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番外:起業家はストーリーとともにウイスキーをのむ

仕事で「うわーーーーっ」となった合間の気分転換に書いてる「ウイスキーとファイナンスと私」ですが、次書こうとしている記事ネタが気分転換ではかけない内容なので、間をつなぐ意味で、番外編を書きたいと思います。
投稿3回目にしていきなり番外編ってのもアレですが苦笑

先日、Facebookで「起業家に送るお酒」としてOld Parrを紹介する投稿をしたのですが、評判がよかったので、せっかくであればいくつかのウイスキーをご紹介したいと思います。

起業家がウイスキーを飲むなら、もしくはせっかく起業家にウイスキーを送るなら、美味しいだけでなくちょっと何かストーリーや想いを添えたいものです。

ウイスキー作り自体が「起業そのもの」であることは、前の記事をご覧頂ければなんとなくお察しいただけるのではないかと思います*。なので、「ウイスキーという存在自体」が起業家に送るのに"もってこい"なのですが、追加で少しスパイスがあるとなお良し、ですね。

苦労しているスタートアップの励ましに

~オールドパーは倒れない!

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「岸辺◯伴は動かない!」的なノリでタイトルコールをしましたが、有名なブレンデッド・スコッチウイスキーである「オールドパー(Old Parr)」は、美味しいだけではなく、これに添えられるストーリーもなかなかによいものです。

オールドパーは、古くから「おいしいスコッチ」の代表例として日本でも浸透しています。そんなオールドパーにはたくさんの逸話があるのですが、スタートアップ向けの逸話を3つ紹介します。

1. 公式に記録される日本に最初に来たウイスキー
 明治時代、日本に課された不平等条約の改正を目的に、岩倉具視氏が使節を結成、欧米で交渉に奔走しました。そのときにお土産で持って帰ってこられたウイスキーが「オールドパー」であるという記録が残っているそうです(明治天皇に献上されたようです)。「日本初」を目指す起業家にはよい励みになると思います。
*ウイスキーの上陸自体はペリーさんが持ってきた、ということが分かっているのですが、もらった人が記録する前に飲み干してしまったのか、銘柄までは記録されていません。

2. パーおじさんは伝説の長生きおじさん
 ボトルに描かれているおじいさんですが、これは実在の「トーマス・パー」という方。なんと152歳まで生きられた、という伝説の方です。
スタートアップに対しては「生きろ!」(ア◯タカっぽく、「そなたは美しい」とつけてもよい?)というメッセージになることでしょう。

3. オールドパーは倒れない 
副題にもしておりますが、オールドパーのボトルは特殊な形状をしており、実は斜めにしても倒れない絶妙なバランスを保てたりします。
「験担ぎ」的に「しぶとさ」の象徴として、特に日本の政治家の方に語り継がれてきました。
古くは吉田茂氏、その吉田茂氏に教えてもらったらしい田中角栄氏がオールドパーを愛飲していたらしいですが、美味しさだけでなく、「倒れねぇかんな!」というある意味の験担ぎの気持ちも込められてた、という話です。
日々、HARD THINGSに直面する起業家に、「お前なら大丈夫、倒れねぇよ!」と言う励ましとともにOld Parrはよい励ましになるかもしれませんね。


世界を目指せ、世界一のスコッチウイスキー

~チャーチルも愛飲した定番ジョニーウォーカー

あまりウイスキーに触れない方も一度は見たことあるかもしれません。歩いてる紳士のマークで有名なジョニーウォーカーは、「販売量世界一のスコッチウイスキー」です。
上述のOld Parrと同じく、ブレンデッドウイスキーで、商品ラインも豊富であり、1000円ちょっとで購入できるレッドラベル、2000円ちょっとで購入できる定番ブラックラベル(通称ジョニ黒)。ちょっといいときに飲みたい、5,000円くらいのグリーンラベル。
なんだかんだ、「世界で一番売れてる」ってのは何よりもわかりやすいメッセージですね。そしてこの「世界一売れている」は工夫によってなし得たことといえるでしょう。
大量生産にいち早く成功し、いきなり海外マーケットを攻略に乗り出します。スコットランドの港、大型船の船長を集め、渡航先に自分のウイスキーを届ける「アンバサダー」として協力を仰ぎました。またその過程で、荷物として積みやすいように「四角いボトルにしたこと」が重要です。積載効率もよいですし、何より長い船旅でのボトル破損が激減したようです。ラベルにも工夫しました。ラベルを24度に傾斜させることで、遠くからみても「ラベルの角度でパッと分かる」ようにしたとのこと。全てに魂を込めているといっても過言ではありません。
ジョニーウォーカーは、第二次世界大戦の連合国側の名宰相として有名なイギリスのウインストン・チャーチル氏が愛飲したことでも有名です。
諸説あり、ですが、ジョニーウォーカーのレッドラベル、ブラックラベルを超薄めのソーダ割り(氷なし)にして飲みながら仕事していたようです。ちなみに食事中はシャンパンも飲んでた様子。どんなけ薄めといってもお酒ですからほぼ1日中酔っ払って政務に関わったようですね。米国のルーズベルト大統領には、「たとえ一日の半分は酔っ払っていたとしても、英国はこの時期、最良の首相を得た」と言わしめたようです。
これを起業家に贈って、チャーチル氏の話なんかした日にゃ、朝から酔っぱらいの起業家が出来上がるかもしれませんので注意が必要です苦笑

そうそう、付け加えますと、このラベルの歩いてる紳士のことを「ストライディングマン」といいます。
メッセージは「KEEP WALKING」。これもまた起業家にとっては大事なメッセージとなるのではないでしょうか?

原点回帰を勧めるなら

~日本のウイスキーの原点を味わう

日本のウイスキーの原点は何か?と問われたら、僭越ながら私はスコッチのシングルモルトである「ロングモーン(LONGMORN)」と「ヘーゼルバーン(HAZELBURN)」と答えます。

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日本の最初のウイスキー蒸溜所は今やウイスキーを飲まない人でも知っている「山崎」という世界ブランドを生み出す「山崎蒸溜所」です。
NHK連続ドラマ「マッサン」をご覧になられた方は覚えているかもしれませんが、山崎蒸溜所は、マッサンこと竹鶴政孝氏がサントリー創業者である鳥井信治郎氏とともに立ち上げた蒸溜所です。竹鶴氏は、その後独立して日本果汁を設立、これが現在の「ニッカ」となるわけです。
そんな竹鶴政孝氏は、山崎蒸溜所創設の前にウイスキーの本場スコットランドに留学し、ウイスキー製造について徹底的に勉強しました。
その時に受け入れられた蒸溜所が上記の「ロングモーン蒸溜所」と「ヘーゼルバーン蒸溜所」なのです。
特にヘーゼルバーン蒸溜所では、鬼気迫る姿勢で蒸留技術を学び、詳細に学んだ内容を書き留めたノートは後に「竹鶴ノート」と言われ、日本のウイスキー造りの原点といえるものになっています。
その後、スコットランドのお偉いさんに称賛とともに「竹鶴政孝氏にスコットランドの魂を盗まれた」と言ったとか。なお、当時の製造方法を詳細に記録したノートはスコットランドにとっても歴史の記録として重視されています。
というわけで、日本のウイスキーの祖である、竹鶴政孝氏の学んだこの2つの蒸溜所が、日本のウイスキーの原点ではないか、と僕は考えています!
そんな原点となるウイスキーをもって、挫けそうな起業家に直接的な言葉ではなく、このウイスキーとともにストーリーを語ることが心の支えになるかもしれません。



日本発祥の飲み方がオフィシャルに

~タリスカーのスパイシーハイボールは日本発祥?

どんなストーリーをつけようが、結局は「自分が好きなウイスキーをプレゼントする」のが一番かも知れません。
じゃあ、木村はどうって?たくさんのウイスキーを飲んできましたが、「好きなウイスキーは何?」と聞かれたときには「シングルモルトのタリスカー(Talisker)」と即答します。
スコットランドのスカイ島の作られるタリスカーは絶妙なクセもあり、「あぁスコッチ飲んでる!」という気分にしてくれます。港町で作られるがゆえに、ラベルには「Made by the Sea」と記載されてるところなんてちょっと小粋ですよね。
で、そんなタリスカーですが、ちょっと変わった飲み方があります。ハイボールに黒胡椒を最後に一振りする、スパイシーハイボール。タリスカーからなんとなく漂う海の香りが、黒胡椒の香りと調和してすごく美味しいのです。
私も、この飲み方を知ってから、お店でいただくときも黒胡椒を振っていただいたりするのです。オーセンティックバーにしては珍しくアトレの中にある「モンドバー」@アトレ品川。ちょっと思い出のあるこの店で、ある時スパイシーハイボールを注文しました。
後日、たまたまタリスカーの公式ブログで見かけた記事に僕は衝撃を受けました。なんと、僕が何も知らずスパイシーハイボールを注文したモンドバーがこの飲み方の発祥だったなんて!(記事
日本のバー発祥の飲み方が海を超えて、オリジナルの蒸溜所からも認められた。そんな素敵なストーリーとともに、タリスカーのスパイシーハイボールを飲めば起業家の野心に火を付けるかもしれません。
自社のプロダクトをグローバル・スタンダードにと野心を燃やす起業家の方へのプレゼントとしていかがでしょう?


プロダクトづくりのコダワリに称賛を

~日本のクラフトウイスキーの先駆け「イチローズモルト」

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ジャパニーズ・ウイスキーのブランドが高まったのは、サントリーやニッカの頑張りであることに疑いの余地なしですが、その中で日本のクラフトウイスキーの基礎を作ったのはイチローズモルトをリリースしている秩父のベンチャーウイスキーであると勝手ながら考えています。
詳細なストーリーはご興味があれば調べて頂くとして、様々なHARD THINGSを超えて、いっきに世界ブランドに駆け上がったウイスキー蒸溜所といえます。創業者の肥土伊知郎氏(あくといちろう)のウイスキーへの愛とコダワリは、スタートアップとしてプロダクトに向き合う姿勢を学ぶ上でお手本になるはずです。現在は、原料の大麦を秩父の農家に生産を依頼。さらに熟成のための樽をつくる製樽所まで構えています。ワインでいうところの「テロワール」な姿勢で徹底的にこだわったプロダクトづくりをしておられます。
リリースするウイスキーは、プレミアがつき、なかには1000万円を超えるものもあります。僕が蒸溜所を訪問した際には、ちょうど第二蒸溜所の建設をしておられました(その後2019年操業開始)。生産量拡大に踏み切っていたのです。そのときの肥土氏の言葉が印象的です。「隠れた銘酒にしたくない」、つまりみんなに手が届きやすい、うまい酒を造りたい、そういう意味での生産能力の拡大とのこと。
リリースされるウイスキーはすぐに完売、プレミアムが付く状態ではありますが、ホワイトラベルの生産は安定して継続しておられ、普通に酒屋さんで通常価格で購入できる旨い酒として上記の言葉を違えないスタンスを示してくださっています。
もうちょっと肥土氏の推しポイントを加えると、新しい作り手に積極的に作り方のノウハウを伝えているという点です。ともすれば競合を作ってしまうわけですが、一緒に業界を盛り上げていきたい、という思いから、当事者でありながらエコシステム作りにも貢献されているその姿勢はまさに神。この点は僕も見習ってて、同じような事業を検討されている人から相談されたら、できる限り僕の考えとかノウハウはお伝えするようにしています。
肥土さん、まじリスペクトっす!
ちなみに写真のイチローズモルトのラベルのサインはブランドアンバサダーの吉川さんのサインです!飲みきっても新しいイチローズモルトを入れ替えて使っています笑

捨てる神あれば拾う神あり

~伝説のプロデューサーに見出されたグレンアラヒー

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近年、スコットランドのウイスキー蒸溜所の中心地とも言えるスペイサイド地域では、マッカランや前述のグレンリベット等、有名なウイスキー蒸溜所がひしめき合っています。グレンアラヒーはそんなスペイサイド地域の蒸溜所の一つ。しかし1967年の操業開始以来、長らく注目されなかったのは、「ブレンデッド・ウイスキー」向けに利用されており、「グレンアラヒー」というブランド名でシングルモルトとしてリリースしてこなかったから。そんなグレンアラヒーは2017年、新しいオーナーのもと、独立したシングルモルトウイスキーとして改めてリリースされました。
それまで業界大手ペルノリカール社傘下の蒸溜所でしたが、同社としてグレンアラヒー蒸溜所を「余剰資産」として認識。そこで「シングルモルト」としての可能性を見出したのが、伝説的なウイスキープロデューサーであったビリー・ウォーカー氏。同氏は、ペルノリカール社の余剰資産とされたグレンアラヒー蒸溜所を買収し、シングルモルトとしてリリースしました。
捨てる神あれば拾う神あり、そんな励ましにグレンアラヒーはいかがでしょうか?

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お祝いにも励ましにもウイスキー

そのストーリーそのものがお祝いのメッセージになったり、励ましのメッセージになったりするウイスキー。
言いたいことを直接伝えるのも照れくさかったり、野暮だったりする、そんな大人の面倒くさいところも、こうやって表現するとちょっと「粋なはからい」になるかもしれません。何より美味しいですから笑


* ウイスキーだけでなく、ワインや他のお酒も色々あると思いますので、誰かワインで起業を語る方とかいらっしゃればいつか教えていただきたいです。

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毎度ながら息抜きで書いているがゆえ、細かい出典参照等はしておりません。今までの得た知識に基づき、勢いとノリで書いているので、もし誤りに気づかれた方はそっと教えて下さい笑

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お写真について:
・Old Parrは一個前の世代のボトルのため、現行品とラベルが異なります。
・HAZELBURNは少しプレミアムついてますね。
・イチローズモルトのラベルは蒸溜所訪問したときにサイン書いていただきましたが、肥土伊知郎氏のサインではありません笑


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