セックス・ピストルズのベーシストで、その行動が物議を醸していました。シドの正面と横から撮った顔を、警察に捕まった容疑者の写真のようにルービック・キューブで表現しています。
 
 インベーダーは世界各地でキャラクターのモザイク画をストリート・アートとして展開しており、日本では東京の代官山に、今では撤去された歩道橋に作品を描いていました。会場で流されていた動画は、世界中で描いた作品を紹介しており、その中で一瞬、映っていました。映像の展開はスピードが速かったのですが、インベーダーの活動がわかりやすく表現されていたと思います。

 

・リチャード・ハンブルトン(Richard Hambleton)

 カナダ・バンクーバー出身のリチャード・ハンブルトンは1980年代にニューヨークのストリートで活動していたアーティストで、シャドウマンと呼ばれる人の影のような作品を公共空間に描いていました。
 その活動場所はアメリカ、カナダの主要都市のほかにパリ、ロンドン、ローマ、ベネチアにも及んだということです。バスキア、キース・へリングと同じころに活動し、バンクシーも彼の影響を受けたと言われています。

 

・ヴィルズ(Vhils)

 ポルトガル出身のヴィルズは、廃棄された素材にポートレートを描いています。今回の展覧会では都市から排出された木製ドア、石膏ボード、金属板、路上広告ポスターに人の顔を描いた作品が並べられていました。

 

・バリー・マッギー(Barry McGee)

 バリー・マッギーの活動は1980年代に彼の故郷であるサンフランシスコで、壁にグラフィック・アートを描いたところからスタートしました。
 私にとって バリー・マッギー は、テイ・トウワのCDジャケットをデザインしたアーティストとして印象に残っています。今回の展覧会では、幾何学的なデザインと、独特のキャラクターがあり、それらの作品を見ているとやはりCDジャケットを思い出します。
 最近、バリー・マッギーは日本でも活躍していました(※2)。

 

・JR
・オス・ジェメオス(Os Gêmeos)


「コ」の字型会場のもう一つの角の部屋には JR と オス・ジェメオス の作品が並べられていました。

 フランスのストリート・アーティスト JR は、人々のポートレイト写真を建物の壁などに貼り付ける「insideout プロジェクト」を世界中で展開しました。2022年にはドイツ・ミュンヘンでもプロジェクトが実施され、MUCAも会場の一つになっています。
 その時のポスターが部屋中央の大きな柱に貼り付けられ、また、プロジェクトの活動が、壁に設置したディスプレーに映像として流されていました。

 オス・ジェメオス はポルトガル語で「双子」という意味です。ブラジル・サンパウロ出身の双子のストリート・アーティスト、パンドルフォ兄弟のグループ名になっています。
 彼らはお互いにかける言葉が少なく、それでも息のあった創作活動を展開していました。部屋の柱の後ろにあるのが彼らの作品《Untitled Guitar(無題のギター)》と《Rhina(リーナ)》です。

 

 


 

展覧会ショップでは

 会場の最後の部屋は展覧会ショップになっています。扱っているのは私が見たところTシャツ、トートバッグ、それに図録でした。
 図録は東京会場で展示された作品の写真集になっていて、アーティストの簡単な紹介が添えられています。バンクシーの切り刻まれた《Girl Without Balloon》も含まれていましたので、東京会場にやってきた記念として購入するのもいいかもしれません。

 

音声ガイド

 音声ガイドはスマホアプリ「ArtSticker」の機能を使ってデータを購入する形で提供されていました。ですので、会場へはスマホだけでなくイヤホンも忘れずに持参してください。会場入り口でアプリのダウンロードや音声データ購入の方法を案内していましたが、事前に登録、購入しておいたほうがバタバタしないですむと思います。
 ナレーターは『ドラえもん』でジャイアンの声を担当した木村昴さんでした。
 そして、特別展示の《Girl Without Balloon》は オフィシャル・アンバサダー の 水上恒司さんが解説していました。
 
 私が使ってみた感想としては…。
 スマホのカメラと音声ガイドを交互に利用していると、いつの間にか音声ガイドが終了していて、次の解説を聞くにはログインしなおす必要がありました。
 時間があれば、まず音声ガイドを聞きながら一通り作品を鑑賞し、次に会場内を戻って写真を撮ることに専念するといった方法があると思います。私は途中からそうしました。

 


 

 鑑賞しおわって会場の外にでると、近くにガラス窓があり北側を展望できます。外が見えない展覧会会場から出て開放的な気分になります。
 すぐ下には 国立新美術館 がよく見えます(写真右下)。
 そして、そこから視線を上げていくと東京オリンピックのメイン会場になった国立競技場があります。写真では周りの建物に隠れてしまっていますが、肉眼ではわかりやすいと思います。

 


 

(※1)

 写真は今年2024年1月に京都市京セラ美術館のMUCA展で撮った入り口近くの写真です。京都会場ではバンクシーの《Bullet Hole Bust(弾痕の胸像)》が1番目の展示作品でした。右横の壁側が金網になっていて、作品を梱包していたであろう木箱らしきものが奥に置かれていました。

 


 

(※2)

 3月に入ってからバリー・マッギー(Barry McGee)の作品が発表されました。

 渋谷区が進めている シブヤ・アロー・プロジェクトは、災害時に一時避難場所へのルートがわかるように、目印になるようなアート作品を増やしています。
 恵比寿駅近くのJR線路下の道路に、プロジェクトの一つとして バリー・マッギー の作品が描かれていました。

 明らかにバリー・マッギーの作品です。


 反対側の壁もシブヤ・アロー・プロジェクトとして紹介されていました。


 狭い双方向の道路です。災害時の一時避難場所に指定されている恵比寿ガーデンプレイスから約1キロの位置です。

 

 シブヤ・アロー・プロジェクトは2017年に始まり、2024年に入ってからプロジェクトを仕切り直しています。リニューアル第一弾がバリー・マッギーの作品でした。

シブヤ・アロー・プロジェクトのウェブサイト
これまでのシブヤ・アロー・プロジェクトのウェブサイト

 


 

(補足)

 KAWSについてですが、2021年7月から10月にかけて、ここ 森アーツセンターギャラリーでKAWSの大規模展覧会としては日本国内で初めての「KAWS TOKYO FIRST」展が開かれました。
 初期の作品から当時の最新作まで150点を超える作品が展示され、私はおもしろく鑑賞した記憶があります。

 

(3月22日) 

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