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平安女子が熱中した「うつほ物語」がKindle unlimitedに収録されました!☺️

古典好きが歓喜するツボを押さえている角川ソフィア文庫。
このシリーズは、初めて読む人がつまづかないよう配慮されている優れもので、あらすじ→現代語訳→注釈の順で物語を読み進めることができます。

注釈が充実しているのも、いい。
難を挙げればダイジェストなので全訳では読めないところ。
でも、それはないものねだりで、話の筋はじゅうぶん理解できますし、テキストもサイズもコンパクトな文庫で手に入るのだから嬉しい。
今ならkindle unlimitedに収録されていますので、ワンクリックでポチることができます。
この機会にぜひどうぞ。

平安時代の物語といえば「源氏物語」が有名ですが、実はさきがけとなる作品が数多く生まれ、貴族階級の女性たちに愛好されていました。
月世界から訪れた美貌の姫をめぐる貴公子達の恋の鞘当てを描く「竹取物語」。
継母の迫害から逃れて隠れ住む姫が、長谷寺の観音さまの御加護で玉の輿に乗る「住吉物語」。
継母にいじめられるがままの気弱な姫を逆境から救い出した貴公子が、姫が得るべき財産と身分を回復して家門の繁栄をもたらす「落窪物語」。

それぞれ個性的で読み応えのある物語ですが、物語のスケールが大きく奇想にあふれているのが「うつほ物語」だと思います。
唐土へ渡った音楽の天才が門外不出とした琴の奥義の、親子4代に渡る継承と一族の繁栄、絶世の美女あて宮の結婚話、源氏と藤原氏の政権争いと皇位継承が入り混じる宮廷ミュージックファンタジーです。
ストーリーテリングの点では粗く、現代人には物足りないところはありますが、いつの時代も女性は

王子様が好き!


これは変わらないんだなあ…としみじみしてしまうお話。

先祖から伝えられた奥義を極めた琴の天才、仲忠。
名門の貴公子で音楽の才に恵まれる涼。

どちらが美女あて宮の婿にふさわしいか、琴で競って決めようではないか、と嵯峨院の御前で対決するシーンでは、あまりの音色の素晴らしさに天が感応し、天女が舞い降りて吉祥を顕すというファンタジーで、人々は驚き呆れて結婚話はうやむやになるのでした笑

サロンの会話の話題として
「仲忠と涼、どっちがイケてる?」
は好まれたようで、宮廷でも定子中宮の御前で二手に分かれて論じ合い賑やかに盛り上がる描写があります。
現代に置き換えると、
「キングダムの推し武将は誰か」
「姫川亜弓と北島マヤ、紅天女にふさわしいのは誰か」
で、ファンが盛り上がるのと同じで、ファン心理は1000年経っても変わらないものだなあと思います。

結局、大勢の求婚者をソデにして、あて宮は皇太子妃になるので、オチの付け方としては何も代わり映えしないのですが、当時の読者にとっては
「姫君の縁談」
大勢から求婚され、誰と結ばれるのか?は白熱するテーマです。
そういえば源氏物語も、

不幸な生い立ちの女の子
長谷寺の観音に参拝した御利益でお屋敷に引き取られる
都会の水で洗われて都で一番の美女に大変身
大勢の貴公子からモテモテ
宮様や皇太子からもプロポーズを受ける
帝付きの女官長に内定
あっと驚く玉の輿!

という、ワケアリのヒロインを主人公にしたスピンオフ「玉鬘十帖」があります。
過去のヒット作のウケる設定を盛り込んだ玉鬘十帖、紫式部先生はネタ切れで四苦八苦したに違いないと確信しています笑
読者の反応が弱くなったから、新キャラ登場で巻き返さねばという焦りでシンデレラストーリーで新展開したら、想像以上にウケてしまって、一条天皇も
「早く続きを知りたい」
と仰せになった。
道長&倫子夫妻に、皇子の誕生はお前の筆にかかっている!紙と墨はいくらでも用意するぞ、早く書けと追い込まれたとしか思えない笑
ネタ切れで書けないけれど、書かないといけない時は
「過去のヒット作」
のパターンをなぞりつつ、ずらしを入れるのはクリエイターのネタ出しの定石ですが、平安時代から変わらないのですね。
でも、そこは紫式部先生、不幸なヒロインが玉の輿に乗るという読者受けする話に、
「どう生きるのが幸せなのか」
「本当にそれで幸せなのか」
という疑問を投げかけていて、幸運であるはずのヒロインはずっと不機嫌です。

后の位は望めなくても、女性の人生の完成は結婚にある。
立派な親に世話をされて身分相応の婿を持ち、家庭に納まって子供達を世話する。
夫婦関係に不満があっても、そうしたものと諦観して人並みの暮らしをするのが幸せだと疑わない。
姫と王子の恋物語を愛好する女性達に、成就したその後のお話、理想的なラブロマンスは人を幸せにはしなかったり、大団円の裏側で人は何をやってるかわかりはしないと暗闇を見せてくる源氏物語は、ほんとうに邪悪…。


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