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イラスト、漫画、ロクセラーナのこと

少し前に「ストーリー漫画描きます!」と威勢よく宣言したのですが、やっぱり無理そうです。技術が足りない…。挿絵のやたら多い小説なら書けるかも。

元々のストーリーは、青年に変身できる鷹を相棒に持つ鷹狩りの少女が主人公で、最初は兄と妹みたいな感じだったのが、だんだんそういうお年頃なので恋愛感情に変化してくるけれど、しかし…という、基本的に家族の中で完結する小ぢんまりした超短編でした。これをもっと展開のある長めのお話にしようとがんばっています。

少女の住む地域が西方の帝国に侵略され、女の鷹狩という物珍しさから少女は皇帝のハレムに連れていかれる。…と言っても仕事は年少の第〇王子に鷹狩を指南すること。ハレムで出会った女の子と友情を育んだり、王子に懐かれたり、鷹の青年とケンカしたり...ありがちな少女漫画展開ですかね?フフフ。

「よし、オスマン帝国のハレムからアイデアをいただくぞ!」と思い立って、ちょこちょこっとネット検索をしていて目に留まったのがスレイマン1世の寵妃ハセキ・スルタン(愛称ヒュッレム)。ヨーロッパでは「ルーシ人の女」を意味する「ロクセラーナ」として知られています。以下、ロクセラーナで統一します。

今、ちょうど、オスマン帝国のハレムを舞台にしたトルコのテレビドラマが世界中で流行っているらしいですね。お正月に日本に帰った際、母が教えてくれました。『オスマン帝国外伝 ~愛と欲望のハレム』というのが日本でのタイトルかな?個人的にすごいタイミングだなぁとびっくりしました。

ドラマをご覧になったことがある方には不要かと思いますが、一応簡単な説明を。

スレイマン1世は16世紀中ごろのオスマン帝国全盛期を築いたスルタン(皇帝)。一方、ロクセラーナは今のウクライナの辺りからさらわれ奴隷としてイスタンブールに連れてこられた少女で、後宮で才覚をあらわし瞬く間にスルタンのお気に入りになります。それまでは男子を一人授かれば側室としてのお役目は終わりという慣習だったのですが、ロクセラーナはスレイマン1世と正式な婚姻関係を結ぶことに成功し、事実上の一夫一妻家庭として5男1女をもうけました。

すっかり興味がわいて『Empress of the East - How a Slave Girl Became Queen of the Ottoman Empire』(by Leslie Peirce)という本を試し読み中です。奴隷が正妃にというと、まるで並み居る良家のお姫様たちを押しのけてのし上がったみたいですが、当時のオスマントルコのハレムは他所からさらわれて奴隷にされたロクセラーナのような身の上の女性が大半だったようです。女性側の家族に権力が移る事を警戒して、というのが理由だとか。
ちなみに、はるかローマの時代からスラブ系の人々が多くさらわれて奴隷として売られてきたので「slave(奴隷)」という言葉ができたということです。

そうして外国からオスマントルコのハレムに連れてこられた女性たちは、まずイスラム教に改宗させられ、それから、トルコ語やマナーや所作、また才能のある者は歌や楽器などの授業を定期的に受けたそうです。大勢の裸の美女たちが日がな一日共同風呂で玉のお肌を磨いていたり、毎夜、乱痴気騒ぎが繰り広げられる爛れた肉欲の館だったり...というのでは全然ないのですね。どちらかというと、花嫁学校の趣があります。

あまりにスレイマン1世がロクセラーナにメロメロなので、彼女は魔女で、スレイマン1世を魔術で操っているんだ、などと悪口を言う向きもあったそうですが、策略だけで何十年も仲良く連れ添うなんてことは無理な気がします。彼女がハレムに入ったときに与えられた「ヒュッレム」という名前は、「ほがらかな、笑顔の」という意味のペルシャ語なんだそうです。「美人ではないが明るく気さく」というような証言も残っているようなので、温かくて包容力のある女性だったのではないかなぁと想像します。美人でない私はなんだか励まされます。包容力はありませんが。

ハレムの慣習を次々と打ち破ったことや、後宮が政治に介入する流れを作ったことなどから、ロクセラーナは現代ではしたたかな悪女のイメージで語られる事が多いようですが、政治的な手腕を発揮した女性を必要以上にこき下ろす傾向が世間にはあるように思うので、その辺りを考慮して見る必要がありそうです。
ロクセラーナは生前、そして死後も遺言によって、帝国の領土の至る所にたくさんの慈善施設を作っています。モスクに病院、貧困者のための食堂、巡礼者のための宿など。イメージ戦略ももちろんあったでしょうが、そういった施設の1つを開くにあたって「奴隷を含めて、施設で働く者を粗末に扱ってはならない」という指示書を出した記録が残っているそうなので、過去の自分と同じ境遇にある人々への思いやりの気持ちは本物だったのかもしれませんね。


...こんな風に調べものをしては脱線しちゃうから創作が進まないんですよね。(趣味の)物書きあるあるでしょうか。

ちなみにロクセラーナが主役の漫画はすでにあります。『夢の雫、黄金の鳥籠』という篠原千絵さんの作品です。『天は赤い河のほとり』や『闇のパープル・アイ』がヒットした大御所なので、少女漫画を読まない方でもお名前ぐらいはご存知ではないでしょうか。
さっそく『夢の雫、黄金の鳥籠』をチラ見してみたのですが、レディースコミックみたいな感じで残念ながら私の好みではありませんでした。ハレムものだからドロドロなのは仕方がないですけどね!
私は少年漫画のような、線のすっきりぱっきりしたシンプルな絵が好きなので、それもあったかもしれません。(話もたぶん単純なのが好き。)
ちなみに一番好きな漫画は、ゆうきまさみさん作の高校の写真部が舞台のギャグ漫画『究極超人あ~る』です。古いですが、ほのぼのした名作ですよ~。拙作『ひげ猫ニーチェ』の不律少年はR・田中一郎くんへのオマージュです。

小説のイメージ画。娘と母親ではなく、主人公と側室の一人です。このあと、主人公は友人になったこの女性から刺繍を習って、鷹の彼にプレゼントするのです。
刺繍はハレムの女性の必修科目だったそう。帰れない故郷を想って母親から昔教わった伝統模様を刺繍する女性もいたのかもしれません。


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