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ろっく・ロック・ROCK


絶対に、生きて帰る


まさか、こんな展開になるなんて、誰が想像しただろう。
人生、山あり谷ありというが。
ここは、岩あり崖ありのまさに命がけスポット。

1分前までは、ただの小さい岩を登っていくだけだった。

もしかすると、
あなたにも経験があるかもしれない。

少し登れば、
周りを一望できる見晴らしのいい場所。

今回もそうだと、完全に思い込んでいた。

思い込み程、怖いものはない。
その結果が、これだ。

これ、ロッククライミングじゃね?

徐々に足場とは?土台とは?
そんな生易しい道は残されていなかった。

そんなに大変な道なら、
”最初の段階で、引き返せばよかったのでは?”

たしかに。
一度踏み出したら、
引き返してはいけない、ルールなんてない。

一人だったら、おそらく。
こんな岩山、無理だ!!壁が高すぎる!!
と、挫折して、引き返したことだろう。


そう。
わたしは、一人じゃなかった。

二人で登っていたのです。


肝心な時こそ、忘れる。この現象の名は?


いつもなら必ずしているもの。
それは、手袋。
こんな時ほど、忘れる運命にあるあしい。

あなたにも、似たような経験があるかもしれない。

探していない時には、あるのに。
あってほしい時に、ない。


あの現象に名前が付いていたら、誰か教えてほしい。
どうやら今回も、その現象がひょっこり顔を出してきた。

というのも。
わたしは、やや潔癖症なところがある。

例えば、お金を触るときやドアノブやエレベーターのボタンを押す時など、素手で触ることに躊躇してしまうのだ。

一時期。
そう、コロナ禍では、
エレベーターのボタンを押すときに、
触らないようなグッズさえ出てきたほどだ。

手は洗えばいい。
それでも、必ず水場や石鹸があるとは限らない。

だから、手袋をする。
それが当たり前の生活になっていた。

その当たり前にあった手袋を、車の中に忘れてしまったのだ。

あぁ!!もう、こんな時に手袋があれば!!
そうつぶやくわたしに。

「いや、普通の手袋だとこの岩を登るのは、難しい。それに、滑るから逆に危ないよ」

ここですかさず、
こっち行ってみようよ!
と言い出した張本人の登場だ。

そもそも虫が苦手なわたしが、
この格好で、森林生い茂る岩山を登ろうとは、まず思わない。

もちろん、森林浴ができる場所があれば、
喜びの舞をする程、癒しスポットには積極的に行きたい派だ。

行きたい派だが、それは準備が整っていたら、の話だ。
何事も準備が大切。
準備を怠らない者に幸運の女神は、やってくる。

たとえチャンスが巡ってきたとしても、
準備をしていなければ、掴むことができない。

つまり。
行くなら準備は、しっかりと。
虫よけ対策など、ばっちり施してから行きたかった。。

とはいえ。
ここで、モヤモヤと考えていても仕方ない。
今は、前へ進むしか…道はない。

いや、ここまで来たら、
自分がどこまで登れるか確かめたくなった。

どうやら、彼も同じ気持ちだったようだ。


腸腰筋ファイヤー


わたしは、ここ半年ほど。
週一でウォーキングをしている。

また、腸腰筋や太ももを鍛えていたこともあり、以前に比べると体力に自信があった。それが、登ると決心した理由のひとつでもあったが。。

登れる、登りきってみせる!
なんの根拠もない自信にあふれていた。

それでも、バランスひとつ崩せば、
登った分の岩山からすべり落ちる状況だ。

それに、
テレビでみるロッククライミングは、必ず命綱をしている。

それが、どうだろう?
靴だって、格好だって、装具だって。
登山と呼ぶにはあまりにも失礼な軽装だ。

それもそのはず。

なんせ、登山という気持ちで先に進んだつもりは1mmもないからだ。
ただ、1周ぐるっとできそうだね、行ってみようか!
という軽いノリだった。

また、誰ともすれ違わない状況にも、不安を覚えた。


え、こっちでいいんだよね…。
他に曲がるところ、なかったよね?

後ろから、
家族で登ってくる声がしたが、
途中から鳥の鳴き声しか…聞こえなくなった。


この岩山を子供を抱えながら登るのは、命に関わることだ。
ナイス、判断Family。


山の中といっても太陽は顔を出す。
それに、岩山を登るとなると、それなりに体力も使う。
額からながれる汗に目がしみるなか、
唯一、救いだったのは、ペットボトルの水を持っていた事とキャップ型の麦わら帽子をかぶっていたことだ。

カラダが暑さに慣れていないこの季節は、熱中症の危険性だって大いにあった。水も徐々に減っていく。。



そうだ!!

途中、木に赤いリボンが巻かれていたのを思い出した。
あそこが、中間地点だったのではないか?

それじゃぁ、ゴールはもうすぐだよね!

お互い目を輝かせながら、励まし合う。

もう一度、いうよ?
命綱がない状況で、
ゴールに向かって、ただひたすらに登り続ける私たち。

ここでようやく。
1番広い場所に、たどり着くことが出来た。

だが。
登った先は、まさに絶景!!
と余裕があれば思ったはずだ。

こころの余白が埋まってしまう程の理由がそこには、あった。
それは、サスペンスドラマのラストシーン。

ティンティンティーン。
ティンティンティンティーン。

とBGMが聞こえてきそうな崖が私たちを迎えてくれたが、
撮影現場では、とても使えない程の危険ゾーンだった。


山と同じ目線…。


途中途中、普段の生活していたら、
お目にかかれない風景がいくつもあった。
まさに、大自然。

写真を撮る余裕は残っていたが、
さすがに登り続けている時は、必死だ。

そのため、
落ち着いた場所の風景しかない。

ひとつ、お分かりいただけるとするならば。
最初は、森を見上げた写真が多かった。
それが、登り続けるうちに…。
だんだんと山と同じ目線の写真になっていた。


入口付近



さて。
途中のリボンの話あたりに時間を戻そう。

不安しかなかった私たちに、とある出来事が起こる。

例えば、人生ゲームでいとうと、イベント発生ポイント!
「家を買う」ローン1000万。

うーん。
嬉しいような、嬉しくないような。。


この時は、本当に嬉しかった。
なぜなら、人が下から登ってきたのだ。

私たちは、安堵した。
人だ、人が来てくれた!!

そんな気持ちだった。
(いや、どんな気持ちだよっ!)


登山初心者である私たちが前にいては、邪魔になる。
だから、先に行ってもらおうと待っていた。

「お先にどうぞ!」
少しの会話をかわし、彼が登った道を見上げる。

人が行く道ならゴールは必ずあると確信し、
私たちも彼に続けと言わんばかりに登り続けた。

それから、広い場所にでたのだ。

なんとなくの雰囲気で、
わかるときってありますよね?

その雰囲気があったんですよ。
もうすぐゴールだっていう雰囲気が。

お互いにゴールを察知したからか、
まわりの景色に感銘をうけ、写真を撮りながら先へ進んだ。


ゴールか?と思われた広い場所から。

ジャンプしたり、踏ん張ったり、
手を引き合って登り続けた岩の頂上付近まで、
ついにやってきた!と思った。

そのとき!!!

岩場に鎖が、かけられていた。
この鎖を手綱にしてススメということ??

しかも…人が通れる幅じゃないのだが?!

これをどう登れというのか。
わたしたちの前に、さらなる試練が立ちはだかる。

2人で顔を見合わせ、思考をめぐらせていると、
先ほど通り過ぎた人が上から降りてくるではないか。

あ、あの人だ!!

わたしは、すかさず、
「まだ、上、ありますか?」

まだまだ、ありますよ!
何ヶ所も怖いところがありました(汗)
頑張ってください!

「ありがとうございます!」

なんだろう。
同士に会えたような喜びとお互いを讃えあう仲間感。
同じ苦難を乗り越える仲間意識が自然と芽生えた瞬間だった。

まだ、上があるなら、仕方ない。行くか!

意気込んで行こうとする彼に、
「ちょっとまって!」

冷静に考えたわたしは、
「1周回れるなら、あの人は、もう先に行ってるはずだよね?」

だけど、上から戻ってきた。
ということは、上に登ってもゴールはないよね?

確かに!
これは、頂上に登るための岩か!
じゃぁ、ゴールはどこだ。。。

完全に迷子になった私たち。
山で迷子になるってこんなにも心細いんだ。。

と、とりあえず、きた道を戻ればいいんだよね。
”うん、戻ろう!!”

それから、私たちは、
記憶をたどり、戻る決意をし、
下へ下へ降りていく最中、心から強く思った。

『 絶対に、生きて帰る 

だが。
登りより下る方が、断然に怖いことが判明。

ひええええ!!

一歩間違えば、本当に落下の危険性があった。
岩も滑るし、クライミングしながらじゃないと降りられなかった。

心が恐怖で勝りそうになった時。

上からひらひらと
桜の花びらが舞いおりてきたことに気づいた。
どうやら、山の中に桜が咲いていたようだが、
わたしが見る限り、桜の木を見つけることができなかった。

不思議と、こころが軽くなった。
「がんばれ!」
と、背中を押してくれたような気がした。


桜の応援もあり、なんとか。
足場と呼べる所まで戻ってこれた。

お互いに、笑顔を交わす。

そのとき。
下から話し声が聞こえてきた。

どうやら、家族で登りに来たようだ。
私たちと同じ、軽装に、顔を見合わせる彼とわたしは、
つい、話しかけずにはいられなかった。

私たち:「今から、上に登られるんですか?」

家族:「え?あ、はい。」

私たち:「結構しんどいですよ。
上まで行くと鎖がかけれた岩場もあって、人が通れる幅じゃないんです。」

わたし:「女性は、特に大変だと思います。そのスカートだと、
足をふとももの位置まで上げないと登れない箇所があるので・・。」

家族(男性):「このクロックスじゃ、無理ですかね?」

私たち:「厳しいと思います(苦笑い)」

家族(男性):「よっしゃ、行けるとこまでいってみよ!」

家族(女性):「えー私ここでやめておこうかな。がんばって、行ってきな!」

私たち:「頑張ってください!お気をつけて!」

そんな会話をしながら、
ようやく、神社の参拝場所まで戻ってきた私たち。

そう。
ここは、群馬県にある「中之獄神社」(なかのたけじんじゃ)
私たちは、日本一の『だいこく様』を見に来た一参拝者だった。


ちょっと、待って!?
英断みたいになってるけど、
あれだけゴール目指してたのに、諦めちゃったの?

そう思いますよね。

正直に言います。
諦めた、というより、こころが折れました。

なんだ、やっぱりゴールするなんて、無理じゃん。
だったら、最初から引き返せばよかったのに。
そしたら、こんな命がけの体験なんて、することなかったよね?

おっしゃる通り!!
ぐぅのねも出ません。

しかし。

この体験をすることで、
人生において大事な気づきを
身をもって経験することができました。


登り続けよ、どこまでも。


あの時。
入口で引き返していたら、いつも通り参拝をして帰り、
楽しい思い出の中のひとつとして、こころのアルバムにしまわれるだけでした。

もちろん、それが悪いことでは決してありません。
いつもの自分から、一歩踏み出して進んだ結果。
大変な思いはしたけれど、マジで命がけだったけど。。

楽な道なんて、ひとつもない。
足場や土台なんてものは、待っていても作られない。
ゆえに、自らの足で進み、登り続けるものにしか見えない景色がある。

たとえ、途中で挫折したとしても。
ゴールにたどり着けなかったとしても。
その過程にある道は、あなた自身が進んだ証。
もっと胸を張っていい。もっと自信をもっていい。
あなたにしか、できないことが、必ずある。


車窓からながれる景色をぼんやり眺めながら、
これは、「だいこく様」が身をもって教えてくれたことなんだと、
あふれる想いと共に、心の底から「生きてて、よかった」と喜びをかみしめ、帰路についたことは、いうまでもない。

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