見出し画像

カンヌ映画祭2023日記 Day12

27日、土曜日。7時半起床。久しぶりにゆっくり寝られて気分爽快。本日の映画祭の公式上映は、コンペの再上映がほとんど。幸いなことに、僕はなんだかんだでコンペは結構見られたので、朝の上映は無く、少しのんびりしてから外へ。
 
9時15分にオーストラリアの知人と落ち合ってお茶して、すこし手伝うことになる仕事の話をする。
 
10時半から、昨夜に引き続き、一般封切りの映画館でカンヌ作品を見る作戦を敢行。今年のオープニング作品『Jeanne Du Barry』(扉写真も)が公開されている。初日には見られなかったのでちょうどいい。カンヌの最終日に、カンヌのオープニング作品を見るという、これまたなかなかオツだー。
 
史実に基づくドラマ。18世紀半ば、平民の家に生まれたジャンヌは、文学的教養を身に付け、持ち前の度胸を武器に社交界に食い込み、地位を築いていく。やがてルイ15世に謁見する機会が訪れると、ジャンヌは王の目に留まり、程なくして正式な妾としてヴェルサイユ入りする。王の寵愛を受けるが、親族の冷たい視線にも晒されていく。
 
マイウェン監督がジャンヌを演じ、最初はそれほどでもないのにどんどん魅力が増していくあたりが、やはり上手い。宮廷内のしきたりの滑稽さや、未来のルイ16世に嫁入りしてきたマリー・アントワネットから無視され続けた有名なエピソードなど、見どころも多く、楽しい。そしてルイ15世のジョニー・デップはフランス語も上手く(あまり長ゼリフが無いのでボロも出ない)、黙って周囲を観察する顔が國村隼さんに見えて仕方がないのは置いておくとして、この意外なキャスティングの狙いは見事に成功しているのではないかな。なかなか。

"Jeanne du Barry" Copyright Stéphanie Branchu / Why Not Productions

次に、チケットが取れていないケン・ローチが見たいので、初めて行く会場での再上映の「ラストミニッツ」列に並びにトライしてみることにする。カンヌで初めてバスに乗り、西に向かって移動すること25分くらいで、巨大なキューブ状の独特な建物に入っているシネコンに到着する。こんなところがあったなんて!おそらく出来てからまだ数年だと思うのだけれど、バスに乗れば来やすいということに今頃気付くというのは情けない。来年カンヌにまた来ることになったら、活用してみよう。

シネコン「Cineum」の外観

目当ての会場は、シネコン内のIMAXシアター。席数は500という。チケットが無い人用の「ラストミニッツ」列に並び、開場となり、まずはチケット持っている人々がどんどん入場していく。やがてこちらの列も少しずつ動き…。そして僕の直前で、入場打ち止めになってしまった!何とかして粘ろうとしたけど、もう席が全くないとのこと。ああ、なんと今年のカンヌで初めて「ラストミニッツ」ではじかれてしまった!
 
何となく、昨日でやりきった感も出ていたので、列に並ぶ時間も少し油断していた気分であったことは否定できず、自分を責めるばかり。ああ、我が心の良心、ケン・ローチは見られず。
しかしまあ、コンペ21本中19本見られているのだから、充分ではないかと自分を慰める。行きと同じバスの逆方向に乗り、とぼとぼとカンヌ市中に引き返す…。
 
知人と合流して、遅い昼食を食べる。イタリア料理店に入ってスパゲティを頂き、一週間ぶりの暖かい食事に感動し、一気に心も回復する。ずっと部屋でパンとハムをかじる日々だったし、そしてそれが全く苦にならなかったとはいえ、暖かい食事は心身を柔らかくするな…。

あとはクロージング・セレモニーの中継をホテルの部屋のテレビで見る。

・パルムドール:『Anatomy of a Fall』(ジュスティーヌ・トリエ監督)
・グランプリ:『The Zone of Interest』(ジョナサン・グレイザー監督)
・審査員賞:『Fallen Leaves』(アキ・カウリスマキ監督)
・監督賞:トラン・アン・ユン監督(『The Pot au Feu』)
・最優秀女優賞:Merve Dizdar(ジェイラン監督『About Dry Grasses』)
・最優秀男優賞:役所広司(ヴェンダース監督『Perfect Days』)
・脚本賞:坂元裕二(是枝裕和監督『怪物』)
 
予想は微妙に当たらなかったけれど、微妙に当たっていたとも言えて、受賞するだろうと思っていた作品が順当に受賞したという印象。ジュスティーヌ・トリエ監督『Anatomy of a Fall』のパルムドールは全く文句なしの大納得。パルムドール作品とグランプリ作品の両方に主演しているサンドラ・フラー(このようなことはおそらく未曽有だろう)に女優賞が行かなかったのは確かに驚きだけれど、作品と個人賞のダブル受賞を避けるという判断を審査員は選択したのだろうな。

カウリスマキも受賞して嬉しいし、トラン・アン・ユンの監督賞は感動した!そうかその可能性があったかと、素敵なサプライズ受賞だ。
 
アリーチェ・ロルヴァケルが無冠だったのが意外というか、残念。そして役所広司さん、おめでとうございます!これは予想的中。とはいえ、誰でも予想可能な抜群の演技だったし、ともかく役所さんが見事。
 
ちなみに、部門を横断してベスト新人監督に贈られる「カメラ・ドール」は、「監督週間」に出品されていたヴェトナムのティエン・アン・ファム(Thien An Pham)監督『Inside the Yellow Cocoon Shell(日記Day1に記述)。が受賞。そして「批評家週間」の作品賞は、マレーシアのアマンダ・ネル・エウ監督『Tiger Stripes』(日記Day2に記述)が受賞。たまたまこの2作品は見ることが出来たのでとても嬉しく、そして東南アジアの若い監督の躍進は大変な慶事だ。こちらも本当に素晴らしい。
 
充実のカンヌもついに終わってしまい、やはり寂しい。チケットには苦しんだけれど、それなりに見られたし、何と言ってもカウリスマキとエリセが見られ、パルムドールもグランプリ作品も堪能でき、そして全期間元気で乗り切れたので、大満足のカンヌでした。また来年来られますように!
 
28日朝の便で出国、29日に帰国予定です。連日の日記ブログにお付き合い下さった方々に深く御礼致します。おつかれさまでした!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?