I Shall Be Released の光は、なぜ西から東に向かうのか?※歌詞和訳
理解に苦しむ歌詞
ボブ・ディランが作り、ザ・バンドが歌い上げた名曲 I Shall Be Released。歌詞全体に難しい言い回しはない。ボブ・ディランの詞の中では理解しやすい。世間の多くが自分を陥れ蔑むような言葉が並んでいく中で、悔しがる自分と反骨が描かれる。そしてサビでは、自分がそんな苦悩から、もうすぐにでも開放されると歌われる。
I see my light come shining
From the west down to the east.
Any day now, Any day now,
I shall be released
この中でどうにも理解に苦しむのが「西から東に下っていく光」だ。
ここだけが、天才バカボンの歌詞のように僕を混乱させる。
数多くの日本語訳が存在するが、このバカボンを気持ちよく謎解いたものは見かけなかった。
ハリケーン・ルービンカーター
この曲が世に出る1年ほど前に、米国では有名な冤罪事件があった。ルービンカーター事件と呼ばれ、ハリケーンの異名を持つ黒人ボクサーが3人の白人を銃で撃ち殺したとして逮捕された。公民権運動の最中である。当時のディランがこの事件についてコメントした記録はないようだが、70年代に入り冤罪裁判が盛り上がる中、彼は「ハリケーン」という曲を世に送り出す。著名な人たちの支援が増える中、この曲はヒットして社会を巻き込んでいく。
ここにきて、”I shall be released”は、無実の罪で投獄されたルービンカーターを歌ったものではないかと、ささやかれるようになる。ここがきっかけ。
Midnight Special
そこで刑務所絡みの歌を思い出す。米国南部のカントリー・ブルースで、とても有名な民謡。CCRのカバーバージョンが有名。70年代に洋楽を漁っていた同年輩の人たちには、”Soul Train”と”Midnight Special"は忘れられない音楽番組だろう。そんな長年親しんできたこの”Midnight Special"が、最近になって長年頭を悩ませていた”I shall be released”の東西問題を解決に導いてくれた。
この歌は囚人の歌なのだ。そしてMidnight Specialとは、刑務所の脇を走り抜けていく夜行特急列車らしいのです。この歌の歌詞を追いかけると「ヒューストン」の地名があり、そこから近いシュガーランドから、モチーフとなった悪名高いテキサス州刑務所も特定できるようだ。(一番下にシュガーランドの刑務所にピンを立てたGoogle Mapを貼った。刑務所の南のハイウエイの脇に、西南西から東北東のヒューストン方面に向かう鉄路を確認することが出来る。)
囚人たちの迷信
Midnight Specialは、夜行特急のこと。囚人たちがこれに乗って自由の地へと逃げ出すと勘違いされることが多いようだが、歌詞を読むと分かるように、この列車に対し「俺をライトで照らしてくれ」と願っている歌なのだ。
”Let the midnight special Shine a light on me”
これを調べると、絶望的な環境で暮らす囚人たちに信じられていた迷信の記載に出会えた。この深夜特急のライトに照らされれば自由の身になれるというのだ。
ここに至って”I shall be released”は、「西から東に向かって近づいてくる列車の光を見て、(その自分に向けられた列車の光を浴びれば)いつでも自由になるだろう」と歌っているのだと僕は仮説を固めた。down to は列車を裏付けるのに充分な表現だろう。
この歌詞について、本人が光を浴びている様子として翻訳しているものも多いようだが、実際には彼の身体に光は届いていない。2番の歌詞からは、高い塀の反射を見ている様子が伺われ、列車が照らす塀や建物の反射光で、自分の光の接近を感じているのだと思われる。
ルービンカーターを歌ったか?
3番の歌詞については、冤罪を叫ぶ男が登場する。カーターの裁判は1967年5月27日に無期懲役の判決が下る。陪審員はすべて白人だった。この歌は1967年6月から10月にかけてザ・バンドがボブ・ディランとともにウッドストックで録音している。鮮度の高いニュースをディランがモチーフにした可能性はある。1番の歌い出しは、「すべての陪審員を白人にすることは出来る」とも採れるのだ。「朝日のあたる家」なども歌ったボブ・ディランが、ルービン・カーターの立場を描いた"Midnight Special"なのだと、ぼくは思っている。以下に生まれてはじめて訳詞をしてみた。
I shall be released 作詞:ボブ・ディラン (日本語訳)
They say everything can be replaced,
They say every distance is not near.
So I remember every face
Of every man who put me here.
I see my light come shining
From the west down to the east.
Any day now, any day now,
I shall be released.
全部を 取り替えることが できるそうだ
全ての身分は 近くないそうだ
だから俺は 覚えている
おれを ここにぶち込んだ
全てのやつらの 全ての顔を
俺のライトが 輝いてくるのが見える
西から 東に向かっていく
いつの日でも このときに
俺は 解放されるだろう
They say every man needs protection,
They say every man must fall.
Yet I swear I see my reflection
Some place so high above this wall.
I see my light come shining
From the west down to the east.
Any day now, any day now,
I shall be released.
すべてのやつらには 身を守る賄賂が 必要だそうだ
すべての男は ひれ伏さなきゃならないそうだ
いまでも 俺は断言する
この壁の どこか高いところを照らす
俺の明かりを 見ると
俺のライトが 輝いてくるのが見える
西から 東に向かっていく
いつの日でも このときに
俺は 解放されるだろう
Now, yonder stands a man in this lonely crowd
Is a man who swears he's not to blame.
All day long I hear him shout so loud,
Crying out that he was framed.
I see my light come shining
From the west down to the east.
Any day now, any day now,
I shall be released.
今 向こうの方 この孤独な群衆の中で 一人の男が立っている
俺は悪いことなんぞしてないって 言い張っている
おれは一日中聞いている あいつのバカでかい叫び声を
泣きながら おれはハメられただけなんだって
俺のライトが 輝いてくるのが見える
西から 東に向かっていく
いつの日でも このときに
俺は 解放されるだろう
シュガーランドの刑務所
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