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25歳の作品だと?幸田露伴【五重塔】岩波文庫チャレンジ92/100冊目

埋もれた名作を見つけた気分!レビューには「分かりにくい」という声を多数見かけた。分かりにくい主人公なのは確かだが、分かろう理解しようとしなければ世界は広がらないのでは。

個人的にはめちゃくちゃ好きな作品。あまり有名でないような気もするけど、そう思うのは自分だけ?

「金色夜叉」の尾崎紅葉と合わせてこの時代の2大巨塔、紅露時代と言われる事も。同時代に活躍した人の中に森鴎外もいて、世間的には鴎外が断トツ有名だろう。従って、これに坪内逍遥も含めて紅露逍鴎こうろしょうおう時代」、とも呼ぶこともある(とWikipediaにはある)。

「金色夜叉」は個人評価でただ一つ★5にした日本の作品。「金色夜叉」に比べると、ページ数や全体のボリュームははるかに少ないが、どちらが好きと言われたら「五重塔」の方が好きかもしれない

今まで通りの評価軸なら★4(p)が妥当だが、面白さで★4と5が逆転するのは気に入らない。そんな訳もあって短いけれど★5にしたい。これが幸田露伴25歳の作品と知って驚いた😳

同時代の人たち同様、最初はやや読みにくいけど、少し読み進めば読みづらさなんてどこへやら。ぐいぐい引き込まれる


導入部だけご紹介

感応寺で五重塔を建てる噂が立った。本堂、庫裡、客殿を建てたのは川越の源太。粘りっ気ない生粋の江戸っ子(でぃ!)。

お寺の上人さんは、源太に依頼する予定だったが、もう1人手を挙げた人物がいた。「のっそり」という不名誉なあだ名をつけられた、貧しい大工の十兵衛。「腕は確かでも世才に疎く、好い事は毎々他に奪われる」。

源太はお世話になっている親方でもある。それなのにどういう理由か、突然上人様へ直談判(上司吹っ飛ばしてトップへ掛け合ったんですね)。

「五重塔の、お願いに出ましたは五重塔のためでござります」

身なりは汚く、言葉も不器用。だが、その熱意は伝わった。困ったのは上人さん。はてどちらに依頼するか。

2人を寺に呼び寄せて言われる「二人で話し合って決めよ」。そして暇だからと言って、とある兄弟の話をする。ここはさすがの上人、ただの世間話ではなくこっちが本題。争いあっては互いに利がないが、2人助け合えば2人とも嬉しい、という教訓話。

家に帰った2人。それぞれ兄弟の立場、兄(源太)と弟(十兵衛)の身になって考える。本来なら1人で全部建てるはずの源太だったが、悩んだ末に男をみせる

自分が少しは辛くても飯を分けてやらねばならぬ場合もある。強いばかりが男児ではないなぁ。じっと堪忍して無理に弱くなるのも男児

十兵衛の所へ出かけていき「半分ずつ建てよう」と提案

これをなんと!十兵衛「断る」!

なぜ十兵衛は断ったのか、五重塔は結局どちらが建てるのか、物語はこう進んでいく。のですが、紹介はここまでにしておきます。

ここが好き

流れるような文体とリズム。会話に見えるさっぱりした源太の気概や十兵衛の意地。それを見ている周囲の気持ち。ほんのちょっとした言葉尻などから気持ちを汲むという事。

この辺が非常に自分好み。
文体に作者の哲学が表れている所も好きなんだ。

例えば源太
「後に残して面倒こそあれ益ないこと」

例えば十兵衛
「技量もないくせに、知恵ばかり達者な奴が憎くもなりまする」

どこに怒って、どこが嫌なのか、腹の内を綺麗さっぱり明かせる源太。対して、口下手な十兵衛は鬱々として、心に思っている事を言わないばかりか、ついて出る言葉は相手を傷つけさえする。

解説者曰く、物語の主人公たるは源太であるところ、あえて職人・十兵衛を主に置いた。日の当たらない所に光を当てた。

本作には自分好みのラインがいくつもある。そこがね、好きなんだけど、全部は紹介できないや。

読んで思うことなど

器用なのは口よりも手なんだよ、職人は!
全員が全員世渡り上手くないんだよ!
大抵の人間は上手く世渡りできずに燻っているのじゃないのか!
底辺にいるような人間でも、心動かすいいもの持ってんだよ!

それを履き違えて「のっそり」なんてあだ名つけて!
世間の人には大抵何も見えてないんだよ!
こういうタイプが一旦何かに取り憑かれたら、常識では測れない事するんだから!

って思ったのでした。

いくら綺麗さっぱりと言っても表の顔がいい人は、どこか偽善的でもある。己の気持ちに忠実なのは十兵衛の方ではないのか。己に忠実とは、言い換えればエゴイズム。つまり周囲とはうまく溶け込めなくて・・と堂々巡りする思考。

源太か十兵衛か、どちらを推して推さないか、人によって意見が割れるだろう。良い議論の題材でもあると思った。どうせ正解はないのだから。


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