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運命の恋(第34話)二十歳の夜

 無事二年に進級、学生生活は順調だ。マナとの交際も、もちろん続いている。マナの二十歳の誕生日もしっかり祝わせてもらった。今度はボクの番だけどワクワクしてる。

 そんなマナとの関係だけど、正直な話、マナが欲しくなってる。そうなんだ、まだなんだよ。キスまでは行ってるけど、次はまだ。恋人同士なら進んだっておかしくなけど、どうしても切り出せないんだよな。

 マナはどう思っているのだろう。待っているのか、まだ早いと考えてるのか。そういう話に流れ出すと、なんとなく避けられてる気がしないでもない。となるとまだ早いのか。そう言えばまだ下宿にも来たことがない。

 やっぱり、それぐらい重要だよな。当たり前か、ボクだって童貞だけど、マナだってバージンのはず。いや正真正銘のバージンだ。疑う余地のカケラさえない。初体験はボクにとっては喜びしかないけど、マナにとっては怖いのは当たり前だ。

 もちろん襲う気なんかない。もっとも襲ったところでぶん殴られて終わりだ。切れられたりすれば、男であるのも危機になるし、それどころか命の危険につながる。マナの桁外れの強さは誰よりも知っている。

 だからこそ、マナがその気になってくれないと絶対に無理。あれかな、ちゃんと結婚式を挙げてからの初夜まで待ちたいとか。そこまで行かなくても、正式に婚約してからはあるかもしれない。

 そこまで待つ価値はマナには余裕である。だからマナがそう望むのなら、待つのも構わないけど、ここまでマナとの距離が縮まってくると、ある種の拷問みたいに感じ出しているんだ。

 だってだよ、高三の時に告白してからでも、マナはますます綺麗に、可愛くなっている。そんなマナと手をつないだり、腕にしがみつかれたり、抱き合ってキスまでしてるんだ。この次と言ったらアレしかないじゃないか。

 マナと会った日だけでなく、マナと会えない日も悶々としているよ。こんなこと恥しくてマナにも話せないし、マナにも絶対知って欲しくないけど、男なら仕方がないと思ってる。マナのことを考えただけで、そうならない方がおかしいだろ。

 だけどキスしたから出来るものじゃないと思う。そうだよ、恥しい思いをするのも、怖い思いをするのもマナなんだ。それぐらい女にとって初体験は辛いものだって聞いたことがある。ましてやボクは童貞。マナに痛い目さえ遭わせてしまうかもしれない。とにかくマナがその気にならないと不可能だ。

 さてボクの誕生日だけど、今年はあいにくの金曜日、つまりは平日。カレンダーには勝てないよな。でもマナから嬉しい提案があった。

「ジュンの下宿で手料理をご馳走するって言うのはどうかな」

 初めてマナがボクの下宿に来るのに舞い上がった。まさかはないにしろ、また距離が縮まるじゃないか。でもちょっと舞い上がり過ぎた。ボクは日曜日にマナが来ると勝手に思い込み、土曜日に部屋の片づけをする予定にしてた。

 いつかはマナも来るとは思ってはいたけど、残念ながらマナがいつ来ても良い状態には程遠かった。つうか、マナには絶対見せられない物が散らかっている。そうマナを想って悶々とした証拠の数々。それをなんとかしないと、マナを部屋になんか入れられないよ。

 そんな誕生日の朝だった。いきなりインターフォンが鳴った。朝っぱらから誰だと思ったけど、出ない訳にも行かないだろ。寝ぼけ眼でドアを開けると、

「おはよう。二十歳の誕生日おめでとう」

 なんとマナがいた。

「日曜のはずじゃ」
「なに言ってるの、今日がジュンの誕生日でしょ」

 それはそうだけど。マナはさっさと上がり込み、

「こうなってると思ってたけど汚い部屋ね」

 面目ない。明日片付ける予定だったんだ。

「大学あるんでしょ。トットと行ってらっしゃい。マナツが片付けとくから」
「それは困る」

 そりゃ絶対に困る。昨夜だってマナのことを想いながら、悶々とした現場がそのままなんだ。だからそっちに行ったらダメだって、止めようもなく襖が開け放たれ、

「これはなかなかね。しっかり片付けとくね」

 見られた。それだけで顔は真っ赤にり、シドロモドロの言い訳をやりかけたけど、そこからマナは有無を言わせずボクを叩き出すように部屋から追い出し、

「いってらっしゃ~い。帰りは寄り道したらダメよ」

 マナには敵わない。講義が終わり、今日はバイトも休ませてもらって下宿に帰るとエプロン姿のマナのお出迎え、

「お帰り。不要なものは捨てさせてもらったからね」

 あぁ、なんてこった。全部見られて捨てられた。それにしても片付いてる。まさにスッキリ状態。綺麗に掃除もしてある。そのまま風呂に行かされたけど、これがピカピカ。風呂から上がると食卓に並ぶ御馳走。

「お腹空いたでしょ。おっとその前にジュンの二十歳のお誕生日おめでとう」

 これって話に聞くシャンパンなのか、

「ジュンも飲めるようになったからね」

 ケーキに二十本のローソクを立てて吹き消した。小ぶりなケーキだったから火事状態になりそうだったのは御愛嬌かな。

「そうそう、お誕生日のプレゼントだけど」
「手料理だけで十分だよ」

 マナはボクの目をしっかり見ながら、

「もう一つあるの。ジュンには待たせて悪かったと思う。それは片付けしている時に良くわかったもの」

 その話は許してくれ。

「プレゼントはマナツが一番大切にしていたもの。どうか受け取って欲しい」
「それって、まさか」

 マナは顔を真っ赤にしながらうなづいた。それから黙ってマナは風呂へ行き、バスタオル一枚で戻って来た。震えるような声で、

「優しくしてね」
「もちろんだ」

 とは言うものの、童貞と処女の初体験。マナも恥ずかしがり、ボクだって頭の中はテンパり切っていた。あの恥しかった物だって、マナとのこの時のための予習でもあったんだ。無理やり言い訳すればだけど。でも知識と現実の差はひたすら大きい。

 マナのすべてを確認するだけでも大変すぎる作業だった。マナの一つ一つを指で触り、唇で確認するたびに心臓が破裂しそうにドキドキがどこまでも上がって行った。マナだって恥しかったはず。反射的に身をよじらせる様子なんて、頭の血管が切れるんじゃないかと思うぐらい興奮した。

 マナの一番大切で、貴重なところにたどり着いた時には感動なんてもんじゃなかった。マナの反応もここが一番大きかった。マナの宝の扉を隅々まで確認するのに没頭した。こんなところにボクを受け入れてくれるかと思うと愛おしくてならなかった。

 でもボクも限界。マナの体が緊張するのは良くわかった。きっと怖いんだ。でもマナごめん。今夜はどうしても欲しい。マナの体に力が入るのがわかる。それでも進むしかボクの頭に無かった。

「痛っ」
「ゴメン」

 マナは痛がったけど、決してやめてくれとは言わなかった。気が付くとマナはシーツを強くつかんでいた。それも目に涙を浮かべながらだ。そんな姿までボクをまた興奮させてしまった。それぐらい欲しかったんだよ。

 マナの扉は固く閉ざされていたが、ボクは徐々に徐々に扉の中に入らせてもらった。なんて素晴らしいところなんだ。これがマナの一番大事で大切な物なんだ。もう夢中になって進めて行った。

 ボクが進むたびにマナの反応は大きくなっていった。ボクはそんなマナの姿を見、感じるたびにさらに興奮のボルテージは上がって行った。考えているのはすべてをマナの中に進めたいしかなかった。最後は一気に残りのすべてをマナの中に進めた。

「うっ」

 ついにマナと完全に一つになった感動がボクの心を震わせた。

「マナ、愛してる」

 こう絶叫した。頭の中はそれしかなかった。マナのすべてを感じた。宝の奥のすべてまで全部。これが夢にまで見たマナだし、想像していたより百倍は素晴らしい。もう完全に我を忘れて熱中した。

 マナはすべてを耐えていた。身を捩り、時に小さな声を漏らしながら、ボクを懸命になって受け入れてくれたんだよ。そしてボクに最後の瞬間が訪れた。生まれてきて最高の瞬間をボクはついに経験した。

 マナは健気だった。最初から最後まで耐え抜いてくれた。きっと辛かったし、痛かったはずだ。それでもボクのために一番大事なものを最後まで捧げ尽くしてくれた。すすり泣くマナを抱きしめ、ひたすら慰めた。

 童貞と処女の拙い夜だったかもしれないけど、最高の、忘れられない夜になった。いつしか二人は眠りに落ち、生まれたままの姿で二人の朝を迎え、

「愛してる」
「ずっとだよ、ずっとマナツを・・・」

 そういうマナの唇を塞いだ後、

「死ぬまで一緒だと約束する」
「嬉しい」

 色々あったけど、落ち着くところに落ち着き、ボクはマナと言う最高の伴侶を得たと確信した。ロスト・バージンの証を必死で隠そうとするマナがひたすら愛おしい。そこには昨日までとは違う最愛のマナがいた。

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