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コーポレイティブ・ケア - 犬が選択しコントロール

選択肢があり承諾を得てからの行動が、犬の生活の質を向上させ、あなたと犬との関係も向上させます。コーポレイティブ・ケア・トレーニング(Cooporative Care Training)とは、それを可能する練習です。ハズバンダリートレーニングという名称で知られているトレーニングは時折、医療やメンテナンスを受けるためのトレーニングと謝った解釈をされることがあるので、動物の協力を得て初めて成り立つトレーニングとしてその名称を「コーポレイティブ・ケア・トレーニング」と呼ぶ方が誤解が生まれないでしょう。ではその手順の一例、チラグ・パテル氏考案のバケツゲームをここで御紹介しましょう。

爪切りや被毛のケアは、最低限にしていても、健康衛生面から避けては通れないものです。ブラッシングしようとすると、緊張してしまい、時には唸ってしまう犬もいます。

バケツ・ゲームを学習することで、犬はグルーミングに対する自分の気持ちをトリマーに伝えることが出来ます。結果、犬が攻撃的な行動をエスカレートさせる前に対処でき、グルーミング中の犬は、我慢ではなくリラックスして楽しむようになっていきます。チラグ・パテル氏は、コーポレイティブ・ケアによって犬に選択肢を与えるだけでなく、協力しなければ報酬が出ないという強迫的なトレーニングに動物を晒すことをなくしました。

コーポレイティブ・ケアトレーニング(Cooporative Care Training)とは、動物がハンドリングや医療行為の手順に耐えるだけでなく、これらの体験への積極的な参加を可能にするトレーニングです。

運動の展開

犬の世話をする人たちの間では、犬たちの協力を得て、私たちが犬に要求するさまざまな飼育手順を犬がある程度コントロールできるようにすることの重要性が認識されつつあります。犬飼育の世界では、あまりにも長い間、飼主(ハンドラー)が言った事を必ず守らなければならない、というルールが敷かれていました。

強制のない犬の訓練は20年以上前に流行の一端として現れ、人気と利用のしやすさで成長し続けています。トリマー、シェルターのスタッフ、動物病院の職員など、犬の世界の一部の層は協力的なケアを受け入れるのが遅かったのですが、現在では急速に浸透しつつあります。

2016年、「アメリカの獣医師」であるマーティ・ベッカー(DVM)は、動物病院の専門家が患者を怖がらせることなく取り扱い、治療することを教える教育カリキュラムと認定プログラム「Fear Free」を立ち上げました。

現在、Fear Freeはドッグトレーナーやトリマーの教育機会と認定資格を提供しており、今は、ドッグウォーカーやペットシッターなども認定範囲に追加されています。また、ペットの飼い主やシェルターで働く人々には、Fear Freeの情報を無償で提供しています。

さらに、米国動物病院協会では、動物病院向けの協同ケアに関する包括的な書籍が2021年の春に発売されています。そして、『Cooperative Care: Seven Step to Stress-Free: Seven Steps to Stress-Free Husbandry (2018)』の著者であるDeborah Jones, Ph.D.は、では、オンラインでCooperative Care Certificateコースを提供しています。

犬毛の絡まりを解く、傷口を診察してきれいにする、目薬をさす、耳をきれいにする、歯を磨くなど、犬の飼い主なら誰でもいつかは愛犬に基本的なお手入れを行う必要がある。これらの作業を快く引き受けてもらうために、ジョーンズ博士はまず、飼い主が犬に協力的なケアのための基本的な行動を教えることを勧めています。ジョーンズ博士は、これらの基本的なスキルを、犬が体系的かつ段階的に学べるように、特定の順序で教えています。ジョーンズ博士が提唱する「10の基本」は以下の通りです。

  1. あごのせ(またはバケツ・ゲーム)

  2. 横向き寝

  3. 拘束

  4. 口輪をつける

  5. フットハンドリング

  6. 口の扱い

  7. 薬の服用

  8. 注射または採血

  9. 目の検査

  10. 耳の検査

バケツ・ゲーム (選択ゲーム)

愛犬にこうした手順の楽しさを覚えてもらうには、さまざまな手順があります。バケツ・ゲームは、その中でも特に工夫が凝らされ、汎用性の高いもののひとつです。バケツ・ゲームは、ロンドンでトレーニング事業を行うDomesticated Mannersの経営者であるトレーナーのチラグ・パテルが開発し、犬のトレーニング界に紹介したものです。バケツゲームは、一度教えると、10種類の基本行動だけでなく、グルーミングや爪切りなどの日常的なケアにも使うことができます。

この楽しくて簡単なドッグトレーニング手順により、犬に選択肢を与え、参加する意思を伝えられる環境を作ることで、学習者の力を引き出します。バケツ・ゲームを使うと、愛犬は以下の事をあなたに伝えることができます。

  • いつから始められるか

  • 休憩を取りたいとき

  • やめたいとき

  • スピードを落としたいとき

バケツゲームに必要なのは、おやつを入れる小さなバケツなどの容器と、小さくて価値の高いおやつをたくさん用意するだけです。

ステップ1:バケツの前でのインパルスコントロールの指導

  1. まず、バケツを手前に持っていきます。バケツを見ながらバケツから少し離れたところ(2~4フィート)で、犬にご褒美を与えます(バケツからおやつを与えます)。
    通常、あなたがバケツの中に手を入れ、おいしいおやつを取り出して与えるのを見た犬は、「これは何だろう」と再びバケツを見るようになります。準備OK! バケツを見るのを見たら、バケツからおやつを取り出して与えてください。これで完了です。何度も繰り返してください。犬が飛び上がったり、バケツに飛び込んだりしても、咎めずにバケツを高く掲げればいいのです。
    飛び上がったり、飛び込んだりせずに、バケツに視線を戻し続けることが、より多くのおやつを得るための最善の方法だと理解するのに時間はかからないはずです。

  2. バケツを地面や椅子、テーブルの上に置き、バケツを見ながらおやつを取ろうとしない犬にご褒美をあげます(バケツからおやつを与えます)。バケツを見たらご褒美をあげるだけです。これを何度か繰り返します。

  3. バケツを長く見ている間、ご褒美にバケツの中のおやつをあげて、徐々に見る時間を長くしていきます。このとき、あまりに早く、長くし過ぎると、行動が消えてしまうことがあります。

これは選択ゲームであることを忘れないでください。犬はバケツに集中する間に周りを見てもいいのです。呼んだり、バケツを叩いたり、バケツに注意を引かせるようなことはしないでください。愛犬に参加することを選ばせてあげましょう。

ステップ2: 選択の概念の導入

  1. 犬が少なくとも10秒間、バケツに集中できるようになるまで練習します。お座り、伏せ、立ちなど、どのような姿勢でも構いません。

  2. バケツ・ゲームの一環として、グルーミングや耳の中を見るなど、犬に紹介したい手順を選びます。犬にブラッシングをする作業をするように、手順を説明します。

  3. 犬がバケツに集中し、少なくとも10秒間集中を維持できたら、手を犬の側に動かし始めます(犬には触れないように)。バケツを見続けるようであれば、手を近づけるのをやめ、バケツに入ったおやつを与えます。もしバケツから目を離し、あなたの手や顔を見ようとしたら(「何してるの」)、手を元に戻してください。
    これは選択ゲームであることを忘れないでください。まだ、自分が不快であることをあなたに伝えることができることを理解していないかもしれません-単に好奇心が強いだけかもしれませんが、このプロセスを続けるうちに理解するようになります。

  4. 犬が再びバケツを見つめたら、ゲームを再開します。このとき、手を早く動かしたり遠くへ動かしたりしないようにします。バケツに集中できたら、ご褒美にバケツの中のおやつをあげます。
    バケツを見続けている間はおやつをあげ、バケツから目を離したら手を離す、ということを繰り返します。

  5. やがて、バケツを見つめる犬に触れることができるようになるはずです。最初に手を出すと、犬はあなたを見るでしょう。手を離し、再びバケツを見つめた後にもう一度試してみてください。バケツを見つめ続けることが、おやつをもらう唯一の方法であることを理解し始めているはずです。グルーミングをする体のいろいろな場所に、少しずつ力を加えて触って、たびたびご褒美をあげましょう。このときも、あまり長く待っているとゲームにならないと思い始めるので、少なくとも10秒か15秒はバケツを見つめたまま、あなたに触ってもらうようにします。

  6. 今度はブラシを手に取り、ステップ3を繰り返してください。ブラシを手に持って何度か繰り返すうちに、ブラシで触れられるようになります。この作業を、犬がバケツを見たままグルーミングができるようになるまで続けます。

ゲームの最も重要なルール

犬がゲームの工程を覚えたら、耳や口の検査、足の処理、爪切りなど、他の処置にも簡単に一般化することができます。

ただし、この選択ゲームは、愛犬がゲームを始めたい、休憩したい、やめたいと意思表示できるようにしなければうまくいきません。犬がバケツから目をそらすようなら、ゲームを中止してください。犬がバケツに再び集中したら、ゲームは続行されます。愛犬の「やめたい」という気持ちを尊重し、愛犬の「やめたい」という気持ちを尊重できる状態の時だけ、この手順を使うことが大事です。

他の動物看護士と一緒にバケツ・ゲームを行う場合は、あなたの犬がバケツから目を離したときに、他の動物看護士も快く処置を中止する必要があります。もし彼らがそうする意志がない場合は、バケツ・ゲームを使わないでください。もし、一度始めたら止められないような処置をしている場合は、その処置にバケツゲームを使うべきではありません。

文献:Cooperative Care: Giving Your Dog Choice and Control by Pat Miller, CBCC-KA, CPDT-KA -Published : January 20, 2021



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