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読書ログ「This is Lean」

概要

リーン本の中でも、トップ3に入るぐらいの名著。
キーワードは、「プロセス」、「フロー効率」、「リーン」、「トヨタ生産方式」。

リーンの定義、その起源、そしてリーンの母である「トヨタ生産方式」が簡潔に解説されています。
著者は、「フロー効率」という効率性の概念を提唱しており、これを従来の「リソース効率」と対比させながら、リーンをオペレーション戦略と定義しています。簡潔かつ秀逸なまとめ方です。
本書では、「フロー効率」と「リソース効率」の詳細な解説に加え、両者のバランスが取りにくい理由を3つの法則を用いて説明しています。また、「トヨタ生産方式」の深い洞察、また、トヨタの価値観、原則、メソッド、ツール、アクティビティの具体的なエピソードも含まれており、これらも本書が提供する多くの示唆に富んだポイントです。

5-10年後には、「リーンスタートアップ」と同様にリーンの定典として称賛される本になるのではと思います。


フロー効率とは?

フロー効率は、組織内で処理されるユニットに焦点を当てる。フロー効率は、特定の期間にどれぐらいのフローユニットが処理されているかを知る尺度になる。

 フロー効率 = 「スループット時間内の付加価値時間」/「スループット時間」

リソース効率は特定のリソースの利用に重点を置く一方で、フロー効率は特定のフローユニットがプロセスを移動する速さに焦点を当てる。

This is lean

スループット時間とは、単純にフローユニットがプロセス全体を、つまりプロセスの始まりから終わりまでを移動するのに費やす時間のことである。大切なことはフローユニットの観点からスループット時間を見ること。

フロー効率とは、スループット時間に占める付加価値アクティビティの総和である。

フロー効率を定義する時には、 リソースからフローユニットへ価値が付加されるプロセスの密度に注目することも大切である。 具体的に言えば、フロー効率はスループット時間に占める付加価値アクティビティの割合に関係している。しかしながら、価値移動のスピードを早めることで、 顧客価値を高めることも可能なのだ。
フロー効率とは付加価値アクティビティのスピードを上げることではない。価値を付加する時間の密度を極限まで高め、 非付加価値アクティビティを排除することがフロー効率なのだ。
フロー効率では、付加価値アクティビティの適切なスピードを見極めることに重点が置かれる。好ましいバランスを見つけて、顧客価値を最大に高めることが目的になる。

対して、リソース効率とは、製品を作ったり、サービスを提供したりするのに欠かせないリソースに重点を置く。
リソース効率は、特定の期間にリソースがどれぐらい利用されたかを計算することで、リソース効率を導き出すことができる。

リソース効率 = 「特定時間内でのリソースの稼働時間」/「特定の期間」


プロセスに関して

プロセスとは、ある入力(原材料、情報、要求)を受け取り、それを処理し、出力(製品、サービス、情報など)を生み出す一連の手順やステップのこと。
ビジネスの文脈における最終出力は、顧客に製品やサービスを提供をすること。その出力の対価として、お金をいただくことで売上が発生する。

プロセスこそが組織の土台であり、その土台の上で組織はなすべきことを行う。プロセスを通じてフロー効率が生まれる。
抽象化の度合いによってプロセスの数は変わる。抽象化の度合いが存在するということは、 組織がいくつかの主要プロセスで構成されていることを意味している。それら主要プロセスは様々なサブプロセスからなり、それらサブプロセスもまた、さらに小さなサブプロセスに分けることができる。そうやって、最終的にはプロセスの最小単位である個別のアクティビティのレベルにまで到達する。

プロセスの3法則

組織の効率的なフローの妨げになっている要因を知るには、プロセスは特定の法則に従うという点に気づくことが重要になる。3法則は以下。

  • リトルの法則

  • ボトルネックの法則

  • キングマンの公式

高いフロー効率の実現を阻む要素を知るには、3つの法則の存在を理解しなければならない。これらの3法則が、プロセスのスループット時間が伸びる理由になる。
リトルの法則が働くため、プロセス内のフローユニットの数が増えた場合とサイクル時間が長くなった場合にする時間が伸びる。
ボトルネックの法則が働くため、プロセスにボトルネックが存在する場合に、スループット時間が伸びる。
キングマンの公式が働くため、プロセスにおける変動が増えた場合、あるいは稼働率が100%に近づけば近づくほど、スループット時間が伸びる。

リトルの法則

スループット時間=プロセス内のフローユニット数×サイクル時間

リトルの法則からプロセス内のフローユニットの数が増えれば、スループット時間が長くなることもわかる。 ここにパラドックスが潜んでいる。
リソース効率を高く、保つにはリソースを最大限に利用しなければならない。 それを実現するためには常に仕事がなければならない。
しかし、絶え間なく仕事を続けるには有り余るほどのフローユニットが必要になる。次のフローユニットがやってくるのを待つよりもフローユニットに順番を待たせる方がいい。
この点がまさにパラドックスで、リソースを最大限に利用するために、余剰のフローユニットを確保するとスループット時間が増えるのである。

ボトルネックの法則

ボトルネックの法則は、基本的にプロセス内でサイクル時間の最も長いアクティビティのせいで、プロセス全体のスループット時間が影響されること。「制約条件の理論」を指しています。

プロセスを流れるものがなんであろうとボトルネックの直前に必ず渋滞が生じる。ボトルネックのすぐ後のアクティビティは実行されるまで待機時間が生じる。つまりボトルネック直後のプロセスでは、ケイパビリティより低いペースで稼働する。
ボトルネックは遅延をもたらす。そこに生じるのは、基本的にスループット時間を伸ばすだけの非付加価値時間だ。

プロセスにボトルネックが生じる背景は2つある。
1つ目は、プロセス内のステージが特定の順番で行われなければならない時。
2つ目は、変動だ。
プロセスには必ず変動が生じる。原則として変動をなくすのは不可能で、しかも変動はプロセスとフロー効率にとても悪い影響を及ぼすことが知られている。
プロセスには必ず変動が生じる。 その原因は「リソース」、「フローユニット」、「外部要因」を元に3つのグループに分類できる。

キングマンの公式

変動とリソース効率とスループット時間の関係を公式化したもの。スループット時間と稼働率は正比例ではなく指数関数的な関係。またプロセスにおける変動が大きければ大きいほどスループット時間が長くなる。

3法則から見る、プロセスの改善

  • ボトルネックを特定し解消することで、プロセス内のフローユニットの数を制限する

    • ソフトウェア開発の世界のWIP制限と同じ

  • 仕事の速度を上げ、サイクル時間を短縮する

    • タスク最小化。MVPの概念

  • リソースを増やすことでキャパシティを高め、サイクル時間を短縮する

    • プロセス内のフローユニット当たりのリソースを増やすことが重要

  • プロセス内の様々な変動を排除、削減、管理する

    • 標準化及び自働化

基本的に、スループット時間が長くなればフロー効率は下がる。
この原則は、スループット時間の増加率と同じだけ付加価値時間が増えなかった場合に適用される。言い換えると、3法則のおかげで「フローユニットの数」、「サイクル時間」、「ボトルネック」、「変動」、「リソース効率
」など、数多くの要素がフロー効率に影響することがわかる。
また3法則から、高リソース効率と高フロー効率を両立するのが不可能ではないにしろ難しいことがわかる。 高いリソース効率を維持するには、特にプロセスに変動がある場合は、処理される順番が来るのを待つフローユニットが欠かせない。しかし、リトルの法則があるため、プロセスにフローユニットが増えればフロー効率が下がってしまう。さらに変動が多いプロセスの場合は、高リソース効率と高フロー効率を両立するのが不可能であることを、変動効果の法則が示している。

どうすればフロー効率を高められるのだろうか?
3法則を利用して基本的に4つのことが可能だ。
- 停滞の原因をなくして、プロセス内のフローユニットの総数を減らす
- 仕事の速度を上げ、サイクル時間を短縮する。
- リソースを増やすことでキャパシティを高め、サイクル時間を短縮する
- プロセス内の様々な変動を排除、削減、管理する


リソース効率の功罪

リソース効率にこだわりすぎることで生じる悪影響。

  1. スループット時間が長くなることでの、二次ニーズの発生

  2. マルチタスクによる処理能力の低下

    1. 参考:  https://www.infoq.com/jp/news/2009/09/study-multitasking-performance/

  3. チームや部署をまたぐ引き継ぎによる、二次ニーズの発生

  4. コンテキストスイッチによる、二次ニーズの発生

これらは、単純にスループット時間が長いことで発生する二次ニーズと、プロセスがリソースを軸として設計されているために発生する変動や認知コストをマネジメントするために発生している二次ニーズに分類できる。

リソース効率にこだわりすぎることで生じる3種類の悪影響。

1. スループット時間が長くなることで生じた悪影響が新たな二次ニーズを生むことになる。(二次ニーズとは本来満たすべき一次ニーズとは異なり、 スループット時間が長くなったことによって対応する必要が発生したニーズのこと。)多くの場合、それらに対処するために、組織に新たなリソースやアクティビティが必要になる。
2. 1つ目の原因と密接に関係していて、「多くのことを同時に処理する」能力が問題になる。例えば1通のメールに回答するのを先延ばしにすればするほど、返信しなければならないメールが増えていく。人間の能力には限界があるので、同時に多くのことを処理しようとすると、たくさんの二次ニーズが生じてしまう。ジャグリングをボール30個でやるよりも3つの方がよほど簡単なのである。
3. 「数多くのリスタートに対処する人間の能力」の限界。リスタートには2種類あり、「リソースをまたぐ引き続き」と「同一のリソースの内で発生するリスタート」。

顧客が組織と関わりを持つのは一次ニーズを満たすという目的があるからだ。組織があまりにも極端にリソース効率に重点を置いている場合、3つのタイプの非効率性が生じ、その結果として数多くの問題が発生する。さらにそれらの問題が二次ニーズを呼び起こし、組織はそれらを満たさなければならなくなる。つまり、組織が顧客の一次ニーズを満たし損なうから二次ニーズが生じるのである。 二次ニーズはさらなる二次ニーズをもたらすことが多い。

一次ニーズを満たすために最適化したプロセスを設計し、そのプロセスに適応する組織設計にするべき。
まず、ビジネス(満たすべき顧客のニーズ)があり、そのビジネスに最適化した、プロセス設計を行い、そのプロセスの上でフローユニットを処理していくのに、最適化した組織設計を行うべき。

二次ニーズの根本的な原因は何だろうか?本質的にリソース効率を重視しすぎるとフロー効率が下がる。
その際、顧客のニーズが複数の小さなステップに分割され、様々な個人や組織部門によって満たされるようになる。いわば効率性の孤島がいくつもできるのである。 そのような状況では、各部門が部分最適化された能力でしか機能していない組織が出来上がってしまう傾向がある。 個別に部分最適された部門は効率は高いかもしれないが、プロセス全体のフロー効率は下がり、さらに一連の二次ニーズが生じるリスクが高くなる。

余計な仕事を通じて、効率性のパラドックスを説明することができる。 リソース効率に重点を置きすぎると、プロセスの法則が働いてフロー効率が下がる。フロー効率が下がれば、いくつかの二次ニーズが生じる。 自分ではリソースを効率的に使っている気になっているが、実際には余計な仕事や付加価値を生まないアクティビティを行うためにリソースを使っているだけ。これがパラドックスなのである。
パラドックスの解く鍵となるのが、フロー効率の重視だ。組織はフロー効率の低さから生じる数々の二次ニーズをなくすことができる。 具体的にはスループット時間、プロセス内のフローユニット、リスタートの回数を減らす決断をするために余計な仕事も減っていく。

顧客のニーズを満たすことを目的に置くのではなく、自社のリソースを活用することを目的に置いてしまうと、リソースを稼働させるための仕事が発生する(売上を上げない仕事)。
顧客のニーズを満たし、対価としてお金をいただくという経済活動をしており、そのニーズを満たすためにリソースが存在する。という原点を忘れては、手段が目的化してしまう。
参考: BAPOモデル
https://note.com/yoshihir0/n/na29eccffd400

効率性のパラドックスをなくすための戦略の一つがリーンと呼ばれる考え方である。リーンは、真の顧客のニーズに答えるため全体を見ようとする。

効率性のマトリックス

  • 効率性の孤島

    • リソース効率の最適化は、フロー効率の低下という犠牲を生む。個々のフローユニットのフロー効率が低くなる。個人もしくは部署単位での個別最適化は行われているが、会社、組織としての全体最適化は行われていない。なので、孤島。

  • 荒野

    • リソースを浪費しながら、顧客に十分な価値もをもたらしていない状態。

  • 効率性の海

    • ここでのフォーカスは顧客に向けられていて、彼らのニーズをできるだけ効率的に満たすことに重点が置かれる。フロー効率を最高にするために、リソースに余裕がなければならない。リソースの効率的な使用を犠牲にすることで、フローが効率的になる。

  • 完璧な状態

    • 困難だが不可能ではい。鍵は変動のマネジメント。

    • フロー効率もリソース効率も最大化された最高の状態 をスターと呼ぶ。スターに到達することは不可能。

    • スターに到達するには、完全な「需要の予測」と「柔軟で信頼できる供給」が必要


需要と供給における変動の度合いが組織がどのオペレーション状態を実現できるか決める。変動がスターになる可能性を制限する。つまり、変動が 「効率性の境界」を形作る。
ここで大切なのは、 効率性の境界を超えたオペレーション状態を実現するのは不可能だという点を理解すること。

変動の存在だけではなく、変動の度合いもまた効率性マトリックスに大きく影響する。 変動が大きいほど高いリソース効率と高いフロー効率を組み合わせるのは難しくなる。変動の度合いが増せば、効率性の境界が内側へ押し戻される。
どんな種類の組織でも変動をなくしたり減らしたり、あるいは管理する能力を高めることができる。「需要の予測」と「柔軟で信頼できる供給」の2条件を満たす能力を高めれば高めるほど、組織は完璧な状態のスターに近づくことができる。 だからこそ変動に対処する能力が欠かせない。



リーンの定義の多くは、リーンを目的ではなく手段とみなしている。その結果、特定の行動がなぜ行われるのかという重要な疑問がないがしろにされる。

リーンを当たり前にしないための基礎を築く際、重要なのは組織が効率性マトリックスの中を動くことの意義と意味を理解することである。効率性マトリックスを用いることで、 継続的な改善が、どの方向に改善するつもりなのかを決断できるようになる。マトリックス内は2つの次元で移動が可能だ。
- リソース効率を上げるか下げる。
- フロー効率を上げるか下げる。
最高のソリューションは存在しない。全ては組織、組織が属する競争環境、顧客のニーズ、そして何よりビジネス戦略次第だ。


リーン

一言で言うと、リーンとはリソース効率よりもフロー効率を優先するオペレーション戦略。言い換えるなら、リーンは効率性マトリックスの右上に向かって移動するための戦略なのである。

トヨタの超高速車検の業務改善エピソード
効率性マトリックスを使って車検がどう改善して行ったのか見てみる

A点
従来型の車検はフロー効率が高くなかった。付加価値時間の合計は3時間に満たなかったのに、多くの顧客が1週間ほど車が戻ってくるのを待たなければならなかった。したがってフロー効率はかなり低いレベルにあったと言える。しかし、技術者はリソース効率が高いと認識されていた。設備は使われていたし、みんなたくさんの残業しながら必死に働いていたから。したがって、ディーラー側が認識していたスタート地点は図のA点だったと言える。フロー効率が低くて、リソース効率が高い。

B点
実際のスタート地点はB点になる。リソースは考えられているほど、有効には使われていなかった。 行われて作業の多くは余計な仕事で、技術者はやらなくてもいいはずのことをやっていた。

C
マトリックス内の C の矢印がディーラーの最初の動きを示している。 フロー効率が劇的に良くなった。最大の要因としてチームワーク、専用設備、標準化、そして見える化が挙げられる。付加価値アクティビティのスピードが増し、非付加価値アクティビティが排除された。結果、車検は早く終わり、顧客は店で待っているので、販売員がいつも対応できるようになった。

D
Dの矢印は、ディーラーがリソース効率を改善したことを示している。作業の標準化とルーチンの導入により、余計な仕事をなくすことができたと同時に、レイアウトを刷新し、専用設備を新たに開発したことでリソース効率が向上した。手順の一本化のおかげで、車検の計画が立てやすくなったことも、リソース効率の向上を後押しした。45分のルーチン作業を1つのブロックとみなして、技術者のスケジュールを組むことができるようになった。したがって、ルーチンがフロー効率の向上をもたらし、様々なルーチンを組み合わせることでリソース効率が高まったといえる。

E点
最終的にたどり着いたのがE点だ。 興味深いのは、リソース効率が100%に及ばないという事実だ。トヨタの戦略には、不測の事態に備えるために、手持ちのキャパシティに余裕を持たせることも含まれていた。

リーンのオペレーション戦略には、マトリックス内を右へ移動する。つまりフロー効率を高めるという要素が欠かせない。フロー効率とリソース効率の選択では迷いなくフロー効率を優先する。
トヨタ生産方式の父である大野耐一もフロー効率の重要性を認めていて、こう述べている。「私たちがやっていることといえば、顧客が注文した瞬間から、私たちは現金を受け取るまでのタイムラインを見ることだけだ。」
フロー効率に集中することで、組織は余計な仕事や無駄の多くを減らすことができる。第4章で紹介した効率性のパラドックスを解消しやすくなる。無駄と余計な仕事が減ればリソース効率が高まるので、組織はマトリックス内を上方向に動けるようになる。 つまりフロー効率にこだわることで、リソース効率も高まるのである。
リーンオペレーション戦略はリソース効率よりも先にフロー効率に力を入れる。その逆はない。 この点を絶対に見落としてはならない。

完璧な状態を実現しようとする組織の前に立ちふさがるのは変動という壁だ。したがって、リーンオペレーション戦略では、変動を排除、削減、管理することが欠かせない。理論上、最高点(スター)に到達することは不可能なので、リーンオペレーション戦略では、絶え間ない改善を通じてスターに近づこうとする努力がずっと続けられることになる。

リーンはオペレーション戦略である。 目的を達成するための戦略だ。
具体的な目的は、リソース効率よりもフロー効率の高さを優先すること。 変動を排除、削減、管理することでフロー効率とリソース効率の両方を絶え間なく高めることが実際の目標になる。

This is leanの「プロセス」と「フロー効率」を主にした箇所です。
それでも、このボリューム感なので、トヨタ編はまた別途まとめます。


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