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パンみみ日記「今年は育ててあげる春」

日々のできごとをかき集めました。パン屋に置いてある、パンの耳の袋のように。日常のきれはしを、まとめてどうぞ。5個くらいたまったら店頭に置きます。


3月29日(金)
年度末最終営業日。仕事を納めて、社内の大会議室で飲み会が開催された。

前の会社ではオフィスでお酒を飲むという文化が全くなかったので驚いた。お寿司や焼き鳥が並べられ、缶ビールにて乾杯。

ぼくは他部署の人とのネットワークが少ないので、はしっこでバネオさん(色白イケメンの先輩)と語り合う。

ソメコ(おしゃべりな後輩)がビールを片手に、色んな先輩へ話しかけにいくのを眺める。

飲み会で、あんな風に動き回れる人ってすごいなあ。ぼくはいつもセーフティゾーンに留まってしまう。心をすり減らしたくないから。でも本当は、ソメコみたいな人が羨ましい。

バネオさんは予定があるらしく、早めに抜けると言う。居場所がなくなってしまうし、ぼくも帰ろう。そそくさと出口の方に向かった。

「よさくさん帰っちゃうの!?ダメよ!こっちに来て!」

マーケティング部門のテルミさんに声をかけられた。プロジェクトで一緒だったから、面識がある。

テルミさんに腕をつかまれ、あれよあれよと他部署の方が集まるテーブルへ。

「よさくさんです!ここで話してほしくて連れてきました!」

その場のみなさんはニコニコと受け入れてくれ、自部署の仕事の魅力を語ってくれた。人脈ってとても大切だ。仕事の出来と同じくらい(もしくはそれ以上に)、組織にいる上で身を左右するものになる。

テルミさんのおせっかいで、顔を覚えてもらえる人が増えた。次からは自分の足で踏み出して、この小さな世界を広げていこう。


3月30日(土)
行きつけの喫茶店へ。モーニングのたまごサンドを頼んだら、見慣れないパンがお皿に載っていた。

左の手前

「お客さんに手づくりパンをもらったの」と話すマダム。マスターが横から「俺、まだそれ食べてないな」と入り込む。

お客さんはぼくだけで、店内の3人で手づくりパンをもぐもぐと食べる。

「う〜ん、普通かな。いや、そんなこと言っちゃいけねえな。うまいよ、これ」

マスターがつぶやいた。家のような安心感だ。同じものを口にして、思った感情をポロリと出す。

何か辛いことがあっても、ぼくはここに顔を出すだろう。この喫茶店はぼくの処方箋であり、逃げ場であり、最寄駅なのかもしれない。


3月31日(日)
職場の人とテニス。今日は他チームとの対抗戦。最近あまりテニスをやっていないので出たくなかった。なんなら競争が苦手なので、そもそも試合が好きではない(スポーツやめろ)。

しかし、先輩に「人手不足だから、経験者ってだけで戦力!」と言われ渋々出場。

久々の試合、なんとか球を繋ぎきり勝ち抜いた。先輩たちもセットを取り、団体としても勝利。みんなで喜びを分かち合う。

みんなが喜んでくれるのなら、もっと頑張ってもいいのかもしれない。せっかくテニスを再開するのなら、もっと強くなりたい。

ぼくはまた次の試合へ出ることになった。試合は嫌だけど、自分を動かさなきゃいけない。今はそんな気がする。


4月1日(月)
職場に中途で新しい子が入社してきた。ぼくはその子の育成担当を務めることになっていた。

もうである。ぼく自身が中途入社してから1年ちょっとしか経っていないのに、すぐに順番が回ってきた。同じ課の人たちはほとんど育成担当をしてしまったのだ。

前職を含めても、誰かの育成担当になるのは初めてだ。月並みだけど、「どんな子が来るんだろう」というドキドキで最近は仕事に手がつかなかった。

ぼくは人に何かを教えるのが大好きだ。今回はそういった意味で、指導っ子を心待ちにしてきた。でもぼくの熱量が強すぎて、「よさくさん重い…」と思われたらどうしよう。

腕時計をチラチラと見ながら約束の時間を待っていると、とうとう新人がぼくの課に来た。

「今日からお世話になります。よろしくお願いします」

3個年下の女の子だった。ふわ〜とゆるめの雰囲気が漂っていながら、あまり緊張しているように見えない。肝が据わっているタイプなのかもしれない。

自己紹介を済ませ、前職や転職の理由などを聞いていく。おしゃべりを通して、不思議な電波を放つ子だな、と思った。地面から2センチくらい浮いている感じで、天然的な発言が多い。

ここではフワコと名付けよう。お互いのことをもっと知るのはこれからだけど、よろしくね。フワコが初めての教え子だから、きっと気持ちが入りすぎちゃうと思うんだ。鬱陶しかったら、ごめんね。

君がどんな風に成長するのか隣で見られるのが、すごく楽しみだ。今年は誰かを見守る、春になる。

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