やっぱり物理学かな?

最近、ポピュラーサイエンス本を数冊読んだ流れで『物理学は世界をどこまで解明できるか ~真理を探究する科学全史』というブラジル人理論物理学者、マルセロ・グライサーの本を読んでいます…いえ、正確には聴いています。積ん読防止の試みとしてオーディオブックにしてみたのです。でも、音声だと気になった部分に戻るというのが難しいので、やっぱり活字に軍配が上がりますね。とは言え、これはこれで良いところもあります。スピーカーで流していると大学で講義を聴いているような気分に浸れます。心はピチピチの20代。

ところで、この「○○全史」というタイトルは日本で流行中のようですが、私はどうも好きになれません。「忙しいビジネスマンが手っ取り早く教養を得るための本」みたいな、効率至上主義的な感じが鼻につきます。「twitterやNetflixを見る時間はあるくせに!」と毒づきたくなっちゃいます。
しかしながら、本の内容は邦題の示すとおりです。物理学が自然哲学と呼ばれていた古代ギリシアから現代物理学にいたるまでをざっとまとめている本です。でも、科学年表のような味気ない本ではまったくありません。原題は『The Island of Knowledge(知識の島)』というとても詩的なタイトルで、グライサーの物理学者としての謙虚な姿勢が随所にうかがえる、哲学書の趣のある本です。
彼の姿勢を端的に述べれば、「人類が宇宙のすべての謎を解くことは不可能である。なぜなら既知の領域が増えれば、未知の領域はより広がるからだ」となるでしょう。「領域」を「島」と言い換えたのが原題の意味するところです。
知識の島が拡大するにつれ、未知という大海原と接する浜辺も広がる--近代物理学の祖ニュートンが自身を浜辺できれいな小石や貝殻を拾い集める子供にすぎないとたとえた有名な言葉を踏まえたものでしょう。こんな美しいタイトルを味気ないハウツー本やビジネス書じみた題名に変えた出版社の罪は重い!

残すところあと2章ぐらいになりましたが、「人間が全てを知り得ることはないけれど、それに絶望せず自分たちがこのように知的探求ができる存在である奇跡に感謝し、楽しもうよ」という感じでまとまるのかなぁと予想しています。

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さて、ここ数カ月で私の知りたいことはどうやら理論物理学にありそうだと目途がつき、それ系統の一般向けの読み物を数冊読んでみたわけですが、数式を極力省いて理論の内側には踏み込まないポピュラーサイエンス本では「何か違う」という思いが拭えませんでした。そこで数学を避けていない本を買って理論物理学を腰を据えて勉強してみることにしました。

私が選んだのは、日本でも『スタンフォード物理学再入門』として出版されている、レオナルド・サスキンド教授の社会人向け講義を書籍化したシリーズ。古典力学から量子力学までの4巻セットです。(4巻目は英語版が来年1月発売予定)。この講義、Youtubeで視聴できるんです。日本語字幕付きの動画もありますよ。すごい時代ですね!

正直、私の数学と物理は現役高校生の時点ですでにレベルが低かったのですが、あの頃と違って今は学習意欲が高いし、生涯の趣味とするのに物理学ってなかなか良いかも、とやる気満々です。分からない所はその都度ほかの学習サイトや書籍で学んでいくつもりです。
今は勉強しようと思えば無数の教材がネット上で無料で公開されていますし、質問サイトもあって、独習者には本当に良い時代ですよね。

……それにしても、何の見返りもないのにこういった独学支援サイトを公開されている方々には本当に頭が下がります。現世でこんなに功徳を積んでいるのだから、来世でその分良いことがありますようにと他人事ながら勝手に祈っています。(突然、非科学的なオチ。)


ありがたくいただきます。