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ロックの定義がわからない-『尾崎世界観対談集』(2024年)

猛烈に暗くて、死んだこころと殺したい気持ちで本屋を彷徨うと目が合った。過去の嫌だったことが私の思考を襲うのを無表情にされるがままあしらう。この人の音楽は知らないけどこの人の文章は知ってる。町田康みたいに。なぜか?私の好きな作家金原ひとみが彼らクリープハイプ(バンド名を別のグループと混同しててちゃんと書けてるか心配)のファンで、よく話に出てくるからだ。音楽もできて小説も書けるなんていいですね。でも、この人にヒントを教えてもらいたかった。壊してほしかった。尾崎さんは前髪が長くて、絶対目に入ってて、「それ、払いたくないですか?」って思う顔面だが、涙袋がぷっくりしていてかわいいから、私の中ではこの本の最後の対談相手本谷有希子に似ている。好きな音楽を増やしたいと思っていたとき2曲くらいYouTubeでかけたが聴きどころがわからなくて閉じた。私はロックの定義がわからない。

 金原ひとみ責任編集『文藝 2022年秋号』の私小説特集で尾崎さんの小説を初めて読んだ。少し身構えてたことを覚えてる。歌も売れてて(歌もうまくて、ではない。商業的な成功に嫉妬するから)、小説も書けてさらにそれがうまいなら、恵まれすぎて眩しくて体調悪くなるからだ。
 しかし私は1行目で黙って、最後まで一気に読んだし、そのかなり手前から尾崎さんを尊敬していた。文藝刊行記念の動画配信(金原ひとみ/エリィ/尾崎世界観)も見にいって、話す尾崎さんを初めて見た。その中で尾崎さんは、「評価されないところで勝負したかったから小説を書き始めた」という。そんな、「書いてみよう!」で書けるのなんで?私は書けないのに…それは思い込み?

アイドル、講談師、詩人、作家、俳優、ミュージシャン、劇作家。
クリープハイプの尾崎世界観がリスペクトする作り手を招いて、密室で交わした言葉たち。
あらゆるジャンルの最前線でもの作りに挑む人たちの本心が、尾崎世界観によって次々と引き出されていく――。
ここでしか聞けない表現者たちの感情を完全収録。

朝日新聞出版 HP

 対談相手は7人。ケチな私が買おうと決めたのは、金原ひとみと最近気になる詩人最果タヒがいたから。週刊ベースボールを買ってた時期に決めていたルール、“好きな選手が4人以上載ってないと買わない”を打ち破る状態だったが、創作してる人は全員尊敬してるから、お金よりも本を買う「行動」を優先した。これは実感としてわかったが、暗いときほど本の購買欲があがり、適切な本を選べる。危機によって研ぎ澄まされた生命力が冴えるのだろう。

 読むべき本は溜まっているのにこの本は一気に読めた。久しぶりだ。

加藤シゲアキ→
 加藤さんとの対談がこの本でいちばん響いた。「何者でもない自分に焦ってた。」私からすれば彼らは「何者でもない」からは対極だが、戦ってるフィールドが一般人とはちがうだけで、その中で自分に葛藤している。めちゃめちゃ線引いた。プロットを作ってから書く、短編のアイディアの作り方など、創作の過程が知れた。伝えたいことが全然伝わってなくて悔しくなると話していてただただ作家。加藤さんの本読む。

最果タヒ→
 奇抜な人だったら気後れするからイヤだなと思ったら友達いないと言っててグッときた。ラーメン屋並びながらiPhoneで詩を書いてる話にやさぐれさとカッコよさがあって笑った。まじめに言ってるのも好きだった。ごまかさない話し方が、「世間」ぽくなくて。
 最果さんは書くのに行き詰まったら音楽を聴いて書く、と言ってて、尾崎さんは反対に本を読んでチャージして書くって言ってたのも秘密が聞けてお得な気持ちに。私も尾崎さん派。好きな本を読んで言葉のテンションをチャージして書く。
「歌詞に憧れて詩人になった」と話してるのが良かった。誰でもなかった頃の最果さんがどう最果タヒになったのかの原点が聞けて。この本は皆さんすごく素直に心を開いて話していると感じる。相手が尾崎さんだからだと思う。

椎木知仁→
 全然知らない人だと思っていたら、尾崎さんと一緒に『文藝』私小説特集に『しいきともみ』って人がいたことを思い出した。ペンネームはひらがなだが同一人物。My hair is badというバンドのギター・ボーカルとのこと。小説を書けるバンドマン再び。尾崎さんの後輩であり尾崎さんの追っかけ。
 できないことを「できない才能」と何度も力説している尾崎さんが熱くて良かった。できないからこそ工夫して、別のことができた、と。たとえば音楽技術がないから歌詞に力を入れたと話す。私もできないことだらけなのでこの考えには勇気をもらった。
 尾崎さんはこの対談を「先輩風吹かせてた」と振り返っていたが、マイナスを肯定する情熱は後輩の前だったから出た言葉だと思うから、私としてはありがたい。

金原ひとみ→
「私は十代の頃に六畳一間で彼氏と同棲しながらチラシの裏に書いた小説でデビューしたんですけど」いいくだり。歌詞みたい。
 私は金原ひとみさんが好きで、江國香織か安藤裕子か金原ひとみになりたくて、そんな理由じゃダサいけど私が軟骨あけてるのは金原さんがたくさんピアスをあけてるからかもしれない。彼女がクリープハイプを大好きなら私も聴く一択なのだ。絶賛してた尾崎さんの小説『祐介』も『犬も食わない』も読むしかない。
 尾崎さんが「ファンは家族というより恋人。ずっと一緒にいられるわけではない、いずれいなくなるかもしれないと思っている。いつか別れる前提で付き合っているんです。」って言っててうわこんなこと言うんだと思った。ファンの金原さんの前で。金原さんが読者への想いを話してくれてうれしかった。

 尾崎さんの質問がうまくて、話の広がりが聞きたいものばかりだった。難しい話はなくて、とにかく聞きたいことを率直に聞いてるのが遠慮や型どおりの従来のインタビューではなくて良かった。

 尾崎さんは音楽の人だから、他の表現者と話していても、音楽との比較で話せる。自分のフィールドがあるのはいいなと思った。対談相手も自分の好きな音楽の話をもってきて面白い。ブランキー・ジェット・シティとかエルレガーデンとか(両方知らない)。私も、もし尾崎さんと話すことがあったら-そんなの想像つかないけど-凛として時雨の話をしたい。

 尾崎さんが、他者がいることで自分の存在を感じられるって何度も口にしていて、既視感があった。私もそうだ。自分一人では生きてるって感じられない。この世界から自分がいなくなる。あの感覚と同じだろうか?

金言しかない。どこかに抜粋してまとめよう。創作仲間に読んでほしい。
元気が出たよありがとうで終わらせない。この本を活かせ

4/18 購入
4/18〜4/20 読む
4/18〜4/20 note
4/22 完成

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