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一杯のココアが僕に教えてくれた

これは今から6年ほど前の話だ。

当時26歳だった僕、数年間の引きこもりの後にはじめた事業の失敗による大きな借金、離婚、新たなパートナーのお腹には新たな命の息吹。

僕がおよそ想像もできないような出来事が折り重なって押し寄せてきて、その重圧で押しつぶされそうだった。

将来への希望も失い、生きてゆくことをあきらめかけていた。

そんなある日のことでした、僕は来る日も来る日も何をすればよいのかわからないまま自問自答の日々を過ごしていました。

時間だけはあったし、自分と話すだけならタダだったからだ。

その日は朝に小雨が降ったみたいで、今は止んでいて空には薄く雲がかかっていて、その隙間からは穏やかに光が降り注ぎはじめていました。

その何ともいえない薄曇りの空を見上げていたらもう一人のボクがいつものように話しかけてきた。

「ねぇねぇ、キミは今いちばん何がしたい?」

そうボクに聞かれた僕は、口の中に大好きなココアの味が一杯に広がったのでした。

「ココアまた飲みたいなぁ」

僕はそう口に出し呟いていた。

でもその願いは叶うことはない、だって僕には大きな借金があるから。

そう思うとまた目頭が熱くなって、そんな自分を情けなく思った。

「ん?どうしたの?ココア飲みに行こうよ!」

そう無邪気にもう一人のボクは提案してくる。

もう一人のボクにだってそんなことが無理なこと位わかっているハズだ。

先月から新たに立ち上げてみたカウンセラーの事業だってこの先どうなるのか全くわからない。

借金は減るどころかまた増えてしまい、この先も安定した収入の見通しは全くないのだ。そうした考えをどこ吹く風でもう一人のボクは出かけることを提案してくるのだ。

そのあまりにしつこい提案に根負けする形で僕はついに家を出ました。

薄暗い部屋でじっとしていたってどうにもならないことは僕にもわかっていたからだ。

***

家を出て空を見上げると、先ほどよりも幾ばくか雲の様子が違って見えた。

・・やがて青空がみられるかもしれない。

そんなことを思いながら、僕はゆっくりと歩を進めている。
ただし家を出たのはいいとして、そもそもの大きな問題があった。

それは当時の僕は自販機すらない片田舎に住んでおり、ココアを飲もうにもバスに乗って一番近い繁華街にあるコンビニまでいかねばならないのだ。

そしてその時の僕の財布には僅かな小銭しか入っていなかったのだ。

もうここまでくると僕はいい加減すべてがバカバカしく思えてきてやけくそにも似た心境になっていた。

だって今は平成26年なんですよ?

そんな風にもう一人のボクと掛け合いをしながら歩いていると、遠くからバスがやってくるのが見えた。あのバスを逃すと次はいつになることやら、急ぎ足であのバスに乗るためバス停へと向かった。

バスに乗って小一時間、ようやくお目当てのコンビニの近くだ。

僕の持っているお金はココアを買ってバスに乗って帰ると丁度空になる計算だ。僕はコンビニに入るとココアを買おうと手を伸ばした。

「ねぇねぇ、隣のカフェのココア美味しかったよね?」

この段階でまたボクがそんな魅力的な提案をしてきた。

あぁ・・・もうどうにでもなれ!

僕は手に取ったばかりのココアを元に戻すと、コンビニの隣のカフェでココアを注文して飲み、数か月ぶりに心地の良いひと時を過ごしました。

その間、あらゆるしがらみから解放されていたのです。

もう一人のボクも満足したのか静かにしている。

そうした至福のひと時を十分に満喫した僕はカフェを後にしようとした。

そのときでした。

僕のパートナーから慌てたようなLINEが届きはじめたのです。

物凄いことが起こっている、早く帰ってきて!と言うのです。

でも僕は帰りのバスのお金も無かったので、数時間かけてのんびり歩いて帰りました。

家に着く頃、もう一度空を見上げると雲一つない青空が広がっていました。

家に入ると僕のパートナーがとても怒っていました。

どうやら僕が先月立ち上げたカウンセリングのセミナーへの予約が殺到しており、パートナーはその対応に追われていたのです。

僕はもう一人のボクに聞きました。

「君はこうなることを知っていたの?」

でももうボクからの返事はありませんでした。

それから僕は約二年ほどかけてカウンセリング事業を行い、それまで沢山あった借金は無くなりました。

その頃になって久しぶりにボクが話しかけてきました。

「もうそろそろ別のことをしたくなったんじゃない?」

ちょうど僕もそう思っていた所で、数年間のカウンセリングの経験をもとにまた別のことにチャレンジしました。

そうしてその後も次々新しいことに挑戦し続け、今の僕はようやく自分に一致した在り方というものがわかってきたのです。

すべてはココアの味が教えてくれました。

心地よさの中にこそ自分だけの答えがあったのです。

このお話は、中村咲太さんのお話からインスパイアされたものを、私が一部の脚色を加えて執筆したフィクションです。
ご本人がお話しくださっているエピソードが収録された動画を添付致しますので、そちらも是非ご覧ください。

【宇宙くんの手紙】中村咲太

翌日に私に起きたわくわくするエピソード

私が中村咲太さんのこちらの動画を見たのは2020年末のことでした。

今回のココアのエピソードに感銘を受けた私は、次の日面白い経験をしました。夜勤明けに自転車で帰宅していた私、ふっと前日に見たココアの話を思い出しました。

その時ちょうど前方に自動販売機が見えてきたので、そうだココアを飲んでみようと思い立ったのです。

といいますのも、私はこれまで自動販売機で飲み物を買った経験はあまりありません。家でお茶を淹れれば一杯数円でできるからです。

私はいざ自動販売機に近づくにつれあまり経験のないことに妙にワクワクしている自分に気づきました。

自動販売機まであと少しのところで、私はそもそもココアの代金があるのか気になり、自分のポケットの小銭入れをソワソワ取り出して中を確認するために少し手前で自転車を止め、ふっと足元を見ました。

そうするとそこに300円が落ちているのです。

「なんでやねん!」

私は心の中で思いっきり突っ込みました。

そんなふうにみて見ぬ振りをしつつ、小銭入れにココア代があるのを確認した私は、足元のお金が必要な人に渡ればいいなと思いながら自動販売機に向かいました。

残念ながらそちらのコカ・コーラの自販機にはココアは売っていなかったのですが、大好きなカフェオレを飲みました。

自動販売機の前で空を見ながらただカフェオレを飲んでいる。
日頃の喧騒から解き放たれたような何とも言えない感覚でした。

実際にカフェオレを飲んだ自動販売機を後日撮影したものです(撮影しているその足元の辺りに300円が落ちていました)

***

その頃の私は、すでに当時勤めていた会社を退職する予定であり、年末の繁忙期を過ぎた後、結果的には春に退職いたしました。

このあたりの私の経験はこれまで何度か書いてきました。今回のココアの経験とともにそれらの体験にはたくさんの勇気をいただきました。

本日は私の好きなエピソードを私の体験を交えてご紹介いたしました。
最後まで読んでくださってありがとうございます。


タイトルフォト

nicoriさんよりお借りしています。
ありがとうございます。

著者プロフィール

私、ナスノの簡単な自己紹介となります。
惹かれたら是非ご覧ください。

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