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「新潟国際アニメーション映画祭」コンペ作品紹介

2023年に新しくスタートし、本年2回目を迎える「新潟国際アニメーション映画祭」が3月15日から始まります。もうこのタイミング(3月13日)では完全に遅いのですが、少しでもコンペの外国作品にお客さんに来てもらいたいと思い、まだ間に合うはずと念を込めてブログ書きます。
 
昨年、観客として参加したことがご縁となり、今年は作品選定をお手伝いすることになりました。コンペティションの作品を絞り込む作業に参加し、結果、とても魅力的なラインアップになったと誇らしい気持ちです。
しかし!昨年の経験で言うと、外国の長編アニメーションへの集客が辛い。これは新潟に限らず、日本のどこでも辛いというか、日本で海外のアートアニメーションを広く見てもらおうというのは、とてもハードルが高いです。日本は世界に冠たるアニメ大国なので、外国のアニメーション監督も期待して来日するのですが、日本のアニメファンは外国アニメーションに直結はしていないという現実に驚いてしまうケースが少なくありません。
 
が、まさにそのギャップを埋めるためにこの映画祭は立ち上がったのではないか!とも思うので、僕の出来ることをやらねば、です。何よりも、本当に面白い作品が並んでいるので、もったいなさすぎる。普段ミニシアター系の外国作品を好んで見るような方々には、強くおすすめしたい作品ばかりなのです。今週末、急きょ新潟に行ける人は是非(作品の面白さもさることながら、夜の居酒屋も最高の日本酒と肴に囲まれて打ち上げが至福)!
 
そして、自分は移動できなくとも、新潟市近郊にお知り合いのいらっしゃる方は、ぜひお伝え頂きたいです!!
 
「新潟国際アニメーション映画祭」のプログラミング・ディレクターは数土直志さんで、イチ選定委員にすぎない僕が作品について書くのは越権行為なのですが、多くの映画祭の作品紹介文を書いてきた経歴に免じてお許し頂けたら幸いです。そして、コンペ12本中、日本映画が2本入っていますが、本稿では外国映画の10本に絞って言及することをお許し下さい。
 
そして(ああ、前置きが長い)、一応は映画祭の「なかのひと」でもあるので、本来はおすすめに濃淡を付けてはいけないことは重々承知しています。しかし、時おり、おすすめ度が漏れ溢れてしまうかもしれません。その点も平にご容赦頂けましたら嬉しいです。
 
それでは、いきます。
 
○『スルタナの夢』イザベル・エルゲラ監督/スペイン

もしあなたに、今年の映画祭では1本しか見ることが出来ないので1本だけ挙げてくれと言われたなら、僕は(あくまで僕個人は)本作を挙げるでしょう。その素晴らしさは、ちょっと筆舌に尽くしがたいほどです。
 
インド各地を旅するイネスというスペインの画家の女性が、『スルタナの夢』という本を入手する。『スルタナの夢』は、女性が社会の中心にいて、男性は室内に閉じ込められている世界の物語であり、イネスの旅と本の物語は不思議に交差していく。そして、イネスの旅はエルゲラ監督の旅でもある。旅行エッセイの面も持ちつつ、『スルタナの夢』の作者を巡るドキュメンタリーの要素もあったりするなど、作品は複数のレイヤーの間を自由に行き来していきます。フェミニズムを根底で語り、神秘と現実の境目を曖昧にしながら、水彩画を基調にした作画のスタイルと思考と想像力の自由な飛躍に、胸の高まりを抑えることは出来ません。まさに、目がくらむ思いがします。
 
ドキュメンタリー・アニメーションは世界的に増えている印象がありますが、フィクションを交えながら自由に発想を伸ばしていけるのは、まさにアニメーションの特権と言えるでしょう。時に詩的な、時に霊的なインスピレーションに導かれながら、現実世界から脚は決して離れない土台の強さを持つ本作は、新しいジャンルを切り拓く作品であるかもしれません…。ああ、もうこれ以上は書かせないで下さい。よろしくお願いいたします。

 
○『アダムが変わるとき』ジョエル・ヴォードロイユ監督/カナダ

本作は好みが分れるかもしれないけれど、僕は偏愛しています。カナダの作品ですが、アメリカのオフビートなインディ作品を好む人なら、本作は大好物であるはず。トッド・ソロンズとか、ジョー・スワンバーグや、ノア・バームバックとか。
 
猫背で胴長のアダム青年の、あまり冴えない日々の物語。夏休み、アダムは草刈りのバイトをさせられ、日ごろ自分をいじめている同級生の家の掃除のバイト(一家は旅行で留守)もする羽目になる。そしてあろうことか、いじわる同級生のガールフレンドに恋心を抱いてしまう。ヒーローに憧れるアダムは、果たして変わることが出来るだろうか…。
 
異形の主人公アダムに加え、アダムが気を許す友人、顔に傷のある近所の少年(アダムと因縁あり)や、飼い犬のフンを人の庭に投げ入れる中年男、アダムのいとこでワルガキの双子、お年頃のアダムの姉など、登場キャラクターが造形も含めていちいちナイス。爆笑というよりは、終始ニヤニヤが止まらず、監督のセンスを愛しながら、いつの間にかアダムを必死に応援してしまう、そんな素敵な作品。
 
CGアニメ全盛のいま、本作の2Dイラスト的ヘタウマ調に心が温まる思い。ダウン・トゥ・アースな、親しみの持てる、あまりにありきたりな日常の中の、ちょっとしたドラマ。ずーっと見ていたい気持ちになります。

 
○『オン・ザ・ブリッジ』サム・ギヨーム&フレッド・ギヨーム監督/スイス

本作もドキュメンタリー・アニメーションのひとつと捉えてよいと思います。人生の終わりに近づいた人たちに心境を語ってもらい、その録音した声をアニメーションの人物たちに託すという作りで、人生最後の旅立ちの列車に乗る人々が、死生観を語っていきます。
 
その切実な内容もさることながら、絵の美しさに心を奪われる作品です。印象派調というか、モネ調というか。人物たちの表情は陰影だけで表現され、細かく描き込まれることはなく、赤や黒を強調した光と影の芸術に息を呑まされます。厳粛な静謐さに貫かれた、あちらの世界に向かう列車の旅。幻想的でありながら、語りは「本物」であるという、この不思議さ。
 
もちろん、実写のドキュメンタリーも十分にアートたりえるわけですが、実際のナマの発言の集積をアニメーションで彩っていく手法は、アニメーションにというよりは、ドキュメンタリー映画の新たな地平を切り開いている気がします。20年ほど前に訪れたフランスの山奥で開催されるドキュメンタリー映画祭で、「(現実を記録するはずの)ドキュメンタリー映画は、果たして詩的たりえるか」というシンポジウムを聴講したことが思い出されます。本作を見ると、もはや詩的云々を通り越し、ドキュメンタリーのフォルムに限界は無いのだということを痛感します。
 
実写ドキュメンタリーが映すことの出来ない、感情の色や、運命の形を、アニメーションであれば表現することが出来る。アート好きな人に加え、ドキュメンタリー好きな人に是非見てもらいたい作品です。
 
あ、ひょっとして、安楽死が合法化されているスイスならではの「死との向き合い方」が本作には含まれているかもしれません。書いていて気付きました。違うかも。でも、これは何としても再見せねば。スイスの安楽死制度に身を委ねたゴダールを思い出しながら見てみよう。
 

○『深海からの奇妙な魚』マルセロ・マラオイン監督/ブラジル

まったく、なんて自由な発想なんだ、とため息をつきたくなるのは、こういう作品に接した時です。もう、なんなんでしょう、これは。
 
主人公の女性は、いろんなものに姿を変えて戦う能力を持っており、例えばゴリラに変身して強敵をなぎ倒す。彼女は、陶器のかけらを集めていて、どうやら壊れてしまった花瓶だか壺だかを再現しようとしているらしい。そんな彼女は、ひょんなことで病的に整頓好きな亀と知り合い、(觔斗雲的な)雲に乗り、かけらを集める旅に出る。そして、舞台は突然深海に移る…。
 
奇想天外な世界に、あっけにとられ、口があんぐり。もう楽しくてたまりません。タイトルが示す通り、メインの舞台は深海なのですが、明らかに映画全体の中で深海の場面が占めるバランスがおかしい。そして、そこが味にもなっていく。そして、動物たちの活躍は、ファンタジアのようでもあり、手塚アニメのようでもある。でも、絵は、マンガのイラスト調。一方でアートへの目配せも豊富で、主人公たちの冒険の途中には、クリムトとミュシャの絵の女性が全てヤギに置き換えられてしまうという事件も起きる!
 
もう本当に、印象を一言でまとめることが出来ない、新感覚と呼びたくなる作品です。ブラジルってやっぱりすごいな、と頭の悪い感想を抱いてしまいますが、本当に「国際アニメーション」を発見する歓びに満ちた1本です。

 
○『マーズ・エクスプレス』ジェレミー・ペラン監督/フランス

こちらは、ド迫力のSF。2200年の火星が舞台。物語がかなり複雑で、ついていくのに必死でしたが、アニメの精度が異様に高く、引き込まれているうちに一気に持っていかれるという、そんな迫力に満ちた作品です。物語のベースには、「機械vs人間」の構図があり、次第に壮大な陰謀の存在が明らかになってきます。
 
主人公は、探偵の人間の女性と、アンドロイドの男性のコンビ。ある女性研究者の失踪を追っているうちに、より大きな事態に直面していくというパターンは、ハードボイルドものの基本に則っていると言えますが、そのスケール感がハンパでない。壮大な宇宙規模の陰謀の物語と平行し、死んだ人間はアンドロイドとして復活できるが、家族とは疎遠になっている悲哀という個人のドラマも挿入されたりして、天文学的レベルでマクロとミクロの物語が交差していきます。
 
2Dのグラフィック的な絵が素敵で、フランスのマンガ(バンド・デシネ)調がカッコいい。また、マチュー・アマルリックが声で出演しているのもフランス映画ファンとしては嬉しく、僕は大スクリーンで本作を再見することを心底楽しみにしています。

 
○『アザー・シェイプ』ディエゴ・フェリペ・グスマン監督/コロンビア

これまた強烈。あらすじを説明するのが難しい。これまた、見ないと分からない。
 
舞台は近未来で、人類は月に理想郷を建設している。そこは、四角の立法体のブロックが連なる作りになっていて、人々は四角のブロック/キューブ体に自分の体を矯正し、やがて四角体として完成すると、月に向かうロケットのはめ込み部分に自分の体をはめ込み、理想郷に旅経つことが出来る。主人公の男性は、日々矯正にいそしみ、ようやくはめ込みが叶うとなった時点で、トラブルが起きて不適格とされてしまう。いったん仕切り直しとなった矯正作業を通じて、男は大事なことに気づいていく…。
 
いやあ、これで伝わるかどうか。見てもらい、驚いてもらうしかないです。この、文字通り自分を「型にはめていく」という行為が、いかに現代社会を生きる人間への風刺に繋がっていくことか。いくつもの暗喩に満ち、そこにはコロンビアに特有の文化も反映されているだろうとも言えますが、社会が要求する人間の姿への抗いという普遍的な視点に富み、本作のユニークさと迫力は際立っています。
 
画調のアクも強く、映画全体から受ける圧も強い。摩訶不思議な南米の近未来ということで、僕は『未来世紀ブラジル』を連想したりもしましたが、アニメならではの表現方法で映画ファン全般を唸らせる力を持った作品です。見終わった後に意見を交換するのにもってこいなので、新潟の夜が楽しみです。

 
○『インベンター』ジム・カポビアンコ&ピエール=リュック・グランジョン監督/アメリカ

アニメーションのコンペティションでは、やはりストップモーション・アニメも見てみたい。そんな期待に応えてくれるのが本作です。さらに、アニメとはいえコンペの作品は大人向けの作品が多いので、ファミリーで楽しむことが出来るのも本作の特徴です。
 
主人公はレオナルド・ダヴィンチ。彼の晩年、イタリアを離れ、フランスのフランソワ1世のもとで過ごした時間が、史実に忠実に描かれていきます。とはいえ全体はもちろんとてもキュート。ダヴィンチの発明品や装置が次々と登場し、奔放なマルグリッド王女と繰り広げる冒険にも胸が躍ります。やがて、宇宙を巻き込む究極の真理にダヴィンチは迫っていく!
 
とても楽しく見ているうちに、人体の研究は神の領域であるとヴァチカンから禁じられる当時の状況や、ダヴィンチの描いた都市計画の理想や、モナリザの完成過程などが伺えて、大人にも大いに勉強になってしまうという優れものです。
 

○『コヨーテの4つの魂』アーロン・ガウダー監督/ハンガリー

エコロジー、自然との共存を訴える内容ですが、単純にその一言ではまとめられない複雑さとスケール感を備えた作品です。
 
「最初に闇と夢ありき」。老人が天地を創造し、海と山を作り、泥から動物を作り、世界の形を整えていく。しかし邪なコヨーテが老人の泥を盗み、人の形をした動物を作ると、「人」は老人的善と、コヨーテ的悪を持つ中途半端な存在として成長していく。性善説と性悪説が混じり、人と動物は共存しながら社会を築いていたが、コヨーテの存在は悪の象徴として人を脅かし続ける。やがて、別の大陸から軍隊が攻めてくる…。
 
ネイティブ・アメリカンの創造神話に基づく物語、とHPの解説にありますが、人類の成長の過程や、自然との付き合いの分岐点などが物語として語られていき、その想像力が楽しく、好奇心が大いに刺激されます。2Dと3Dが組み合わさるビジュアルに目が惹かれることに加え、複雑な内面を持つコヨーテや、火の起源となる雷などのキャラクター造形もナイス。本作は多くのアニメーション映画祭で受賞を重ねており、さすが、見応えあります。

 
○『ケンスケの王国』ニール・ボイル&カーク・ヘンドリー監督/イギリス

イギリスの作品ですが、タイトルから察せられるとおり、日本が関係してきます。そして本作もファミリーで楽しめる作品です。
 
マイケル少年が、家族との船旅の途中で嵐に合い、犬とともに流されてしまう。気が付くと、孤島に漂着していた。途方に暮れるマイケルだったが、目覚めてみると食料が用意されている。どうやら島に住人がいるらしい。やがて老人が姿を現す。しかし、決して親しくなろうとはしない。マイケルはそれでも老人の住処についていくと、木の上に立派なハウスが建てられ、まさに老人は王国を築いていた。老人は、日本人だった…。
 
マイケルがケンスケと名乗る老人と、少しずつ距離を縮め、周囲の自然や動物たちと馴染んでいきながら成長していく様を描いていきます。やがて、予期せぬ侵入者と対峙する事態となり、野蛮な文明人を批判するドラマでもあります。そして、やはり日本の観客としては、どうして孤島に日本人がいるのか、彼はどのような背景を持った人物なのだろうかが気になり、興味の尽きない内容です。そして老人の声は、渡辺謙!
 
余談ですが、フランス在住の杏さんが、何も知らずにお子さんを連れて本作をパリの映画館に見に行ったら、お父様の声でびっくりした、とソーシャル・メディアに報告されていました。なんともいい話!

 
○『マントラ・ウォーリアー ~8つの月の伝説~』ヴィーラパトラ・ジナナヴィン監督/タイ

今年の海外長編アニメーションの中で、最も日本のアニメに近く、多大な影響を受けているであろうことが伺えるのが本作です。パワースーツを着て戦う兵士たちが宇宙空間で躍動します。
 
対立する二つの王国。一方の国の王子たちと、彼に従うウォリアーたち。超強力な潜在能力を持つ王女がさらわれ、王女奪還の使命を帯びたウォリアーたちは、敵対する悪の王国を倒す闘いに身を投じる!
 
ウォリアー達の個性、能力、ビジュアル、それぞれ十分に練られていて見応えがあり、ピンチの連続を何とかクリアしていく展開に切れ目がなく、観客を興奮させたまま物語世界に没頭させてくれます。タイの神、ハヌマーンが重要場面で登場することに僕は興奮しましたが、ベースとなる日本のSF戦闘アニメにタイの伝統文化をブレンドしていく作り方に、アニメの広がりと未来を見る思いがします。


以上、コンペティション部門の外国長編作品10本の紹介でした。もちろん、日本から参加の2作品も大注目してもらいたいです。
新潟で会いましょう!!
 





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