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然るべき場所でシカに出会う

今日はほとんど車中で過ごしたような気がします。北海道はデカすぎる。

札幌から稚内までのナビを入れると5時間半と表示されました。早々に無視して海岸にまっすぐ向かい、そこからずっと海岸線沿いを北上していきました。朝8時頃に出発して17時頃に稚内市街からほど近い温泉に到着したので、結局9時間くらいかかったみたいです。

出発してからしばらくはずっと雨が降っていました。控えめに言うと土砂降りでした。

ひたすら海沿いを進むだけでよかったので、ナビは切ってしまいました。

例えば高速道路のように、まっすぐに進む長距離の運転はいろいろなことをゆっくりと考えられるので僕は好きです。もちろん運転にも意識を割いているので、脳の5割くらいを使っている感じ、考えは論理的でなく、とりとめもなく浮かんでは消え、浮かんでは消えていきます。ある意味では夢の中のような感じです。トリップしてるみたいな書き方ですが、危険な運転はしていませんよ。

今日車中で考えたことをメモに残しておこうとも思っていたのですが、今思い出そうとしても正直あまり明瞭なことは覚えていません。ただ、感情として、途中でものすごく腹立たしくなったことは覚えています。たぶん昔の記憶を掘り起こしたのだろう思います。たくさん湧いては飲み込んできた怒りたちを、ひとりきりの車内で呪詛のように吐き出しました。途中からスッキリした心持ちになった気がするので、たぶんひとしきり吐き出し切ったのではないかと思います。

あとは「これはイケる!」という大層素晴らしい映画の企画案が3つくらい浮かんで、やっぱり全然面白くねえな、と思いました。とはいえ過去の作品も車を運転している時に頭の中でまとまっていったことが多いので、なんだかんだ今回の旅もちょっとだけ期待しています。

雨が降っているあいだは見晴らしも悪くずっとそんな感じでしたが、稚内まで100kmを残すあたりから、日差しが出てきました。空気が一気に澄み渡り、水平線もはっきりと見えるようになりました。気付けば雄大な自然に囲まれていて、そこからはずっと一人ではしゃいでいたような気がします。車を停めれそうなところがあれば停めて自分の周りをぐるっと写真を撮って、を繰り返したので、ここでかなり時間を食ったはずです。

このとんでもないスケールの大きさを、正直なところ僕は写真で撮れる気がまったくしませんでした。「フレームを切る」という行為の時点でこの情景の8割を切り捨てているようなものです。北海道はあまりにデカすぎる。

一方で、映画なら画を切れる気がします。物語があるからです。フォーカスすべきものが明確だから、ここでもちゃんとカメラを構えられると思いました。オロロンラインを舞台に撮影をしてみたいです。

とうとう利尻島に向かって陽が落ちるのを見ていると涙がボロボロ溢れてきました。「感動した!」というようなちゃんと咀嚼できる言語化された感情ではなく、ダイレクトに脳に来た感じです。もしかしたら風が強かっただけなせいかもしれません。日没時はもう震えるくらいの寒さになっていました。

このあたりで、キツネやシカが顔を出すようになりました。大概が運転中に道路に出てくるのでカメラを構えることができませんでした。
特にシカは、「ここは我々の場所だ」と言わんばかりに、車が接近しても臆することなく悠々と道路を横切っていきます。奈良のシカとは風格が違うように見えました。ふてぶてしさと言う意味では同じかもしれません。お邪魔して申し訳ないと思いながら車を走らせました。

道中で寄った北海道海鳥センターや、それぞれの道の駅での展示から、北海道という土地は野生生物との線引きがはっきりしているなと強く感じました。命の線引きともいいましょうか。

稚内に到着して、宿の近くの居酒屋でとても美味しい生タコを日本酒と一緒にいただいて、美味しいなと思いました。美味しかったです。

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