見出し画像

ブラック企業からの解脱③

「毒からの解脱」という本を出しました! 初小説! 良かったらどうぞ!

 そうしたら「草太さんはアダルトチルドレンの『責任を負う子供』だからである」と言われたのだ。 僕が「NO」が言えないのは、流れに任せながら、誰かの期待を読み取って動くことにすっかり慣れてしまったからだ。だから僕は周囲に本当の自分の感情を出そうとはしないんだ。

 僕が9歳の時両親が離婚してしまったのだが、それまでお父さんはいつもお酒を飲んでいて、母親と協力して「お父さん」の役割を担う。弟と妹もいたから彼の世話も、という物凄い責任感を背負って生きていった、って振り返ったらそうだなあって思った。僕はその時それが当然だと思っていた。

 何でも人のせいにするな、ってよく言うけど人のせいにしたかった。 僕は人のせいにできなかったからずっと苦しかった。 自分なんていない方が良いと思っていた時期があった。 死んだら迷惑はかかる。でも母は親より先に死ぬのが一番嫌だと言っていた。母に迷惑をかける訳にはいかない。でも生きていても迷惑なんだ。どうしたら良いのか全然分からなくて、僕はカウンセラーの前でひたすら泣くことしか出来なかった。

「人に迷惑をかけるのはいけないことですよね。全員がそうであるわけではないと思います。迷惑をかける価値がある人はかけてもいいですが、迷惑をかけるだけの価値のない僕は人に迷惑をかけてはいけないのです。 
 でも僕には価値がないので、自分の為に生きる意味はありません。僕には価値がないので、自分で自分を好きになれたとしても、それは何の意味もありません。
 僕は人に好かれるよりも、人に迷惑をかけていないことに価値を感じます。人に与える迷惑が少なくなればなるほど僕の価値は高まるんです。」

 でもその先生は言いました。
 「あなたは悪くない。親は悪いって思うようにしなさい。私があなたにしてほしい事はそれだけです。」「でも先生、親が悪いと世間から「それは甘えだ」とか言います。「ええ、世間では人のせいにするのはよくない事になっています。それは何故か考えた事はありますか?」「…」わからない。「自分の責任を果たさないのはダメだ、って日本社会がずっと私達や祖先に教育してきたので。でも私達は皆人のせいにして生きてるんですよ。」
 「そうなんですか?先生だけじゃなくて?」
 「はい、だから人のせい、環境が悪かったって思うようにしましょう。アダルトチルドレンという言葉は私達の生まれ育った家族における親の影響、支配を認める言葉なのです。自分がこれほど苦しいのは『私がどうも性格がおかしいのではないか』とかではなくて、そこには親の影響があったのだと認めることで、『あなたには責任はない』と免責する言葉でもあります。」「ま…実際、自分のせい40:環境が悪い60くらいじゃない」「…。」僕が聞いた事がない言葉が続く。「自分を楽にしてほしいんだよね。余計な荷物は持たず、自分のやりたくない事はしないで、もっと楽に生きようとして良いんです。日本人はね、楽に生きる事に対して生来的に罪の意識があるんだけど、『何故楽をしてはいけないの?いーじゃん、楽』って開き直って良いのです。貴方のご両親が離婚したのも、ずっと不要な責務を負わされるのもあなたのせいじゃないんですよ。」

 その一言で僕はボロボロ泣いてしまった。

「しかももう一つ言いたいのはね、家族で雁字搦めになっている自分、というのは自分の中の一部分でしかないんですよ」「…自分にとっての一部分という事ですか」「『僕には価値がないので、自分のために生きる意味はありません。』と貴方は先ほど申し上げた。0か1ですね。「そう思ってしまう自分」も自分の中の一部分でしかないんですよ」というと先生は紙に大きな16マスの正方形を書きだした。「草太さんは今何歳ですか?」「31です」「じゃあここに31歳って書いてください」「はい」「どこの出身ですか?」「ずっと東京です」「東京都出身と書いてください」「はい」

 そうして僕は先生の質問の答えをマスに埋めていくと、16マスが埋まった。「草太さん、これ1面16マスのブロックだとしましょう。他の面にも16マスずつありますね。それだけの要素で草太さんは構成されているんです。家族で雁字搦めになっている自分、というのは1面でしかないんですよ。この面が黒くても欠けてもブロックが壊れる事はないんですよ」「草太さん、次回までに正方形の他の面にも書いて草太さんを完成してみてください」と言い渡して、その日のカウンセリングは終わった。

 僕はまだ実家暮らしだったのでこの作業を家ではやりたくないと思い、カフェでやった。結構、楽しかった。何だ。僕楽しい事もあったんだな。格闘ゲームにはまっていたこととか。

 そうしてカウンセリングを繰り返すと僕はあまり家族の世話をしなくなった。というか転職前に31歳で初めて一人暮らしをする事にした。母親に言うとついてきそうだったので夜逃げしようと思った。
 余談だが人生初、友人を飲みに誘うようになった。友人はかなり驚いていたが、「何かふっきれた顔してる」と言われた。 
 一番の問題の仕事、産業カウンセラーも会社側にカウンセリングの結果を伝え、「うつ病だから本人が会社に行ける状態になるまで休職する」という事になり、その間転職活動をして転職したのだ。

ここから先は

0字

議論メシ編集部noteメンバーシップ

¥380 / 月
このメンバーシップの詳細

サポートいつでも有り難いです。 本執筆の為の本を買います!