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「BUTTER」 柚木麻子 著 新潮文庫

最初の方に、暖かいご飯の上にバターを冷たいまま乗せ、少し醤油をたらす、バター醤油ご飯の話が出てきます。バターは、エシレという高級品でなくてはなりません。バターが溶け始める瞬間に味わうのです。


それを語るのが、何人もの男性に対する殺人容疑で東京拘置所に留置されている梶井真奈子です。彼女は、バターをたっぷり使った手の込んだ料理で、40代から70代の男性にふるまい、結婚をほのめかすのですが、決して結婚せず、やがて、男たちは、次々と不審死を遂げていったのです。


この小説は、実際に起きた事件を下敷きにしていますが、内容はオリジナルです。


梶井真奈子は、太っている。それなのに男達を手玉にとったと言うことで、世間からバッシングを受けます。週刊誌の敏腕記者である町田里佳は、梶井真奈子への単独インタビューに成功しますが、次第に彼女の世界に絡めとられていきます。


この小説が投げかけるテーマは深いです。人々は、社会から要求される目的のために努力することを強いられます。自分が成長するために努力すると言うのは、綺麗で正しいことに見えます。しかし、それが本当に自然な幸せな姿なのだろうかとと言うことです。


バターは、「努力の否定」を象徴する存在です。この小説には、バターをたっぷり使った料理がたくさん出てきます。ブフ・ブルギニョン(ビーフシチューとは別の料理だと梶井真奈子は強調します)、スープドポアソン、ラムのオレンジ焼き・・・。最後に出てくるバターをたっぷり使った十人前の七面鳥料理は圧巻です。



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