見出し画像

カンヌ映画祭2024日記 Day0&1

今年もカンヌの季節がやってきました。円安で泣きそうというのは、日本からカンヌ入りする人々の挨拶代わりの言葉になっていましたが、当局の介入は間に合わず。こればかりは、しょうがない。行ってきます。今年も日記を出来る限り書いてみます!
 
<5月12日>
12日、日曜日。4時半起床でパッキングして、6時に家を出て新宿からリムジンバス乗って羽田へ。結構混んでいる。9時40分のルフトハンザでミュンヘンへ。機内はほとんど寝られない。最近はめっきり欧州行きの便で寝られなくなったな…。
 
ルフトハンザの機内映画のセレクトがユニーク。アサイアスの『五月の後』が入っていて、びっくりした。とりあえず、フリードキン遺作でキーファー・サザーランド主演の『ケイン号の叛乱』のリメイク『The Caine Mutiny Court-Martial』(軍事法廷に絞っているという点ではアルトマン版のリメイクと呼んだ方が正確か)と、スタローンが死んだと思われた伝説の英雄を演じるアクション『Samaritan』と、ユマ・サーマンとサミュエル・L・ジャクソンが現代アートを通じてマネー・ロンダリングを企てる『The Kill Room』を見て、カナダ映画とボリウッド映画を数本眺めて途中でやめたりしているうちに、ミュンヘン着。
 
ミュンヘンからニースへの乗り換え便が遅れたので、予定より1時間遅れて21時半(日付は12日のまま)にニース到着。タクシーでカンヌに向かい、22時には到着。今年はちょっと手違いで過去20年間泊ってきた定宿がとれなかったのだけど、その近辺のホテルが確保できたので、そちらにチェックイン。まあまあ悪くないけど、冷蔵庫がなかったり、シャワーの水圧が弱かったり、Wi-Fiが不安定だったり、不満は大きい、まあ、メイン会場に近いから、文句は言えないのだけど…。
 
知人と合流し、22時半からカンヌ常連者の間でおなじみのピザ屋さんに行き、ピザとサラダとビールとグラスのロゼを頂いて、人心地がついた感じ。ここの薄くてもっちりしたピザはとても美味しい。テラス席で気温もちょうどよく、リラックスできた!ひとり25ユーロ。現在の170円換算で約4,250円。1時間のリラックスタイムのコスパとしては、どうかな。高いかな。高いよな。数年前の120円時代だったら3,000円だからな…。でももうこっちにきたら、円換算はしないほうが精神衛生上いいのかもな(あとで後悔するとしても)。
 
0時に宿に戻り、即ダウン。
 
<5月13日> Day0
13日、月曜日。いったん4時に目が覚めてしまったものの、何とか2度寝に成功して6時起床。7時のチケット取得開始時間に備えないといけないのだ。カンヌのチケットは、上映日の4日前の7時に予約解禁となる仕組み。つまり、13日の今日は4日後の17日(まで)の作品の予約が出来る。2021年はこのシステムがパンクして、序盤のチケットが全く取れないという事態に帰国を考えるくらい凹んだものだったけれど、少しマシになってきたのかな。今年は当時とは効力の違うマーケットバッジで臨んでいるので、それも功を奏しているのか、本日までのところ、ログインは問題なく出来ている。
 
まずまず希望の上映の予約が出来て、朝食へ。このホテルの朝食はパンとコーヒーだけで、まあ大体フランスのホテルというのはこういうもの。でも去年までの定宿はハムやチーズや卵を出してくれていたので、その定宿が朝食を食べにきてもいいと言ってくれていたこともあり、明日からは朝だけは定宿に行くことを決める。とにかく、朝をたらふく食べないことにはカンヌは乗り切れない!
 
マーケットバッジをピックアップに行くと、雨…。んー、雨スタートか。でもそんなには続かないはず。
 
開幕は明日からなので、スーパーで買い物をしたり、ホテルでパソコンに向かってスケジュールの確認をしたり、のんびりとスタート。2日前入りすると、やはり心に余裕ができていい。
 
15時45分から、コンペ作品のマーケット向け先行試写があるので、並びに行く。雨はとっくに上がり、かなり晴れている。こうでなくては!
 
45分前に劇場に到着するとまだ先頭に近い位置を確保できたと思ったら、すぐ後ろに長蛇の列が出来た。本日まだDay0だし、上映はこれだけなので、みんな殺到する。しかもまだ係員も配置されていないので、列の後ろは列整備みたいな機能もなく、カオスだったらしい…。
 
上映終わり、日本の配給会社の人たちと、映画の内容の答え合わせでしばし歓談。少し、分かりにくかったかな…。この上映はマーケットの先行試写で、映画祭の公式ワールドプレミアはこれからだから、まだここで作品タイトルと感想を書くのは控えよう。後日追記します。
 
東京国際映画祭勤務時代の元同僚たちと合流し、カンヌ決起ディナー。旧市街の美味しそうな店が並ぶ坂で、熱心に声をかけてきた店員さんの熱意に負けたレストランに入ってみると、ここが美味しかった!食べたかった魚のスープがとても美味しい。

Soupe de Poisson!

メインには、もうこのあとのカンヌでまともなものを食べることはないだろうとの思いから、ステーキを。ブルーチーズソースがおすすめ、ということで頂く。美味しいのだけど、ちょっとブルーチーズの味だらけになってしまったかな。でも、大満足。

会話の終盤から意識が朦朧としてきて、みんなあくびも止まらなくなってきたので、22時お開き。宿に戻り、23時にダウン。
 
<5月14日>Day1
14日、火曜日。いよいよ映画祭初日。6時起床、かなり寝られて、すっきり。出の悪いシャワーをちょぼちょぼ浴びて、7時のチケット予約を済ませ、支度をしてかつての定宿に朝食を食べに行く。外は、曇り。美味しいパンをたくさんいただく。
 
今朝読んだニュースメールによれば、モハマッド・ラスロフ監督がイランを脱出し、ヨーロッパの某所に身を潜めているという。ラスロフ監督は、鞭打ちと私財没収に加えて8年の実刑の宣告を受けたばかりだった。今年のコンペから作品を取り下げろとイラン当局からプレッシャーを受けているとも言われていた。とてもカンヌに来ることは無理だろうと思っていたが、何とか国外脱出を果たしたということか。監督の無事を心から祝福しつつ、カンヌ入りするのかどうかを見守りたい…。
 
さらに、開幕直前の話題になっているのは、映画祭従業員による団体が契約条件の改善を求めてストライキも辞さないとしているということと、映画祭初日に合わせてフランスの大物映画人に対する#MeToo告発がなされるかもしれないとの情報。こちらも、どうなるだろうか。
 
さて、9時半の上映に向かうと、薄曇り。今日も雨が降るかもしれない感じで、ぎりぎりこらえている?
 
見たのは、こちらもマーケット先行試写で「ある視点」部門の作品。やはり、映画祭の正式ワールドプレミアが終わってからコメントは書くようにしよう。本日は朝から4本続けてマーケット先行上映を見たので、いずれもコメントは後日。午後はついに雨が降ってきて、しかもかなり強い。とても、寒い。
 
カンヌで雨は珍しくはないけれど、オープニング日がこんなに寒くて雨というのはあまり記憶にない。やはりちょっと盛り上がらないな…。
 
ということで朝から4本を見て、最後は23時15分から、オープニング作品カンタン・ドゥピユー監督『The Second Act』の上映へ。セレモニー付きのオープニング上映は予約が取れなかったのだけれど、同じメイン会場で遅い時間に2回目の上映が組まれていたので、そちらが取れた次第。取れたのはいいけど、やはり、とても、眠い。
 
しかし、曲者カンタン・ドゥピユー監督がカンヌのオープニングを飾るという快挙に、眠いと言っている場合ではない。気合を総動員して見るべし。とはいえ、そこはドゥピユー作品、そんなに気合を要するわけではない。「予習ブログ」執筆時に確認していた内容は、次の通り:
 
女に言い寄られて困っている男が、友人の男性に押し付けて厄介払いしようとしている。その女は、好きな男を父親に紹介しようとする。かくして、男、その友人、女、その父、という4人がレストランでテーブルを囲む…。
 
これは、実は4人の俳優がそういう場面の映画を撮っている、という設定だった!ドゥピュー一流の毒と皮肉が込められた、複数構造のメタ映画。2人の男に、ルイ・ガレルと、ドゥピュー監督前作『Yannick』でも怪演を見せて現在注目急上昇のラファエル・クナール。ルイ・ガレルに言い寄る女性がレア・セドゥ。その父がヴァンサン・ランドンという、豪華キャストの競演がともかく見もの。

"The Second Act" Copyright Chi-Fou-Mi Productions - Arte France Cinéma

ポリコレに抵触する発言を続ける友人に対し、絶対に止めとけとルイ・ガレルがたしなめる場面が続き、「観客が見てる」とキャメラを指さす。ドゥピユー監督による確信犯的な現状風刺も満載。ドゥピユー監督はいよいよ創作の幅が広がってきており、ここ2,3年の飛躍は目覚ましい。オープニングを飾るのも納得だ。

"The Second Act" Copyright Chi-Fou-Mi Productions - Arte France Cinéma

会場を出ると、冷たい雨が降っている…。震えながら1時に宿に戻る。今日は、朝ごはん以降はカロリーメイト2本だけだったので、なかなかひもじい。スーパーで買ったビスケットをかじってワインを少量すすりながら、少しパソコンに向かい、2時就寝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?