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ブックレビュー「オルタネート」

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今回は、加藤シゲアキさん著、小説「オルタネート」をお勧めしたいと思います。

今年の直木賞ノミネート作品に選出された記事を新聞で目にしたことで、僕はこの作品を知りました。
作者はNEWSのメンバーとして活躍する現役のジャニーズアイドルです。

ジャニーズアイドルで、小説家。しかも直木賞にノミネート!
その輝かしい経歴を知り、興味本位でついつい買ってしまいました。

タイトルは「オルタネート」。舞台テーマはSNSを通じての高校生たちのコミュニケーション。
そしてこの表紙の絵。きっとオタク小説か、ファンタジー系か。ジャニーズアイドルが書いていなかったら、僕はまず、手にしなかったでしょう。

作品の主人公は3人。新見蓉、伴凪津、楤丘尚志。(フリガナがないと、いずれも読めない。これもまたオタクっぽい感じがする。)
章は細かく24個に分かれ、各章ごとに、場面設定と主人公が変わっていく体裁をとっています。
物語の舞台は主に東京。
高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」を、高校生であれば誰もがやっているような現代を想定して書かれています。

「オルタネート」では、お互いが「フロウ」を送りあうことで、「コネクト」となり、メッセージのやり取りが可能になる。
フェイスブック、ツイッター、インスタを想起するのにたやすく、自分はいくつ「コネクト」されているか、利用者はメッセージ一つ一つにヤキモキする。
ユーチューブのような動画配信アプリも出てきて、それが何回再生されたか、そこでプライベートを赤裸々に見せ、周囲の評価を気にしながら生きている場面も出てきます。
本作品ではこうした流行りを取り入れても、内容を全く陳腐化させず、非常にナチュラルに描いています、まずはそこに感心しました。
フィクションに時世を投影させることは、とても技術がいることかと察します。それを見事にやり遂げています。

物語も終盤。主人公たちが、ひとつの空間を共有する場面があります。
ここの臨場感やリズミカルな筆致もすばらしく、ぼくはここで一番の没入感を得ることができました。

そして、本書で表現したい核心でもあろう、青春時代のヒリヒリした感じが何とも言えず良かったです。
とてつもなく大きい現実を前に、登場人物一人一人が抱える、不満や怒り、悲しみ、焦燥感、、、その行き場のない感情が、とんでもない行動となって昇華されていくところが非常に面白い。
ずいぶん昔のことで、忘れかかったあの頃のヒリヒリとした感覚を思い出させてくれます。

日々、いろんな情報を浴び、それについていくのが必死な自分。
昨日は8月15日でした。テレビや新聞では第2次大戦について、振り返る特集が組まれていました。
色んなメディアを通じて戦争被害の話を聞いたり、目にすることで、被害者や犠牲者に思いを馳せたり、痛みを覚えたあの時の感覚を思い出しました。
小説「オルタネート」とは、まったく関係ないことを書きましたが、でも、関係ないようで、関係あるような、一つの線で結びついているはずです。

帯にこう書いています。
「著者と読者が、この先、なんども立ち返る里程標のような作品になるだろう。」

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