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和歌を使った歌 ピアノ改良版

3年前に建礼門院右京大夫の和歌を組み入れた歌を作ってnoteで公開したことがあります。自分の歌声が恥ずかしくて消してしまいましたが、歌自体はとても気に入っている作品なので、家ではしょっちゅう弾き語りしています。作曲が初めてだったので、ピアノが歌と同じメロディーを弾いていたりしてなかなかダサかったので、ちょっと改良しました(でも、まだまだダサい)。今回はメロディーをフルートで演奏しています。生楽器ではなく、楽譜作成アプリの音源です。ちなみに「Flat」というアプリを使っています。娘が夏休み前に吹奏楽団に入ってフルートを始めたので、そのうち合奏できるのを楽しみにしています。

星の夜
(作詞・作曲 吉隠ゆき & 建礼門院右京大夫)

縹色(はなだいろ)の空に散らした金の砂
もういないあなたの面影 雲間にまたたく

月のないこの夜に見上げた千の星
私が去ったその後も輝き続ける

月をこそ眺め慣れしか
星の夜の深きあわれを今宵知りぬる

用いた和歌は「月をこそ眺め慣れしか星の夜の深きあわれを今宵知りぬる(月ばかりを眺めてきたけれど星空がこんなに美しいものだということに今夜初めて気づいた)」

縹色は日本の伝統色で薄藍色。私が思いついたわけではなく、この和歌の詞書に出てきます。

「~うし二つばかりにやとおもふほどに、ひきのけて、そらをみあげたれば、ことにはれて、あさぎ色なるに、ひかりことごとしき星のおほきなる、むらなくいでたる、なのめならずおもしろくて、はなのかみに、箔をうちちらしたるによう似たり~(午前1時過ぎ頃に布団を引き剥がして空を見上げると、ことによく晴れていて大きな星々が空いっぱいに出ているのがとてもおもしろく、まるで縹色の紙に金箔を散らしたようだ)」(建礼門院右京大夫集)

建礼門院右京大夫は建礼門院、つまり平清盛の娘、平徳子に支えていた女性です。平氏が源氏に敗れて徳子は壇ノ浦で息子の安徳天皇とともに入水しますが、源氏に掬い上げられて生き残り、その後出家し、京都大原の寂光院で暮らしました。
上掲の和歌は、建礼門院右京大夫が尼となった建礼門院を大原に訪ね、その足で壇ノ浦で自害したかつての恋人、平資盛の追善のために琵琶湖のほとりの神社に参詣に向かった折に作られたそうです。道中の宿で夜中ふと目が覚めて外に出て空を見上げ、月のない星空の美しさに初めて気づき胸を打たれたことを歌っています。

私がこの歌を知ったのは『あなたに語る日本文学史 中世篇(大岡信)』という本でした。
この中で大岡さんは、和歌では伝統的に月ばかりが詠まれてきて、それも恋人の投影としてだった、と書かれています。星が詠まれるときも七夕のように恋人に見立てられることが多かったと。
この建礼門院右京大夫の和歌は自然物としての星を詠んでいるところが珍しいのだそうです。
栄華を極めた平家の滅亡を目の当たりにし、人の儚さを身にしみて感じているときだからこそ、その対極にあるような悠久の星々のきらめきに胸を打たれたのかもしれませんし、あるいは和歌の伝統どおり月は恋人で、その恋人が亡くなってしまった今だからようやく分かるようになった美しさがある、と受け取っても良いようにも思います。


ありがたくいただきます。